誰かから他の誰かに贈与を行った際に課せられるのが贈与税である。ここではどのような税金が課せられ、どのように申告すればいいのかについて解説する。
目次
贈与税の申告についての基本ルール
誰がいつ申告する?
贈与税の申告は、金銭などの財産を受け取った人が申告する。申告時期は財産を受け取った翌年の2月1日から3月15日までの間に、その人の住所地を管轄する税務署に対して申告する。
申告をしないといけないのはどの場合?
贈与された際、申告しなければならない主なケースは2つだ。
(1)贈与の金額が110万円を超える場合
その年に受けた贈与の財産の合計額が、贈与税の基礎控除額である110万円を超えた場合は、申告が必要となる。贈与を受けた財産の合計額は贈与した人数、贈与を受けた回数に関係なく計算される。例えば、同じ年にある人から110万円の贈与を受け、別の人から110万円の贈与を受けた場合、全体では220万円となり110万円を超えるため、贈与税の申告が必要となる。
110万円を超える贈与を受けたものの、おしどり贈与(婚姻期間が20年以上の配偶者控除)や、住宅取得等資金の贈与などの特例を受けたため、贈与税が発生しない場合でも申告が必要となる。
(2)相続時精算課税の適用をする場合
特定の贈与者からの贈与について「相続時精算課税」を選択する場合、また、以前に相続時精算課税の適用を受けてその後に同じ者から贈与を受けた場合は、たとえ納税が発生しない場合であっても申告が必要となる。
申告しなかったらどうなる?
贈与税の申告をしなければならないにもかかわらず申告をしなかった場合、さまざまなペナルティーが課せられる。
ペナルティーその1:無申告加算税
贈与税を申告しなかったために課せられる税金に無申告加算税がある。これは申告しなかった場合に課せられる税金である。税率は原則として以下のとおり。
50万円までの部分 | 15% |
50万円を超える部分 | 20% |
上記は程度が軽い場合である。仮装や隠匿などがあり悪質と判断された場合は、これに代わり、重加算税が課せられる。その税率は40%で、かなり重たい税金が課せられる。
ペナルティーその2:特例が適用できないことがある
申告をしなかった場合、本来申告すれば受けられる特例が受けられないことがある。例えば、直系尊属から住宅資金等贈与を受けた場合の特例については期限内に申告する必要があり、それをしなかった場合は適用されない。つまり、たとえ税金が課せられないからといって申告しなかった場合、特例が適用されないばかりか、後に無申告加算税のみならず、特例が適用されなかった場合の税金が課せられることになる。
贈与税の申告の方法(自分で行う場合)
贈与税の申告は税理士に申告することもできるが、自分で行うことも可能である。ここではその方法について述べる。
申告をする方法は二通り
- 紙の申告書で申告する
- e-Taxで申告する
いずれも贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までの間に申告する。紙の申告書の場合は、申告用紙や書類を管轄の税務署に持っていくか、郵送するかして提出する。e-Taxで申告するには、3月15日24時までに情報を送信する。
用紙の入手方法
通常、税務署には申告用紙を用意してあるのでそれを取ってくる方法がある。用紙は直接税務署に向かった場合は無料で入手できる。遠方で税務署に向かうことができない場合は、郵便で請求することもできる。
そのほか、インターネットでも用意されているので、必要なものをダウンロードすることができる。
申告書の書き方
- 第一表
ここでは必ず書くことになる第1表について説明する。第1表は下図のとおりとなっている。
まず、Aの部分については贈与を受けたことにより、贈与税の申告をする人の住所、氏名、生年月日、個人番号(または法人番号)を書いた上で押印を行う。
B1、B2については暦年贈与を受けた場合、すなわち、相続時精算課税制度の適用がない人から受けた贈与について書く。ここで、B1は贈与を受けた年の1月1日現在、20歳以上の人が直系尊属の人から受けた相続について記載し、B2はそれ以外のものについて書く。具体的には、
・贈与した人の住所、名前、生年月日
・取得したものの種類、細目、利用区分・銘柄など、数量、単価、所在地
・取得したものの価額
・受け取った年月日
などを書く。
Cについては、いわゆる「おしどり贈与」の適用を受ける場合にその金額を記す。
Dについては、暦年贈与の場合についての贈与を受けた金額から、おしどり贈与の金額を控除した金額を書いていき、それから納税額を計算する。
Eについては、相続時精算課税制度を適用した場合の贈与金額と税金の金額を記載する。
Fについては、相続税の対象となる金額を13欄に、納付すべき相続税の金額を14欄に、納税が猶予されている金額を15欄から19欄に記載し(ただし、この欄はあまり使われない)、最終的に納めるべき金額を20欄に書く。
- 第二表
相続時精算課税を適用する相手から贈与を受けた場合に使う、第二表について書き方の説明をする。
まず、Aの部分にあるチェックボックス(「私は、租税特別措置法……」の前にある四角の部分)にチェックを入れ、相続時精算課税の適用を受けることを表明する。
次に、Bに贈与をした人の住所、氏名、生年月日、受贈者から見た続柄を記載する。
Cには贈与を受けた財産について記す。これは第一表の場合と同じく、
・取得したものの種類、細目、利用区分・銘柄など、数量、単価、所在地
・取得したものの価額
・受け取った年月日
などについて記入する。
Dにはこれまで課税対象となる金額の計算を行う。まず、今回の申告の対象となる贈与を受けた財産の合計額を出す(23欄)。次に、これまでこの制度のもとで、当該贈与をした人から受けた贈与についてその累計額を出す(24欄)。そして、今年受けられる、無税となる部分である控除額の上限を求めるべく、2,500万円から、先ほどの累計額を控除した金額を記入して、今年控除の対象となる金額を確定する(25欄)。その後に今期実際に控除する金額(23欄と25欄のうち小さい方)を記載し(26欄)、翌期に繰り越す控除額を記載する(27欄)。
Eには今期、相続時精算課税の制度を用いて受贈した資産に対する税金を計算する(28欄)。控除しきれなかった部分について20%の税率をかけることによって、納めるべき税金を計算する(29欄、31欄)。
Fにはこれまで、同じ人から相続時精算課税の制度のもとで贈与を受けたために申告したことがあれば、その申告状況、どの税務署に何年度分を申告したかについて記載する。
国税庁のサイトで作成可能
申告書は国税庁のサイトから手軽に作成することができる。なお、本年分にかかる申告のサイトができるのは翌年の年明けからになる。
国税庁のサイトでは、画面の指示にしたがって入力することによって、簡単に申告書を作成できる。できあがった申告書はプリンターに打ち出し、押印・添付書類を添付することによって、そのまま税務署に提出できるし、e-Taxにて提出することもできる。
申告書の他に提出する書類
申告書を提出する際に添付すべき書類があるので、確認しておこう。
必ず提出する書類
紙で提出する場合にはマイナンバーに関する書類を提出する必要がある。提出すべき書類の組み合わせは以下のとおり。
1点だけでいいもの | |
マイナンバーカードのコピー(両面) | |
2点ワンセットで(1、2から一つずつ)提出するもの | |
1 |
通知カード マイナンバーが記載されている住民票の写し |
2 | 運転免許証 パスポート 健康保険証など |
直系尊属から受贈した場合は、贈与した人との関係が分かる書類、例えば、戸籍謄本などが必要となる。
おしどり贈与での提出書類
・受贈者の戸籍謄本とその附票の写し(贈与後10日経過後に作成されたもの)
・取得した物件にかかる登記事項証明書
住宅取得等資金の贈与で非課税の適用を受けるときの提出書類
下記は、贈与を受けた翌年の3月15日までに新築・取得して入居した場合である。
・受贈者の戸籍謄本(贈与した人との関係が分かるもの)
・贈与を受けた年の所得が分かるもの(確定申告した場合は不要)
・新築・取得した物件の登記事項証明書
・物件の契約書
・(金額によっては)住宅性能書の写しなど(発行日に制約がある場合あり)
相続時精算課税での提出書類
・相続時精算課税選択届出書
・受贈者の戸籍謄本(贈与を受けた日以降に作られたもの)
・受贈者の戸籍の附票の写し(贈与を受けた日以降に作られたもの)
・贈与した人の住民票の写し(贈与を受けた日以降に作られたもの)
申告書に誤りがあった場合
税金を少なく申告した場合
税金を少なく申告した場合は、修正申告を行う。この場合、修正申告用の用紙一式を用意して、修正前(第三表など)の金額と修正後(第一表など)の金額を記載して提出する。なお、過少申告加算税(最大15%)などのペナルティーが課せられることもある。
税金を多く申告した場合
逆に税金を多く申告した場合、更正の申告をして、払いすぎた税金を取り戻すこととなる。税務署や国税庁のサイトから用紙を入手し、記載・提出することとなる。
贈与を受けたときは贈与税の申告が必要か確認を
贈与を受けた場合、申告が必要となるケースも少なくない。贈与税がかからない人でも申告しなければ、制度が適用されずに課税されることもあるので注意が必要だ。この記事を参考に手続きを行い、適正な申告を行っていただきたい。
文・中川崇(公認会計士・税理士)