個人型確定拠出年金(iDeCo)をご存知ですか?英語で書かれていますが日本の制度で、「イデコ」と読みます。
iDeCoは確定拠出年金であり、私的年金制度のひとつです。
公的年金制度にプラスする形で、老後の資産を形成するためのものです。
iDeCoには老後の資産形成だけでなく、現在の節税になるというメリットもあります。
上手く使えば、大切な資産を守り増やすのにとても役立ちます。
とはいえ、iDeCoという名前を聞いたことはあったとしても、正直中身まではよくわからないという人が多いのではないでしょうか。
iDeCoの概要やメリットを詳しく解説します。
実際にどのくらいの節税が可能なるのか、具体的なシミュレーションもご紹介します。
日本の年金制度とは
個人型確定拠出年金(iDeCo)は年金のひとつです。
まずは日本の年金制度について簡単におさらいしておきましょう。
現在の日本には、公的年金制度と私的年金制度の大きく2つの制度があります。
公的年金制度
公的年金制度とは国民年金など国が主体となって行う年金のことで、今は次の2種類があります。
・国民年金 ・厚生年金 |
日本では国民全員が国民年金に加入しています。
この国民年金は国が行っている公的年金制度です。
みなさんにもなじみが深いと思います。
厚生年金はこの国民年金に上乗せする形で、会社と会社員が掛金を負担している年金です。
国民年金が1階部分、厚生年金が2階部分というイメージです。
以前はこの2つに加えて、公務員などを対象にした共済年金がありました。
現在は制度が改正されて共済年金はなくなり、公務員も厚生年金になりました。
私的年金制度
私的年金制度は公的ではない年金のことで、次の4種類があります。
・企業型確定拠出年金 ・厚生年金基金 ・確定給付企業年金 ・個人型確定拠出年金(iDeCo) |
企業型確定拠出年金と厚生年金基金、確定給付企業年金は企業が自社の退職金制度に関する福利厚生の一環として実施する年金です。
加入者はその会社の社員に限られます。
同じ確定拠出年金にも、個人型と企業型の2つがあります。
年金制度を実施していない企業に勤めている人やフリーランスの人は個人型確定拠出年金(iDeCo)を利用することになります。
これらの私的年金制度は、現役の頃は公的年金にプラスして私的年金の積み立てを支払わなくてはいけません。
しかし老後には、公的年金に上乗せする形で多くの年金を受け取ることができます。
老後には2,000万円の年金以外の貯蓄が必要という試算もあります。
公的年金制度だけに頼るのではなく、これらの私的年金制度を活用し、自分で老後資金を確保するのがおすすめです。
今回は個人で入ることができる個人型確定拠出年金(iDeCo)を詳しくご紹介します。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の概要
個人型確定拠出年金(iDeCo)は加入者自らが自分の責任で加入し、年金資産の拠出と運用を行います。
個人型確定拠出年金(iDeCo)をやりたい人は、iDeCoを取り扱っている証券会社に口座を作り、申し込みます。
証券会社はさまざまな投資銘柄を取り扱っているので、その中から好きなものを自分で選びます。
証券会社は投資銘柄の説明はしてくれますが、「この銘柄にしましょう」などの指示はしてくれません。
個人型確定拠出年金(iDeCo)はあくまでも、個人が自分の意思と責任で支払い、運用するもの です。
名づけの理由
個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)の由来は「老後のためにいまできること」。
老後のために今できることとして、自分で自分の年金を育てるiDeCoと名付けられました。
個人型確定拠出年金(iDeCo)には限度額がある
個人型確定拠出年金(iDeCo)は貯金ではないため、加入者ごとに月々の掛金の限度額が決まっています。
加入者 | 納付者 | 掛金の上限額 |
---|---|---|
自営業者など(国民年金第1号被保険者) | 加入者本人 | 816,000円/年 |
企業年金のない会社に勤める会社員 | 原則加入者本人 | 276,000円/年 |
専業主婦 | 加入者本人 | 276,000円/年 |
企業型拠出年金のみの会社員 | 加入者本人 | 246,000円/年 |
企業年金のある会社員 | 加入者本人 | 144,000円/年 |
公務員 | 加入者本人 | 144,000円/年 |
ちなみに、掛金の下限額は一律月5,000円(年間6万円)です。
個人型確定拠出年金(iDeCo)は誰が利用できる?
個人型確定拠出年金(iDeCo)はすべての現役世代が加入できます。
日本国内に居住している20歳以上60歳未満であれば、専業主婦や公務員も利用できるようになりました。
以前の個人型確定拠出年金(iDeCo)は自営業者と企業年金制度のない会社に勤めている会社員だけが対象でしたが、平成29年1月の改正により対象がかなり拡がりました。
それだけ、個人個人による老後資金の確保がこれからは必要になってくるということです。
個人型確定拠出年金(iDeCo)のメリット
個人型確定拠出年金(iDeCo)には次のような税金上のメリットがあります。
・掛金全額が所得税控除の対象になる ・運用による利益はすべて非課税 ・年金として受け取っても一時金として受け取っても控除の対象になる |
ひとつずつ詳しくみていきましょう。
メリット1 掛金全額が所得税控除の対象になる
個人型確定拠出年金(iDeCo)に拠出した金額は、すべて所得税控除の対象になります。
所得税の課税対象となる金額からiDeCoに支払った金額すべてを差し引くことができるため、所得税の金額が少なくて済みます。
会社員などのサラリーマンは毎月の給与からあらかじめ所得税が引かれているため、年末調整時にその年にiDeCoに支払った金額を申告し、還付を受けることができます。
メリット2 運用による利益はすべて非課税
個人型確定拠出年金(iDeCo)は掛金を運用して老後資金を作る制度です。
そのためiDeCoの運用益には税金が課されないことになっています。
運用によって得られる利益のことを「運用益」といいます。
安く買って高く売れば売却差益が生じますし、配当金を受け取ることができる銘柄もあります。
これらの売却差益や配当金がiDeCoによって得した金額であり、運用益にあたります。
一般的な投資では、運用益には20.315%の税金がかかります。
たとえば100万円の運用益を得たとしても20万3,150円を税金で引かれることになり、手元には79万6,850円しか残りません。
その上そこから口座手数料などが差し引かれるため、実際に再投資に利用できるのはもっと少なくなります。
しかしiDeCoでは、運用益を非課税で再投資することができます。
100万円の利益がでたなら、その100万円をそっくりそのまま再運用できるのです。
拠出金だけでなく運用益も用いて繰り返し運用することで、さらなる資産形成を目指すことができます。
メリット3 年金として受け取っても一時金として受け取っても控除対象
個人型確定拠出年金(iDeCo)は運用益だけでなく、老後に受け取る際にも税金の控除を受けることができます。
iDeCoには3種類の受け取り方があります。
・60歳から70歳までの間に一時金として一括で受け取る ・5年以上20年以下の期限を定めて年金として受け取る ・上記2つを併用して受け取る |
一時金として一括で受け取る場合には公的年金等の控除を受けることができ、年金として受け取る場合には退職所得控除を受けることができます。
どの方法を選んだとしても税金が控除されるため、形成した資産をより多く受け取ることができるのです。
どちらの受け取り方法を選ぶべきかは、状況や人によります。
税金の面でどちらが得なのかは、税務署や税理士に相談して決めましょう。
個人型確定拠出年金(iDeCo)のデメリット
個人型確定拠出年金(iDeCo)にもデメリットがあり、特に次の2点は必ず頭にいれておくべきです。
・元金が保証されない銘柄もある ・iDeCoの受け取りは原則60歳まで引き出せない |
iDeCoは個人の責任による投資ですから、選ぶ銘柄によっては元金を割り込むおそれもあります。
証券会社ごとに取り揃えている銘柄が違うため、自分の希望と知識に合った証券会社を選びましょう。
ハイリスクハイリターンでいくのか、元金保証のある銘柄のみでいくのか、よく検討しなくてはいけません。
iDeCoは老後資金のための制度のため、原則60歳までは引き出すことができません。
一般的な貯金とは違い、いざというときの蓄えにはならないのです。
あくまでの老後のためのお金であることを理解しておきましょう。
本当に節税になる?節税シミュレーション!
ここまで個人型確定拠出年金(iDeCo)の概要やメリット・デメリットを説明してきましたが、具体的なイメージはわきにくいかもしれません。
そこで、iDeCoが本当に節税になるのかを6パターンにわけてシミュレーションしてみようと思います。
節税シミュレーション1 専業主婦の場合
まずは専業主婦(主夫)から考えてみましょう。
専業主婦(主夫)は公的年金額が少ないため、老後資金に不安を感じている方も多いと思います。
個人型確定拠出年金(iDeCo)は月5,000円から拠出できるので、専業主婦のお小遣いでも運用可能です。
【条件】
・職業 専業主婦(主夫)(年収0円) ・現在の年齢は30歳 ・60歳まで毎月iDeCoを拠出する ・運用利率は3% |
この条件で、掛金の上限である2万3,000円と下限である5,000円の2パターンを計算してみます。
年収 | 月の掛金 | 運用利率 | 年間節税額 | 30年間の節税額 | 30年間の用益の非課税 | |
---|---|---|---|---|---|---|
専業主婦(主夫) | 0円 | 5,000円 | 3% | 0円 | 0円 | 222,737円 |
23,000円 | 0円 | 0円 | 1,024,590円 |
専業主婦(主夫)はそもそも所得税を支払っていませんから、年間の節税額は掛金にかかわらず0円です。
そのため拠出による節税メリットはありません。
しかしiDeCoの運用益は非課税のため、運用時には節税のメリットを受けることができます。
毎年の節税効果はなくても、長い目で見ればメリットを享受できるといえます。
専業主婦(主夫)には退職金などがないですし、熟年離婚も最近増えています。
自分の名義の老後資産があるというのは、生活の安定のためにとても大きな意義があります。
拠出による節税メリットを受けたい場合に、家計からiDeCoの掛金を支払うのなら、収入がある夫(妻)名義でiDeCoを行うのも手です。
収入があるということは所得税を支払っているということなので、同じ家計負担で拠出による節税メリットを活かすことができます。
老後を迎えたときに受け取れる年金額も、家計全体でみると差が出ません。
ただし、収入がある夫(妻)の職業によってiDeCoの上限掛金額がかわります。
その点には注意が必要です。
節税シミュレーション2 自営業者の場合
次は自営業者です。
自営業者には厚生年金がないため、国民年金の上乗せとして個人型確定拠出年金(iDeCo)を利用するのもよい方法です。
【条件】
・職業 自営業 (年収500万円) ・現在の年齢は30歳 ・60歳まで毎月iDeCoを拠出する ・運用利率は3% |
この条件で、掛金の上限である6万8,000円と下限である5,000円の2パターンを計算してみます。
年収 | 月の掛金 | 運用利率 | 年間節税額 | 30年間の節税額 | 30年間の用益の非課税 | |
---|---|---|---|---|---|---|
自営業 | 500万円 | 5,000円 | 3% | 18,000円 | 540,000円 | 222,737円 |
68,000円 | 244,800円 | 7,344,000円 | 3,029,222円 |
自営業者の拠出上限金額は6万8,000円と高額なため、節税効果も高くなります。
その上、自営業者はサラリーマンと比べて所得税の負担が大きいですから、上手く使うと税金をおさえることができます。
▼自営業者とサラリーマンの所得税負担の違い
自営業者とサラリーマンでは、所得税の負担が大きく違います。
同じ収入でも、自営業者の方が税金は高くなってしまうのです。
よく「サラリーマンの年収1,000万円はすごいけど、自営業者の年収1,000万円はそうでもない」といわれますが、それはこの税負担の違いからきています。
たとえば年収1,000万円の場合で考えてみましょう。
まずサラリーマンなら、年収1,000万円から社会保険料50万円ほどと年金70万円ほど、合計約120万円を差し引かれます。
ここから給与所得者の控除を受け、結果として所得税と住民税を合わせて150万円ほどを納めることになります。
年収1,000万円のサラリーマンの手取り額はおよそ730万円です。
これに対し、年収1,000万円の自営業者の手取り額はおよそ665万円です。
まず健康保険料として約75万円、年金として約20万円、合わせて約95万円を支払わなくてはいけません。
所得税の課税金額は905万円となり、所得税と住民税を合わせて200万円ほどを納付しなくてはいけません。
加えて個人事業税を40万円ほど納めるため、手取り額は約665万円になってしまうのです。
その上、自営業者には退職金も厚生年金もありません。
年金制度の2階に当たる部分や老後の資金は自力で用意しなくてはならず、その分を考えると今使うことのできる実質的な手取り額は550万円ほどと考えられます。
このように、サラリーマンと自営業者では同じ年収1,000万円でも手取り額が大きく異なります。
自営業者こそ、老後に備えてIDeCoなどを活用していく必要があるのです。
節税シミュレーション3 企業年金がない会社員
企業年金がない会社に勤めている会社員も、企業年金にかわる年金として個人型確定拠出年金(iDeCo)を利用することができます。
【条件】
・職業 企業年金のない会社員 (年収500万円) ・現在の年齢は30歳 ・60歳まで毎月iDeCoを拠出する ・運用利率は3% |
この条件で、掛金の上限である2万3,000円と下限である5,000円の2パターンを計算してみます。
年収 | 月の掛金 | 運用利率 | 年間節税額 | 30年間の節税額 | 30年間の用益の非課税 | |
---|---|---|---|---|---|---|
企業年金のない会社員 | 500万円 | 5,000円 | 3% | 12,000円 | 360,000円 | 222,737円 |
23,000円 | 55,200円 | 1,656,000円 | 1,024,590円 |
企業年金がない会社員でも厚生年金はあるため、自営業者と比べると掛金の上限額が低くなっています。
しかしそれでも30年で36万円もの拠出による節税ができるので、これは大きなメリットです。
節税シミュレーション4 企業年金がある会社員
企業年金がある会社に勤めている会社員も、さらなる老後資金の形成方法として個人型確定拠出年金(iDeCo)はおすすめです。
・職業 企業年金のある会社員 (年収500万円) ・現在の年齢は30歳 ・60歳まで毎月iDeCoを拠出する ・運用利率は3% |
この条件で、掛金の上限である1万2,000円と下限である5,000円の2パターンを計算してみます。
年収 | 月の掛金 | 運用利率 | 年間節税額 | 30年間の節税額 | 30年間の用益の非課税 | |
---|---|---|---|---|---|---|
企業年金がある会社員 | 500万円 | 5,000円 | 3% | 12,000円 | 360,000円 | 222,737円 |
12,000円 | 28,800円 | 864,000円 | 535,569円 |
企業年金がある会社員は厚生年金と企業年金を受け取れるため、掛金の上限額が低く設定されています。
そのため節税のメリットは少なくなってしまいますが、資産を形成しながら節税できるのですから悪くありません。
月々拠出できるだけの余裕があるなら、検討する価値があります。
節税シミュレーション5 企業型確定拠出年金のある会社員
企業型確定拠出年金のある会社員にとっても、個人型確定拠出年金(iDeCo)は有効な節税になります。
【条件】
・職業 企業型確定拠出年金のある会社員 (年収500万円) ・現在の年齢は30歳 ・60歳まで毎月iDeCoを拠出する ・運用利率は3% |
この条件で、掛金の上限である2万円と下限である5,000円の2パターンを計算してみます。
年収 | 月の掛金 | 運用利率 | 年間節税額 | 30年間の節税額 | 30年間の用益の非課税 | |
---|---|---|---|---|---|---|
企業型確定拠出年金のある会社員 | 500万円 | 5,000円 | 3% | 12,000円 | 360,000円 | 222,737円 |
20,000円 | 48,000円 | 1,440,000円 | 890,948円 |
企業型確定拠出年金のある会社員は、それに上乗せという形でiDeCoを行うことができます。
節税効果は自営業ほどではありませんが、やっておいて損はない数字です。
節税シミュレーション6 公務員
制度の改正により、公務員も個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入できるようになりました。
【条件】
・職業 公務員 (年収500万円) ・現在の年齢は30歳 ・60歳まで毎月iDeCoを拠出する ・運用利率は3% |
この条件で、掛金の上限である2万円と下限である5,000円の2パターンを計算してみます。
年収 | 月の掛金 | 運用利率 | 年間節税額 | 30年間の節税額 | 30年間の用益の非課税 | |
---|---|---|---|---|---|---|
公務員 | 500万円 | 5,000円 | 3% | 12,000円 | 360,000円 | 222,737円 |
12,000円 | 28,800円 | 864,000円 | 535,569円 |
公務員にはかつて共済年金と呼ばれたしっかりとした年金制度があるため、iDeCoの掛金の上限額は1万2,000円と低いです。
しかしそれでも節税効果はあるため、お金を運用しながら節税にもなるiDeCoは公務員にもおすすめです。
まとめ
個人型確定拠出年金(iDeCo)は個人が任意で加入する私的年金制度のひとつです。
iDeCo(イデコ)の名前の由来は「老後のためにいまできること」。
個人個人が自分の老後資金を現役世代のうちに自分で形成しておくことを目的にした制度です。
日本の確定拠出年金制度には現在、企業型と個人型があります。
企業型はその会社に勤める人しか加入できませんが、iDeCoは日本に居住する20歳以上60歳未満の人なら誰でも加入することができます。
iDeCoの掛金の下限は5,000円で、上限は職業によって異なります。
iDeCoは自分の老後資産を自分で形成できるというメリットだけでなく、税務面にも大きなメリットがあります。
まず掛金全額が所得控除の対象になるため、iDeCoに拠出した分だけ課税金額を少なくすることができます。
運用益も非課税で再投資可能のため、一般的な投資よりもお得です。
さらに受け取る際にも控除があるため、形成した資産をより多く手元に残すことができます。
iDeCoにもデメリットがあり、原則として60歳まで引き出すことができない点に注意しましょう。
元金を割り込むおそれもあります。(提供:ベンチャーサポート税理士法人)