被相続人が多額の借金を抱えたまま亡くなってしまうと、その相続人が借金を引き継いで返済しなければなりません。
しかし、相続財産の内容をみて財産より借金などの債務の方が多い場合は、相続放棄する方が相続人にとってメリットがあります。
ただ、相続放棄は被相続人が亡くなってからしか手続きができません。
そこで、生前に行える方法についてご紹介します。
1. 相続放棄をすべき場合とは?その方法とは?
被相続人が多額の借金や債務を抱えており、預金や不動産などの財産をすべて返済にあてたとしてもすべてを返済できない場合には、相続放棄も選択肢に入れなければなりません。
ただ、相続放棄をするとすべての財産を引き継ぐことができなくなります。
自宅を相続したいと考えている場合にも、その自宅を手放さなければならないため、相続放棄をする際には大きな決断を迫られることとなります。
被相続人が亡くなる前に相続放棄することを記載した念書を作成している場合もありますが、正式な方法ではないため他の相続人や債権者とのトラブルになる可能性があります。
そのため、相続放棄する際には、必ず家庭裁判所で手続きしなければなりません。
相続放棄申述書のほか、被相続人との関係を明らかにする戸籍謄本などの書類が必要とされます。
家庭裁判所に相続放棄を申し立てることができるのは、相続が発生してから3か月以内です。
相続放棄を考えている場合は、早めに行動しましょう。
2. 相続放棄の代わりにできる5つの方法とは?
相続放棄を行う際は、3か月という短い期限の間に決断しなければなりません。
ところが、本当に相続放棄した方がいいのか、しなくてもいいのか判断に迷うことも少なくありません。
特に被相続人が住んでいた自宅を相続したいのであれば、借金を払ってでも相続しようと考えることもあります。
亡くなってからでは遅いのですが、亡くなる前であれば多額の借金がある場合でも、相続放棄以外の方法によりその借金を相続人が引き継がないようにしたり、相続放棄しても別の形で財産を残したりすることができます。
2-1. 生命保険に加入する
死亡した時に支払われる死亡保険金は、亡くなった人が生前に契約していた保険契約にもとづいて支払われる受取人固有の財産であり、相続財産ではありません。
そのため、相続放棄をしても死亡保険金を受け取ることはできます。
相続放棄することを念頭に入れているのであれば、死亡保険金に契約しておいて、相続財産とならない財産を相続人に残すことを考えてみましょう。
2-2. 債務を整理する
借金を相続人に残したくない、あるいは生きている間に借金を完済できないのであれば、自己破産など法的な債務整理を行うことも選択肢に入れておきましょう。
自己破産を行うと、その時点での債務はゼロとなります。
ただ同時に、その時保有している財産もゼロとなるため、どうしても自宅を残したいと考えている場合には別の方法を考えなければなりません。
しかし、借金の額が大きいと、自己破産か亡くなってからの相続放棄以外に選択肢がないことも考えられます。
このうち自己破産を行った場合は、自己破産後に形成された財産を相続できます。
これに対して相続放棄の場合、相続人はわずかな財産も相続できません。
早く債務整理を行って、ゼロからスタートするのは大きなメリットがあるのです。
2-3. 遺言書を作成する
遺言書を作成しておくと、遺産分割の方法について、遺言書を作成した人が指定することができます。
そのため、特定の財産について相続する人を決めておきたい場合や、相続人の中でどうしても相続させたくない人がいる場合などには、遺言書によって遺産分割を効果的に進めることができます。
遺言書を作成するといいのは、財産がある場合だけではありません。
自宅などの財産と借金の両方がある場合に、長男が自宅を相続する代わりに借金も引き継ぐこととする遺言書を作成し、その遺言書のとおりに執行されると、無用な争いを避ける形で自宅と借金を相続することができます。
ただ、債務を特定の相続人が引き継ぐこととしても、その相続人がきちんと返済をしていかないと、他の相続人に請求が来る可能性があります。
他の相続人は、債務を引き継がなかったからといって安心できる訳ではありません。
2-4. 生前贈与を行う
生前贈与を行うと効果的と考えられるのは、財産の額が非常に多いため相続税の税率が高くなりそうな場合に、その税率より低い税率の範囲内で贈与を行うようなケースです。
ただ、多額の財産がある場合だけでなく、財産の額が少ない場合にも生前贈与を行うことがあります。
相続放棄をすると、相続人はすべての財産を引き継ぐことはできなくなるため、相続放棄する前に財産を他の人に贈与しておくのです。
こうすれば、亡くなった際に相続放棄する財産を最小限に抑えることができます。
ただし生前贈与を行った結果、債務の額が財産の額を上回ってしまうと、銀行などの債権者から取り消されるなど別の争いが生じる可能性があります。
財産の額が債務の額を下回らない範囲内で、財産の贈与を行うことが重要です。
2-5. 遺留分の放棄をする
遺留分とは、法定相続人が最低限相続できる相続財産の割合です。
財産を相続する相続人の中には、他の相続人と仲が悪いこともあります。
相続財産を受け取りたくないし今後一切の関わりを持ちたくないと考える場合には、この遺留分をあらかじめ放棄して、相続に関わらないと意思表示することができます。
ただ、遺留分を放棄すれば債務も引き継がない訳ではないため、勘違いしないように気を付けなければなりません。
3. まとめ
相続放棄は、亡くなってから3か月以内という短い期間内に行わなければなりません。
また、借金を相続しない代わりに財産もすべて放棄することとなるため、相続人に何も残すことはできません。
しかし、亡くなる前であれば、死亡保険金の加入や生前贈与などを活用することで、相続人に対して財産を残すことが可能です。
借金を配偶者や子供には相続させたくないと考えるのであれば、これらの方法を生前に実行することが重要なのです。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)