遺産相続に関してトラブルとなった場合、その解決を弁護士に依頼することとなります。
しかし、知り合いの弁護士がいるわけでもなく、どのように弁護士を選べばいいのか分からないという方が多いと思います。
そこで、遺産相続に強い弁護士の選び方を解説します。
また、高額になるイメージのある弁護士費用の計算方法や相場についても解説します。
1. 遺産相続問題に強い弁護士を選ぶことの重要性
弁護士の活動領域は幅広く、一般的にイメージされる刑事事件の弁護士のほか、会社などの企業法務を専門とする人、離婚や相続などの親族問題を得意とする人など、多くの専門分野に分かれています。
例えば、刑事事件を専門に扱っている弁護士でも遺産相続問題に関する仕事を引き受けることはできます。
ただ、遺産相続問題に関する知識やノウハウでは、普段からそのような問題を扱っている弁護士に比べて圧倒的に少なく、最新の情報への対応が遅れている可能性もあります。
遺産相続問題を解決する際には、遺産相続問題に強い弁護士を選ぶことは大変に重要です。
2. 弁護士に依頼すべき場合と依頼しなくてもいい場合
相続が発生したとしても、すべての場合で弁護士に依頼すべきとなるわけではありません。
ここでは、弁護士に依頼した方がいい場合と他の専門家に依頼すべき場合を確認しておきましょう。
2-1. 弁護士に依頼すべき場合とは
弁護士に依頼すべき相続とは、相続人どうしの争いになる可能性が高い場合です。
相続の際に相続人間で揉める原因としては、以下のように様々なものが考えられます。
①遺言書が本物かどうか疑わしい
②遺産分割協議で相続分を強硬に主張する人がいる
③相続人に想定外の異母兄弟が現れた
④遺留分に満たない相続人がいるため遺留分侵害額請求を主張している など
相続が発生した場合に多少の争いになることは珍しくありませんが、ほとんどの場合は当事者同士の話し合いによって解決します。
しかし、争いが激しくなると、当事者間で話し合いをすることも難しくなってしまいます。
そうなる前に弁護士に依頼して、紛争を未然に防止することも検討しておきましょう。
2-2. 弁護士に依頼しなくてもいい場合とは
相続人の間で争いが発生していない、あるいは争いが発生しないと思われるのであれば、弁護士に依頼する必要はありません。
相続人どうしで仲が良く、日頃から連絡を取り合っており、遺産分割をめぐって特に強く主張する人がいない場合、あるいは相続人が1人しかいない場合などが該当します。
気を付けなければならないのは、遺産の額は争いになるかならないかには関係ないことです。
少ない遺産の分割をめぐって相続人間で大きな争いになる可能性は高いため、遺産があまりないから安心と考えてはいけません。
また、それまで兄弟仲良く過ごしてきた人たちでも、相続によって一気に仲が悪くなってしまうことがあります。
特に、兄弟同士は仲が良くても、それぞれの家族の中に強く主張する人がいれば、遺産分割協議はスムーズに成立しません。
どのような相続でも争いに発展する可能性はあるものと考え、いざという時には弁護士に依頼することも選択肢に入れておきましょう。
2-3. 弁護士以外の専門家に依頼すべき場合とは
弁護士は相続人間に発生した紛争を、本人に代わって交渉することができる唯一の専門家です。
ただ、相続が発生した際には、弁護士以外の専門家に依頼すべきものもあります。
何をどの専門家に依頼するのか、一度整理しておきましょう。
▼司法書士に依頼すべき内容とは
相続した遺産の中に不動産があると、相続した人は相続登記をしなければなりません。
相続登記は自分自身ですることもできますが、専門家に依頼して代わりに行ってもらうこともあります。
この時、登記を依頼するのが司法書士となります。
弁護士に遺産相続問題について依頼していたとしても、相続登記をする際には別に司法書士に依頼しなければなりません。
もし弁護士に依頼する必要がないのであれば、最初から司法書士に登記だけお願いしましょう。
▼行政書士に依頼すべき内容とは
行政書士には、戸籍などの書類の収集や遺産分割協議書の作成などを依頼することができます。
ただ、行政書士ができるのは、あくまでも書類の収集や作成だけであるため、実際に依頼できるのは相続人どうしで争いがない場合に限られます。
例えば、遺産分割をめぐって相続人どうしで争いとなっている場合には、その解決を行政書士に依頼することはできず、弁護士に依頼しなければなりません。
また、弁護士に依頼すれば遺産分割協議書の作成まですべてお願いすることができるため、遺産分割協議書の作成だけ行政書士に依頼することはありません。
▼税理士に依頼すべき内容とは
税理士は税金計算の専門家であり、相続税や準確定申告といった税金の計算を依頼することができます。
特に相続税の計算は複雑なため、税理士に依頼しないと難しいでしょう。
また、相続税の申告書を提出することで利用できる相続税の特例があるため、相続税が発生しなくなるケースもあります。
このような場合には、相続税が発生しなくても申告書だけは提出しておく必要があるため、不安な場合は確認しておくようにしましょう。
ただ、相続が発生すれば必ず相続税が発生するわけではありません。
また、遺産分割をめぐる争いの解決は弁護士に依頼しなければならず、相続が発生したからといって必ず税理士に相談する必要はありません。
3. 遺産相続問題に強い弁護士の選び方
弁護士に依頼した方がいいと考えた場合に、実際どのように遺産相続問題に強い弁護士を選べばいいのでしょうか。
素人ではその判断が難しいと思われるかもしれませんが、誰でも簡単に分かるポイントもあります。
3-1. ホームページで確認
最も基本的で簡単なことですし誰でも思いつくことですが、非常に重要なポイントです。
ホームページを検索するのに費用は発生しませんし、先方と会う時間を予約する必要もありません。
そのため、数多くのホームページを調べて、比較検討することができるのです。
多くの弁護士事務所や弁護士法人のホームページを見ていけば、相続問題に力を入れているのか、その他の分野を専門としているかをある程度判断することができるようになります。
また、弁護士事務所や弁護士法人に所属する弁護士の人数や過去の実績を知ることもできるため、遺産相続問題について専門的な知識を有する人が数多くいる事務所を選ぶこともできます。
3-2. 相続に関する著作や研究成果があるか
遺産相続問題について専門的に取り組んでいる弁護士の中には、相続に関する著作を多数有する人もいます。
これは、相続に関する問題は一般的な関心が高く、書籍や雑誌のテーマとなることが多いためです。
ただ気をつけなければならないのは、書籍や雑誌の執筆を行っている弁護士の中には、実務をほとんど行っていない人もいることです。
このような弁護士は、知識が豊富でも相続人間で意見を調整したり相手方と交渉したりすることが苦手な人もいます。
また、実務的な依頼を直接受けていないこともあるため、必ず実務に精通していることを確認してから依頼するようにしましょう。
3-3. 遺産相続問題を解決した実績があるか
ホームページには多くの情報が載せられています。
そのような情報の中に、遺産相続問題を解決した実績が記載されている場合があります。
解決実績は、弁護士がどのくらい遺産相続問題に取り組んでいるかの目安になるため、掲載されている場合にはその数を比較してみましょう。
解決実績が多いほど、遺産相続問題に積極的に取り組んでいるということになるため、より実績の多い弁護士を選ぶようにしましょう。
ただ、すべての弁護士がその実績をホームページに掲載しているわけではないため、あくまで目安と考えるようにしましょう。
3-4. 弁護士となってからの年数がどれくらいあるか
実績の数と同じくらい重要なのが、弁護士として活動している年数の長さです。
当然、年数が長い方が多くの事案を担当している可能性が高く、いざという時に頼りになります。
ここで重要なのは、弁護士となってからの年数です。
弁護士になる前に他の職業で様々な経験をしている場合や、弁護士事務所の職員としての経験がある場合もあります。
しかし、大事なのは弁護士として相続人や他の弁護士と交渉を行った経験です。
弁護士と弁護士事務所の職員では、日頃行っている業務が違うため、弁護士としての経験が長い人を選ぶ方が安心して依頼できると思います。
3-5. 弁護士費用を明確に説明してくれるか
弁護士費用はかなり高額になるイメージがあると思います。
実際に弁護士費用がいくらかかるのかは、すべてが終わらなければ確定しませんが、正式に依頼する前でも、その計算の基準を明らかにしてくれる弁護士がいい弁護士といえるでしょう。
弁護士費用がいくらかかるのかは、依頼する人にとっては非常に大きな関心事です。
初めから費用の見込額や計算方法を明らかにしてくれるなど、依頼者の不安に寄り添って対応してくれる弁護士であれば、その後の相談や相手との交渉の段階でも依頼者のことを考えた対応をしてくれるはずです。
逆に、弁護士費用の計算方法を明らかにしてくれない弁護士は、依頼者のニーズに沿った対応をしてくれるか不安を感じるようなことがあるかもしれません。
3-6. 依頼者に不利な情報も含めて教えてくれるか
弁護士に遺産相続問題を依頼した際には、民法などの法律にもとづいて、依頼者の利益になるように動いてもらうこととなります。
そのため、依頼者は弁護士に依頼した結果、自分に有利になることを期待しますし、弁護士も依頼者に対して有利な情報を伝えようとします。
しかし、実際にはすべてが依頼者にとって有利に働くことばかりではありません。
法律の取り決めによって依頼者に認められないことや、調査・交渉を進める中で依頼者に不利な状況が発生することも珍しくありません。
そのような依頼者にとって望ましくない情報も、弁護士からその都度教えてもらうことができるかどうかが、いい弁護士かどうかの違いとなります。
依頼者にとっていい弁護士は、不利な情報も教えてもらったうえで、さらにその対策を考えてくれる人です。
一方、依頼者にとって都合の悪い情報を伝えない弁護士は、いい弁護士とはいえないのです。
3-7. 相談や質問に対する対応が早いか
弁護士に正式に依頼する前であっても、依頼した後であっても、依頼者は弁護士に様々な疑問をぶつけ相談をすることとなります。
その際に、誠実に質問や疑問に答えてくれるか、あるいは対応が早いかどうかが、弁護士選びの大きなポイントとなります。
質問や疑問にすぐに対応してくれない、あるいは満足のいく対応をしてもらえないと感じる場合は、その後もあらゆる場面で不満を感じることになるでしょう。
また、最終的にこの弁護士に依頼してよかったのだろうかと後悔することがあるかもしれません。
3-8. 契約書を作成するか
弁護士に遺産相続問題の解決を依頼するということは、弁護士と契約を結ぶということです。
契約を結ぶのであれば、必ず契約書を取り交わすべきです。
弁護士との契約書には、どのような業務を行うのか、弁護士費用の計算方法はどうなっているのか、弁護士費用をいつ支払うのかといった項目が明記されます。
契約書がないと、追加で弁護士費用が発生してしまうなどのトラブルとなるおそれがあります。
契約書がある場合とない場合とでは依頼者側の安心感がまったく違うため、契約書を作成しようとしない弁護士は避けましょう。
3-9. 相続税の知識や節税についての助言ができるか
弁護士に遺産相続問題を依頼するのは、遺産分割をめぐる争いを解決することが最も大きな目的です。
ただ、遺産分割の方法によって相続税の負担が変わることについて特に考慮することなく遺産分割を行うと、多額の相続税を支払わなければなりません。
相続人どうしの争いを解決する一方で、相続税の負担をできるだけ抑えるという観点からもアドバイスしてもらえる弁護士の方が、依頼者にとってはいい弁護士といえます。
4. 遺産相続問題における弁護士費用の相場とは
遺産相続問題に関して弁護士に依頼した場合の弁護士費用の額については、以前は報酬規定と呼ばれる基準があったため、どの弁護士規定に頼んでも同額でした。
しかし現在はその規定が廃止され、弁護士費用は弁護士が自由に決めることができます。
そのため、弁護士費用の明確な相場は存在しないとされています。
4-1. 旧報酬規定に基づく弁護士費用の額
ただ、報酬規定は廃止されていますが、現在でもその規定を参考にして弁護士費用の額を決めている弁護士は数多くいます。
そこで、旧報酬規定による弁護士費用の額を確認しておきましょう。
以下の表は、遺産相続問題を弁護士に依頼した場合の弁護士費用の計算表です。
相続額 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
300万円以下 | 8% | 16% |
300万円超3,000万以下 | 5%+9万円 | 10%+18万円 |
3,000万円超3億円以下 | 3%+69万円 | 6%+138万円 |
3億円超 | 2%+369万円 | 4%+738万円 |
例えば、相続した財産の額が3,000万円の場合、着手金3,000万円×5%+9万円=159万円、報酬金は3,000万円×10%+18万円=318万円となり、その合計額は477万円となります。
ただ、現在はこの規定をもとに弁護士費用を計算している場合でも、事案の複雑さや交渉によってその金額を下げることは可能です。
あくまで目安の金額と認識しておきましょう。
4-2. 旧報酬規定によらない場合の計算方法
弁護士費用の額が自由化されたことにより、旧報酬規定によらずに弁護士費用を計算することができるようになりました。
その計算方法には様々なものがありますが、多くの場合、「着手金は10万円~30万円程度で固定」「報酬金は相続額の10%」というような計算基準を設けています。
例えば、先ほどと同じく3,000万円を相続した場合の費用は、着手金最大30万円、報酬金は3,000万円×10%=300万円の合計330万円となります。
ただし、計算方法は必ずしも一律ではありません。
また、計算方法によって弁護士費用が高くなるケースと低くなるケースがあるため、いろいろな弁護士のホームページで確認してみるといいでしょう。
5. まとめ
遺産相続問題に直面するのは、ほとんどの人は多くて一度か二度のことです。
そのため、自分自身はもちろん、周りの人にも経験のある人は少なく、誰に相談していいか分からないことが多いと思います。
そんな時に頼りになるのは、弁護士ということになります。
遺産相続問題に詳しい弁護士を自力で探すのが難しいのであれば、弁護士会や法テラスといった窓口を利用することもできます。
遺産分割をめぐって争いになりそうな場合は、早めに弁護士に相談することで、争いが大きくなる前に解決の方法を見つけ出すことができるはずです。
争いとなる前に相談することが、スムーズな相続へと導いてくれるのです。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)