節税,名義預金,判定されない
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

1. 子や孫等の名義の預金が相続税の対象となる?

国税庁の公表資料をみると、平成29年度では相続税の調査件数が12,576件実施されていました。

なんと、そのうち83.7%が申告漏れなどを指摘されています。

相続税の調査があった場合には、ほとんどの人に申告漏れがあり、相続税が追徴されているということになります。

そして、申告漏れの財産のTOPは断トツで「現金・預貯金」です。

現預金は、動かしやすい財産だからこそ、入念にチェックされてしまうのでしょう。

1-1. 申告漏れ相続財産TOP3

現金・預貯金 1,183億円
有価証券 527億円
土地 410億円

参考URL:国税庁HP 「平成29事務年度における相続税の調査の状況について」

この現預金の申告漏れの中に「名義預金」と呼ばれるものがあります。

名義預金とは、例えば父が自分のお金を原資に妻や子、孫名義の預金口座を作り、その預金を父自身が管理しているものをいいます。

つまり妻や子の名義を借りているだけであって、実質的には父の預金であるものをいいます。

父に相続が発生し相続税を申告する際には、妻や子名義の預金は相続財産として計上しないことが普通だと思います。

しかしながら、税務調査で「妻や子名義の預金」は「父の名義預金」であるとして、相続財産が課税されてしまうケースが多くあります。

税務調査で指摘されてしまうと、相続税の追徴だけでは済まず、過少申告加算税や延滞税などのペナルティも上乗せされてしまい負担が大きくなってしまいます。

この名義預金の中には、毎年コツコツと実施してきた贈与による子名義などの預金も多く含まれています。

税務調査で名義預金と判定されないように、ポイントを押さえた贈与を実行しておくことがとても重要となります。

税務調査というととても難しそうに考えてしまいますが、名義預金と判定されないためのポイントは決して難しいものではありませんので、整理しながらみていきましょう。

2. 名義預金と判定されやすい贈与とは?

2-1. そもそも贈与とは何か?

民法第549条では、

「贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる」

と定められています。

つまり「この財産を差し上げました(あげた)」、「この財産を頂きました(もらった)」ということが成立していることが条件となります。

父が子へ預金を贈与していたケースで「名義預金」と判定された場合は、父は自分で預金を管理しているため子に「あげた」とは言えず、子は自分で管理していないので「もらった」という状況ではないということになります。

2-2. 税務調査で名義預金と判定されやすいパターンは?

贈与が成立しているかどうかは、①贈与者はあげる意思があったのか?②受贈者は本当にもらっているのか?がポイントとなります。

この「あげた」「もらった」が明確でない場合には、税務調査では名義預金と判定される可能性が高くなります。

財産をあげる人(贈与者)を父、財産をもらう人(受贈者)を子として、税務署から名義預金と判定されやすいケースを見てみましょう。

子がお金を贈与してもらったのであれば、子がそのお金を自由に使えるはずです。

上記のケースを見ると父が管理していたと思われても仕方ないでしょう。

「あげた」「もらった」が成立していないのです。

このような状況の下、税務調査が始まってから、子が「このお金は父からもらったものです」とどんなに口頭で説明しても、調査官が「そうですか。

分かりました」なんて事は言ってくれません。

贈与の事実をしっかりと残しておかなければ税務署も納得してくれないのです。

3. 名義預金に時効はない!

贈与税の納税をしていない場合、申告期限(贈与を受けた年の翌年3月15日)から原則6年経過すると時効となります。

故意に申告していない場合には、7年間と長くなります。

これはあくまでも贈与が成立していて、贈与の申告・納税を行っていない場合です。

結論からいうと、名義預金に時効という考え方はありません。

上記でも述べた通り、税務署は、贈与が成立をしておらず単に子の名義を借りた「父の預金」であると判断します。

贈与が成立していない以上、贈与税の申告義務もありません。

このため贈与税の時効ということにもならないのです。

このため、例えば30年以上前に作った子名義の預金などについても相続財産として課税される可能性があります。

「大昔だから大丈夫だろう」というのは通用しないのです。

4. 名義預金と判定されないための準備をしよう!

4-1. 税務調査での名義預金のチェックポイントは?

相続税の税務調査があった場合、名義預金かどうかチェックされるポイントは大きく2つあります。

上記のチェックポイントですが、本来は難しい内容ではないはずです。

父は子にお金をあげて、子がそのお金を自分で使えばいいだけです。

とはいえ、父としては、不労のお金を子に渡すことは金銭教育的にもよくないという気持ちになるようです。

節税と金銭教育の2つを成立させようとすることが、税務調査で問題視されるような状況を生み出しているのです。

4-2. 名義預金と判定されないための準備をしましょう

贈与された預金について、税務署から名義預金と判定されることがないように、しっかりとその預金を子本人が管理しているといえる状況を作ることが必要です。

「あげた」「もらった」が明確に言えるように準備するポイントを説明します。

▼贈与の証拠を残すため、贈与契約書を作成し、子名義の預金通帳に振込をしよう

「あげた」、「もらった」の証拠を残すために、贈与契約書を作成し、必ず自署押印をしましょう。

パソコンで贈与契約書を作成し、氏名を印字して印鑑を押すだけのケースをよく見かけますが、父子ともに自署することの方が望ましいと思います。

パソコンで契約書を作成することは、相続が発生してからでも作成することが可能であるからです。

自署があれば、その契約書は生前に交わされていたという証拠になります。

また、現金で贈与する人もいますが、現金では実際に資金の移動がおこなわれたかどうかの確認が取りづらいため、贈与の事実が不明確となります。

このため、預金通帳には送金や振込をしましょう。

振込をすることで、贈与した金額と日付が明確になります。

▼贈与を受ける預金通帳は、子自身がしっかりと管理しよう

贈与してもらう子名義の預金通帳を、親が所有しているケースが多くあります。

親は銀行にその預金通帳を持っていき、ATMを使って入金することにより贈与をしています。

しかしながら、この親が通帳を管理しているこの状況では、税務署から名義預金と判定される可能性が高くなります。

特に、子は地方に住んでいるにもかかわらず、親が住んでいる東京の銀行のATMで入金されている場合などは、その預金通帳は親が管理していたという事実が明確になってしまいます。

預金通帳はしっかりと子自身が管理し、親から振込をしてもらいましょう。

▼子は贈与を受けた預金から、時折お金を使いましょう

もらった預金がそのまま1円も使われずに残っている場合には、税務署からは名義預金としてみられがちです。

せっかくもらったお金であり、相続税の納税資金として使わずに大切に残しているというケースもあるとは思いますが、預金の一部でいいので自分のために使いましょう。

使った実績というのは自分が管理していたという証拠となります。

▼贈与金額が年間110万円を超える場合には、きちんと贈与税の申告をしましょう

贈与税の制度では、年間一定額を超える場合には、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告と納税が必要となります。

申告が必要な人は、忘れずにきちんと贈与税の申告をしておきましょう。

申告の義務があるのに申告をしていない場合には、その財産は「もらった」ものではないと判定される可能性があります。

このため、人によっては110万円以内の贈与でも、あえて贈与税の申告をしたり、贈与金額を111万円にしてあえて贈与税(1,000円)を納税したりして、贈与の証拠を残す工夫をしています。

なお、贈与税の申告と納税を「財産をもらった子」ではなく、「財産をあげた親」がおこなっている場合は、もちろんNGであることは言うまでもありません。

▼税務調査があった際には、贈与があったことをきちんと説明しよう

税務調査の際、税務調査官が子に対して「お父さんは何らかの相続対策をしていましたか?」なんて誘導尋問のような質問をするケースもあります。

節税なんて怒られるに違いないと構えてしまい、その場しのぎで「いや全然父は何もしていませんでした」なんて答えてしまいそうです。

しかし、税務調査の際にも、きちんと贈与があったとういうことを説明しましょう。

贈与という節税も、制度に従って実施していることなので、何ら後ろめたいことはありません。

堂々と説明して大丈夫ですし、しっかりと主張すべきです。

きちんと贈与を成立させておけば、税務調査もストレスなく応対できるはずです。

5. まとめ

上記の通り税務調査で名義預金と判定されないための準備は決して難しいものではありません。

しかしながら、子が無駄遣いしないようになどの想いから、つい親が管理しがちになるものも事実です。

「税務調査はあるか分からない」、「あっても何とかなるだろう」と思いがちですが、税務調査官は財産漏れを探すプロです。

税務調査で確認されても大丈夫なように、しっかりと贈与が成立していた証拠を残しておきましょう。(提供:ベンチャーサポート法律事務所