人々の生活が多様化するにつれ、人の生き方が変わっていくのは自然な流れです。
その結果、社会は大きく変化していきます。
それは相続の場面でも当てはまり、今まで問題にならなかったような事象となって現れてきています。
それではどのようなことが問題になっているのか、ここではその問題となりつつある相続の形態を見ていきましょう。
最近の相続問題
老老相続
Aさんは95歳でこの世を去りました。
その相続人は妻のBさんと子のCさんです。
Bさんは93歳、Cさんは75歳です。
Bさんは認知症で現在施設に入っています。
Cさんは病気を患い入院生活を送っています。
このように、被相続人が高齢で亡くなり、相続人もすでに高齢になっているような場合を老老相続といいます。
現在、このような相続が急速に増えています。
ご存じのように高齢になると判断能力が衰え始め、新しいことに取り組むのが億劫になります。
また心身の機能も衰えてくるので認知症や重い病気を患いやすくなります。
そのようななかで、相続の問題が起きるとどうなるでしょう。
概して相続の問題はいろいろと新しい問題ばかりで、そこにトラブルなどがあるとより複雑な話になります。
高齢の方としては面倒だからと後手に回るのが自然でしょうし、病気や認知症等を煩っていれば、治療等の対応が先になります。
それが相続の放置やトラブルの一端を担う形になって現れてきます。
認認相続
Aさんは90歳でこの世を去りました。
Aさんの配偶者Bさんは89歳、子どものCさんは75歳です。
先ほどの老老相続の話と重複しますが、認認相続というものがあります。
どのような相続かと言いますと、相続したものの相続人が認知症等を煩っているような場合を言います。
この例で言いますと、配偶者のBや子のCが認知症を患っている状態です。
この場合、相続手続きはどうなるのでしょうか。
相続して誰かの名義にする場合、遺産分けをする必要があります。
遺産分けは具体的には遺産分割の話し合いを行い、書類として遺産分割協議書を作成し、その記載通りの内容を執行していきます。
この書類には各相続人の署名と実印での押印が必要となります。
これらの協議や署名押印には相続人が自らの意思で判断協議を行い、その結果をサインするという前提です。
ですから、何をどうしたらいいのかわからない、判断能力がないというような場合は協議ができず、仮に協議書に署名押印があったとしても無効とならざるを得ません。
そうすると相続手続きができず、何もできないという形に帰結します。
このような場合に家庭裁判所に成年後見人を選任してもらい、相続の手続きをすることは可能ですが、成年後見人が選任された場合は成年被後見人の法定相続分は最低限確保しなければならないですし、
成年後見人の職務は被後見人が亡くなるまで続くので、責任の重さから敬遠されているのが実情です。
子なし相続
Aさんが亡くなりました。
Aさんには配偶者としてBさんがいますが、その間に子どもはいません。
Aさんの両親や祖父母もすでに他界しています。
Aさんには兄弟が複数人いますが、親戚付き合いがほとんどなくBさんは兄弟姉妹が誰なのか、連絡先はどこかなど一切わかりません。
ご存じのように、配偶者は常に相続人となります。
他の相続人については順位が法定されており、①子、②両親や祖父母等の直系尊属、③兄弟姉妹です。
③が相続人になるのは①や②がいない場合です。
そうすると、Aさんの相続人はBさんとAさんの兄弟姉妹となります。
子どもがいないといった場合は相続権が②や③に移るので、このような形となります。
相続トラブルに発展するのは、相続人間に信頼関係がない、または破壊されているような場合です。
仲が悪い場合はもちろんですが、関係が薄いと遠慮がなくなり、よりはっきりと主張することが多くなります。
もし親族関係の付き合いがない、またはほとんどないような場合ですと、そもそも誰が相続人なのかわからないことも多くなりますし、仮にわかっていたとしても遺産分けで話し合いがまとまらず、トラブルに発展しやすくなっていきます。
また、被相続人と兄弟姉妹間には親族としての付き合いがあっても、兄弟姉妹が亡くなって甥や姪に相続権が移っている場合があります。
この場合も同じように話し合いがまとまりにくくなりやすいです。
最近の相続問題の原因
これまで老老相続、認認相続、子なし相続について見てきました。
このように、一言で相続とはいっても、いろいろな形のものがあります。
とはいえ、なぜ社会問題といえるまで、このような形の相続形態が増えてきたのでしょうか、以下ではその点について説明していきます。
価値観の多様化
一昔前を思い起こしてみましょう。
女性は25歳までに結婚する、結婚したら会社を辞める、子どもは何人、実家や家業は長男が継ぐ、そのような価値観がほぼ固定観念となっていた時代がありました。
それが時代の変遷とともに、そのような観念も薄れ、今に至っています。
女性は結婚しなければいけないといったものはありませんし、物価の高騰により、結婚しても子どもを産めないという事情もあります。
さらに、自分の意思とは無関係に長男だからと家や家業を継ぐ必要もありません。
また、以前は自分の生まれた町から出るということは、あまりない時代がありました。
それが今では学校や就職の関係で、育った町を離れることも当たり前の時代となっています。
このように、今まであった固定観念が大きく変容を遂げました。
それは「こういう風に生きるべし」という宿命的なものから、「人は自由な意思で生き方を決められる」というように考え方が大きく変わったのだと言えるかもしれません。
人の移動が容易となり全体より個が重視された結果、核家族化が進み、家単位で考える機会も減りました。
それが相続の場面では先のような形で問題を生み、クローズアップされてきました。
生活水準の向上
昭和から平成、そして令和へと時代は変わりました。
かつては無理だったことも科学技術の進歩で今では当たり前になっていることも無数にあります。
医療技術の進歩も同様で、以前は助からなかった重い病気が今では治療可能になっていることもままあります。
その結果、男女共に平均寿命が延びました。
それが老老相続や認認相続という形で問題となっているのも残念ながら事実なのであります。
社会問題となりつつある相続問題
このように社会が大きく変化していくなかで、相続という法の枠組みが変わっていないからいろいろな形で問題が噴出しているとも言えます。
最近よく耳にする、誰が所有者かわからない所有者不明土地問題、空き家問題もその一端でしょう。
都市部と違い、郊外の方に行くと所有者がわからない農地や山林が急速に増えてきています。
相続人からしたら自分に権利のある不動産がどれかわからない、そんなこともままあるのです。
時代が変わり不動産に価値を見いだせなくなった、そんな価値観の変化もここにあるのでしょう。
また、相続人間で遺産分け等の手続きが進められず放置している物件も無数にあります。
価値観が多様化するなかで、これらの問題を解決していく責任は司法にとどまらず立法府にもあるでしょうが、一挙に解決するのはなかなか難しい課題であると思われます。
まとめ
これまで相続にまつわる問題と根底にある原因を見てきました。
「こうすれば問題は解決できる」―そのような簡単明瞭な方法はないのが実情ですが、相続に潜在的に潜むリスクを察知し、その対応方法を検討しておくのは無用な争いを避けるうえでも有用ではないかと考えます。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)