ロボットとICTで職員の負荷を軽減。働きやすくやりがいのある職場を目指す みなの福祉会(埼玉県)

目次

  1. 腰痛に悩む職員が多いのが長年の課題で、介護ロボットに関心を持つ
  2. 使いこなすのが難しく、公的機関やメーカーと研究重ねる
  3. 特養で2台、デイサービスで2台導入。うち1台は自立支援用
  4. ロボット利用のハードルはあるが、慣れてしまえばロボットのない状態に戻れない
  5. 施設利用者が離床する前に職員に知らせる見守りロボットシステムも導入
  6. ベッドセンサーとカメラのセット利用と廊下のカメラによる見える化で介護の質アップを目指す
  7. ビジネスチャットツールを導入。従来の掲示板や紙の配布が不要で、職員間の連絡が簡単に
  8. 職員の大変さを排除し、働きやすさとやりがいだけを残したい
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

埼玉県秩父盆地の一角を成す皆野町で、特別養護老人ホーム(特養)などの老人福祉施設を運営する社会福祉法人みなの福祉会(理事長・山中展弘氏)は、介護の現場にロボットやICTなどの先進技術を積極的に導入している。そこには、重労働を強いられがちな介護・看護職員の負担を少しでも減らして、働きやすくやりがいのある職場にすることで、利用者にとってもより快適な施設にしていきたいとの思いがある。(TOP画像:介護ロボットを装着しておむつ交換)

腰痛に悩む職員が多いのが長年の課題で、介護ロボットに関心を持つ

「おむつ交換や、車椅子からベッドへの移乗介助などいろんな場面で腰を使うので、腰痛に悩む職員が多いというのが長年の課題となっていまして、実際に労災も発生していました」。みなの福祉会の統括施設長である大隝(おおしま)徹さんは、「悠う湯ホーム」で介護ロボットを使うようになったきっかけをこう語る。

ロボットとICTで職員の負荷を軽減。働きやすくやりがいのある職場を目指す みなの福祉会(埼玉県)
「腰痛に悩む職員が多いのが課題」と話す大隝徹・統括施設長

「悠う湯ホーム」は、みなの福祉会が1995年に開設した老人福祉施設だ。特養をはじめ、短期入所生活介護(ショートステイ)、通所介護(デイサービス)、ケアハウス・特定施設入居者生活介護、居宅介護支援(ケアマネーシャー)を兼ね備えており、最大138人の入居者を24時間体制でサポートしている。皆野アルプスを形成する低山の一つ、破風山のふもとという山紫水明の地にあり、その名の通り、秩父温泉「満願の湯」の源泉を引き込んだ展望風呂を楽しめるのが“ウリ”だ。

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山紫水明の地に建つ「悠う湯ホーム」
ロボットとICTで職員の負荷を軽減。働きやすくやりがいのある職場を目指す みなの福祉会(埼玉県)
最上階の4階には天然温泉の展望風呂がある

大隝さんはもともとシステムエンジニア出身で、1997年に財務・給与システムなどのコンピューター管理担当として入職しただけに、日々の介護サービス(入浴・排泄・食事・生活記録・通院・入院など)を利用者別に記録するシステムを20年以上前に導入するなど、みなの福祉会のICT化を率先して推進してきた。

職員の腰痛対策として、腰痛ベルトのあっせん販売をしたり、腰痛に効く体操を勧めたりと試行錯誤していた大隝さんは、介護ロボットに関心を持つようになり、まず2015年に埼玉県が立ち上げた「埼玉ロボットニーズ研究会」に参加。メーカーの開発状況などの情報収集から始めた。そして、2017年には厚生労働省の交付金制度に応募して、腰に装着して筋力をアシストするタイプの介護ロボット2台を初めて導入した。

使いこなすのが難しく、公的機関やメーカーと研究重ねる

ただ、このロボットを使いこなすにはコツが必要な上、そもそも体型的に合わない人もいるので、介護の現場に定着するには時間を要した。「とくに、腰に貼る電極パッドがすごく繊細なんです」と大隝さん。人が体を動かす時に脳から筋肉に送る信号を電極パッドが読み取ってロボットのモーターを動かす仕組みなのだが、パッドが少しずれただけでエラーになったり、パッドそのものが剥がれたりするので、使用する人がストレスを感じてしまうのだ。

それでも何とか実用化しようと、公的機関やメーカーなどと協力しながらいろいろと模索してきた。2017年には埼玉県産業振興公社によるコンサルティング事業の対象施設に選ばれ、コンサルタントの助言の下でロボットの活用による業務改善ノウハウの習得に努めた。2018年から20年にかけては、埼玉県老人福祉施設協議会のプロジェクトに参加して介護ロボット活用の効果を検証。さらに2021年からは同協議会のプロジェクトの一環として、メーカーへの開発提案活動を行っている。

特養で2台、デイサービスで2台導入。うち1台は自立支援用

こうした活動の過程で、メーカーがロボットを無償で改善してくれるなど協力してくれたこともあり、現在は特養で2台、デイサービスで2台を実用化している。

このうち、特養では、主に介護職員が施設利用者のおむつを交換する時に使用する。利用者のおむつを替えるときは中腰の姿勢で利用者の体の一部を持ち上げるので、腰にかなりの負担がかかる。ところが、腰にロボットを装着しておけば、ロボットが利用者を抱えた職員の体を起こしてくれるので、腰の負担を軽減できる。とくに夜勤の時には一定の時間内に1人の職員が30人から40人のおむつ交換をするので、職員によっては欠かせない存在となっている。その一人、栁寿史さんは「私はもともと腰痛持ちなので、1日だけならロボットがなくても全然大丈夫なんですが、1ヶ月も続けたらたぶん腰を痛めてしまうという不安感があります」と、今や常時愛用しているそうだ。

一方、デイサービスでは、入浴介助の時に職員が使用するロボットのほかに、利用者が筋力の回復や維持を目的に運動する際に、利用者自身の腰に装着する自立支援タイプのロボットを使っている。脳梗塞などの後遺症で思うように身体を動かせない人でも、例えば椅子に座った姿勢でロボットを腰に装着して、「立ち上がろう」と考えると、脳から筋肉へ伝わる生体電子信号をセンサーで感知し、ロボットが立ち上がる動作をアシストしてくれる。これを繰り返すことでリハビリ効果を期待できるためだ。

希望する利用者に使い方を教えている看護師の今野彩子さんは、「このロボットを装着して訓練することで、電極を通って筋肉の中に刺激が入るので筋肉が活性化し、筋力低下の防止や、維持につながるとされており、装着しないで運動するよりも短い時間に効果が出るとされています」と説明する。

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介護ロボットを装着した様子

ロボット利用のハードルはあるが、慣れてしまえばロボットのない状態に戻れない

ただ、介護職員の業務は煩雑なだけに、ロボットの着脱を面倒に感じる職員も依然多い。栁さんと同様に、夜勤時のおむつ交換には欠かせないと考える小宮俊紀さんは「ロボットに限らず、デジタル化など何かを変える時には必ず『今までの慣れたやり方のほうがいい』という、とりあえず新しいものを否定することから入るみたいな空気ってありますよね。いったんデジタルの方に慣れてしまえば絶対に戻れないと思うのですが……」と語り、要は“慣れ”の問題だと見る。

施設利用者が離床する前に職員に知らせる見守りロボットシステムも導入

特養では、2017年から利用者のベッド上の動きをセンサーで感知する見守りロボットシステムも導入している。従来から使用しているセンサーマットだと、ベッドから下りてマットに足をつけた段階、つまり離床後にナースコールで職員に通知することになるが、見守りロボットシステムは離床する前に通知するので、利用者の転倒・転落事故を防ぎやすくなるからだ。

ベッドの近くにセンサーを置くタイプと、ベッドそのものにセンサーが装着されているタイプ、それにベッドの脚に設置するタイプの3種類を数台ずつ導入。主に夜間の徘徊癖のある利用者のために使っている。

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ベッドの脚にセンサーを装着する見守りロボットシステム

ベッドセンサーとカメラのセット利用と廊下のカメラによる見える化で介護の質アップを目指す

現状はベッドセンサーのみのベッドも多く、センサーが利用者の動きを感知してナースコールが鳴るたびに、職員は利用者の状態を確かめるために訪室する必要があり、訪室の回数はあまり変わらない。一部のベッドにはセンサー連動式のカメラが付いているが、通知音が鳴ってからモニターにカメラ画像を表示するまでのタイムラグがあるので、表示されるまで待たずにさっさとその部屋に駆けつけることが多いそうだ。

ただ、カメラの有用性もよくわかっているという。例えば、職員が訪室することでかえって興奮して眠れなくなる利用者がいることが、別の日に通知音が鳴っても訪室せずにカメラで見守るだけにしたことでわかったことがあった。また、各廊下に完備しているカメラの映像で、ある利用者が車椅子に乗っている時に特異な動作をすることを家族に理解してもらえたということもあった。このため、大隝さんは今後、予算面のめどさえつけば、全床にカメラを設置したいと考えている。

ビジネスチャットツールを導入。従来の掲示板や紙の配布が不要で、職員間の連絡が簡単に

近年のICT関連技術で大隝さんが「これは便利だ」と感じたのはビジネスチャットツールだ。2018年に特養を担当する職員のうち10人程度で試験的に導入したところ好評だったので、翌2019年から、みなの福祉会全体で本格的に使い始めた。「以前は何かを通知するのに、職員向けの掲示板に貼り出したり、紙を配布したり、一人ひとりに内線電話したりしていたのが、今はグループを作れば一発で済みます」と、とにかく職員間の連絡が簡単になったことを評価。何より、個々人が普段使い慣れているメッセージアプリ「LINE(ライン)」と基本的に同じように操作できるので、親しみやすいそうだ。

今後のICT化について、大隝さんは「目の前にいる利用者の情報を眼鏡に映し出すスマートグラスのようなものができたらいいですね」と語る。「悠う湯ホーム」のような従来型の特養の職員は、少人数の利用者を特定の職員が担当するユニット型とは異なり、多数の利用者を介護しなければいけないので、利用者一人ひとりの情報を詳細には覚えきれない。それが、直近に食事した時間や食事の内容、排泄時間、さらにはアレルギーの有無、病歴などの情報を一瞬のうちに映し出す眼鏡があれば、短時間で的確な対応ができるというわけだ。

職員の大変さを排除し、働きやすさとやりがいだけを残したい

「ロボットやICTの力で、職員の大変さを少しずつ排除していって、働きやすさややりがいだけが残るようにしていきたい。利用者さんと接するという部分が、職員にとって一番うれしくてやりがいのあるところだと思うので、そこだけを上手に残してあげたい。そうすることによって、職員にとっても利用者さんにとってもお互いウィン・ウィンの関係になる。そんな職場にできたらいいなと思いますね」。大隝さんの思いだ。

ロボットとICTで職員の負荷を軽減。働きやすくやりがいのある職場を目指す みなの福祉会(埼玉県)
大隝さんの左から介護職員の小宮俊紀さん、栁寿史さん、看護師の今野彩子さん

事業概要

法人名 社会福祉法人みなの福祉会
所在地 埼玉県秩父郡皆野町下日野沢3906番地3
電話 0494-62-5550
設立 1993年10月7日
HP https://minano-fukushikai.jp
職員数 約120人
事業内容   特別養護老人ホーム/ケアハウス/老人短期入所事業/老人デイサービス事業/認知症対応型老人共同生活援助事業/障害福祉サービス事業/生計困難者に対する相談支援事業/居宅介護支援事業