コミュニケーションとは、言葉や文字、動作などを通してお互いの意思疎通を図る行為であり、会社組織でもなくてはならないものだ。良好な人間関係が築けていない職場では、風通しが悪く社員の士気も上がりにくいだろう。
本記事では、中小企業で求められるコミュニケーションや社内で円滑な人間関係を構築するためのポイントなどについて解説する。
目次
コミュニケーションの意味は?
コミュニケーションとは、情報や考えなどを人々が互いに交換するプロセスを指す。伝達するものには意思や感情なども含まれており、意思の疎通や心の通い合いという意味でも使われている。
通常、コミュニケーションは以下の要素から成り立っている。
- 送信者:情報や意思を伝える人
- メッセージ:伝えられる情報そのもの
- 受信者:情報を受け取る人
- チャネル:情報が送られる媒体(言葉、文字、動作など)
- フィードバック:受信者から送信者への反応
コミュニケーションは会話やメールなどの文章、体の動き(ノンバーバルコミュニケーション)によって行われ、これら全てが送信者から受信者に送られてフィードバックを得られることで完結する。
コミュニケーションの目的は、情報を効果的に伝達し、相手が理解して何らかの反応をすることであり、一方通行ではなく双方向での人間同士の関わりで成立する行為だ。
小さい組織だからこそ人間関係が重要
コミュニケーションは人間同士の双方向の関わりで成立するものなので、人間関係が大きく影響する。
中小企業のような小さな組織では、そもそも職場で関わる社員の数が限られるため、特定の社員同士の人間関係が悪くなってコミュニケーションがうまくいかなくなると、業務がスムーズに連携できなくなるといった悪影響を及ぼす可能性がある。
また、職場の雰囲気が悪くなる恐れもあり、他の社員のモチベーションの低下につながりかねない。
小さな組織だからこそ、社員同士の人間関係には特段の注意を配る必要がある。
円滑なコミュニケーションは働きやすさにつながる
コミュニケーションが円滑な職場は、社員にとっても働きやすい環境と受け止められている。
「中小企業白書(2017年版)」によると、社員が職場での働きやすさを感じる要素として、経営者の振る舞いについては「経営者・経営幹部と従業員の意思疎通が円滑」が2位だった。
また、従業員同士のコミュニケーションについて上位に挙がっている回答は、「上下関係に縛られず意見を出しやすい」「従業員間のコミュニケーションが活発」である。
つまり、社員は同僚や上司と円滑なコミュニケーションが取れている職場を働きやすいと感じており、人間関係は経営において重要な要素の一つであることが分かる。
円滑なコミュニケーションに必要な4つのこと
社内での円滑なコミュニケーションを実現するために必要な要素は次の4つである。
1.相手の話を聞く傾聴
傾聴とは、相手の話を否定したりさえぎったりせず、オープンマインドで寄り添いながら関わることを指す。
傾聴力が備わっている人は、アイコンタクトやジェスチャーを行いながら適切な質問を投げかけ、話し手の感情に共感するなどの方法で自身の関心を示せる。
2.相手の感情への共感
共感とは、相手の視点に立って気持ちや考えなどを理解し、共有することを指す。
共感力が高い人は相手の経験や価値観を尊重し、感じていることを理解しようという姿勢で関われるため、信頼感を得やすい。
3.自分の考えを伝える伝達
伝達とは、情報や感情を相手に効果的かつ正しく伝えることを指す。
伝達力が高い人物は、相手にメッセージが正確かつ効果的に伝わるように、言葉、声のトーン、ボディランゲージなどを適切に使い分けられる。
4.自分の対人コミュニケーションのクセを知る
自分の対人コミュニケーションの癖を客観的に知ることも大切である。自分の話し方や言葉の選び方は普段意識していないため、相手にどのような印象を与えているかわからないものだ。相手の受け止め方によっては意思疎通がうまくいかないこともある。
自分の普段の言葉遣いや振る舞いの癖を知ることで、相手の反応に合わせてより効果的なコミュニケーションが取れるように修正できるだろう。
コミュニケーションの改善で意識すべき6つのポイントを簡単に解説
人との関わり方に明確な正解はないが、改善すべきポイントはそれぞれに抱えているだろう。ここでは、自身のコミュニケーションを改善する際に、意識すべきポイントを解説する。
1. 相手に合わせてコミュニケーション方法を変える
相手の性格を考慮して、コミュニケーションを変える意識を持ってみよう。
例えば、業務遂行に不安を抱えやすい人に仕事を依頼する際は、仕事の目的や手順、ゴールをより具体的に説明することで不安を払拭でき、さらに定期的にフォローすれば信頼感を得られるだろう。
自分のコミュニケーションの癖や傾向に注意し、相手のペースに合わせ頷きながら共感を返して接するといった心がけが大切だ。
2. 話しやすい雰囲気は自分から作る
コミュニケーションを活性化させるためには、自ら話しやすい雰囲気をつくる意識が欠かせない。
社員によっては経営者や上司などに萎縮して、コミュニケーションを避ける人も少なくない。目上の立場にいる人が、自ら社員の名前を呼びながら笑顔で挨拶するなど、話しやすい雰囲気を作って良好な人間関係を築けるよう関わっていこう。
イライラして気持ちが落ち着かない時は話しかけるのを避けるなど、フラットな気持ちで関われるように気持ちを整えることも大切だ。
3. さまざまなコミュニケーションツールを利用する
リモートワークが多く社員同士のコミュニケーション取りにくい職場ならば、手軽に業務連絡や雑談ができる「Chatwork」「Slack」、サンクスカードを用いて感謝を伝える「THANKS GIFT」、社内通達やナレッジ共有などにも役立つ「Talknote」「TUNAG」のようなツールを導入しよう。
対話やメールなどでは話しにくい内容も、チャット内では語りやすくなることもある。気軽に意思疎通ができるツールを利用することでお互いの接触機会が増え、連帯感を高められるだろう。
4. 直接対話する回数を増やす
1on1ミーティングのような機会を活用して、経営者や管理職などのマネジメント層と社員が対話する機会を増やすのもおすすめする。
ヤフー株式会社では、週に1回30分の1on1ミーティングで社員の業務内容の共有や上司からのフィードバックを行っており、社員の成長につなげる機会を設けている。
ただし、お互いの信頼関係が築けていなければ逆効果になる可能性が高いため、マネジメント層は普段から社員との接し方に配慮する意識が欠かせない。
5. 話を「聴く」意識を持つ
コミュニケーションにおいて話を「聴く」意識を持つことは、社員の言葉に耳を傾け、その背後にある感情や意図を理解しようとする姿勢を指す。聴くプロセスでは、相手が話している間に自分の意見や反論を考えて伝える機会をうかがうのではなく、完全に相手の言葉に集中することが重要だ。
話し手は自分の話を理解され、尊重されていると感じることで、聞き手に信頼意識を持つようになり、よりオープンな気持ちでコミュニケーションを取るようになる。聴くことは、相手に対する敬意の表れであり、チーム内の協調性やモチベーションの向上にもつながります。
6. 肯定的な言葉遣いを心掛ける
肯定的な言葉遣いを心掛けることは、社内での部下とのコミュニケーションにおける重要な要素だ。トラブルが発生したとしても、批判や否定的なコメントを避けてポジティブな表現を選ぶ姿勢が欠かせない。
肯定的な言葉遣いで接すれば、相手は自信を持って意見やアイデアを共有するようになるだろう。たとえ異なる意見があったとしても、建設的な議論を促して相互理解を深められ、チームの士気を高めて生産性の向上にも寄与する。
特に社内で困難な状況や対立が生じた際は、ポジティブな言葉遣いを心掛けることは、解決への道を模索するうえで効果的なアプローチとなり、より健全で協力的な職場環境を構築する上で不可欠だ。
コミュニケーション改善事例5つ
社内コミュニケーションの改善には、さまざまな企業が自社の状況に合わせて取り組んでいる。ここでは、総務省の資料を参考に5つの改善事例を紹介する。
日本マイクロソフト
日本マイクロソフトは、社内コミュニケーション改善のために、フリーアドレスの導入、書類のデジタル化、仕事環境のクラウド化を行った。これにより、社外からもファイルアクセスを可能にし、固定電話を廃止し「Skype for Business」を使用したメールや通話、オンライン会議を促進した。これらの取り組みにより、コミュニケーションが円滑化され、働き方の質の向上を果たした。
株式会社イージフ
株式会社イージフは、テレワークや従業員が個人保有している携帯用機器を導入する「BYOD(Bring Your Own Device)」など、さまざまなビジネスICTツールの活用に注力した。チャットやWeb会議システムの導入により、プロジェクトやチーム単位でのコミュニケーションを活性化し、週に1回の出社義務や月に1回のオフライン社員交流イベントを通じ、社員間のつながりも強化した。これにより、テレワーク増加に伴うコミュニケーションの希薄化を防ぎつつ、効率的な働き方を促進している。
株式会社アイリッジ
同社はテレワーク下でのコミュニケーション改善のために、全社員向けの週次リモート朝礼の導入、独自の1on1ミーティングである「IRDG Talk」の整備、ランダムなメンバーとの雑談「チャットタイム」、月1のオンライン飲み会「オンラインアイリッジバー」などを実施した。
これらの取り組みにより、業務外情報の共有、部署間の壁を超えたコラボレーション促進、従業員間の関係性向上を目指し、フルリモート勤務でも情報格差の解消とコミュニケーションの活性化を図っている。
株式会社打ち出の小槌
株式会社打ち出の小槌は、ChatworkやZoomなどのICTツールを活用し、常時接続による事務所との一体感の醸成、緊急時や日常のコミュニケーションの促進、毎日の進捗と段取りを確認する「段取り会議」、日報の提出を通じた報連相の強化に取り組んだ。
また、全体朝礼やオンライン全体会議、オンライン親睦会を通して、従業員同士が対話する機会を意図的に増やして情報共有の充実を図り、テレワーク下でも効率的かつ円滑なコミュニケーションを実現している。
株式会社エグゼクティブ
同社は、テレワーク時のコミュニケーション改善に向け、チャットやオンラインビデオツールを利用し、社員が常にコミュニケーションを取れる環境を構築した。
具体的には、「おでこ会議」での仮想的な隣同士の作業空間の創出、頻繁なチームミーティング、「1155(いいごご)タイム」での小グループ雑談、毎朝の挨拶チャット「おはポス」、お互いを知るための社員インタビュー動画の配信などを実施している。
さらに、カフェ風オフィスへのリフォームや社長との任意面談、人事相談窓口の強化など、リアルとバーチャルを融合させた取り組みで、社内コミュニケーションの活性化と関係性の向上に取り組んでいる。
自己理解と他者理解を通してコミュニケーション力を育もう
コミュニケーションは発信者と受信者の関係によって成り立つため、お互いに配慮が足りなければ成立しない。コミュニケーションの癖は人によって異なり、無意識的に偏った関わり方をしている人が少なくないため、一朝一夕で改善できるものではない。
性格診断ツールを使って、経営者や社員がそれぞれの性格や行動パターンを把握し、お互いに相手の話を傾聴する意識を持つことから始めてみてはいかがだろうか。
文・隈本稔(経営・キャリアコンサルタント)