厚生年金
(画像=PIXTA)

新たに従業員を雇ったときや会社を設立するときには、社会保険への加入手続きが必要になる。加入手続きにはやや複雑な側面があるものの、順を追って理解すればそれほど難しい話ではない。曖昧になっている事業者は、正しい手順をさらっと確認しておこう。

目次

  1. 社会保険の加入義務は?加入対象事業所に含まれる条件をチェック
    1. 事業所の加入条件
    2. 従業員の加入条件
  2. 種類によって流れが異なる点に要注意!社会保険の加入手続きの概要
  3. 社会保険に加入する際の必要書類
    1. 労働保険に加入する際の必要書類
    2. 健康保険・厚生年金に加入する際の必要書類
  4. 社会保険の手続きの流れをおさらい!加入から支払いまでの流れ
  5. 2020年11月頃から社会保険加入の手続きが簡単に?「ワンストップサービス」とは
  6. 社会保険の未加入には罰則がある!加入義務を満たしたら速やかな準備を

社会保険の加入義務は?加入対象事業所に含まれる条件をチェック

まずは加入手続きを進める前に、社会保険の前提となる「加入義務」について簡単に確認していこう。社会保険には加入義務があり、以下の条件に該当する場合は必ず加入しなければならない。

事業所の加入条件

社会保険の加入対象事業所は、大きく以下の2つに分けられている。

加入対象事業所の種類 該当する条件
・強制適用事業所 ・従業員が1人以上いる法人事業所(代表者を含む)
・従業員が常時5人以上いる個人事業所のうち、法定16業種に該当する事業所
・任意適用事業所 ・法定16業種に該当しない個人事業所
・従業員が5人未満の個人事業所

上記の「強制適用事業所」とは、社会保険への加入が義務づけられている事業所のことだ。条件を見てわかる通り、従業員数には代表者本人も含まれるため、法人事業所は業種に関わらず加入義務が生じてくる。

一方で「任意適用事業所」については、社会保険への加入が義務づけられていない。加入するかどうかは事業所の任意だが、加入するためには従業員の2分の1以上の同意が必要になる。
ちなみに、上記の「法定16業種」は国が定めている特定の業種であり、詳しくは厚生労働省の資料で確認できる。
(参考:https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000565930.pdf)

従業員の加入条件

社会保険は事業所単位に加えて、従業員単位でも加入条件が定められている。たとえばアルバイトやパートのように、正社員や常勤役員に該当しない場合であっても、以下の条件を満たす従業員は社会保険に加入しなければならない。

〇社会保険の加入義務(従業員)
・1週あたりの労働時間と1ヶ月あたりの労働日数が、一般社員の4分の3以上である
・上記の労働時間の条件に該当しない場合であっても、以下のすべての条件を満たしている
【1】1週間あたりの決まった労働時間が20時間を超えている
【2】月給が88,000円以上である
【3】雇用期間の見込みが1年以上である
【4】学生ではない
【5】従業員数が501人以上の事業所で働いている、もしくは社会保険の加入について労使で合意されている

上記の条件を満たす場合は、短時間労働者であっても社会保険の加入義務が生じるので注意しておこう。

種類によって流れが異なる点に要注意!社会保険の加入手続きの概要

ここからは、社会保険に加入する手続きについて解説していく。まずは、手続きの時期などの概要を簡単にチェックしていこう。

労働保険に関するもの 健康保険・厚生年金に関するもの
・手続きの時期 翌月の10日まで 5日以内
・書類の提出場所 所在地を管轄するハローワーク 所在地を管轄する年金事務所
・提出方法 電子申請、郵送、窓口持参 電子申請、郵送、窓口持参

(※手続きの時期は、「加入義務の事実発生日」が基準日となる)

上記を見てわかる通り、社会保険の種類によって手続きの流れは変わってくる。後述でも解説するが、もちろん提出する書類にも違いがあるため、労働保険とそれ以外の社会保険はしっかりと区別しておくことが重要だ。

また、特に手続きの時期は間違いやすいポイントなので、余裕をもって手続きを進めることが望ましい。

社会保険に加入する際の必要書類

社会保険の加入手続きの中で、最も悩まされやすいポイントが「必要書類」。社会保険の種類によって提出書類が異なるうえに、さまざまな書類を提出しなければならない。 期限が差し迫ってから混乱しないように、ひとつひとつの書類を以下でしっかりと確認しておこう。

労働保険に加入する際の必要書類

新規で労働保険に加入する場合には、まずは「適用事業所の設置手続き」を済ませる必要がある。以下の手続きをしない限り、新たに従業員を雇用しても労働保険には加入できないので注意しておきたい。

〇適用事業所の設置手続きの流れ
【1】管轄の労働基準監督署に、「労働保険関係成立届」を提出する
【2】管轄のハローワークに、以下の書類を提出する
  ・雇用保険適用事業所設置届
  ・雇用保険被保険者資格取得届
  ・被保険者の雇用保険被保険者証、もしくは履歴書の写し
  ・労働保険関係成立届の控え
  ・法人登記謄本の原本、もしくは登記事項証明書

提出期限を過ぎてしまったときや不正受給が明らかになった場合など、何かしらの問題が発覚した場合には「賃金台帳・労働者名簿・出勤簿」などの添付書類も求められる。手続きに必要な書類はすべてハローワークに設置されているため、もし提出書類がわからない場合には自社の状況を整理したうえで、書類を取りに行く際に質問しておくことが望ましいだろう。

そして新たに従業員を雇用した場合には、さらに以下の書類をハローワークに提出する必要がある。

従業員ごとの加入手続きに必要な書類 概要
【1】保険関係成立届 会社の概要に加えて、雇用保険への加入日や雇用者数を記入する書類。雇用者数に変動がある場合は、「平均使用労働者数」を記載する。用紙は労働基準監督署、もしくはハローワークで用意されている。
【2】雇用保険適用事業所設置届 会社の概要に加えて、被保険者を雇用した日や労働保険番号を記入する用紙。電子申請による届出も可能。
【3】雇用保険被保険者資格取得届 被保険者番号や資格取得年月日など、加入者の情報を記入する用紙。電子申請による届出も可能。

労働基準監督署やハローワークには、雇用保険に関する相談窓口が設置されている。もし提出書類や記載内容に自信がない場合は、早めに窓口に相談する方法が確実だ。

健康保険・厚生年金に加入する際の必要書類

一方で健康保険・厚生年金に加入する場合は、以下の3つの書類を年金事務所に提出する。

健康保険・厚生年金の必要書類 概要
【1】健康保険・厚生年金保険 新規適用届 初めて社会保険に加入する場合に提出する書類。法人の場合は「登記簿謄本の原本」、個人の場合は「事業主の世帯全員の住民票の原本」を添付する。また、登記上の所在地と事業所の所在地が異なる場合には、「賃貸借契約書の写し」なども必要。
【2】健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 被保険者になる全員分の提出が求められる書類。基礎年金番号をはじめ、従業員に関する情報を記載する。初めて社会保険に加入する場合は、「事業所整理番号・事業所番号」の2つは空欄で構わない。
【3】健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届 被保険者に扶養者がいる場合に、提出が求められる書類。該当する扶養者に関して、「健康保険被保険者証」などの添付書類が必要になる。

上記の中でも注意しておきたいのは、【3】の添付書類だ。被扶養者の所得が年間103万円を超える場合には、「課税証明書」の提出が必要になる。また、被扶養者が高齢者・障がい者に該当する場合も、求められる添付書類が増えるため事前に確認しておこう。

ちなみに、上記の書類はいずれも電子申請が可能であり、日本年金機構の公式ホームページから申請ページにアクセスできる。

(参考:https://www.nenkin.go.jp/denshibenri/e-gov.html)

社会保険の手続きの流れをおさらい!加入から支払いまでの流れ

ここまでの手続きの流れをおさらいする意味合いも含めて、以下では加入から支払いまでの流れを簡単にまとめた。

社会保険の手続きの流れ 概要
【STEP1】加入義務の事実発生 手続きをする期限の基準となるため、事実発生のタイミングはきちんと把握しておく。
【STEP2】必要書類をそろえる 前述で解説した必要書類を、ネット上や申請などによって入手する。保険関係成立届のように、現地でしか入手できない書類もあるため要注意。
【STEP3】書類への記入・添付書類の用意 必要に応じて、会社や従業員の情報を記入する。また、従業員の状況(扶養者の有無など)を調べたうえで、必要な添付書類もそろえておく。
【STEP4】書類の提出 労働保険関連のものはハローワークへ、それ以外の書類は管轄の年金事務所へ提出する。
【STEP5】証書類を従業員へ渡す 手続き完了後に郵送される証書類を、必要に応じて従業員へ渡す。

手続き自体は【STEP1】~【STEP4】までで完了となるが、その後に証書類を従業員へ渡すことも忘れてはいけない。具体的なものとしては「健康保険証」や、雇用保険の「被保険者通知用」「被保険者証」が挙げられる。

また、実際に健康保険証が届くまでには2週間程度かかるが、事前に「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」を提出しておけば、健康保険証の代わりになる「健康保険被保険者資格証明書」が年金事務所から発行される。発行後20日以内であれば、保険証と同様の負担で受診ができるので、こちらの証明書も忘れずに用意しておこう。

2020年11月頃から社会保険加入の手続きが簡単に?「ワンストップサービス」とは

本記事を読んで、「社会保険の手続きは面倒くさい…」と感じた経営者もいるはずだ。提出する必要書類が多いうえに、書類によって提出先が異なっているため、中にはすでに混乱している方もいるかもしれない。

実はこの点を解決するために、現在「ワンストップサービス」と呼ばれる制度が検討されている。この制度は、オンライン上で社会保険の加入手続きを済ませることで、各種手続きが一本化されるというもの。つまり、将来的にはハローワークと年金事務所にわけて書類を提出する必要がなくなり、紙の書類も使用されなくなる可能性がある。

ただし、2019年時点ではまだ実施されておらず、ワンストップサービスの実施予定は「2020年11月頃」だ。2020年に入ってから社会保険の加入を検討している事業者は、ワンストップサービスによってスムーズに手続きを済ませられる可能性があるため、常に最新情報を確認しておこう。

社会保険の未加入には罰則がある!加入義務を満たしたら速やかな準備を

加入義務があるにも関わらず社会保険未加入の状態が続くと、最終的には立ち入り検査などの罰則が科される恐れがある。そうなると余計な手間が生じるどころか、最大2年間まで遡って保険料を納付する必要があるので、加入義務のある事業者はしっかりと手続きを済ませておきたい。

加入手続きにはやや複雑な面もあるが、各機関の相談窓口なども活用しながら、速やかに準備を進めていこう。

文・THE OWNER編集部

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