政府が推進している影響で、近年では多くの業界でIT化が進んでいる。その一方で、デジタル技術に精通した人材や資金の不足に悩まされる企業は少なくない。自社に合った計画を立てるために、本記事でIT化の正しい意味や中小企業の現状を押さえていこう。

目次

  1. ITの意味は?概要を簡単に解説
  2. ITの関連用語や話題のワードを整理しよう
    1. ITに代わって国際的に用いられる「ICT」
    2. 人に代わって簡単な仕事や分析をこなす「AI」
    3. インターネットであらゆるものをつなぐ「IoT」
    4. データとデジタル技術で新たな価値を生み出す「DX」
  3. IT技術で仕事はどう変わっている?業界別の具体例
    1. 飲食業界/非接触オーダー・非接触決済がトレンドに
    2. 製造業界/生産プロセスに加えて、管理業務や製品テストもデジタル化
    3. 医療業界/遠隔診療やIoMTで医療サービスを拡充
    4. 建設業界/現場以外のIT化も進んでいる
  4. 中小企業のIT化では人材教育やコストが課題に
    1. IT化に求められる人材と現状
    2. 初期コストがかかる一方、コスト削減にもつながるIT化
  5. 工夫をして効率的なIT化を実現しよう
初心者でもサクッと理解!ITとICTとIoTの違い
(画像=Lustre/stock.adobe.com)

ITの意味は?概要を簡単に解説

米国のITAA(情報工学協会)によると、IT(Information Technology)は以下のように定義されている。

<ITAAによるITの定義>
コンピュータをベースとした情報システム、特にアプリケーションソフトウェアやコンピュータのハードウェアなどの研究、デザイン、開発、インプリメンテーション、サポートあるいはマネジメント。
引用:Facebook「Information and Communication Technology - 趣味・関心」)

簡単に言い換えると、IT化とはコンピュータを中心としたデジタル技術によって、情報の入手・保管・共有をスムーズにすることだ。デジタル技術の具体例としては、AI(人工知能)や5G(第5世代移動通信システム)などが挙げられる。

もう少し理解を深めるために、以下では「IT」を用いたビジネス用語を紹介しよう。

<ITに関連するビジネス用語>
ITリテラシー:IT関連の知識を理解する能力や、実際に操作する能力のこと。
ITエンジニア:IT技術者(プログラマーやシステムエンジニアなど)の総称。
ITパスポート:情報処理推進機構が実施する、入門レベルとされるIT関連資格。
ITガバナンス:不祥事を防ぐなど、ITに関する統治プロセスを整えること。
ITベンダー:ソフトウェアやシステムなど、IT関連の製品を販売する業者のこと。

ITの関連用語は、さまざまなビジネスシーンで当たり前のように使われている。自社のIT化はもちろん、取引先や顧客とのやり取りで使われることもあるため、意味が分からないものを見つけたらその都度確認しておきたい。

ITの関連用語や話題のワードを整理しよう

上記の他にも、IT関連のビジネス用語は多く存在している。中でもIT化に結びつく技術やシステムは、適した経営戦略を立てるためにも理解しておくことが重要だ。

ここからは話題のワードも含めて、特に押さえたい関連用語を紹介しよう。

ITに代わって国際的に用いられる「ICT」

現在のIT化では、膨大なデータをやり取りする通信技術が多く活用されている。その影響で、IT化に代わって「ICT(Information and Communication Technology)」という用語を用いるケースが増えてきた。

国内では総務省もICTインフラの構築を重視しており、2017年7月には「質の高いICTインフラ」投資の指針が公表されている。

人に代わって簡単な仕事や分析をこなす「AI」

人工知能を意味する「AI(Artificial Intelligence)」も、現代のIT化には欠かせない技術だ。具体例としては、人による定義によって簡単な仕事をこなす「機械学習」や、膨大なデータからAI自身が判断する「ディープランニング」が挙げられる。

AIは製品に搭載する他、経営や消費トレンドなどの分析にも活用されている。

インターネットであらゆるものをつなぐ「IoT」

IoT(Internet of Things)は、あらゆるモノをインターネットに接続する仕組みである。主な目的としては、データの収集やリアルタイムでの共有、自動制御、遠隔操作などが挙げられる。

例えば、外出先からでも遠隔操作できる家電や、生産量を自動調整する工場設備をイメージすると分かりやすい。ホストコンピュータや端末デバイスとのネット接続で、他のデジタル技術(AIなど)と併用することもできるため、IoTの技術にはさまざまな可能性がある。

データとデジタル技術で新たな価値を生み出す「DX」

話題のビジネス用語としては、DX(デジタルトランスフォーメーション)も外せない。近年では政府が推進している影響で、さまざまな業界や企業がDX化を目指している。

<DXの定義>
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
(引用:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」)

ITとDXの違いは、施策を進める目的や視点にある。企業のIT戦略は主に「社内」で進められるが、DX戦略は顧客などを含めた「社会」が対象になる。簡単に言い換えると、DXは新しい企業価値やイノベーションを生み出すための戦略だ。

IT技術で仕事はどう変わっている?業界別の具体例

AIやIoTなどの活用で、世の中の仕事はどう変わっているのだろうか。ここからは話題やトレンドになっているものを中心に、IT技術の具体例を業界別に紹介しよう。

飲食業界/非接触オーダー・非接触決済がトレンドに

飲食業界では、非接触オーダー・非接触決済に関するツールが注目されている。具体例としては、席からセルフオーダーができる専用端末や、キャッシュレス決済に対応したレジが分かりやすい。

また、新型コロナウイルスが蔓延した影響で、ウェブ上で受注するフードデリバリーサービスを採用する店舗も増えている。飲食業界では「フードロス削減」も注目のテーマであり、AIによる来客予測システムや、仕入れコストを管理するツールなどの導入例が見られる。

製造業界/生産プロセスに加えて、管理業務や製品テストもデジタル化

大手の自動車メーカーをはじめ、製造業界では世界的にデジタル化が進められている。生産を代行するロボットの他、生産管理や倉庫管理のシステムなど、さまざまな工程にデジタル技術が導入されている。

また、最近ではシミュレーションの精度やコストを改善するために、バーチャル空間でテストを行うような事例も増えてきた。

医療業界/遠隔診療やIoMTで医療サービスを拡充

医療業界ではビデオチャット機能などを活用し、遠隔診療をするケースが増えている。他にもオンライン予約や決済システムなど、ウェブ上で問診から支払いまでを完結できるような仕組みが整いつつある。

また、ITシステムと医療機器をつなぐ「IoMT(Internet of Medical Things)」も、医療業界で注目されているテーマだ。IoMTが実現すると、医療データをリアルタイムで収集・分析・共有できるため、医療サービスのさらなる拡充が予想される。

建設業界/現場以外のIT化も進んでいる

建設業界と聞くと、現場のIT化をイメージするだろう。確かにロボットやドローンなどはあるが、実は社内での申請・稟議をデジタル化する「ワークフローシステム」も注目されている。

また、図面を立体的な3Dデータにするための「BIM」や「CIM」も、建設業界で活用されているツールだ。現場だけではなく、社内全体でのIT化に取り組むことで、経営体質は大きく改善すると考えられる。

中小企業のIT化では人材教育やコストが課題に

IT化は業務効率化や生産性アップに役立つが、人材やコスト面の問題で施策が進まない企業も多いだろう。特にITリテラシーが乏しい企業は、はっきりとした導入効果が分からない影響で、デジタル技術を敬遠することもある。

正しい方向性でIT化を進めるには、まずは現状を理解することが重要だ。ここからは「人材不足」と「導入コスト」の観点から、中小企業が直面しやすい課題や現状を解説する。

IT化に求められる人材と現状

経済産業省の「IT人材育成の状況等について」では、IT人材の供給は2019年から減少傾向に転じ、2030年には最大で79万人が不足すると予想されている。中でも人材不足が深刻な分野は、「ビッグデータ」「IoT」「人工知能」の3つだ。

IT人材育成の状況等について
(引用:経済産業省「IT人材育成の状況等について」)

導入されるデジタル技術が進化する一方で、採用市場ではより高度な知識・スキルを備えたIT人材が求められるようになった。供給が限られている現状を踏まえると、人材獲得競争はさらに激化する可能性が高いため、中小企業は苦境に立たされるかもしれない。

コストを抑えながら高度なIT人材を獲得するには、自社で育成環境を整えるといった工夫が必要になる。

初期コストがかかる一方、コスト削減にもつながるIT化

デジタル技術を導入すると、中小企業でも数百万円単位のコストがかかることもある。さらにシステムの運用コストも生じるため、IT化に踏み切れない経営者は多いはずだ。

ただし、業務効率化によってコスト削減を実現すれば、初期コスト・運用コストは回収できる可能性がある。デジタル技術でどのようなコストを抑えられるのか、いくつか具体例を紹介しよう。

<コスト削減につながるIT化の例>
・ビデオチャットを導入し、会議の交通費や接待費を削減する
・紙の資料をデータ化し、印刷コストを削減する
・単純作業をロボットなどで自動化し、人件費を削減する
・生産管理システムを導入し、適切な在庫調整を行う

上記のような施策に取り組むと、数年後には投資したコストを回収できるかもしれない。また、無料のビデオチャットやクラウドのように、低予算で導入できるITツールもある。

初期コストは気になるかもしれないが、将来的に削減できるコストも加味して計画を考えてみよう。

工夫をして効率的なIT化を実現しよう

IT化はさまざまな業界で進んでおり、中小企業でもITツールの導入例は多い。従来の経営手法にこだわっている企業は、時代に取り残されてしまう恐れがある。

最近ではITツールも多様化しており、低コストで利用できるサービスも増えてきた。仮に予算が取れなくても、工夫をすれば効率的なIT化を実現できるため、引き続き情報収集やITの学習に取り組もう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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