揉めない相続,家庭裁判所,保全手続き
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

相続で紛争になってしまった場合、家庭裁判所の調停や審判を利用することができます。

調停や審判の間に遺産が処分されてしまったら、手続きを行う意味がなくなってしまいます。

争いになったときの解決方法、家庭裁判所の調停前の処分、保全手続きとはなにか、解説します。

相続で紛争になったら

相続人の間で遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所の紛争処理が利用できます。

相続人の一人が初めから協議に参加せず、協議を始めることができない場合や、協議の内容が合意されないような場合、家庭裁判所の審判に委ねることができます。

遺産分割は家庭裁判所の審判事項

遺相続に関する問題は、地方裁判所の訴訟手続きによるものと、家庭裁判所の審判手続きによるものに分かれます。

審判手続きによるものとしては、遺産の管理や相続放棄、遺言の検認など手続き的なものと、調停の対象になるものがあります。

調停の対象は、相続排除、寄与分、遺産分割の3種類に分けられ、遺産分割は、家庭裁判所における審判事項となります。

利用するには申立てを行う

一般的に、まずは調停の申立てを行います。

また、最初から審判申立てをした場合でも、家庭裁判所は職権で事件を調停に回すことができます。

調停で合意があれば、審判を行う必要がありません。

調停とは、家庭裁判所において話し合いで紛争を解決する手続きです。

調停は、調停委員会の立会いで行われ、合意に至れば成立します。

調停が成立すれば、合意どおりの調停調書が作成され、確定判決と同じ効力が生じることになります。

調停が不成立の場合、自動的に審判に移行します。

審判とは、家庭裁判所が行う裁判のことを指します。

調停や審判が決まるまでの仮の措置

調停の申立てから成立までは、長期間となることも少なくありません。

その間に、紛争になっている遺産を勝手に処分されてしまったら、調停や審判の意味がありません。

遺産の勝手な処分を防止する方策として「調停前の処分」があります。

調停が成立するまでの間、仮の措置を講じてもらうことができます。

仮の措置は、「調停が申し立てられた後にだけ」講じてもらうことができ、一般の民事保全法による「仮処分」とは異なっています。

この仮の措置は、調停のために必要な場合に取られるもので、調停内容の実現や、調停を進める際に必要な場合も含まれます。

法律的には、措置を取るための申立てが必要なく、裁判所の職権によって講じることができるとされています。

ただし、実務の上では、当事者の申立てによって措置されることが多くなっています。

なお、この仮の措置の内容については、制限がありません

仮の措置には執行力はありませんが、正当な理由がなく措置に従わないときは、10万円以下の過料が課されるだけでなく、審判にも影響することになります。

審判前の保全処分

調停前の処分は、仮の措置で執行力がありません。

一方、同じく家庭裁判所が行うことのできる「審判前の保全処分」には、執行力があります。

家庭裁判所での審判も、審理が長期にわたることがあるため、その間の保全の必要がある場合に講ずることが認められています。

ただし、審判申立てを先に行う必要があります。

保全処分も、調停前の処分と同様、審判の「申立て以後」になされるもので、訴訟を提起する前に申請することができる、民事保全法の「仮処分」とは異なります。

審判についての措置であるため、調停を申し立てただけで講じられることはありません。

あくまでも調停とは別に、審判申立てが必要になります。

なお、先に審判の申立てをした際に、職権で調停に回された場合は、保全処分を申し立てることができます。

遣産分割については、保全処分を取ることが認められています。

保全処分は、事案ごとに家事審判法、家事審判規則の規定に基づいて行われ、全ての審判に認められるものではありません。

保全手続きの種類

遺産分割に関しての保全としては、遺産管理者の選任、遺産の管理に関する事項の指示、仮差押え、仮処分などがあります。

仮差押えは、審判後に預貯金など金銭について強制執行ができるよう、財産を処分できないようにすることです。

仮処分は、仮差押えと同様、審判の後で強制執行ができるようにするもので、特定物の引渡請求権などが対象になります。

不動産の所有権移転登記の申請があった場合でも、名義を現状のまま固定しておくケースなどが該当します。

なお、審判前の保全処分には、民事保全法の担保に関する規定が準用され、かなり高額の保証金が必要になる場合もあります。

まとめ

審判前の保全処分は、審判が確定する以前に講じられるため、審判結果によっては相手方に損害を与えることにもなりかねません。

このため、担保を立てることになりますが、当事者の経済状況や事案の内容などが総合的に勘案され、金額が決められます。

担保が必要なしとされるケースもありますが、担保が必要な場合は、債権額の10~30%程度が相場となっています。(提供:ベンチャーサポート法律事務所