相続トラブルでよくあるパターンが、思うとおりの遺産がもらえなかったので不満があるという場合です。
思ったようにもらえないということはあり得ることですが、例えば、全部の遺産を長男に渡すなど、他の人がもらう分がなくなってしまうような遺言でも有効なのでしょうか。
他の人が何ももらえなくなるのはひどい、と思いませんか。
実は、法律では遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)という制度があり、最低限もらえる遺産については保護されています。
今回はその遺留分侵害額請求について詳しく検討してみましょう。
「全部の財産を長男に」という遺言は有効なのか
遺言は自由にしてよい
まず、個人が何を書いても、発言しても自由だということを思い出しましょう。
遺言は、一方的な行為です。
自分の残した遺産をこのように使ってほしい、分けてほしいという希望を書いたものです。
また、法律的な効力がない附言事項というコーナーもあり、どのような思いや意図でそのような遺言を書いたのかということも書き残すことが可能です。
遺言の要件は、自筆証書遺言の場合は、遺言者が15歳以上であること、遺言時に意思能力があることという遺言者に関する要件と、
□ 全文自書であること
□ 作成した日付があること
□ 署名があること
□押印があること
という、遺言そのものに関する要件があります。
また、遺言を訂正するときは、訂正した場所に押印をし、正しく記載します。
それだけではだめで、訂正した箇所と変更内容を余白等に記載してその場所に署名しなければなりません。
また、遺言は意味の通じるものではなくてはいけません。
遺言の趣旨がわからない遺言は効力がありません。
これらの要件をクリアしている遺言は、遺言としては有効に成立します。
たとえ、内容が全部の財産を長男に譲るという、他の親族からクレームがくるようなものだったとしても、遺言としては有効だということなのです。
遺産分割協議では遺言通りにしなくても良い
ちなみに、内容的に親族としては納得のいかない遺言だったとしても遺言自体は有効です。
さらに言えば、遺言と違った遺産分割をすることも可能です。
遺言がある、相続人全員でその内容を分かっているという状態の上で、それでもやはり別の分割方法をしたほうが良い、という結論になれば、そうすることに何も問題はありません。
故人としては、自分の希望通りにはならないかもしれませんが、新に遺産分割協議をして、遺言と違った遺産分割をするということまで法律は規制していません。
そこは、自由に協議したらよいということです。
遺留分について
さて、このような遺言だったとして、長男以外の子は納得がいかないと思われます。
当然、自分たちが得るべきものは得たい、と思うでしょう。
長男としては、遺産分割協議をして自分の取り分が減るのは嫌だと思うでしょう。
法律はその点に関して保護を与えていて、最低限の遺産分割を受けられるようになっており、これを遺留分といいます。
遺留分とは何か
遺留分は、最低限もらえる遺産のことを言います。
遺留分は侵害することができない権利なので、例えば前の例に出したような「長男以外の子になにも渡さない」という遺言も、残すことは自由ですが、その通りになるというわけではありません。
このような遺言は、遺留分を侵害しているので、遺留分を主張すれば最低限度の部分だけはもらうことができます。
遺留分は、いくら遺言を書く側であったとしても勝手に減らすことができない部分であると覚えておきましょう。
存命中は、自分の財産を好きなように誰かにあげることができます。
法律用語でいうところの、贈与です。
本人が亡くなり、相続が始まると、好きなように誰にでもあげることができる、というようにはいかなくなります(遺贈など)。
相続財産は、相続人の間で共有されるという形をとるため、すでに故人の財産ではないと考えられます。
遺留分を侵害された場合は取り戻すことができる
相続開始の1年以内に贈与した財産で、遺留分を侵害するものがあれば、遺留分を侵害された人から遺留分を主張し、取り戻すことができます。
1年前の贈与であっても、遺留分を侵害することを知っていたうえで行なった贈与も、遺留分を主張すれば取り戻すことが可能です。
例えば、とある親が、子どものうち一人のことが気に入らないからといって、その人の分だけ遺産がゼロになるように色々な人にあげてしまったとします。
この場合も、遺留分を減らしてやろうという意図が見えていますので、子のほうから遺留分を主張すれば取り戻せる可能性があるということです。
つまり、遺留分はそれだけ強い権利だということです。
ただ、この権利は、法定相続人であればだれでもあるというわけではありません。
遺留分は誰にどれだけあるのか
遺留分は、誰にどれだけあるのでしょうか。
まず、法定相続人とは誰であったかを振り返ってみたいとも思います。
民法に規定する法定相続人とは、まず配偶者、次に子、さらに親、そして兄弟姉妹でした。
遺留分は、兄弟姉妹にはありませんので、遺留分権利者になりうるのは兄弟姉妹を除く法定相続人(子・直系尊属・配偶者)、兄弟姉妹を除く法定相続人の代襲相続人とその承継人です。
遺留分はどれくらいあるのかというと、子のみが相続人になる場合は相続財産の1/2です。
子と配偶者の場合は相続財産の1/4、配偶者と直系尊属の場合であれば、相続財産の2/6が配偶者で残りの1/6が直系尊属の取り分となります。
直系尊属のみの場合は相続財産の1/3が遺留分です。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)とはどのような目的の制度か
そもそも、遺留分の制度はどのような目的でつくられたのでしょうか。
主な目的は、残された人達が生活していけるように、生活保障をするということです。
このほか、被相続人(相続される側の人。
故人)の財産を作ることに貢献してきた相続人たちについて、清算しようという側面もあります。
故人の財産は、故人が作ってきたのではないかという指摘もありそうですが、実際のところ、その家族で協力して作り上げてきたものなのだという風に考えるということです。
したがって、故人が残した財産を相続人の間で分けるときには相続人が最低限もらえる部分というものが必要になるということです。
何かしらの貢献はしてきた、ということなのです。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)は、遺留分をくださいという請求のことを言います。
遺留分は勝手に戻ってくるわけではないので請求が必要
ところで、遺留分は主張しなければもらえません。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)は、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間の間に行使しなければなりません。
期限内に行わない場合は,時効によって消滅してしまうので注意が必要です。
納得のいかない相続があったとして、そこから何年もたってあの時遺留分を主張しておけばよかったというのは遅いということです。
相続によって財産の変動があったとき、それがいつまでも帰属先が決まらないというのはとても不安定な状態です。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をすれば、遺留分を取り戻すことができますが、取り戻される側としてはいつまでも取り戻されるかもしれないと思うのは酷でしょう。
そこで、民法は時効という制度を決めていて、期限付きの権利として遺留分を認めているということです。
相続の開始か、相続があったことを知ったときから1年間の間に行使しなければいけないということなので、まったくやりとりのなかった親が何年も前に亡くなったのを知ったのはつい最近、という場合は相続があったことを知ったときから1年間であれば、遺留分を行使することができます。
ただ、本当に知る機会がなかったのかというところは争う余地があるかもしれません。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)に決まった形はない
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をしても相手が応じない場合は訴訟に持ち込むことになります。
訴訟になった場合は、民事訴訟として弁護士に依頼し、訴訟を続けていくことになるでしょう。
訴訟にしなくても、請求するだけであれば、郵便で構いません。
郵便の場合は、内容証明郵便など、相手が受け取ったことが明らかになる方法で作成しましょう。
ちなみに、遺留分を放棄する場合は家庭裁判所に対して行います。
家庭裁判所は、遺留分権利者の意思に基づいて遺留分が放棄されているか、代償が支払われているか、合理性があるかなどの判断基準をもとにして遺留分の放棄を許可します。
遺言を残す側として遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をされないためにできること
親族の仲が壊れないために
このように遺留分でもめてしまうと、親族の仲が壊れてしまいかねません。
遺言を残す側としてできることは、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をされないためにどうしたらいいのか考え、対策を打つことでしょう。
一例をご紹介します。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)の請求先を決める
まず、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)が発生することを前提で、「遺留分を主張するのであればこの財産からとってほしい」というように、請求先を決めてしまう方法があります。
たとえば、どうしてもマンションは○○に残したいので、マンションについては遺留分を主張しないでほしいが、その代わりにこの宝石をもっていってほしい、というような決め方はできます。
附言事項で理解と協力を求める
法的な効力はないものの、附言事項で相続人に理解と協力を求めることは可能です。
たとえば、○○は私(被相続人)の介護をとてもよくしてくれたから、自宅をあげたいので他の相続人は理解し、協力してほしいというような内容を書くことができます。
何も意図がわからないよりも、他の相続人も協力しやすいかと思われます。
まとめ
今回は、遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)についてご説明しました。
遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をする側、される側、そして遺産をもたらす側、三者ともに制度をよく理解しておくことが重要です。
できれば遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)まで至らないうちに、相続人内で穏便にまとめることができるといいですね。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)