揉めない相続,包括遺贈,特定遺贈
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

遺言で遺産の分け方についての指定があれば、相続人はそれに従うことになります。

しかしながら、遺言に従えば必ず得するとは限りません。

遺言における相続分の指定と遺贈、包括遺贈と特定遺贈の違い、負債などがある場合の対処の仕方について、解説します。

遺言による相続分の指定

遺言により相続分の指定がある場合は、法定相続分より優先されます。

相続分の指定

遺言により遺産を与えることができます。

これを遺贈といい、遺贈を受ける者を受遺者といいます。

遺言で指定する相続分は「指定相続分」と呼ばれ、「法定相続分」と区別されます。

遺言では、通常、法定相続分とは異なる割合を指定します。

ただし、同じであっても問題ありません。

全ての遺産を対象にすることでも、一部だけを対象にすることでもかまいません。

また、特定の者だけを指定してもかまいません。

残りの遺産がある場合は、法定相続分を基準に、他の相続人に分割されます。

第三者への指定

相続人以外の第三者には、相続分がありません。

このため、第三者に遺産を譲り渡す場合は、相続分の指定はなく、遺贈となります。

遺言による遺贈

遺言では、相続人に対してだけでなく、第三者にも無償で遺産を譲り渡すことができます。

遺言によって特定の人に財産を譲り渡すことを遺贈と呼びます。

法定相続分や指定相続分では、相続人に該当しない者には、遺産が渡ることはありません。

たとえば、内縁関係にある妻や介護を続けてくれた長男の嫁は、相続人に該当しないため、遺産が渡らないことになってしまいます。

遺贈は2種類

遺贈には、特定遺贈と包括遺贈の2種類あります。

特定遺贈と包括遺贈

特定の財産を譲り渡すことを特定遺贈と呼び、遺産を割合で譲り渡すことを包括遺贈と呼びます。

包括遺贈は、相続分を指定する方法と同じことになります。

このため、包括受遺者は、相続人と同一の権利や義務を持つものの、相続人とは異なる面もあります。

包括受遺者は相続人にはならない

包括受遺者は、相続人には該当しません。

たとえば、保険金受取人として「相続人」と指定した場合は、包括受遺者は相続人ではないため、保険金受取人にはなりません。

また、寄与分についても、相続人だけが主張できる権利とされています。

遺産の放棄や限定承認で迷惑な遺産を拒否する

遺贈は、亡くなった方が遺言によって一方的に与えることです。

遺産にはマイナスの財産も含まれるだけでなく、受け取る側にしてみれば喜ばしくない遺産もあり、必ずしも受遺者にとって嬉しい内容になるとは限りません。

たとえば、遠く離れた親のふるさとにある空き家や山林、畑の所有権や耕作権などは、利用価値に乏しい、やっかいな資産になることもあります。

このような場合は、断ることができます。

▼包括遺贈は借金も贈られることに

特定遺贈の場合は、借金を与えるということは考えられません。

しかしながら、包括遺贈の場合は含まれることになります。

包括遺贈では、亡くなった方の権利だけでなく、義務も一定の割合で譲り受けることになります。

つまり、包括遺贈では、負債を引き受けることもあり得るとのデメリットがあります。

▼困った遺産の断り方

相続人の場合、自分が相続したくない場合は、相続放棄を申し立てることができことができます。

遺贈も放棄できます。

また、負債がある場合には、譲り受ける遺産を限度として受け取る、限定承認を選択することもできます。

ただし、両者では断り方に違いがあります。

なお、基本的なこととして、遺贈は遺言者の死亡によって効力が生じ、受遺者が遺言者の死亡以前に亡くなっている場合は、効力が発生しません。

特定遺贈の場合、遺言者が死亡して効力が生じた後、いつでも遺贈を放棄することができます。

放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼって効力を生じることになります。

一方、包括遺贈の場合は、相続人と同一の権利と義務が生じることになるため、相続人と同様、受遺者となったことを知ったときから、3ヵ月以内に放棄や限定承認を申し立てる必要があります。

まとめ

遺言によって遺産を与えられる遺贈には、包括遺贈と特定遺贈の2種類あります。

包括遺贈の場合では、うっかりすると、負債まで譲り受けることになる場合もあります。

また、遺言が遺産の一部だけを対象とする場合は、残りの遺産を分割する相続人同士での協議の際に、特別受益として相続分を減らされるような場合もあります。

遺言によって財産を譲り受ける場合でも、必ずしも得することばかりではありませんので、注意が必要です。(提供:ベンチャーサポート法律事務所