相続の非常に複雑で難しい点は、今回の相続分だけを考えていたのでは思わぬ落とし穴が存在するという点です。
当然のことですが、事故での同時死亡推定のケースなど特殊なものを除いては父母のうち必ずどちらかが先に亡くなり、2回の相続は時間をずらして発生するものです。
そこで今回だけではなく、2回の相続をトータルで考えておかなくてはならないのです。
1. 二次相続とは
- 一次相続と二次相続とは
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一次相続
被相続人が配偶者と子どもを残して亡くなった場合。配偶者に財産の大半を相続すれば、子どもに掛かる相続税の負担は小さくなる。
すでに配偶者を亡くしている被相続人が子どもを残して亡くなった場合。子どもだけに相続されるため、相続税の負担が大きくなる。
たとえば父が亡くなった後で母が亡くなったというケースを見てみると、父の相続を「一次相続」、母の相続を「二次相続」と呼びます。
一次相続から二次相続までの期間が10年以内であれば「相次相続控除」といって、二次相続までの期間に応じた控除がありますが、10年を超えればまともに全額かかってくることになります。
法律や税務の知識がない一般の人が色々本などを調べて相続対策を考えたとしても、それが「一次相続のみ」で得をする対策に過ぎなかったとしたら、その後の二次相続で予想外に高い相続税がかかって不動産などを処分しなくてはならなくなった、という事態も考えられます。
このように一次相続のみの対策では片手落ちになってしまいがちなので、相続税対策というのはできれば税理士などの専門家を通じて二次相続までをトータルで考えておくべきものといえます。
2. 二次相続対策の必要性
二次相続において失敗してしまう代表的な例は「配偶者への相続税額軽減の利用」におけるものです。
相続税においては、被相続人(亡くなった人)と一緒に財産を形成することに貢献した配偶者に対しては大きな優遇制度が設けられています。
配偶者が財産を相続した場合、「法定相続分」と「1億6,000万円」のいずれか多い金額まで相続税がかかりません。
そこで、一次相続の際に財産の多くをあまり深く考えずに配偶者に相続させてしまう例がみられますが、こうなると次に配偶者が死亡した際の子供達への相続税負担は非常に重いものになります。
特に、配偶者自身が元々持っていた財産が多い場合であればなおさらのことです。
こういった点からも二回の相続をトータルであらかじめ計算しておかなければならないことが理解できるのではないでしょうか。
そして、さらに難しいのが、相続対策というのは税金の問題だけではないことです。
遺産分割の仕方を工夫して節税には成功したものの、相続財産の分配をめぐって子供達に不満が生じ、相続をきっかけに兄弟が不仲になる、絶縁してしまうなどという状況になると、家族のためにした節税が逆に家族を不幸にしてしまう結果になります。
つまり相続対策はバランスが非常に大切で、「節税対策」「遺産分割対策」「納税資金準備」などを同時に考えていかなければならないのです。
では、実際の遺産分割における事例で二次相続対策の必要性を確認してみましょう。
一次相続と二次相続を二つの分割案で相続税を比較してみよう!
たとえば夫が3億円の相続財産を残して亡くなり、妻と子供2人が相続する事例で計算してみます。
《ケース1》
一次相続
基礎控除=3,000万円+(600万円×3)=4,800万円
課税遺産総額=3億円-4,800万円=2億5,200万円
これをもし法定相続分に従って妻2分の1、子それぞれ4分の1ずつとすると妻の税額は0円(配偶者の税額軽減を利用)、子供は1人1,430万円で2人合計すると2,860万円となります。
二次相続
そして、妻には夫から相続した分以外、固有の資産を2億円持っていたものとして二次相続を計算してみます。(妻死亡時の遺産は合計3億5,000万円)
基礎控除は3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
課税遺産総額=3億5,000万円-4,200万円=3億800万円
子供が法定相続分の2分の1ずつで相続したとすると相続税の金額はそれぞれに4,460万円ずつ、合計8,920万円となります。
つまり、2回の相続の合計で支払った金額は1億1,780万円という結論になりました。 これを「節税」を考えて配分を変えるとどのようになるのでしょうか。
《ケース2》
一次相続
一次相続での取得額を妻に6,000万円、子供たち2人それぞれに1億2,000万円ずつとすると配偶者は0円、子供はそれぞれに2,288万円ずつ、2人合計で4,576万円となります。
二次相続
妻の遺産は夫からの相続で取得した6,000万円と固有の財産2億円ですから、合計2億6,000万円が二次相続における相続財産ということになります。
基礎控除は3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
課税遺産総額=2億6,000万円-4,200万円=2億1,800万円
子供が法定相続分の2分の1ずつで相続したとすると相続税の金額はそれぞれに2,660万円ずつ、合計5,320万円となります。
つまり、ケース2の配分だと、2回の相続の合計で支払った金額は9,896万円ということになり、配分を変えただけで1,884万円も節税できたことになります。
さらに、分割の仕方を3パターンに分けて相続税額を比較していきます。
パターンAを法定相続分で分割、パターンBを配偶者控除を最大限に活用して分割、パターンCを二次相の税額をゼロにする分割で見ていきます。
分割の仕方でトータルの納税額が変わる
※父の遺産が2億円で、子ども2人の場合
- パターンA 法定相続分で分割
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一次相続
母親が50%の1億円、子ども2人がそれぞれ25%の5000万円ずつ相続。
母親の遺産1億円を、子ども2人がそれぞれ5000万円ずつ相続。
一次相続と二次相続の合計相続税額
2120万円
- パターンB 配偶者控除を最大限に活用する分割
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一次相続
母親が配偶者控除をフル活用して1億6000万円を相続し、子ども2人はそれぞれ2000万円ずつ相続。
母親の遺産1億6000万円を、子ども2人がそれぞれ8000万円ずつ相続。
一次相続と二次相続の合計相続税額
2680万円
- パターンC 二次相続の税額をゼロにする分割
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一次相続
母親が二次相続の基礎控除額と同じ4200万円を相続し、子ども2人はそれぞれ7900万円ずつ相続。
母親の遺産4200万円を、子ども2人がそれぞれ2100万円ずつ相続。
一次相続と二次相続の合計相続税額
2133万円
実際には妻の固有の財産額などにより様々な結果が出ると思われるため、夫死亡から妻死亡までどの程度妻の生活費や入院費などにより資産が減るかなども考慮した上でシミュレーションしていかなければならない点が難しいところではないでしょうか。
3. 二次相続の対策方法
では、具体的にどのような点に気をつけて二次相続対策をしていけばよいのかを考えてみましょう。
一次相続の際の遺産分割におけるいくつかのポイントがあります。
POINT1 なるべく一次相続で子どもが相続する
将来的に見込額が高くなると思われる相続財産については、なるべく一次相続で子供が取得することです。
たとえば、今後地価の上昇が見込まれる土地や値上がりが期待される金融資産等です。
今は市街化調整区域だけれど、近々市街化区域になるという例はほぼ確実に地価の値上がりが予測される一例です。
また、畑や雑種地を持っており、そこに将来アパートを建てる予定であるような場合も評価が上がる見込みがあるといえるでしょう。
仮にそれを配偶者に取得させてしまうと家賃収入等もその後どんどん蓄積されていき、配偶者の資産が増えてしまいますので、そういった点からも子供が取得しておくべきなのです。
金融資産について言えば、非上場株などで、今はどう見ても安いが今後は上がるという見込みがある場合も考えられますが、このようなケースではなるべく子供が取得するようにします。
逆に、取壊し予定の建物があるといったケースでは、財産そのものがなくなるわけですからこういったものは配偶者が取得する方がよいでしょう。
POINT2 配偶者が相続した現金は二次相続前にできるなら不動産に転換する
配偶者が取得した現金、預貯金は二次相続発生前に不動産に換えておくという方法があります。
現金を不動産に換えると、その相続税評価額を半分近くにすることを期待できます。
ただ、「評価額が下がる」というのは実際の「財産としての価値が下がる」こととイコールではないため、現金を収益物件に換えたことにより、そこから得られる収益などを考えればほとんど値崩れしないことが多いのです。
POINT3 二次相続前に暦年贈与を活用する
同様に配偶者が一次相続で取得した現金、預貯金を二次相続開始までの間に「暦年贈与(年間110万円までは無税で贈与できる)」を使って少しずつ子供の代に移転させておくという方法もあるでしょう。
ただ、暦年贈与については「贈与契約書を作成する」「毎年きっちり同じ時期に贈与することは避ける」などいくつか注意点がありますので、税理士に相談の上、慎重に行うことをおすすめします。
専門家からのアドバイス
- 相続が10年以内に連続した場合は控除できる
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税理士:三ツ本 純一次相続開始前からシュミレーションを行うことで、トータルの税額を減らすことが可能です。
このため相続税は「2回の相続で1セット」と考え、対策していく必要があります。
円満な遺産分割と納税資金準備にも配慮しながら、一次相続開始前と開始後の両方にできることをしっかり実行していくことが上手に財産を引き継ぐコツです。
なお、相次いで被相続人が亡くなった場合、相続人の税負担を軽くする「相次相続控除」という制度があります。対象期間は「一次相続開始前から二次相続開始までの期間が10年以内」。控除額の計算は複雑なので、不安な場合は税理士などのプロに相談しましょう。
3-1. まとめ
相続税は「2回の相続でワンセット」と考えて対策していく必要があります。
一次相続開始前からシミュレーションを行うことでトータルの税額を減らすことが可能です。
円満な遺産分割と納税資金準備にも配慮しながら、一次相続開始前と開始後の両方にできることをしっかり実行していくことが上手に財産を引き継ぐコツです。
(提供:相続サポートセンター)