株式会社栃木銀行 法人営業部 部長代理 鈴木 章裕氏

日本M&Aセンターが行うM&A大学。 その卒業生として最前線で活躍するOB・OGバンカーに気になる情報をインタビュー。

今回は、株式会社栃木銀行 法人営業部 部長代理 鈴木 章裕氏にインタビューした。

M&A大学とは
日本M&Aセンターが協業する地域金融機関に向けて行う、研修・出向制度。M&A大学入学者(地銀からの出向者)はM&Aシニアエキスパート研修(JMAC)、評価・概要書研修などの座学と日本M&AセンターとのコンサルタントによるOJTなどを経て、自ら顧客への提案からM&Aの成約、契約の締結までを完結できるM&Aコンサルタントとなることを目指す。

ご入行から現在までのご経歴について教えてください。

鈴木:2006年4月に入行しました。初任店は埼玉県春日部市にある武里支店で預金・融資業務を担当し、2009年6月より佐野支店で融資・渉外業務を担当しました。その後2012年6月から本部に配属され、企業支援室で事業再生業務に従事。2015年10月より法人営業部にて事業承継業務を担当し、1年後の2016年11月から日本M&Aセンターへ出向しました。2017年12月に法人営業部に戻り、2021年4月からグループリーダーとしてM&A業務に従事しています。

事業承継・M&A業務を担当されて既に7年以上になられるのですね。
元々この領域に関心を持たれていらっしゃったのでしょうか?

鈴木:いえ、どちらかと言えばマイナスのイメージを持っていました。本部に配属された2012年頃、当時読んでいた本などでは、「ハゲタカ」「債権カット」「敵対的買収」のようなワードがめだっていたイメージがありましたが、実務を経験するにつれてそのイメージはよいものに変わっていきました。

日本M&Aセンターにご出向されていた際も、鈴木さんは非常に精力的に活動されていたと聞いております。
どのようなお考えを持たれて出向期間を過ごされていらっしゃいましたか?

鈴木:出向前に1年間銀行で事業承継・M&A業務に携わったうえで出向しました。当時の上司からは「M&Aを覚えるのではなく営業する目的で行ってきてほしい」と指示されていたこともあり、明確な目的意識を持って出向期間を過ごすことができたと思います。
日本M&Aセンターの担当コンサルタントと一緒に動いて実践的なスキルを身につけることができましたし、他部署の方とのネットワークも構築し、今でも相談に乗ってもらうこともあります。また出向期間中には、各支店で勉強会を実施し、行員のM&Aに対する関心と知識を高めるための活動にも注力できたのもよかったと感じます。
また、他行の出向者と事業承継・M&A領域の評価制度やチームの体制・各種取り組み方についての情報交換ができたことも非常にありがたかったです。同じ出向期間を過ごした方々とは今でも定期的に連絡を取り合っています。オンライン飲み会をたまにしたり、仕事でつまずいた時に相談に乗っていただいたりと、本当によいご縁をいただいたと感じています。

日本M&Aセンターへの出向から帰任されて以降5年間の中で、特に力を入れて取り組まれたことを教えてください。

鈴木:大きくは三つです。一つ目は、地元応援型M&Aサービス「とちぎの結び目」を2021年9月にリリースしました。「とちぎの結び目」は当行が中心となって地元のコンサルタントや連携機関とのネットワークを作り、小規模企業を含めたエリア内の企業や個人事業主の承継課題解決を目指す枠組みです。県内の幅広い企業の承継課題を解決し相談しやすい環境をお客様に提供するためには、小規模企業を含め幅広く支援できる体制づくりが絶対に必要と考え、特に力を入れて取り組んできました。現在は利用者・成約数ともに伸びており、県内での認知度も高まってきていると感じます。
二つ目は、やはり人材育成です。上記のような仕組みを整えても、現場の行員が情報をしっかりと拾ってトスアップできないと機能しないので、M&Aに対する意識を高める研修やサポートに力を入れてきました。最近では、個人の預かり資産・相続業務を担当する職種の皆さんに研修も実施しています。
三つ目は、行内外のネットワークの構築です。自分だけの知識でできることはどうしても限られますので、困った時に相談できるネットワーク・人間関係をいかに作れているかが仕事をする上で最も重要であると言っても過言ではないと思っています。私自身そういったネットワーク構築に力を入れてきましたので、チームメンバーに対しても出会いや人間関係を大切にするようによく伝えています。

鈴木さんが構想された仕組みが現実となり実績も出てきているというのは、本当に素晴らしいですね。
個人の資産運用業務を担当されている方々から事業承継ニーズを拾う試みは、他行でも取り組んでいるもののなかなかハードルが高く上手く運用できていないとの話も耳にしますが、貴行ではどのような推進をされていらっしゃいますか?

鈴木:そうですね、なかなか難しいテーマですが、「目線の違いを理解すること」が重要だと感じています。渉外担当は会社への提案をしていますが、個人の資産運用業務担当は個人への提案になりますので、売上や会社の規模は関係なく、オーナーの家族構成や貯蓄・保険等の状況、健康状態等にアンテナを張って日々営業しています。
そういった方々に対して、いきなり「事業承継ニーズをヒアリングしてほしい」というとハードルが高いように感じますが、普段の提案や何気ない会話の延長線上にヒントがあるかもしれないという視点を持ってもらうことが第一歩です。言葉の端々にあるヒントを取りこぼさないことや配偶者の抱えている悩みやちょっとした話を逃さないことの重要性を伝えるようにしています。自然な会話の中から情報を拾うことが得意な方々が多いので、実際に事業承継ニーズのトスアップをしていただく件数も増えてきています。

2021年4月からはプレイヤーから管理職のお立場になられて、特に意識されていること・大切にされていることがあれば教えてください。

鈴木:チームメンバーに対しては、当行のM&A推進に対する自分自身の考えやビジョンを明確に言葉にして伝えることを意識しています。また一方的に伝えるだけではなく、メンバーにも自分なりに考えてもらうこと、それを言葉にしてチーム内で共有させることで自分の言葉に責任を持ちしっかりと実行してもらうように促しています。一方的に私の話を聞いているのと、自分自身で考えてアウトプットをするのでは全く違いますので、メンバーは結構きついと思っているかもしれませんね(笑)。
支店に対しては、本部はまだまだ遠い存在であると感じますので、訪問した際には役職やポジションに関わらず積極的に行員に声を掛けてコミュニケーションを取ることで、相談しやすい関係性を築いていきたいと考えて日々活動しています。

株式会社栃木銀行 法人営業部 部長代理 鈴木 章裕氏

ここからは、貴行のM&A業務の体制についてもう少し詳しく教えてください。
現在M&Aチームは何名いらっしゃいますか?

鈴木:メンバーは5名で、そのうち4名が日本M&Aセンターへの出向経験者です。5名でそれぞれエリアを分けて各支店を担当しています。M&A業務の他に、チーム内でもう1つ担当を与えるようにしており、例えばシステムの導入やセミナー等の企画、行内研修、外部の提携先・パートナーとの連携担当等を担ってもらっています。

支店からの事業承継ニーズはどのように本部に上がる仕組みになっていらっしゃいますか?

鈴木:支店から本部のM&A担当へ直接のメールもしくは電話の二つのルートで相談がきますが、現在は後者が圧倒的に多いですね。

栃木県のM&Aマーケットの特徴として、何か感じられているものはございますか?

鈴木:帝国データバンクが発表した栃木県の後継者不在率は58.0%(2022年)で、全国平均の57.2%よりわずかに高い結果となりました。都心からのアクセスもよい一方で首都圏と比較すると土地が安く買えるため、大手企業の工場・拠点も多く、業種別では製造業の割合が26%と特に多いことがマーケットの特徴の一つだと思います。
事業承継・M&Aに関する相談を受けている中で、特に製造業は対象会社の持つ技術の理解が難しく、マッチングの難易度も高いと感じます。そうした点ではまだまだ潜在的な承継ニーズを引き出せていないと感じておりますし、こういった専門領域については日本M&AセンターのようなM&A仲介専門会社との連携が必要になると感じています。
また、いわゆるストロングバイヤーと呼ばれる譲受側の企業があまりいないのも特徴の一つでしょう。マーケットが比較的恵まれているためこれまで積極的に企業買収をして成長を目指す企業はあまりいなかったのかもしれませんが、今後は成長戦略の一つとしてM&Aを目指す企業もより増えてくると思いますので、支援強化に向けた施策を検討している段階です。

貴行におけるM&Aの成約件数が2022年は非常に伸びていると聞いておりますが、その要因や背景について教えてください。

鈴木:一つは、「とちぎの結び目」が認知されるようになり、小規模企業含めて支援できる体制・提供できるサービスが増えて情報が多く集まるようになったことが挙げられます。また、日本M&Aセンターのような外部の提携先・パートナーと上手く連携が取れており、その分当行の担当者が関われる案件が増えていることも大きいと感じます。
実際にM&Aの提案に同席して経験を積む行員も増えており、事業承継・M&Aが限られた企業のみで行われるものではなく、自分の担当先でもあり得ることであると認識し積極的に情報収集や提案をする行員が増え、全体的なレベルも上がってきていると感じます。確実にお客様のためになるサービス・課題解決の手法であると思いますし、そういった業務に行員が前向きに取り組む仕組みを作ることが本部の役割でもあると考えています。

現在感じられている課題や今後検討されている取組があれば教えてください。

鈴木:ここ数年注力してきた「とちぎの結び目」が軌道に乗ってきましたので、お客様に寄り添った新しい企画を検討しています。今後よりお客様の課題解決を実現していく(多くの案件に対応していく)ためには絶対的に人手が足りませんので、そこをいかにカバーしていくかは課題の一つだと考えています。現在本部で対応している業務の一部を支店の皆さんに対応してもらうような仕組みも作っていかなければならないと考えていて、日本M&Aセンターからご提案いただき、今まさに有志に対してM&Aシニアエキスパート資格を取得してもらうよう取り組んでいます。
また、M&A業務のシステム化は多くの金融機関において課題に挙げられていると思いますが、当行も現状は旧態依然とした案件管理の仕組みの変革に向けて検討を進めています。

株式会社栃木銀行 法人営業部 部長代理 鈴木 章裕氏

今後のM&Aチームのビジョン、鈴木さんの目標を教えてください。

鈴木: “事業承継と言えば栃木銀行”と地域のお客様から認めていただける存在になることです。M&Aは事業承継や成長戦略の一つの手段にすぎず、そのことを私たち自身がしっかりと理解をすることが重要です。
また、M&Aは収益性ばかりが注目されがちですが、お客様の課題解決のために取り組むものであり、私たちが提供するサービスがお客様に寄り添いお客様の声を形にするものでなければならないということを、行内外にもっと発信していかなければと思っています。
私自身はプレイヤーとしても成長し続けていきたいと思っています。やはり自分一人でできることには限界がありますので、困った時に相談できるネットワーク・人間関係をいかに構築できるかを意識し、日本で一番事業承継に関する課題解決に強いネットワークを持つドラえもんのような存在になりたいです(笑)。

“事業承継と言えば栃木銀行”と地域の皆様に認めていただけたと実感できるのは、どういうことが実現できた時だと想像されていらっしゃいますか?

鈴木:融資の相談をお客様からいただくのと同じように、事業承継の相談も当行からの働きかけではなくお客様からどんどん声が掛かるようになることですね。本部担当者が、直接お客様から事業承継・M&Aの相談を受けるためのフリーダイヤルを設けたのですが、その問い合わせ対応で忙しくなる日がきてほしいと思っています。

貴重なお話をたくさんお聞かせいただきありがとうございました。
最後に日本M&Aセンターに期待することを教えてください。

鈴木:引き続きということになりますが、日本M&Aセンターならではのノウハウの共有と出向を通じた人材育成を期待しています。当行では、日本M&Aセンターグループの企業評価総合研究所が提供する企業評価システム「V-Compass」が2023年度から始動する予定ですし、先ほどお話した全支店長のM&Aシニアエキスパート資格取得、2021年11月に共催し1万2千名を超える集客をした「栃木銀行 事業承継・M&Aカンファレンス2021」など、当行単独では実現できない企画をいつもご提案いただいています。
事業承継・M&Aの領域だけでも多くの外部提携先がありますが、日本M&Aセンターはマッチングや成約事例だけでなく、トラブルに対する対策に関しても圧倒的な知見を持っているのが他社とは大きく異なる点だと思います。スピード感も強みで、相談させてもらったときにも当日中に回答をいただき、パートナーとしてとても心強い存在です。これからも1件でも多くお客様の課題解決につながる仕事を一緒にやっていきたいですね。

株式会社栃木銀行 法人営業部 部長代理 鈴木 章裕氏