遺産相続に関しては、期限までに必要書類をそろえて提出しなくてはならない手続きがいくつかあります。
この記事では、遺産相続にまつわるそれぞれの手続きごとに提出しなくてはならない必要書類について、チェックリストの形で説明します。
これから何らかの形で相続にかかわる可能性のある方は参考にしてみてくださいね。
1. 遺言書の検認を受ける際の必要書類
相続が発生した後、亡くなった人が遺言書を残していることが分かった場合には、その遺言書の内容に基づいて遺産の分割が行われます。
遺言書を残す方法としては自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがありますが、このうち自筆証書遺言の形で遺言書が残されている場合には、その遺言書を遺族が勝手に開封することはできません。
自宅や貸金庫などで見つかった遺言書は、必ず家庭裁判所に検認の申し立てをして開封する必要があるのです。
家庭裁判所に遺言書の検認手続きを行ってもらうためには、次のような書類が必要となります。
検認の申立書
亡くなった人の戸籍謄本
相続人となる人全員の戸籍謄本
相続人の中で死亡している人がいる場合は、その人の戸籍謄本
なお、亡くなった人の分の戸籍謄本については、その人が出生したときから死亡した時までのすべての戸籍謄本が必要になります(除籍や改製原戸籍です。他の手続きでも基本的に同じです)
検認を受けるためには裁判所に納める費用800円が必要ですので、収入印紙を購入しましょう。
1-1. 遺言書の検認を受けずに開封してしまったらどうなる?
上で見たように、自筆証書遺言の形で作成されている遺言書の開封をするためには、家庭裁判所で検認の手続きを行わなくてはなりません。
もし検認手続きを経ずに遺言書を開封してしまった場合にはどうなるでしょうか。
結論から言うと、このような形で開封された遺言書についてもその効力が否定されるようなことはありません。
法律上は、検認を経ずに遺言書を開封した場合には、開封した人に過料が課せられることになっていますが、このような形で過料が課されることはほぼないというのが実際のところです。
一方で、検認手続きを経ていない遺言書には家庭裁判所の検認証明書がないことになりますから、後で相続登記や銀行口座解約の手続きを行うことができない可能性があります。
また、検認手続きを経ずに遺言書の開封を行うことは、開封した人以外の相続人に不信感を与えてしまうことも考えられます。
相続発生後に遺言書を発見した場合には、すみやかに管轄の家庭裁判所に対して遺言書検認の申し立てを行うようにしてください。
2. 裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てる際の必要書類
遺産相続が発生した場合、遺言書がある場合にはその内容に従って、遺言書がない場合には遺産分割協議という相続人どうしの話し合いによって遺産分割が行われます。
一方で、遺産分割協議が紛糾してしまい、遺族間の話し合いではまとまりそうにないような場合には、家庭裁判所に間に入ってもらって遺産分割の方法を決めてもらうことも可能です。
これを遺産分割調停や遺産分割審判と呼びますが、これらの手続きを家庭裁判所に申し立てるときには、次のような書類が必要になります。
遺産分割申立書
当事者目録
遺産目録(土地、建物、現預金などに分けて作成)
相続関係説明図
亡くなった人の戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の住民票
不動産物件の登記簿謄本
不動産物件の固定資産税評価証明書
不動産物件の住宅地図など
預貯金や有価証券の銀行残高証明書(申し立て時点での証明書を取得)
自動車の登録事項証明書か車検証の写し
遺言書がある場合にはその写し
相続税申告書の写し(申告が完了している場合)
3. 銀行預金の分配を受けるための必要書類
遺産の中に銀行預金や有価証券が含まれる場合には、これらの資産を預けている金融機関で相続人への分配の手続きを行う必要があります。
ただし、金融機関側としては、本来相続の権利を持たない人に対して誤って払い戻しなどをしてしまうことを避けるため、預金分配の手続きに当たっては厳密に証拠書類を求めてくる傾向があります。
遺産相続を完了するために、金融機関に対して提出する必要がある書類としては、次のようなものがあります。
遺言書(検認済み:遺言により遺産分割した場合)
遺産分割協議書(遺産分割協議で遺産分割した場合)
調停調書や審判書の謄本(調停や審判で遺産分割した場合)
亡くなった人の戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の印鑑証明書
なお、遺言書によって遺産分割が行われた場合には、戸籍謄本や印鑑証明書は現実に相続人となる人の分だけで足りるケースが多いようです。
3-1. 相続が発生したら、銀行口座は凍結される?
金融機関は、資産を預かっている人が亡くなったことを関知した時点で、その人の名義となっている銀行口座を凍結するという手続きをとるのが一般的です。
これは、相続人となる人の一部が勝手に遺産である銀行預金を解約してしまうことを避けるための措置です。
相続が発生した後には、遺族であっても亡くなった人の銀行口座や証券口座を勝手にさわることはできなくなってしまいますので、注意が必要です。
4. 相続税申告を行う際の必要書類
遺産の金額が一定額を超える場合には、その遺産に対して相続税が課税される可能性があります。
相続税は所得税や法人税と同じように、納税義務を負う人が自分で計算を行い、税務署に対して納税額の申告を行う必要があります(通常は税理士に申告手続きの代行を依頼します)
相続税申告に当たってどのような書類が必要になるかは、遺産として残されている財産の種類によって異なりますが、おおむね次のような書類をそろえておく必要があります。
相続税の申告書
遺言書がある場合には、遺言書(検認済み)
遺産分割協議書(遺産分割協議によって遺産分割を行った場合)
遺産分割調停や遺産分割審判によって遺産分割を行った場合は、調停調書謄本や審判書謄本
亡くなった人の戸籍謄本
相続人全員の戸籍謄本
相続人全員の印鑑証明書
申告期限後3年以内の分割見込書(遺産分割が完了していない場合で、配偶者控除などの適用を後から受ける場合)
4-1. 相続税申告の期限までに遺産分割協議書を用意できない場合は?
相続税の申告は各相続人が実際に相続する遺産の範囲が確定していることが前提となっています。
そのため、相続税の申告手続きを行う際には、遺産分割の根拠となった遺言書や、遺産分割協議書が必要になります。
一方で、遺言書が残されておらず、相続税の申告期限(相続発生から10か月)までに遺産分割協議も完了していないようなケースでは、これらの「遺産分割の根拠となった書類」を準備することができません。
このような場合には、いったん遺産は相続人全員の共有状態として、相続税の申告を行わなくてはならないのです。
こうした形で相続税申告を行う場合には、相続税の配偶者控除や小規模宅地等の特例といった相続税の負担を軽減する措置を、相続税申告の時点では受けることができないことに注意が必要です。
相続税申告のタイミングで遺産分割協議が完了していない場合において、これらの税軽減措置を受けるためには、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、その後に遺産分割協議が完了した段階で、更正の請求という手続きを税務署に対して行う必要があります。
5. 不動産の名義変更(相続登記)を行う際の必要書類
相続した遺産の中に土地や建物といった不動産がふくまれている場合には、その不動産の所有者名義を変更する必要があります。
相続を原因とする不動産名義変更のことを相続登記と呼びますが、相続登記の手続きを行うためには、法務局に対して次のような書類を提出する必要があります。
登記申請書
亡くなった人の戸籍謄本
亡くなった人の住民票の除票
相続人全員の戸籍謄本
実際に相続する人の住民票
相続人全員の印鑑証明書
遺言書(検認済み)
遺産分割協議書(遺産分割による相続登記の場合)
固定資産評価証明書
なお、相続登記を行う際には、法務局に対して登録免許税を納める必要がありますので、必要な額の収入印紙を購入しましょう。
5-1. 相続登記には3種類ある
相続登記の手続きには、代表的なものとして①遺言による相続登記、②遺産分割による相続登記、③法定相続による相続登記、の3つがあります。
これら3つのどれを根拠として相続登記を行うのかによって、必要になる書類も変わってくるので注意が必要です。
具体的には、①遺言による相続登記では遺言書(家庭裁判所による検認証明書がつけられていないといけません)が、②遺産分割による相続登記では相続人全員の署名押印がある遺産分割協議書が必要になります。
③法定相続による相続登記の場合にはこれらの書類は必要ありません(通常の戸籍謄本や権利証などだけで足ります)が、法定相続による相続登記では相続人となる人全員が共同で相続登記の手続きを行わなくてはなりません。
実際には、司法書士に依頼する際の委任契約書に、相続人となる人全員の署名が必要となることに注意しておいてください。
6. まとめ
今回は、遺産相続に関連する各種の手続きにおいて、提出が義務付けられている書類をチェックリストの形で説明しました。
本文でも説明しましたが、遺産相続では期限までに必要書類をそろえて手続きを完了しないと、本来受けられるはずの利益が認められなかったり、不利益を受けたりすることがあります。
相続放棄や相続税の申告などは特に重要性が高いので、専門家に相談しながら確実に手続きを進めるのが安全といえるでしょう。
相続の税金に関する手続きは税理士が、遺産分割や相続放棄といった法律問題については弁護士や司法書士が相談に乗ってくれるので、不安がある方はアドバイスを受けることも選択肢に入れてみてくださいね。 (提供:相続サポートセンター)