平成28年の税制改正により、「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例」が創設されました。これは、昨今増加する空き家の問題の解決を図ろうと国が出した政策になります。
これは、相続が発生したときに納付する相続税額を圧縮するものではありません。
要件が適合した際に、相続人の所得税を圧縮するものになります。
相続発生時においては、取得する資産の用途や売却の予定等まで含めて対策を立てることになります。この意味においては、相続税の対策の一つとして必ず検討したい項目の一つになります。
1. 被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例の要件とは?
相続や遺贈により取得した家屋やその敷地を、平成28年4月1日から平成31年の年末までに譲渡して利益を得たような場合において、一定の要件を満たした場合に所得税の計算上3,000万円の控除を受けることができます。
被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除の特例が適用される主な要件は次の通りです。
・昭和56年5月31日以前に建築された建物であること
・区分所有建物登記がされた物件でないこと
・相続開始の直前に、被相続人が一人暮らしをしていた建物であること
・取得した居住用の家屋を売るか、敷地とともに家屋を売ること
・相続したときからずっと空き家になっており、相続人が貸付け等の用に供し、または居住の用に供していないこと
・3年目の年末までに譲渡を行うこと
・1億円以下で譲渡したこと
つまり、亡くなった方が一人で住んでいて、相続発生後もそのままになっているものが3年以内に譲渡された際に適用できることとなります。一度でも、貸付を行ったり自ら住む等の用途変更を行った場合は対象外となります。
2. どのくらいの納税額の変化があるのか?
具体的にどのくらいの納税額の変化があるのでしょうか。通常、「空き家」を含む不動産を譲渡した際に、次の計算により譲渡所得が計算されます。
譲渡所得の金額 = 譲渡価額 - 取得費 + 譲渡費用 - 特別控除(あれば)
ここで、取得費とは購入金額より計算した対象不動産の金額を言います。
具体的には、建物などの償却性の資産の場合は、減価償却費に相当する金額を控除した金額です。
土地のように使用によりまたは時の経過により価値の目減りしないものについては、基本的に購入金額がそのまま使用されます。
譲渡費用とは、売るための直接に支払った経費のことで、不動産業者に支払った手数料や、その他の手続き費用のことを指します。
長期の譲渡であれば、15%の所得税及び2.1%の復興特別所得税の国税を税務署へ納付することになります。これに加えて、お住まいの市町村等に5%もの住民税を支払うことになります。したがって、合計で約40%もの税金が発生してしまいます。
たとえば、4年前に1,000万円で購入した土地を50万円の手数料を支払い2,050万円で譲渡した場合、納付する税金は次のように計算できます。
譲渡所得の金額 3,050万円-1,000万円=2,000万円
上記に対する
・所得税額 2,000万円×15%=300万円
・復興特別所得税額 2,000万円×2.1%=42万円
・住民税 2,000万円×5%=100万円
合計 442万円
2,000万円の儲けに対して、442万円もの税金がかかるのです。
いかに所得税の負担が大きいかが確認できると思います。
たとえば、この土地が今回の特別控除の対象であった場合はどうなるでしょうか。
被相続人が居住の用に供している住宅で、建物が古いなどの理由で上ものに金額がほとんどつかないという例はよくあることです。
鉄筋コンクリート造りならともかく、一般的な木造の一軒家であれば20年もすれば金額的価値はほとんどありません。この場合の譲渡所得の金額を計算すると次のようになります。
譲渡所得の金額 3,050万円-1,000万円-50万円-2,000万円=0円となり、譲渡所得の金額が0円ですから、当然所得税は発生しません。
(※今回の特別控除の金額は、利益の範囲内が上限となります。したがって、もともと2,000万円の譲渡所得しか発生しないようなケースにおいては、特別控除の金額も2,000万円となります。)
余談ですが、取得金額が不明な場合については、譲渡金額の5%を取得費とするという決まりがあります。
古くからの土地建物の被相続人が取得した金額が不明なことはそう珍しくはありません。
今回のケースにおいて、取得費が不明な場合においては上記の式において取得費の1,000万円が152.5万円として計算されますから、納税額の差はさらに大きくなります。
今回のケースにおいて取得費が不明な場合においても、利益の金額は3,000万円未満ですので税金は発生しません。
3. 最後に
最後に、この特別控除を使用するに当たっての注意事項があります。
「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」と選択適用である点です。
相続税額やその他の条件によっては、今回の特別控除を使用しない方が有利な場合もあります。
また、この特例を使用した場合には、ほかの譲渡所得の特例を重複して受けることができません。
どの制度を利用するかは非常に難しい問題です。金額も非常に大きなものになりますので、不明な場合には税理士に相談するなどして慎重に検討しましょう。(提供:相続サポートセンター)