カンブリア宮殿,ファンケル,V・ファーレン長崎
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目、腰、脂肪…サプリが大進化~82歳、再登板で奇跡の逆転劇

目の悩みを抱える人に人気のファンケルのサプリ「えんきん」(2160円)。目のぼやけを緩和して、ピント調節を助ける成分が入っているという。累計1400万袋を売る大ヒット商品だ。「大人のカロリミット」はダイエットに悩む人向けのサプリ。食事の前に飲むことで、糖や脂肪の吸収を抑えてくれるという。

ファンケルといえば有名なのは無添加化粧品。防腐剤などを一切使用しない肌に優しい化粧品のパイオニアだ。ところが現在では、従来なかったサプリで人気を呼んでいる。

「楽ひざ」(2695円)は膝の関節を楽にしてくれるサプリ。「記憶サポート」(2160円)は記憶力の維持をサポートする成分のサプリだ。今の季節にいいのが、血流を改善し体を温めるという「冷えケア」(1500円)だ。

ファンケルは特定の機能をピンポイントでサポートしてくれる「機能性表示食品」を大ヒットさせているのだ。

「ファンケルヘルスハウス」では、自分に合ったサプリを教えてくれるさまざまなサービスも行っている。例えば指先の血管の形から健康状態をチェックしてくれる無料のカウンセリング。指を置くだけで、野菜不足が分かる特殊な計測器もある。さまざまな機器を使って健康状態を調べることで、自分に本当に必要なサプリを教えてくれるのだ。

サプリに新たな潮流を巻き起こしたファンケル創業者・池森賢二(82)。1980年に無添加化粧品のファンケルを創業。通販ビジネスで1000億円企業に育て上げた。だが、65歳で社長を退任すると、売り上げはみるみる下がり、年商は200億円も減ってしまった。

そこで池森は、会社を立て直すため10年ぶりに再登板、経営改革に乗り出した。

「戻らなかったら会社が潰れてしまうという不安があったんです。このままでは自分が作った会社が倒産に向かってしまう」(池森)

池森は改革のため、徹底的に店舗を視察。客の行動を手掛かりに、自らもヒット商品を生み出す。その客はどのサプリが自分に合うのか、分からないようだった。

「お客様はサプリメントの知識がそんなにないから、この年代にはこのサプリが合うと、こちらが教えてあげればいいんじゃないかと」(池森)

そこで開発したのが、年代に合わせて必要なサプリを詰め合わせた初心者向けパック(1700円~)。今や年間60億円を売り上げる。

こうしたさまざまな改革の結果、池森は業績をV字回復させ、低迷していた株価を7倍にしてみせた。

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神風を呼ぶ創業者~倒産危機から大逆転

ファンケルのサプリが支持されているのには、明確な理由がある。それがパッケージにある「臨床試験済み」という表記だ。

「臨床試験というのは医薬品でやるもの。うちのサプリはレベルが高いんです」(池森)

ファンケルのサプリの多くは、自社で臨床試験を行い、機能が確認できた商品なのだ。

池森は改革にあたり、巨額の資金で新たな研究施設を作るなど、開発力を徹底的に強化した。横浜市のファンケル総合研究所。総合研究所長の炭田康史は「それまでは研究開発費を絞ってきたのですが、真逆。最初に池森に言われた時は驚きました」と言う。

そのサプリ開発の現場をのぞいてみると、「サプリメントが体の中できちんと溶けるか確認する試験」(機能性食品研究所・平田愛奈)の真っ最中だった。

ファンケルでは、商品ごとに、体内で最適なタイミングで溶けるよう調整しているという。例えば、ビフィズス菌を生きたまま胃の先にある腸まで届ける画期的な技術を開発。特殊な油でビフィズス菌をコーティングすることで、胃液を弾いてしまうという。

池森は、機能の研究や臨床試験の実施を徹底し、サプリを磨き上げた。そこに神風が吹く。2015年、「機能性表示食品」制度が始まったのだ。これにより、それまで禁止されていた食品の機能性の表示が、メーカーの責任で可能になった。ファンケルは鍛えた開発力で機能性サプリを次々に発売、ヒットを連発した。

池森が呼び込んだ神風はそれだけではない。その舞台は徹底しててこ入れした店舗だ。

池森はまず販売スタッフ全員に最大2万円のベースアップを実施。現場の士気を高めた。

「うれしいと思いました。スタッフのモチベーションアップにつながったと思います」(「ファンケル銀座スクエア」藤山かよ)

そして直営店の数を増やすことで、より多くの客の生の声を集められるようにした。化粧品のパッケージも、客の声から、分かりやすいデザインに変更したという。

「色分けしてあるでしょう。前の経営陣は全部真っ白にしてしまった。60、70代のお客様も来ますから、何を買ったらいいか分からなくなった」(池森)

社内に新たな教育機関「ファンケル大学」まで作り、スタッフのスキルアップを図った。

主力だった通信販売だけでなく、店舗にも力を入れたところ、再び神風が吹く。中国人観光客が大挙して押し寄せる、爆買いブームの到来だ。磨き上げた商品とスタッフの力で、ファンケルはインバウンド需要を一気につかんだ。

「インバウンド、機能性表示食品……ほとんど運で生きているようなものですよ」(池森)

低迷し続けていたファンケルは一気に息を吹き返し、年商は過去最高の1200億円を突破した。そんな池森が改革にあたり胸に刻み続けた経営の信条を教えてくれた。「つねに会社は、倒産に向かって進んでいる」だった。

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長崎県民が大感動~71歳、髙田マジック再び

長崎・諫早市の諫早市中央公民館。集まった大勢の観客が声援を送っていたのはサッカーの生中継映像。いわゆるパブリックビューイングだ。V・ファーレン長崎というJ2チームを応援している。

その熱心なサポーターは、サッカーファンというより、地元のお母さんのような人ばかり。多くのサポーターが、以前はサッカーに全く興味のなかった人だという。サッカーにはまった理由は一人の人物にある。V・ファーレン長崎社長・髙田明(71)である。

独自の語り口のテレビ通販で日本中を席巻、1代で年商1500億円企業を作り上げたジャパネットたかた創業者の髙田明。2015年、66歳の髙田は息子にジャパネットの社長を譲り、退任。その後は日本の地域を紹介する番組を手がけていた。

ところが2017年、再び表舞台に立つことになる。赤字に陥り、破綻寸前となっていた地元のサッカーチーム、V・ファーレン長崎の再建だ。

それから2年。髙田の改革はV・ファーレンに奇跡の大逆転をもたらす。7億円から23億円へと売り上げを急増させ、赤字経営を脱却。観客動員数は一気に倍増した。

髙田改革の象徴とも言えるのが、諫早市にあるV・ファーレンのホームスタジアム、トランスコスモススタジアム長崎だ。ここには大きな問題があった。諫早駅から徒歩30分かかる上に、駐車場が少なく、すぐ満車になってしまうのだ。

そこで髙田は、その道のりを「V・ファーレンロード」と名付け、歩いての来場を呼びかけることを始めた。

「1000人でも2000人でも歩いていただけたら駐車場問題は解消します」(髙田)

すると、地元の商店主たちがいくつもの出店を開き、歩いて来場してくれるファンへ無料のおもてなしを始めた。駐車場問題を解決する一方、「V・ファーレンロード」を楽しみに来るファンも増えているという。

「諫早の商店街をこんなたくさんの人が通るのは本当にうれしいです。まさかこんなことが起こると思わなかった」(「お茶処しまだ」嶋田祐子さん)

「髙田社長が危機の状態から盛り上げてくれた。髙田さんが動くとみんなが動く。町が活気づいてきています」(「シモハマ不動産」下濵誠一郎さん)

熱い思いで長崎を元気に~地元サッカーチーム大改革

カンブリア宮殿,ファンケル,V・ファーレン長崎
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髙田が就任以来欠かさず取り組むのは、スタジアムでのファンとのふれあい。一人でも多くファンを増やすため、自らおもてなしを欠かさない。地元だけではない。髙田はどんな遠い敵地にも足を運び、V・ファーレンを好きになってもらう活動を欠かさない。対戦相手のサポーターにもサインや写真撮影など、次々とサービスを行う。

その効果が長崎でのホーム戦に現れる。遠路やってきた対戦相手のサポーターがV・ファーレンをひいきにするようになり長崎まで観戦に来てくれる。長崎を観光で回るという観戦客も多い。敵も味方にすれば、より長崎にお金が落ちるというわけだ。

長崎市内で開かれたイベントで、大スター登場のような人だかりを作っていたのが、V・ファーレンのマスコット「ヴィヴィくん」。あざとさを感じるほどのかわいらしい仕草が人気を集めている。

髙田の就任後、徹底的に売り込むことでブレイクを果たした。今や全国で55あるJリーグチームのマスコットキャラで第2位の人気を誇るまでに。グッズ販売による収入は爆発的に増え、V・ファーレンの収益改善に大きな力となっている。

また髙田は就任以来、地元企業を回り、スポンサーを増やし続けてきた。その結果、V・ファーレンのスポンサー収入は実に3倍以上にまで増えた。その理由は、誰もが髙田の理念に共感しているからだ。多くの企業が賛同するのは、サッカーを通じて地域を再生したいという髙田の熱い思いなのだ。

「ビジネスと考えたら、スポーツは面白くないです。人を幸せで平和な気持ちにさせる。そこに長崎の元気が出てくる」(髙田)

そんな思いが名物も生み出していた。チームのスポンサーになっている諫早市の「杉谷本舗」で、最近売れているというお菓子が「またのおこしを」(250円)。「ヴィヴィくん」を全面に打ち出した、諫早名物のおこしだ。

わざわざ長崎に来てくれた敵のサポーターと交流できるよう、パッケージには名刺を入れられるようになっている。商品化には髙田の粋な計らいもあった。

「ロイヤルティーは要らないと。『儲かったら来年、スポンサー料を増額して』と言われました。本当に長崎のことを考えていらっしゃる。夢を感じます」(杉谷徳隆社長)

サッカーで地域を一つにし、みんなで元気になる、それが髙田改革の真髄だ。

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「普通の人」が年商1000億円~大成功を掴んだ瞬間とは?

髙田の原点は、ジャパネットたかたを創業した佐世保だ。両親のカメラ店から独立する形で、1986年、37歳で佐世保のはずれに一軒の店を構える。しかし、近隣に需要は少なく、売り上げは低迷した。

そんな中、密かに髙田が通いつめる場所があった。隣の佐賀・嬉野市の嬉野温泉だ。旅館「大正屋」の山口保社長は「感心しました、そういうスタイルで写真を撮ることに」と、当時を振り返る。

宴会場で、髙田は宴たけなわの宿泊客に近づき、スナップ写真を撮って回った。そうして撮った膨大な写真をそのまま佐世保に持ち帰り、夜通し現像。翌朝、再び嬉野の宿に戻り、出発前の客に売ったのだ。これがバカ売れした。

「もちろんお客様は喜ばれます、いい記念写真ができたと。髙田さんはその頃から抜けた存在でした」(山口社長)

この宴会の写真販売を髙田は40代まで続ける。そして、その膨大な客とのやりとりこそが、後のテレビショッピングで一世を風靡するトーク術を磨き上げたのだ。

「面白かったです。人と出会って観光客と話をしたり。できることを考えてやっただけのことです」(髙田)

一方、30代までガス会社のサラリーマンだった池森は、36歳で脱サラ。仲間と独立するも、あっという間に倒産。2400万円もの借金を背負ってしまう。借金返済のため、池森はクリーニング店で必死に働き始めた。

「うつむくのではなく、むしろ前向き。借金がどんどん減っていくわけですから、毎日が楽しかった」(池森)

ある日、クリーニングの集配のため回っていた団地で興味深い話を耳にする。それは化粧品による肌荒れ。家で自分の妻に聞くと、同じ悩みを抱えていた。

「本来、化粧品は女性をきれいにするもの。化粧品をつけるとブツブツができるのはおかしいと思った」(池森)

それは1970年代に頻発した化粧品による肌のトラブルだった。池森は独学で化粧品について調べ始め、原因が、防腐剤などの添加物にあると知る。

「だったらそれを取り除けばいい。誰も取り除くことを考えなかった」(池森)

池森は防腐剤を入れない化粧品作りに挑戦。菌が入りにくい使い切りのアンプル容器でそれを実現してしまう。これが、後に大ヒットとなるファンケル創業の無添加化粧品だ。

千葉・流山市のファンケル美健 千葉工場。そこでは医薬品工場並のクリーンルームで化粧品の製造が行われている。「無添加化粧品なので、いかに空気に触れないように製造するかが大事」と、管理グループ課長・椎野達也は言う

純粋に人々を思う気持ちが、化粧品に革命を起こしたのだ。

苦難をもろともせず、進み続けた男たちに、成功は舞い降りた。

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レジェンド経営者の引き際~未来のためにバトンを渡す

今年、ファンケルの池森は大きな決断をした。キリンに創業家の持つ全ての株式を譲渡。年内で再び経営の一線から退くことにしたのだ。

髙田も11月、V・ファーレン長崎の社長退任を発表した。

髙田が退任を発表した翌日、長崎ではV・ファーレンのホーム最終戦が開かれた。観客席には髙田をねぎらうメッセージがいくつも掲げられていた。さらに諫早の駅前でも、道行く地元の人が列を作り、髙田への思いをつづった。試合終了後、破綻寸前のチームを一緒に盛り上げてくれたファンへ、髙田は感謝の挨拶を送った。

だが、V・ファーレンの逆転劇はまだ始まったばかりだ。2023年、長崎駅の近くに巨大な複合型サッカースタジアムを建設するプロジェクトが進行中なのだ。

陣頭指揮をとるのは髙田の長男でジャパネットホールディングス社長の旭人。「地域を盛り上げる機運を我々がつくれればと思っています。長崎を盛り上げていきたい」と言う。

このプロジェクトでは、スタジアムの周囲に商業施設やホテルを建設。ホテルの客室からも試合を観戦できるようにするという。旭人は父について、次のように語る。

「この3年間、父が引っ張ってくれたことでV・ファーレン長崎の名前が広まり、考え方のベースができたのは間違いない。そのパワーはすごいと改めて感じています」

一方、ファンケルの会長退任を決めた池森は82歳とは思えない行動力ですでに動き出していた。それが自ら立ち上げた「池森ベンチャーサポート」という会社だ。

池森は巨額の資金を使ってさまざまな社会問題に挑むベンチャーに出資。夢を持った若い経営者を後押しするという。すでに自ら選んだ12社に出資を始めている。

その一つが東京・武蔵野市の学生ベンチャー「魔法アプリ」。VRの技術を使い、高所恐怖症などの不安障害を治療するシステムを病院向けに開発している。

池森が出資してくれたお金で、最新の機材を揃えることもできたという。

「治療方法や受療率が低い問題を解決するという我々の活動に理解を示して、さらに出資までしていただいた。本当にありがたいです」(福井健人社長)

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~編集後記~

なぜこの二人はこんなに若いのだろう。若く見えるというレベルではない。年齢に比すると、異様に若い。成功者だが、苦難の連続だった。苦難に向き合い、変化を生みだすと、老化は影を潜める。

池森氏「誰かにお伺いを立てたことがない」、髙田氏「会社の理念は言葉ではなく態度や姿勢で示す」、利益は必要だが、最優先ではない。最優先は従業員、顧客、そして世の中全体に喜びを届けることだ。

実は苦労してきたんですよ、などと絶対に言わない。端からは苦労に見えても、二人にとってはわくわくする、幸福な時だったからだ。

<出演者略歴>
池森賢二(いけもり・けんじ)1937年、三重県生まれ。1959年、小田原瓦斯株式会社入社。1980年、現ファンケル設立、代表取締役社長就任。2005年、名誉会長就任。2013年、会長執行役員として復帰。
髙田明(たかた・あきら)1948年、長崎県生まれ。1971年、大阪経済大学経済学部卒業、阪村機械製作所入社。1986年、株式会社たかた設立。2015年、代表取締役退任。2017年、V・ファーレン長崎代表取締役社長就任。

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