企業再生とは、債務超過となってしまった企業を再建することだ。今回は、中小企業でも活用しやすい債務整理の種類を中心に、企業再生とは何か、企業再生の手法や流れを解説する。
企業再生の基礎知識
どのような企業でも、赤字と借入金の返済が続けば、いずれ債務超過となる。たとえ収益力のあるいい事業を持っている企業でも、競合他社の登場や原価の高騰などの要因が重なれば、あっという間に営業収支と財務収支のバランスが崩れてしまうのだ。もし債務を返済できる見込みがなくなれば、経営者は会社を畳むか再生するかを選択しなければならない。まずは、企業再生とは何か、基本的な事項を解説する。
企業再生とは?
企業再生とは、経営不振などによって債務超過となった企業を再建することをいう。廃業せずに会社を維持したまま、経営を立て直すことが目的だ。企業再生には、融資のリスケジュール、採算のとれない事業の見直し、それに伴う人員の整理、企業再編や外部資本の活用、そして債務超過を解決するための債務整理などがある。
経営が破綻してしまっている状態においては、債務整理を検討することが一般的だ。しかし、そうはいっても、具体的に何からどう手をつければいいのか、知識や経験がなければ判断するのは難しい。企業再生を支援する業種としては、弁護士や税理士などの士業や、コンサルティング会社のほか、行政が行うサポートもある。経営者は1人で抱え込まず、こうした専門家に早期に相談することが大切だ。早期にアドバイスを受ければ、選択肢の幅を広げることもできる。
企業再生と事業再生の違い
企業再生とよく似た言葉に「事業再生」というものがある。両者には、法令による明確な使い分けがあるわけではなく、どちらも会社の再生という意味において共通するため、使い分ける必要のない場面も多い。
使い分ける場合、企業再生は「企業単位での再生を図る」という意味で用いられることが一般的だ。再生の対象を企業単位で考え、会社を再建するという意味になる。これに対して、事業再生は「事業単位の再生を行う」という意味で用いられることが多い。業績の振るわない事業の廃止や、他の事業との統合などを中心に再生を考える場合だ。経営者として会社の再生を考える場合は、企業再生・事業再生のどちらも視野に入れて検討することとなるが、使い分けが求められる場面はないだろう。
企業再生の手法は2種類 法的再生と私的再生
すでに返済できる見込みがなく、経営が破綻してしまっている企業の場合、企業再生の中心は債務整理となる。債務整理とは、簡単にいうと金融機関など企業の債権者に対して、借金の免除を交渉することだ。もちろん、急にそのような交渉をするわけではなく、経営者は現状を十分に説明し、再生計画を立て、可能な限り返済を続けていくと約束した上で同意を求めることになる。
債務整理には、裁判所の関与を受けて行う「法的再生」と、裁判所の関与を受けない「私的再生」がある。それぞれにメリット・デメリットがあることから、経営者は企業にとって最良のものを選択しなければならない。
法的再生とは?
法的再生とは、裁判所の関与のもとで行われる法定の債務整理手続きのことだ。法的再生は、次の手続きに分かれる。
清算型 | 再建型 |
・破産 ・特別清算 |
・会社更正 ・民事再生 |
企業再生に活用されるのは、再建型の「会社更生」と「民事再生」の手続きになる。このうち、中小企業の再生に適しているのは、「民事再生」だ。
民事再生とは?
民事再生とは、民事再生法による法定の債務整理手続きを指す。民事再生を利用できるのは、次のいずれかに該当する法人や個人だ(民事再生法第21条第1項)。
・支払不能または債務超過(※)の恐れがある
・事業の継続に著しい支障をきたすことなく、弁済期にある債務を弁済することができない
民事再生では、企業は返済できる範囲で再生計画を作成し、債権者の多数の同意と裁判所の認可を受けることで、残りの債務を免除してもらうことが可能だ。 (※)存立中の合名会社・合資会社には債務超過は適用されない
会社更生とは?
会社更生とは、会社更生法による法定の債務整理手続きを指す。手続きを利用するには、株式会社が次のいずれかの要件を満たす必要がある(会社更生法第17条第1項)。
・ 支払不能または債務超過(※)の恐れがある
・ 弁済期にある債務を弁済することとすれば、その事業の継続に著しい支障を来す恐れがある
会社更生手続きでは裁判所が選任した管財人によって手続きが進められ、原則として経営者は退任となる。大企業を対象とした手続きであり、中小企業向けではない。
(※)存立中の合名会社・合資会社には債務超過は適用されない
民事再生と会社更生の違い
民事再生と会社更生を比べると、次のような違いがある。
民事再生 | 会社更生 | |
対象 | 法人・個人 | 株式会社 |
経営体制 | 変更なし | 経営陣が刷新される |
コスト | 約200万円~ | 事案による |
期間 | 約6ヶ月 | 約1年 |
裁判所に支払うコストには、申込手数料としての印紙代、事案に応じた予納金(あらかじめ納める金銭)などがある。高額になるのは、事案に応じた予納金だ。会社更生であれば、数千万円はかかるといわれる。民事再生では、負債額が5,000万円未満の場合で200万円となる。
【(参考)民事通常再生予納金】※事案によって増額する場合あり
法人の負債総額 | 基準額 |
5,000万円未満 | 200万円 |
5,000万円以上1億円未満 | 300万円 |
1億円以上5億円未満 | 400万円 |
5億円以上10億円未満 | 500万円 |
10億円以上50億円未満 | 600万円 |
50億円以上100億円未満 | 700万円 |
100億円以上250億円未満 | 800万円 |
250億円以上500億円未満 | 1,000万円 |
500億円以上 | 1,200万円 |
債権者の多数の賛成が得られれば、再生計画は認可される。つまり、債権者全員が同意していなくとも、債務免除を推し進めることが可能だ。 ・メリット:債権者から疑念を抱かれにくい
裁判所の手続きであるため、すべての債権者に法律で平等な扱いが保障される。他の債権者より不公平な扱いを受けているのではないか、といった疑いを抱かれにくい。 ・デメリット:企業再生の事実を知られる
法的再生は官報に掲載されるほか、すべての債権者を対象にして債務整理を行う手法であることから、経営破綻に陥ったことを広く知られてしまう。これにより、築き上げた企業の価値を損なう恐れもあるのだ。 ・デメリット:予納金が高い
民事再生であっても、最低200万円の予納金が必要となる。 ## 私的再生とは? 私的再生とは、裁判所の関与を受けずに債権者との話し合いで債務を整理することを指し、「私的整理」「任意整理」とも呼ばれている。 どのようにして債権者と合意を目指すかは企業が任意に決めることとなり、法的再生のような決まった流れはない。そのため、私的再生を得意とする専門家に依頼し、進めてもらうことも可能だ。一方で、型にはまった下記のような私的再生の方法もある。 ・中小企業再生支援スキーム
・私的整理に関するガイドライン
・事業再生ADR ### 中小企業再生支援スキームとは 中小企業再生支援スキームとは、中小企業再生支援協議会などが行う、中小企業を対象とした私的再生の支援をいう。中小企業診断士、弁護士、公認会計士、税理士などの専門家から構成される支援チームが、中立的立場で再生計画の策定から債権者への説明、再生計画の成立(債務免除)までサポートするものだ。 ### 【対象となる中小企業】 次の1、2のいずれかの要件に該当する中小企業者であって、かつ、青色申告書を提出する法人 1 資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人のうち、次に掲げる法人以外の法人 イ その発行済株式または出資の総数または総額の2分の1以上が同一の大規模法人(資本金の額もしくは出資金の額が1億円を超える法人または資本もしくは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除く。ロにおいて同じ)の所有に属している法人 ロ イに掲げるもののほか、その発行済株式または出資の総数または総額の3分の2以上が大規模法人の所有に属している法人 2 資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が 1,000 人以下の法人 中小企業再生支援スキームを利用するには、上記の法人の要件に加えて、さらに次の4つの要件をすべて満たすことが必要だ。 ・過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っており、自力による再生が困難であること。
・再生の対象となる事業に収益性や将来性があるなど事業価値があり、関係者の支援により再生の可能性があること。
・法的整理を申し立てることにより債務者の信用力が低下し、事業価値が著しく毀損するなど、再生に支障が生じる恐れがあること。
・法的整理の手続きよりも多い回収を得られる見込みがあるなど、債権者にとっても経済合理性があること。 なお、中小企業再生支援スキームで債権放棄を受ける場合は、原則、経営者は退任することとなる。これは、後述する「私的整理に関するガイドライン」「事業再生ADR」でも同じだ。 ただし、中小企業再生支援スキームでは「当該企業の再生に不可欠であるとして、引き続き経営に参画する」ことは認めている。その場合は「私財の提供を行うなど責任を果たすこととする」といった、経営者責任を果たすことが求められている。 参照:中小企業再生支援スキーム「6.再生計画案の内容 (5)」 ### 私的整理に関するガイドラインの特徴 企業と金融機関などの債権者の間で、私的整理を行う際のガイドラインがある。これは、平成13年に発足した「私的整理に関するガイドライン研究会」による、私的再生に関するルールブックといった位置づけだ。 企業は再建計画を作成し、債権者の理解と協力を得て債務免除を受ける。なお、私的整理に関するガイドラインでも、経営者は原則として退任となるが「経営悪化に伴って旧経営陣はすでに退任しており、新しいスポンサーや主力の金融機関から新たに派遣された経営者が、新経営体制の下で再建計画を作成し、債権放棄の申し出を行うなどのケース」を例外として挙げている。 参考:私的整理に関するガイドラインQ41 ### 事業再生ADRとは 事業再生ADRとは、事業再生実務家協会(JATP)が行う私的再生の支援をいう。専門のADR機関が、公正な第三者として話し合いに関わることで、債権者の意見をまとめ、交渉を円滑に進めることができるとしている。ADRとは、「裁判外紛争解決手続」の略称だ。申し込みには事前審査が行われ、そこで事業再生計画案の作成支援や個別面談などが行われる。 なお、経営者については原則として退任となるが、例外として「事業の継続に著しい支障を来す恐れがある場合を除く」となっている。 参照:事業再生ADR活用ガイドブックQ7 ### 中小企業再生支援スキーム等の流れ 中小企業再生支援スキーム・私的整理に関するガイドライン・事業再生ADRによる私的再生を選択した場合、細かい違いはあるが、債務免除の流れはおおむね次のようになる。 ・再生計画案の作成
↓
・主要債権者(金融機関など債権額の多い債権者)による一時停止(※)の通知
↓
・債権者会議で債権者の同意を得る
↓
・同意を得られた再生計画に基づき、債務免除を受けた残額の返済を行う 中小企業再生支援スキーム・事業再生ADRでは上記の流れを専門家が支援し、私的整理に関するガイドラインでは主要債権者が主導する。 (※)「一時停止の通知」とは、対象となる債権者全員に対し、個別の権利行使や債権保全措置の実行を控えるよう呼びかけるもの。 ## 私的再生のメリット・デメリットは? ・メリット:企業再生の事実がオープンにならない
法的再生と違い、企業再生の情報がオープンにならない。したがって、企業の価値を風評などで損なう恐れが少ない。 ・メリット:柔軟な対応ができる
債権者と合意することがゴールのため、法的再生よりも債権者と柔軟な取り決めが可能だ。 ・デメリット:債権者全員の同意が必要
法的再生は、債務免除について法令で決められた数の同意があれば、対象となる債権者全員に適用することができる。これに対し、私的再生には強制力がないため、同意が得られなかった債権者を再生計画の内容に従わせることはできない。 ## 企業再生の3つのステップ 企業再生を行うには、その企業が本当に再生可能か検討しなければならない。債務整理を行っても、当然すべての企業の経営がうまくいくわけではなく、そこにはバランスのよい営業収支と財務収支が必要となる。企業再生を検討する際には、まず営業収支と財務収支を見直し、本当に企業再生を行う必要があるか、行うとすればどの再生手法がよいかを考えることが大切だ。 ### STEP1.営業収支の改善 営業収支については、まずは現状分析をする。採算のとれていない事業がないか、コストが膨らみすぎていないかなどを見て赤字の原因を特定し、その改善を図ることが必要だ。 ### STEP2.財務収支の改善 財務収支については、資金繰りが悪化している原因を特定する。営業収支が黒字で支払いが追いついていない状態であれば、金融機関のリスケジュールで改善できる可能性が高い。また、遊休資産で売却できそうなものはないか、増資で改善できないかなども検討が必要だ。 ### STEP3.再生手法の選択 営業収支と財務収支を改善しても債務超過が解決しなければ、企業再生を検討する。収益力のある事業や再建できそうな事業があるか、企業再生を行う上でスポンサーとなってくれる企業はあるか、債権者に納得してもらえそうかといったポイントで、企業再生を行う価値があるかを考える。 債務整理でもち直したとしても、再び債務超過となれば周囲にさらなる損害を与えてしまうため、慎重に検討しなければならない。企業再生を行う場合、まずは私的再生から検討するとよいだろう。企業再生を行っていることを広く知られることなく解決できれば、それに越したことはない。 また、企業再生には融資のリスケジュール、採算のとれない事業の見直し、それに伴う人員の整理、企業再編や外部資本の活用など、さまざまな手法がある。どの方法で企業再生を進めるのかを企業再生の専門家に相談しながら、経営者として最良の選択をすることが大切だ。 ## 企業再生を行うには信頼できる専門家を見つけ早期に相談 企業再生を行う場合、経営者はさまざまな選択肢から最良のものを選び、会社を守らなければならない。そこには、企業再生に関する法律の知識が不可欠だ。 また、企業再生を進めていくには、法律の知識だけでは解決できない問題も山積している。例えば、債権者への説明会でどう伝えるのか、不採算事業の切り捨てを行うのであればどう従業員に説明するのかなど、どれも重く心苦しい問題ばかりだ。企業再生を行うには、信頼できる専門家を見つけ、早期に相談することが大切だといえる。 文・中村太郎(税理士)