揉めない相続,有価証券,遺産分割,新会社法
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

故人の財産の中には、銀行預金や現金などの金融資産、不動産、動産のほかに、有価証券が含まれている場合があります。

そこで、この記事ではこれらの有価証券の相続における取り扱いについて考えてみます。

有価証券とは

有価証券とは、一般には、「財産的価値のある権利を標章する証券」を指すとされています。

典型的な例としては、手形や小切手、株券、社債券等がその代表といえるでしょう。

一般に個人の相続において問題となるのは、株券(株式)といえるでしょう。

ところで、従来まで株式会社は株券を発行するのが原則とされていましたが、現在の会社法では株券は定款で株券を発行する旨を定めた会社のみが発行し(会社法第214条)、原則、株券の発行はなされていません。

会社法施行前からの会社では、なお、株券が発行されている会社もあると思われますが、現在、上場会社や商法改正により会社法が施行された後に設立された会社など、多くの会社では株券が発行されていないのが現実です。

ただ、会社に対する株主の権利である株式については、引き続き、「有価証券」と理解されていますので、本記事でもその前提で株式について見ていきます。

相続における株式の取り扱い

(1)遺産分割の対象になるか

株式は、会社に対して、株主として権利を行使する事ができる権利・地位ですので、財産的価値を有する権利として相続の対象となります。

株式は、その出資口数によって、一人の個人が複数の株式数を所有することができます。

ただ、相続の場合、それが当然に相続分によって分割されるわけではなく、遺産分割協議によってその帰属が決定されることになります。

(2)株式の帰属の問題

株式については、誰が権利者かを確認する事が重要となります。

①株券発行会社
株券発行会社においては、株式の譲渡は株券の引き渡しによって行われます。

したがって、株券を有する者が原則として株主となります。

株式は、株主名簿によって管理されていますが、たとえ会社の株主名簿上株主と表示されている者がいたとしても、株券がすでに他に引き渡しされている場合には、実体上は株券所有者が株主とされることになります。

※株主名簿の記載は、会社に対する権利主張の基準になるだけで、実体法上権利が株主名簿の記載によって決定されるわけではありません。

②株券不発行会社
株券の発行がなされていない会社の株式については、当事者間の意思表示によって株式の譲渡がなされます。

そのうち、上場会社など口座振替制度の対象となっている株式については、その振替口座簿の記載によって株主が誰かが決定されます。

一方、非上場会社などにおいては、式の移転はもっぱら当事者間の意思表示で効力が生じます。

株主名簿の記載は会社等に対する対抗要件に過ぎませんので、実際に株式が譲渡されているにもかかわらず、当事者間が名義書換手続きを行わなかったという場合もあることから、真実の株主が誰であるかということについて問題が生じる可能性がありますので、注意が必要です。

(3)譲渡制限株式について

株式の中には、譲渡制限株式があります。

これは、会社にとって好ましくない人が株式を取得することを防止するために、株式の譲渡に際しては会社の承諾を得ることを要するとされる制度です。

相続の場合は、株式の「譲渡」ではありませんから、直接、その制限が適用される者ではありませんが、これらの会社では定款で、相続等で株式を取得した者に対して、買い取りを請求できると定めることが認められています(会社法第174条)。

したがって、相続により株式を取得した場合、会社から買取を求められる場合がある点に注意する必要があります。

株式の評価

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株式等の有価証券においては、その価値をどのように評価するかが大きな問題となります。

その際には、相続税評価に際しての株式の評価方法が参考になるといえるでしょう。

(1)上場会社などの取引相場のある株式

上場会社の株式など、取引相場のある株式については、その取引相場の価格を基準に、評価額が決定され、以下の4つの方法で算定された価格のうちの最も低い価額とされています。

 ①相続があった日の終値
 ②相続があった日の属する月の終値の平均
 ③相続があった日の属する月の前月の終値の平均
 ④相続があった月の属する月の前々月の終値の平均

※店頭銘柄など、終値がない株式の場合には、「終値」ではなく、「取引価格」として評価します(高値と安値がある場合はその平均額)。

(2)公開途上にある株式

未だ上場または公開されていない物の、その手続き中の株式については、その公開価格によって評価されます。

(3)非上場株式など、取引相場のない株式

これらの株式については客観的な評価額がないため、以下のいずれかの方法で評価額が算定されます。

①類似業種比準方式
評価会社の業種に類似した上場会社の数値を基準として、評価会社の株式の価格を算定する方法です。

②純資産価額方式
相続開始時期における会社の純資産を、株式数で割ることで、その会社の一株あたりの純資産額を算出し、これをその株式の評価額とする方法です。

③併用方式
類似業種比準方式と純資産価額方式とを折衷して評価する方法です。

④配当還元方式
会社の過去の株主に対する利益配当における実績を基準として株式の評価額を算定する方法です。

株主が同族株主の場合については、①から③の方式が採用され、主に、大会社においては①の類似業種比準方式、中会社の場合には③の併用方式、小会社の場合には②の純資産価額方式が採用されます。

一方で、株主が同族株主以外の株主の場合には、配当還元方式が用いられます。

以上は、相続税の基準として株式を評価する際の計算方法ですが、遺産分割の際における株式の評価の際にも参考になるといえるでしょう。

したがって、基本的には、これに準じた形で評価額を決定し、それに基づいて遺産分割を行うことが妥当といえます。

まとめ

今回は、有価証券の代表として、株式を取り上げましたが、それ以外に公社債やゴルフ会員権など、有価証券にはさまざまな物があります。

相続人間でその価値の評価について、もめた場合には、弁護士や、税理士などの専門家による客観的な意見を聞いて、相続人が納得する評価額を算定する事がいいでしょう。(提供:ベンチャーサポート法律事務所