正しい相続手続き,生命保険,死亡退職金,納税資金
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

亡くなった方の財産が一定の金額を超えることになると相続税が課税されることになります。

それなら現預金として財産を保有するのではなく、受取人固有の権利として考えることができる生命保険や死亡退職金を活用しようと考えていたのに、蓋を開けてみれば相続財産とみなされると知りがっかりしたという話もあるようです。

ただ、生命保険や死亡退職金は確かに相続財産とみなされますが、一定の非課税枠が設けられているため、上手く活用することで相続税の納税資金として効果的に使うことができます。

生命保険金や死亡退職金も相続税の課税対象に

亡くなった方が生命保険に加入していた場合、支払われた死亡保険金は受取人が受け取ることになります。

この場合、誰が生命保険の保険料を負担していたのか、そして誰が死亡保険金を受け取る権利を得ているのかにより、課税対象となる税金の種類が変わってきます。

亡くなった方自身が自分を被保険者にした保険に加入して保険料も支払っていた場合において、死亡保険金の受取人が相続人であったとしたら、死亡保険金は亡くなった方の財産ではないにしても相続財産としてみなされ、相続税の課税対象となります。

亡くなった方が勤務していた会社などから死亡退職金が支払われた場合にも、その勤務先の退職金規定で定められた方が受取人となりますが、生命保険の保険金と同じくみなし相続財産となり、相続税が課税されます。

生命保険と死亡退職金の相続税法上の非課税限度額

ただ、亡くなった方が加入していた生命保険の保険金や死亡退職金は、残された遺族の生活を保障することを目的としています。

その性質から、受取人固有の権利として考えられているため、どちらも一定金額までは相続税が課税されないように、非課税枠が設けられています。

生命保険の保険金と死亡退職金の非課税額は、

500万円×法定相続人の数=非課税金額

で、計算された金額です。

この場合、法定相続人の数は、相続放棄の手続きを行った方がいたとしてもその数に含まれます。

また、養子縁組を結んだ子が法定相続人に含まれる場合、実子がいる場合は1人、実子がいない場合には2人までの養子を法定相続人の数に加えて計算します。

弔慰金や花輪代、葬祭料などは相続税の対象になることは一般的にありませんが、これらの名目で金銭を受け取っていても、実質上は退職手当などに該当すると認められる部分があれば相続税の課税対象となります。

亡くなった方が業務上の死亡の場合は最終報酬月額の3年分、業務上以外の死亡の場合は最終報酬月額の6ヵ月分を弔慰金などに相当する金額とするので、この金額を超える部分は退職手当金等として相続税の対象になると理解しておきましょう。

死亡退職金の活用方法

生命保険で受け取る保険金と同じ様に、死亡退職金や弔慰金なども非課税枠の範囲までは相続税が課税されません。

ただ、同族会社を経営していない限り、亡くなるまで働き続けて死亡したときに会社から死亡退職金を受け取ることは難しいといえます。

そこで、個人事業主の方や小規模な会社、不動産事業など経営をしている方なら、小規模企業共済等に加入しておくことにより、廃業しない限りは経営を続けることが可能です。

加入しておくことで、相続が発生したときには共済金を死亡退職金として受け取ることができます。

他にも、自身が所有する不動産を譲渡して法人を設立し、高収益経営を行って亡くなるまで経営に従事してもよいかもしれません。

いざ相続が発生したときには、相続人である子などに死亡退職金を受け取ってもらうのも方法の1つです。

遺留分の代償金や自社株式に対する納税金の備えにも

事業で利益を上げている事業会社なら、後継者に事業を続ける上で必要となる自社株式や事業用財産を相続させることにより、他の相続人の遺留分(法律で保障されている一定割合の相続分)を侵害することがあります。

この場合、経営者の生前に役員退職金規程を整備しておき、死亡退職金の受取人を後継者に指定しておきます。

それにより、受け取った死亡退職金を使って他の相続人に遺留分の代償金支払いに充てることができるでしょうし、自社株式に対して発生する相続税の納税資金に充てることも可能となります。

死亡退職金や弔慰金準備に生命保険を活用する方法

会社経営を行い、経営者の死亡退職金や弔慰金を支給しようと考えるのなら、自社でその資金を確保することが必要です。

この場合、会社の短期的な損益に関係なく、経費として扱うことができる定期保険契約を利用する方法を活用しましょう。

役員給与を一部減額し保険料に充てた場合などは、会社の資金繰りに影響することもありません。

役員退職金や弔慰金規定をしっかりと整備し、誰がその支給総額を受け取ることになるのか決め、資金を確保しておくことが必要です。

生命保険を活用して納税資金を確保する

正しい相続手続き,生命保険,死亡退職金,納税資金
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相続財産の大半を不動産や自社株式が占めている場合なども、相続税の納税に生命保険を活用することができます。

ここで注意しておきたいのは、

  • 保険料負担者と保険金受取人により課税される税金は異なること
  • 非課税枠を超えれば生命保険金でも相続税が課税されること
  • 相続税より税率が低い一時所得になる契約を結ぶこと
  • 贈与税と所得税の合計額と相続税を比べた上で契約すること

の4点です。

保険料負担者と保険金受取人により課税される税金は異なる

生命保険に加入するとき、誰に対して保険を加入し、誰が保険料を支払うのか、そして最終的に支払われる死亡保険金を誰が受け取るのかによって、課税される税金が次のように異なります。

相続税だけでなく、所得税または贈与税の対象となる場合もあるので、内容を把握しておいた上で保険契約を結ぶことが重要です。

また、保険の契約者が保険料負担者と思い込んでいる方も少なくありませんが、実はこの両者を一致させなければならない取り決めはありません。

契約者を子として親が保険料を支払っているケースも実際にあります。

この場合、収入のない子が満期保険金を受け取れば、子自らが保険料を負担したことを立証できない限り、収入のある親が保険料を負担したとみなされるので贈与税の課税対象となります。

他にも、保険契約者は妻で夫が被保険者という保険契約において、保険料は夫の口座から引落しになっていたとします。

被保険者である夫が亡くなり、妻が死亡保険金を受け取ると、保険料を負担していたのは夫とみなされるので相続税の対象となるのです。

保険料負担者 被保険者 保険金受取人 保険金の種類 かかる税金
本人 本人 本人 満期保険金 所得税
本人 本人 妻・子等 満期保険金 贈与税
本人 妻・子 本人 満期保険金 所得税
本人 本人 相続人 死亡保険金 相続税
本人 本人 相続人以外 死亡保険金 相続税
本人 妻・子等 本人 死亡保険金 所得税
本人 孫等 妻・子等 死亡保険金 贈与税

▼相続税の課税対象となる場合
死亡保険金の保険料負担者が被相続人(亡くなった方)の場合は相続税の課税対象となります。

ただ、受取人が相続人なのか、相続人でないかによって税額が異なるので、相続人以外であれば、相続人が受け取ったときのように非課税枠は適用されず、受取人が一親等の血族(養子となった孫以外)および配偶者以外の場合は、相続税額が2割増しになってしまいます。

そのため、非課税枠を上手く活用するためにも、死亡保険金の受取人は相続人にしたほうがよいといえます。

▼相続税以外が課税される場合
保険料を負担していた方が被相続人(亡くなった方)以外の場合は、保険料負担者が死亡保険金を受け取ったときは所得税、保険料負担者以外の方が保険金を受け取ったときには贈与税が課税されることになります。

贈与税のほうが税率は高いので、贈与税が課税されることを避けるためにも死亡保険金の受取人は保険料負担者にしておくことが望ましいでしょう。

▼生命保険の受取人は誰に指定すればよいか
生命保険に加入するときには、誰を受取人にするのか指定する必要があります。

一般的には配偶者を受取人にすることが多いですが、配偶者には相続税法上、軽減措置が設けられています。

その内容とは、配偶者が相続する財産のうち、法定相続分または1億6,000 万円までは相続税が課税されないというものです。

そのため、もし相続税の納税資金に生命保険を活用するのなら、そもそも相続税が課税されないと考えられる配偶者よりも、相続税の課税対象となりやすい他の相続人(子など)を受取人に指定したほうがよいと考えられます。

また、生命保険の非課税枠を活用する際、被保険者が長生きすることで保険期間が終了する可能性のある養老保険や定期保険よりも、一生涯保障が継続される終身保険が適しています。

非課税枠を超えれば生命保険金でも相続税が課税される

いくら非課税枠が設けられているからといっても、この枠を超えれば相続税の課税対象となっていまいます。

生命保険金を納税資金の準備に活用するという面でみたとき、どれほど多額な保険金を受け取ったとしても不足が生じることとなるでしょう。

特に富裕層の場合、死亡保険金に対しても高い率で相続税が課税されることになるので、生命保険金で相続税額をすべて補うことは余計難しくなると理解しておくべきです。

相続税より税率が低い一時所得になる契約を結ぶこと

非課税枠を超えた死亡保険金を受け取った場合、相続税が課税されることになるのであまりにも多額の死亡保険金を受け取ることができる保険に加入することは、相続税部分からみれば有利とはいえません。

そこで、税金の負担を抑えながら納税資金を準備できるように、保険料の贈与プランを検討してみましょう。

保険料贈与プランとは、将来納めなければならなくなる相続税の納税資金の不足額に見合う生命保険契約の保険料相当額より多い金額を、毎年、相続人(子など)に贈与する方法です。

贈与を受けた相続人(子など)が、自身で受け取ったお金を使い、親に保険をかけることで納税資金を準備します。

所得税の負担については、死亡保険金が高額でも子の一時所得となり、「保険金額-支払った保険料-50万円」の2分の1 となっています。

そのため、最高税率である55%が適用されるとしても、その半分の27.5%より低い税負担で済むということです。

贈与する際に年間110万円の基礎控除が適用される暦年課税を選択した場合には、相続開始前3年以内の贈与財産以外は相続財産に含まれません。

そこで、毎年払う贈与税額と受け取る高額な死亡保険金に対しての所得税を合算した実効税率と、相続税の実効税率を比べて、低い税率の範囲で贈与するようにするとよいでしょう。

相続税の実効税率が高い方ほど有効な対策なので、贈与税のほうが少し高いと感じても必要経費と考えれば得をします。

▼すでに相続税に適用税率が50%以上に達している場合
相続税の適用税率が50%以上の税率に達している方も同様です。

仮に非課税金額を控除した上で死亡保険金を1億円受け取ることができたとしても、相続税を5,000万円納めることになってしまいます。

しかし、これが一時所得として受け取った場合には、税金の対象となる課税所得は、保険金から支払保険料を差し引き、さらに50万円の特別控除が適用されたものに2分の1をかけて計算されることになります。

そのため、最高でも税率は27.5%までに抑えることが可能です。

贈与税の特例税率は、600万円を超えれば30%以上になりますが、相続税率は5,000万円を超えても30%であると考えると、富裕層の方にとっては低い税率で済むといえます。

保険金受取人が保険料を負担する保険契約となっている場合、富裕層なら効果の高い納税資金確保の方法として活用できるはずです。

贈与税と所得税の合計額と相続税を比べた上で契約すること

子が親を被保険者とし、将来納付しなければならない相続税を支払うため、必要な保障額に見合う終身保険に加入します。

子が保険料相当額の資金を持っていないという場合、不足する金額以上の現金を親から子に毎年少しずつ贈与することで、相続税の納税資金準備することができます。

保険料相当額以上の現金を贈与することにより、次の2つの効果を得ることができます。

  • 親の財産が減少させることを可能とすることで相続税対策に繋がる
  • 相続人の手取額を増加させることで納税資金対策に繋がる

ただ、贈与税や所得税・住民税が多額に発生しないように、税金効果を確認した上で検討するべきといえます。

まとめ

生命保険や死亡退職金は、相続人が負担しなければならない税金の準備資金として活用することができます。

ただ、方法を間違うと余計な税金が課税されることになったり、十分な効果を得ることに繋がらなくなってしまいますので、適切と思える方法か検討した上で活用するようにしてください。(提供:ベンチャーサポート法律事務所