相続税の軽減措置として、「小規模宅地等の特例」という制度があります。
本記事では、この制度について確認するとともに、平成30年の相続税・贈与税の税制改正によって変更されたポイント、それによって具体的にどのような影響が出るのかについても、あわせて確認したいと思います。
小規模宅地等の特例の制度
(1)制度趣旨
自宅の敷地である宅地や事業用に使用していた宅地を所有していた方が亡くなった場合、それらの宅地は相続人に相続されることになります。
これらの自宅の宅地や事業用の宅地は、相続人にとっても生活の基礎となる財産だったり、事業を引きついで継続していく上で必須の財産といえるため、相続人がその所有を維持できるようにすることが要請されます。
ところで、相続が開始された場合において、相続財産の評価額が基礎控除額を超える場合には相続人は相続税を納めなければならないことになります。
その際の税率は、相続財産の評価額によって最も税率の低い10%から最高で55%までとされていて、相続財産の評価額が高いほど税率も高いという、超累進課税となっています。
以上から、相続した宅地の評価額が高い場合、相続人は多額の相続税を負担しなければならないこととなり、その結果、相続人は相続税を納めるために相続した自宅や事業用の不動産を売却しなければならないという事態に陥るなど、その生活が脅かされたり、事業の継続が困難になってしまう可能性が生じることになりかねません。
そこで、法律は、それらの居住用宅地や事業用の宅地を相続によって取得した相続人が、一定の要件を満たす場合には、その宅地の相続税評価額を大幅に減額するという形で、相続人がこれらの必要不可欠な財産を売却しなくてもすむような制度を設けました。
これが「小規模宅地等の特例」という制度です。
(2)小規模宅地等の特例の種類
小規模宅地等の特例の制度については、その宅地の種類によって、大きく2つに分かれます。
一つは居住用宅地で、もう一つは事業用宅地です!。
そして、事業用宅地は、さらに、事業自体の用に供していた宅地についての特例(特定事業用宅地)と、不動産賃貸業の用に供していた宅地(不動産貸付用宅地)についての特例の2つに分けられます。
以上を整理すると、次のようになります。
【小規模宅地等の特例】
居住用宅地(特定居住用宅地) | |
---|---|
事業用宅地 | 特定事業用宅地 |
不動産貸付用宅地 |
以下、それぞれについて、この特例が適用される宅地の要件、および、この特例を受けられる相続人、効果について見ていきます。
特定居住用宅地
(1)対象となる「宅地」の要件
被相続人が所有していた宅地で、かつ、次のいずれかに該当する宅地です。
①被相続人の居住の用に供されていた宅地
②被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地
ここにいう「親族」とは、被相続人の6親等内の血族、配偶者、および3親等内の姻族(配偶者の血族)をいいます。
また、「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要するのもではありませんが、その生活費などが同一の財布から支出されている関係が認められる場合をいいます。
例えば、通学や療養などのために別居していた場合でも、その生活費などを被相続人が仕送りするなどして負担していた場合には、「生計を一にする」と認められることになります。
この宅地の要件に関して、被相続人がなくなる直前に介護施設等に入居していた場合に、「被相続人の居住のように供されていた宅地」といえるかが問題とされていました。
これに関して、平成30年の税制改正において、被相続人が介護医療院に入居したことで居住用に使われなくなった場合でも、その土地は小規模宅地等の特例の適用対象となることが明確化されました。
(2)特例が認められる相続人
特例が認められるのは、以下の相続人です。
被相続人の居住の用に供されていた宅地
①被相続人の配偶者
配偶者が居住用宅地を相続した場合については、それ以外の特別の条件なく、当然に小規模宅地等の特例の適用が認められます。
②被相続人と同居していた親族(配偶者を除く)
配偶者以外の同居の親族が居住用宅地を相続した場合には、その者が相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月)まで、引き続きその宅地に居住し、かつ、その宅地を所有している場合に限って、小規模宅地等の特例の適用が認められることになります。
③被相続人に配偶者および同居していた法定相続人がない場合に限って、上記①②以外の親族で、
(a)相続開始前3年以内に取得者自身、取得者の配偶者、取得者の三親等以内の親族、または、取得者と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋に居住したことがなく、
(b)相続時に居住している家屋を過去のいずれの時においても所有したことがなく、
(c)取得者が、相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月)までその宅地に居住し、かつ所有を継続している場合に限って、小規模宅地の等の特例の適用が認められることになります。
なお、この③の相続人は、いわゆる「家なき子」の特例といわれています。 そのため、被相続人の孫などが被相続人の家屋を取得した場合、改正前は、相続開始3年以内に、その者本人または配偶者が所有する家屋に居住していなければ特例を受けることができました。
しかし、今回の改正により、相続開始から3年以内に親が所有する家屋に居住していた場合には、(a)の三親等内の親族が所有していた家屋に居住していたことがない、という要件を満たさないことになり、特例を受けることができないこととなりました。
また、改正前は、相続開始の3年以上前に所有家屋を売却し、その後その家屋を賃借して居住していた者が被相続人の居住用建物を相続した場合でも、相続開始3年以内に所有家屋に居住していない以上特例を受けることができました。
しかし、今回の改正で(b)の要件が定められたことにより、3年以上前でも、相続開始時に居住していた家屋を過去に所有していたことがある場合には、特例を受けることはできなくなりました。
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地
①被相続人の配偶者
被相続人の配偶者が相続によってこの宅地を取得する場合については、特段の条件なしに、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
②被相続人と生計を一にしていた親族
相続開始前から相続税申告期限(相続開始から10ヵ月)まで当該宅地に居住し、かつ、その所有を継続している場合には、小規模宅地等の特例を受けることができます。
(3)特例の効果
当該宅地について、最大330平方メートルまでの部分について、評価額が80%減額されます。
つまり、本来の評価額の20%相当額として評価される!ことになります。
例えば、200平方メートルの宅地の評価額が5,000万円であった場合、小規模宅地等の特例が適用される場合には、その宅地の評価額は、
5,000万円-(5,000万円×80%)=1,000万円
となります。
なお、その宅地の面積が330平方メートルを超える場合には、330平方メートルまでについては80%減額評価され、残りの面積については本来の評価額で評価されます。
500平方メートル、評価額8,000万円の宅地の場合の評価額は、
(8,000万円×330㎡/500㎡×20%)+(8,000万円×170㎡/500㎡)=3,776万円
となります。
特定事業用宅
(1)対象となる「宅地」の要件
被相続人が所有していた宅地で、かつ、次のいずれかに該当する宅地です。
①被相続人の事業の用に供されていた宅地
②被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地
③被相続人または被相続人と生計を一にする親族が50%以上の株式等を持つ会社が事業に使用していた宅地
ここにいう「親族」、「生計を一にする」とは、居住用宅地の場合と同じ意味となります。
(2)特例が認められる相続人
特例が認められるのは、以下の相続人です。
被相続人の事業の用に供されていた宅地
(a) 当該宅地上で営まれた被相続人の事業を相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月)までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること
(b) その宅地を相続税の申告期限まで所有していること
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地
(a) 相続開始の直前から相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月)まで、その宅地の上で事業を営んでいること
(b) その宅地を相続税の申告期限まで所有していること
被相続人または被相続人と生計を一にする親族が50%以上の株式等を持つ会社が事業に使用していた宅地
(a) 相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月)において、その法人の役員であること
(b) その宅地を相続税の申告期限まで所有していること
(3)特例の効果
当該宅地について、最大400平方メートルまでの部分について、評価額が80%減額されます。
つまり、本来の評価額の20%相当額として評価されることになります。
不動産貸付用宅地
(1)対象となる「宅地」の要件
被相続人が所有していた宅地で、かつ、次のいずれかに該当する宅地です。
①被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地
②被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地
③相続開始前3年以内に貸付事業に使い始めた宅地等でないこと
これらの「宅地」の要件のうち、③の要件は、平成30年の税制改正によって新たに設けられた要件です。
それ以前は、貸付事業に使い始められたタイミングについては制限がありませんでしたが、それでは、相続開始直前に駆け込み的に賃貸に出すことによって、この特例を不当に利用することが可能となってしまうため、新たな要件として追加されたものです。
なお、ここにいう「親族」、「生計を一にする」の意味は居住用宅地についてと同じ意味です。
(2)特例が認められる相続人
特例が認められるのは、以下の相続人です。
被相続人の貸付事業のように供されていた宅地
(a) その宅地にかかる被相続人の貸付事業を相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月)までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること
(b) その宅地を相続税の申告期限まで所有していること
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地
(a) 相続開始前から相続税の申告期限(相続開始から10ヵ月)まで、その宅地等にかかる貸付事業を行っていること
(b) その宅地等を相続税の申告期限まで所有していること
(3)特例の効果
当該宅地について、最大200平方メートルまでの部分について、評価額が50%減額されます。
つまり、本来の評価額の半額として評価されることになります。
まとめ
以上、小規模宅地等の特例の内容について見てきました。
この特例についての平成30年税制改正における変更点は、特定居住用宅地におけるいわゆる「家なき子特例」への適用要件の変更、および、不動産貸付用宅地の要件が大きなものでした。
ただ、この特例については、例えば、共有の場合の取り扱い、二世帯住宅の場合の取り扱いなど、具体的な事情によって要件に該当するかの判断が微妙な場合も数多く考えられます。
したがいまして、この特例の実際の適用については、必要に応じて専門家等に相談されることをおすすめします。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)