黒字でも廃業せざるを得ない経営者がいる。創業企業を廃業することは、経営者にとって重い決断だ。廃業せざるを得ないという状況はなぜ起きているのか、その理由について解説する。また、廃業にかかる多額のコストの問題や、廃業を回避するための選択肢もあわせて紹介する。

目次

  1. 黒字かつ資産超過でも廃業を選ぶ経営者たち
  2. 経営者が「廃業せざるを得ない」と考える代表的な3つの理由
    1. 1.後継者がいない、後継者に事業承継の意志がない
    2. 2.後継者となる従業員を育成するノウハウや時間がない
    3. 3.第三者承継(M&A)を選択肢に入れていない
  3. 廃業にかかるコストとデメリット
  4. 廃業を考えたときに知っておきたい選択肢
    1. 1.親族内承継
    2. 2.社内承継
    3. 3.第三者承継(M&A)
  5. 社内承継や第三者承継(M&A)が増加している
  6. 第三者承継(M&A)を後押しする国の制度
  7. 事業承継に向けて早めに動き出すことが大切
あなたの会社は本当に廃業せざるを得ないのか
(画像=umaruchan4678/stock.adobe.com)

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黒字かつ資産超過でも廃業を選ぶ経営者たち

赤字で事業が立ち行かなくなり、廃業を選択するのは自然なことだ。しかし、帝国データバンクの「全国企業休廃業・解散動向調査(2022年)」によると、2022年に休廃業・解散を選択した企業のうち54.3%が黒字だと分かった。また、資産が負債を上回る資産超過の企業は全体の63.4%だった。

休廃業や解散を選択した企業の代表者の平均年齢は71.0歳で、ピーク年齢は75.0歳だ。年代別の構成比を見ると、60代が21.7%、70代が41.1%で、70代での休廃業・解散が最も多い。2016年は60代の構成比が70代を上回っていたが、2017年に逆転し、構成比の差は毎年のように開いている。

休廃業・解散を選択する経営者の高齢化が進む背景には、後継者不足の問題がある。最近は、親の事業を引き継ぐのではなく、自分で職業を選びたいという子ども世代が増え、親族内で後継者を見つけるのが難しくなってきている。

政府は事業承継支援に積極的だが、情報不足などから支援にアクセスできず、廃業せざるを得ない経営者もいるのが実態だ。

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経営者が「廃業せざるを得ない」と考える代表的な3つの理由

経営者が「廃業せざるを得ない」という判断にいたる理由は、どこにあるのか。続いては、後継者不足をはじめ、承継期の経営者が直面する課題について解説していく。

1.後継者がいない、後継者に事業承継の意志がない

後継者として十分な能力を持つ親族がいなかったり、能力はあっても事業承継の意志がなかったりすると、親族内承継をあきらめざるを得ない。この時点で「後継者がいない」と考え、廃業するしか道がないと考える経営者は多い。

2.後継者となる従業員を育成するノウハウや時間がない

親族内に後継者がいない場合、従業員に事業を引き継ぐという選択肢もある。長年勤めており事業への理解が深い従業員なら、事業承継もスムーズに進みやすい。

しかし、従業員として働くのと、経営者として全体を束ねるのではわけが違う。事業を承継するには、後継者候補に経営のノウハウを教え、後継者として育成しなければならない。

事業承継の時期を踏まえると、後継者を育成する十分な時間がないというケースも多い。また、後継者を教育するためのノウハウがなかったり、後継者候補に途中で心変わりされてしまったりして、さまざまな問題が出てくることもある。

3.第三者承継(M&A)を選択肢に入れていない

親族にも従業員にも後継者がいなかったとしても、第三者承継(M&A)という選択肢がある。M&Aなら、仲介会社を通じて、幅広い選択肢の中から自社に合う後継者を探すことができる。

しかし「M&Aはよく分からない」「抵抗感がある」「良い買い手が見つからないだろう」といった理由で、最初からM&Aを選択肢に入れていない経営者もいる。そうなると、廃業せざるを得ないという結論にたどり着く。

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廃業にかかるコストとデメリット

経営者としては、後継者が見つからないと「廃業せざるを得ない」と考えてしまいがちだ。しかし、廃業には多額のコストがかかる可能性があることに注意したい。

たとえば、廃業するときは次のようなコストが発生する。

・建物の解体費用
・物件の原状回復費用
・設備や機械の処分費用
・在庫処分費用
・税理士や司法書士に支払う報酬

廃業コストは、事業規模や事業内容、設備や機械によって大きく異なるものの、数百万円はかかるケースが多い。場合によっては、1,000万円を超える費用がかかることもある。

廃業コストによって、会社にある資産が減ってしまうのはもったいないことだ。勇退後にゆとりある老後生活を送るためにも、廃業以外の選択肢にも目を向けるようにしたい。

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廃業を考えたときに知っておきたい選択肢

廃業にいたるまでに、3つの事業承継について知り、希望する形で事業を引き継ぐことを考えてみてほしい。続いては、事業承継の3つの選択肢について詳しく解説していく。

1.親族内承継

親族内承継とは、親族に事業を引き継ぐことだ。実子以外に、甥や姪に事業を引き継ぐケースもある。

親族に後継者がいれば廃業を考えることはないと思うかもしれないが、もう一度、実子以外の親族や配偶者の親族にも目を向けて、後継者候補がいないか検討してみる価値はある。

親族内承継は、顧客や取引先、従業員から心情的に受け入れられやすいことがメリットだ。また、先に代表取締役を交代して経営権のみを後継者に引き継ぎ、自社株は時間をかけてゆっくり贈与していくなど、柔軟に承継を進められるというメリットもある。

一方、親族内承継は相続とも密接にかかわるため、他の親族への配慮をおろそかにすると、相続争いが発生しかねない。親族内承継では、専門家にも相談しながら、遺言などを活用して進めていくことが大切だ。

2.社内承継

親族に後継者がいなければ、続いて選択肢となるのは従業員への承継だ。

社内承継なら、仕事ぶりを見て適任者を選べるため、現場の混乱が少なく、スムーズな事業承継が叶うというメリットがある。また、自社株の売却益を得られるため、オーナー経営者の勇退後の生活にゆとりが生まれることもメリットだ。

一方、ある役員に事業承継を打診したら、別の役員が腹を立てて離職するなど、社内で軋轢が生じてしまうことがある。従業員同士の人間関係には十分配慮することが大切だ。

また、社内承継では、従業員の資金力が問題になることが多い。自社株を従業員に引き継ぐには、従業員がオーナー経営者から自社株を買い取らなければならない。しかし、自社株を買い取るのに十分な資金を従業員が持っていなかったり、高額な買い取り資金を捻出するのに抵抗感を抱いたりするケースが多い。

せっかく後継者候補が見つかっても、資金力の問題で話しが進まなくなるのはもったいないことだ。資金力の問題を解決するスキームはいくつか存在するため、専門家に相談しながら進めることが望ましい。

3.第三者承継(M&A)

親族にも従業員にも後継者にふさわしい人物がいなければ、第三者から広く後継者候補を探す第三者承継(M&A)を検討することになる。

M&Aのメリットは、幅広い候補者の中から適任者を探せることや、自社株の売却益を得られること、買い手の事業内容との相乗効果でさらに事業が発展していくことだ。廃業せずにすめば、従業員の生活を守ることもできる。

M&Aでは、M&A仲介会社に依頼して後継者候補を探すことが一般的だ。担当者とともに自社の財務状況や強みを分析し、社名を伏せて買い手を探していく。双方の条件が一致すれば、社名を明かし、経営者同士が直接対話するトップ面談へと移る。

M&Aは、お互いの経営理念について対話したり、専門家をまじえて条件交渉をしたりしながら、じっくりと進めていく。後継者が見つからなくてもまずはM&Aで後継者を探し、どうしても候補者が見つからず条件が合わなかったときに廃業を考えるのでも遅くはないはずだ。

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社内承継や第三者承継(M&A)が増加している

ひと昔前まで親族内承継が一般的だったが、近年は、社内承継やM&Aが増加しつつある。M&Aに抵抗感を抱く経営者は減り、当たり前の選択肢として検討されることも増えてきている。

帝国データバンクの「全国企業後継者不在率動向調査(2022年)」によると、2022年の後継者不在率は57.2%だった。2017年は66.5%を記録したが、その後は減少に転じ、コロナ前の2019年から2022年にかけて8.0ポイントも減少した。

後継者不在率が減少傾向にある理由は、社内承継やM&Aの増加だ。2022年の親族内承継は34.0%で、社内承継にあたる内部昇格が33.9%、買収や出向を中心としたM&Aほかが20.3%だった。親族内承継は減少傾向にある一方、内部昇格やM&Aほかは増加傾向にある。

コロナ禍で自社の将来と改めて向き合い、事業承継を決断した会社も多いと考えられる。事業承継の非同族化の流れは、今後も加速していくだろう。

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第三者承継(M&A)を後押しする国の制度

中小企業は日本の全企業の99.7%を占め、日本人の約7割が中小企業に雇用されているといわれている中、国も中小企業を守るため事業承継を後押ししている。後継者不在の企業は、M&Aに関する補助金の情報に注目しておきたい。

たとえば、M&Aで活用できる補助金に「事業承継・引継ぎ補助金」の「専門家活用事業」がある。M&A仲介業者などの専門家を活用してM&Aをすると、仲介手数料などの補助対象経費の2分の1が補助される(補助下限は100万円、補助上限は廃業費等を含む場合550万円)。

「専門家活用事業」には買い手支援型と売り手支援型があり、要件を満たせば、買い手、売り手の双方が補助金を受け取れる仕組みだ。

2022年は7月に公募開始となり、ウェブ説明会も開催された。2023年の情報にも注目しておきたい。

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事業承継に向けて早めに動き出すことが大切

親族に後継者がいないと「廃業せざるを得ない」と考える経営者がいる。しかし、社内承継やM&Aなど幅広い選択肢に目を向ければ、廃業しなくてもすむケースが多い。

廃業するとなると、多額の廃業コストがかかり、勇退後の生活に支障が出る可能性もある。廃業を選ぶのは他の選択肢が消えてからでも遅くはないので、まずは廃業以外の事業承継の可能性に目を向けることが大切だ。

心身ともに限界を感じつつも、後継者が見つからず、やむを得ず自分で経営のかじ取りをしている経営者もいる。しかし、無理を続けていると、突然、健康状態が悪化し、廃業をよぎなくされることになりかねない。そうなれば、顧客や取引先、従業員にも影響が及ぶことになる。

またM&Aでは、資産や売上によって、会社の売却額が変わることがある。売上が下がり資産が目減りする前にM&Aを考え始めると良いだろう。

事業承継は、経営者にとって最後の大仕事ともいわれている。早めに会社の未来について考え、幅広い選択肢を検討しながら、事業承継に向けて具体的な行動を起こすようにしたい。

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文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)

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