厳しい経営環境であっても、経営者としては、倒産だけは避けたいはずだ。ただ、何の前兆もなく、いきなり倒産してしまうことはほとんどない。そこで本記事では、倒産という最悪の事態を防ぐために気をつけておくべきことを紹介する。
目次
黒字倒産につながる「運転資金不足」
そもそも、倒産とはどういう状況になった場合のことを言うのだろうか。実は、倒産は法律などで定義づけられたものではない。一般的に、手元にある現預金(=キャッシュ)で債務の支払いができなくなった状況、すなわち、運転資金がショート(不足)した状況を指して「倒産」と呼んでいる。
意外と多い黒字倒産
帳簿上で黒字なのか、赤字なのかは、倒産に直接は関係しない。倒産するかどうかは、債務を弁済できるだけのキャッシュがあるかどうかにかかっているわけだ。そのため、決算では黒字なのに、キャッシュがないために倒産する「黒字倒産」が起きてしまう。
黒字倒産は意外なほど多く、東京商工リサーチの発表によると、2021年に倒産した企業の61%が直近の決算が赤字で、残る39%が黒字だった(負債総額1,000万円以上で、東京商工リサーチが3期連続で財務データを保有する308社が対象)。その前年の2020年は黒字倒産が55.6%と半数以上を占めていた。
黒字ならある程度の利益があるはずだが、なぜキャッシュが足りなくなるだろうか。黒字倒産になるパターンを紹介しよう。キーワードは「キャッシュ」だ。
掛け取引が黒字倒産の引き金に
商売をする上では、掛け取引がよく行われる。売掛金の回収や買掛金の支払いのタイミングは、取引先との取り決めに基づいて決められる。例えば……
・1ヵ月後、A社に買掛金100万円を支払う
・2ヵ月後、B社から売掛金100万円が入金される
という取り決めだったケースを考える。この場合、2ヵ月後の売掛金の入金より先に、買掛金を支払う期日が来てしまう。ということは、手元にキャッシュがなければ、A社に100万円を支払うことができない。
このように、入金と支払いのサイクルのずれが原因で、キャッシュが不足することが起こりうる。売上があって利益が出ていても、買掛金という債務を弁済できなければ、それは倒産につながる。これが、黒字倒産にほかならない。
過剰在庫によって黒字倒産
会計上、商品の仕入れにかかった支出は、売上があってはじめて、費用に計上される。販売されないままの在庫分の支出については損益計算書に現れてこないため、黒字になりやすい。といっても、実際に利益が上がっているわけではなく、見かけ上で黒字になっているだけだ。
在庫は企業にとっての資産だが、販売できなければ、キャッシュが入ってこない。売上が減って在庫がどんどん増えていけば、仕入れるための代金の支払いも難しくなる。この状況が続けば、債務を弁済できず、倒産に至るだろう。決算上は黒字なのに、運転資金がショートしたことによる黒字倒産だ。
運転資金不足を避けるためには?
将来の収入と支出の流れを記録する「資金繰り表」が役に立つ。運転資金不足になるのは、入金と支払いのサイクルのずれ、売上と費用の計上のタイミングのずれが原因だ。そのずれをしっかり反映させ、月末の残高がいくらになるかを把握することで、運転資金不足を避けやすくなる。
ただ、くれぐれも、取引先の倒産などで売掛金が回収不能になる可能性があることは想定に織り込んでおきたい。
債務超過によって「融資が受けられなくリスク」
債務超過とは、会社の財務状況が悪化して負債が増えていき、負債の額が資産の額を上回った状態のことだ。運転資金が足りていれば、債務超過だからといって、すぐに倒産するわけではない。
少し古いデータだが、2019年版中小企業白書によると、2007年度から2016年度までいずれも中小企業の30%以上が債務超過状態だった。
債務超過と赤字の違い
債務超過と混同しやすいが、「赤字」は、単年度の収支がマイナスになっている状況を指す。債務超過は、これまでの経営の結果を累積したものであるのに対し、赤字は単年度の経営成績を示している。
単年度では赤字であっても債務超過ではないことがある。逆に、単年度では黒字だが、実際は債務超過に陥っていることもある。
債務超過のデメリット
債務超過であるということは、保有資産のすべてを売却しても負債が返済できない状態だ。財務の健全性が大きく損なわれている状態でもあり、債務超過になると、次のようなデメリットがある。
・金融機関からの融資が受けにくくなる
・借入金の返済を早められる恐れがある
・取引先からの信用が低下し、取引が打ち切られる恐れがある
もともと財務状況がよくない中で、上記のようなことが起きると、たちまち運転資金がショートしてしまうだろう。このうち、融資を断られるパターンにはどのようなものがあるかを見ていこう。
経営体質の改善が見込めず、融資を断られる
債務超過が一時的なものだったり、債務超過ではあっても直近の決算で十分な利益を上げていたりすれば、新たな融資を受けられる可能性もある。
ただ、債務超過を脱するには、資産を増やして負債を減らすしかない。そのためには、経営体質を改善することが必須だ。融資の申し込みにあたって提出する経営改善計画書で、しっかりと改善に至る道筋を示せなければ、融資を断られるだろう。
流動負債が多いため、融資を断られる
債務超過は、負債が資産を上回る状態だが、負債の内容も融資にかかわってくる。負債といっても、大きく2種類に分けられる。
・流動負債……1年以内に支払い期限が到来する負債
・固定負債……支払い期限が1年を超える負債
このうち、流動負債が多ければ、短期間で多額の返済が迫られることになるため、金融機関からの評価も下がり、よりいっそう融資を受けにくくなる。
一方で、不動産など借入金を上回るだけの資産を担保として提供できる場合や、保証人に十分な返済能力がある場合は、融資を受けられるかもしれない。そうでなければ、融資を受けることは難しいだろう。
債務超過を解消するには?
債務超過の状態にある企業は、赤字体質であることが多い。まずは、経営の改善で黒字体質に変えることが第一だ。ただ、これは長期間をかけて徐々に債務超過を解消していく方法である。
短期的には、経営者自らの資産を活用するほか、出資者を募って増資する方法がある。また、土地や有価証券など保有する資産の時価が簿価を上回り、含み益がある場合は、売却して借入金の返済に充てることで債務超過を圧縮し解消につなげられる。
事業不振で「赤字続き」
単年度の収支がマイナスとなる赤字が続けば、どうなってしまうだろうか。赤字が続けば、現預金がどんどん減少していき、運転資金が不足するだろう。また、純資産が取り崩されていく結果、いずれは債務超過に陥ってしまう。倒産の危険性が高まるわけだ。
本業が不振で赤字続き
赤字が続く理由の第一は、売上高が少ないことだろう。利益といっても、損益計算書上では5つ(売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益)あるが、売上高から費用などを引いて算出される。
会計年度で赤字だったか黒字だったかは、最終的に当期純利益がプラスかマイナスかによるが、そもそも売上高がなければ、利益が残らなくない。本業が不振で売上高が少なければ、赤字が続くのは当然だろう。
費用がかさんで赤字続き
5つある利益のうち、本業のもうけを示す営業利益は、「売上高-売上原価-販売費・一般管理費」で算出される。
売上原価は、売れた商品などの仕入れにかかった費用のことだ。売上原価がかさんでいれば、営業利益は減ってしまう。また、広告費など販売するためにかけた費用である販売費が多くても、営業利益は減る。同じように、人件費や事務所の光熱費など販売には関係ない費用である一般管理費利益がふくらんでも、営業利益は少なくなってしまう。
赤字が続く状態を避けるためには?
まずは赤字になるのを防ぐためにも、キャッシュフロー計算書を作成してみてほしい。上場企業は、損益計算書、貸借対照表とともに作成し、公開することが義務づけられている決算書だ。中小企業には義務づけられていないが、資金の増減の分析が可能になる。この決算書からわかるのは、次の3つだ。
・営業活動によるキャッシュフロー……本業である営業活動によるもの
・投資活動によるキャッシュフロー……固定資産の取得や有価証券の購入によるもの
・財務活動によるキャッシュフロー……借入金の調達などによるもの
このうち、営業活動によるキャッシュフローが減少傾向であれば、本業が下降傾向にあるとみなすことができ、経営改善に向けて動き始める必要があると判断できる。
赤字体質から脱却するには?
何より大切なのは、長期的な視点にたって経営体質を改善し、売上高を伸ばすための戦略を描くことだろう。倒産を避けるためにも、企業を成長させるためにも、欠かせないことだ。
しかし、売り上げはそう簡単には伸ばせない。その場合は、売り上げを伸ばす努力と同時に、販売費と一般管理費に代表されるコストを削減し、利益をできるだけ多く生み出していくことが肝心だ。
倒産の兆候を早くつかんで対処しよう
倒産を防ぐには、本業でしっかりともうけを出すことが前提だが、企業経営を続けていれば、いつも順調というわけにはいかない。黒字であっても運転資金が不足したり、赤字続きに陥ったりしないためにも、財務状況やキャッシュの現状をきちんと把握しておくことが大切だ。
損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書、資金繰り表をしっかりとチェックし、黄色信号の段階で対処できるようにしておきたい。
事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
THE OWNERでは、経営や事業承継・M&Aの相談も承っております。まずは経営の悩み相談からでも構いません。20万部突破の書籍『鬼速PDCA』のメソッドを持つZUUのコンサルタントが事業承継・M&Aも含めて、経営戦略設計のお手伝いをいたします。
M&Aも視野に入れることで経営戦略の幅も大きく広がります。まずはお気軽にお問い合わせください。
【経営相談にTHE OWNERが選ばれる理由】
・M&A相談だけでなく、資金調達や組織改善など、広く経営の相談だけでも可能!
・年間成約実績783件のギネス記録を持つ日本M&Aセンターの厳選担当者に会える!
・『鬼速PDCA』を用いて創業5年で上場を達成した経営戦略を知れる!
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)