日本の慢性的な人手不足や地方からの人口流出などにより、地方の企業は都市圏の企業に比べて人材採用に苦労することも少なくない。地方企業が採用活動で自社に必要な人材を雇用するには、どのような行動が必要なのだろうか。本記事では、地方企業で採用が難しい理由や、採用活動で取り組むべき7つのポイントなどについて解説する。
目次
地方企業の採用が厳しいのはどうして?代表的な3つの理由
地方企業が都市部の企業に比べて人材採用が難しいとされる理由はいくつかあるが、ここでは代表的な3つを紹介する。
1.そもそも労働力人口が減っている
日本は少子高齢化が進んでおり、労働人口が減少していることは周知の事実だ。しかし、地方都市は大都市圏に比べて、以前から人口が減少し続けているという実態がある。
2020年の国勢調査によると、2015年から2020年の都道府県別の人口増減数は、東京都や神奈川県、埼玉県などの首都圏を含む9都道府県が増加しているが、38都道府県では減少している。地方都市は大都市に比べて、大学進学などに伴って若手の人材が流出しやすい。
つまり、地元採用を前提としている企業ならば、人口減少が進む中でほかの地元企業と競い合いながら自社にマッチする人材を探さなければならないのだ。
2.地方企業の魅力を知らない人が多い
地方企業はそれぞれの地域に根ざした企業が多く、地元以外の地域で自社の魅力はもちろん、社名すら知られていないということが少なくない。
地方でも大手企業のグループ企業や関連企業ならば、母体となる企業の知名度によって魅力を深掘りされることもあるだろう。しかし、創業者が一代で築きあげ、2代目、3代目に承継している地元の小規模企業は、その魅力を地元以外に発信して認知度を高めることができていないことがほとんどだ。
3.地方で働くことにリスクを感じる人がいる
たとえ自社の魅力が求職者に伝わっているとしても、地方で働くこと自体にリスクを感じている人も一定数存在する。
都市部で利便性の高い生活をしてきた人にとっては、生活関連サービスの充実度はもちろん、移動手段が限られるなど交通網の整備が行き届いていなかったり、医療機関が少なかったりする地方の生活での不便さやリスクが懸念点となるだろう。
インフラ整備などは地方自治体の問題であり、企業では改善することが困難だ。そのため、地方不便さが採用の難しさの理由の一つとなっている。
地方企業の採用活動への追い風もある
地方企業の採用は都市部に比べて難しいという一面があるが、採用活動にとって追い風となっていることもある。
働き方や就職活動の多様化が進んでいる
IT技術の進歩などによって働き方や就職活動の多様化が進んでいるのは、地方企業にとってもメリットが大きい。
コロナ禍は多大な経済的損失を与えたが、一時的にでもリモートワークが取り入れられ、労働者にとっては働き方の選択肢が増え、多様化が進む要因の一つにもなった。
就職や転職先の情報をウェブ上で気軽に集めることができ、採用試験もオンラインで行われるなど、就職活動の多様化も進んでいる。そのような変化により、地方企業にとっても都市部の人材を採用するチャンスが生まれている。
U・Iターンを希望している層が一定数いる
進学や就職に伴って地方から離れた人のUターンはもちろん、地方生活に魅力を感じている人によるIターンなど、地方での就職や転職を希望する層も一定数いる。
総務省の『地域の人の流れに関するデータ』によると、地方に縁がある20代~50代のうち約半数が地方への移住に興味を持っているという結果がある。また、出身県へのUターンの理由は、「1位:就職(30.4%)」「2位:退職(19.0%)」「3位:転職(16.0%)」であり、仕事に関連した移動が少なくないことが分かる。
コロナ禍による首都圏離れなども進む中で、地方企業にとっては追い風となるだろう。
地方就活助成などのサポートが増えている
UターンやIターン移住者に対する地方就活助成など、国や地方自治体のサポートが増えているのも地方採用にとっては追い風だ。
先の総務省の調査結果によると、UターンやIターンによる地方移住において仕事面で最も懸念されているのが「求人の少なさ」である。そのため、地方自治体では独自の移住者サポートと同時に、就職や起業のためにUターンIターンをする人に対して補助金を支払うといった取り組みを行っている。
地方自治体との連携によって、移住予定者に自社の認知度を高めることも不可能ではないだろう。
地方企業が採用活動の前にはっきりさせること4つ
地方企業の採用はその目的を事前に定め、採用計画を立てることが欠かせない。そのためには、まずはっきりさせておくべき4つのポイントがある。
(1)自社は存続と成長のどちらを目指すのか?
大前提として、自社はこれから緩やかな存続と事業成長のどちらを目指すのかを明確にする必要がある。
長期事業計画に近いものだが、これからの事業方針によって必要な社員数や組織構成などは変わるため、採用活動の方向性の決定には欠かせないものだ。地方の中小企業では事業計画を立てていない企業も少なくないが、経営者は自社をどうしたいのかを明確にして、社員に示す必要がある。
(2)自社に必要な人物像はどのようなものか?
採用活動を進める前に、自社に必要な人物像を明確にすることも欠かせない。
既存の事業や今後行う予定の事業に対して、どのような経験やスキルを持つ人材が必要なのかを考えなければならない。さらに、既存社員との年齢や性格面でのバランスなど、新規採用することで自社にとってメリットがある人物像を考えよう。
(3)新卒採用と中途採用の割合をどうするか?
新しく雇用する人材を、新卒人材と中途人材のどちらで採用するかをはっきりさせる必要がある。
新卒採用と中途採用のどちらに注力するかで、採用活動の方針や方法も大きく変わるため、必要な人物像に照らし合わせ、自社のリソースや採用活動に関するノウハウの有無を考慮した上で取り決めよう。
(4)採用活動の対象地域をどうするか?
採用活動において募集する人材の対象地域を地元や周辺地域に絞るか、全国に拡大するかも決めなければならない。
地元や周辺地域の人材ならば、ハローワークなどを通じて直接応募してくる求職者がいるだろう。しかし、自社の人物像に合致した人材が応募してくるとは限らない。そのため、採用活動の難易度は上がるものの、募集地域を全国に拡げて幅広い人材から応募を受けるという手段もあるだろう。
いずれにせよ、対象地域によって採用活動の内容も異なるため、優先順位を決めておく必要がある。
地方企業が採用活動で具体的に取り組むこと7つ
採用活動を始める前に明確にしておくべきことが定まったら、採用活動に取り組むことになる。ここでは、地方企業が採用活動で取り組むべき具体的な方法を7つ紹介する。
(1)経営者自らが採用活動に関わる
大手企業や中堅企業でない限り、地方の中小企業経営者は自らが採用活動に関わることを忘れてはならない。
自社の経営目標を社員に共有した上で採用方針を周知しなければ、採用計画は立てられない。また、自社の魅力や経営方針を求職者に伝えるのに最も適しているのは経営者であり、最終面接にだけ参加しても必要な人材か見極めるのは難しいだろう。
経営者がいかに本気になって採用活動に取り組むかが、地方企業の採用活動の成否を左右すると言える。
(2)ハローワーク以外の求人サービスも利用する
地方企業の多くはハローワークで求人を募集するが、求人サイトの活用や就職・転職エージェントなどの求人サービスの利用も検討すべきだ。
求人サービスを利用すれば一定のコストがかかってしまうが、そもそも応募者がいなかったり、自社が必要とする人材を雇用できなかったりすれば本末転倒だ。
採用後の育成コストなど、トータルコストを考慮した上で、サービス登録者へのスカウトができるダイレクトリクルーティングサービスの活用など、自社の採用活動にマッチ度の高いサービスの利用も考慮してほしい。
(3)自社メディアで情報を発信する
自社のホームページやSNSなどで、経営者についての情報はもちろん、自社で働くメリット、社員が感じているやりがいなどの情報を発信することも大切だ。
求職者は会社について詳しい情報を得られないと、応募に踏み切ることができない。自社で働く社員のモデルケースや社内の雰囲気、独自の福利厚生など、自社で働くメリットや地方で働く不安を払拭できるような情報を掲載すると、興味を引くことができるだろう。
(4)採用活動に現場の社員も参加させる
自社に必要な社員を見極める際には、既存社員の見る目も欠かせない。そのため、採用活動のポイントとなる部分では現場の社員も参加させよう。
会社説明会などで自社の魅力の説明をする際には、経営側の目線だけでなく、社員側の目線も大切だ。また、現場について詳しい社員ならば、現場に馴染めそうな人材を見極める際の助けになるだろう。
(5)リファラル採用の活用
自社にマッチした人材を採用するためには、リファラル採用の活用も検討すべきだ。
地方企業では縁故採用が行われることも少なくないが、親類や親戚などの近しい関係者がほとんどで、自社にマッチする人材を採用できるとは限らない。
一方、リファラル採用は社員が推薦する人の中から、自社が求める人物像にマッチする人材にアプローチする採用手法で、人材を紹介してくれた社員には謝礼を支払うのが一般的だ。自社の採用方針を理解した社員が人材を探してくるという点で、縁故採用よりも自社に適した人財を採用しやすいだろう。
(6)就職フェアなどのイベントに積極的に参加する
就職フェアなどの各種イベントに参加するのも、会社の知名度を向上させ、学生や転職希望者をはじめとする求職者との接触の機会を増やすためには欠かせない。
(7)高校や大学への訪問活動やインターンシップの実施
新卒採用を行う際には、地元や周辺地域の大学や高校への訪問活動をしたり、インターンシップによって自社で就労体験をしてもらったりして興味を持ってもらうことも有効だ。
インターンシップはハードルが高いと思うかもしれないが、数日で終了する短期インターンシップなら比較的取り組みやすい。学生にとっては仕事や職場の雰囲気を理解するのに有効であり、会社側も自社にマッチしそうな人材を見極める良い機会となるだろう。
地方採用の厳しさを乗り越えるには経営者が陣頭に立とう
地方企業の採用は厳しさを増しているが、働き方の多様化やU・Iターンなどによる地方移住者の増加、国や各自治体の支援活動など、追い風になるものもある。
地方の中小企業の採用活動では、経営者が積極的に関わることが重要だ。自社の経営方針はもちろん、必要な人材を明確にした上で社員と共有し、リファラル採用など柔軟な採用活動も考慮しながら一丸となって取り組んでほしい。
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文・隈本稔(キャリアコンサルタント)