経営者にとって廃業はつらい選択肢だが、実は再チャレンジにつなげる方法もある。手元に資金やノウハウを残せば、新たなビジネスで成功できるかもしれない。本記事では、廃業のメリットや考えるべきタイミング、前向きな廃業にするポイントを解説する。

目次

  1. 廃業はなぜつらい?きれいに会社をたたむことが難しい理由
    1. 廃業にも費用がかかる
    2. 設備や不動産の処分費用がかかることも
    3. 在庫がたたき売り価格になりやすい
    4. 従業員との雇用関係を解消しなければならない
    5. 規定がある場合は退職金が発生する
  2. 「廃業=悪」ではない!なぜ中小企業はつらい廃業を選ぶのか
    1. 廃業をするメリット
    2. 廃業を考えるタイミング
  3. 手元に資金を残す方法は廃業以外にもある
    1. 補助金や助成金の活用
    2. 政府系金融機関の融資制度を利用する
    3. M&Aで会社・事業を売却する
  4. それでも廃業を選ぶときのポイントは?大きなリスクへの対策
    1. 就職先を斡旋して従業員の生活を守る
    2. 事務手続きや賃金の支払いはとにかく迅速に
    3. 情報やノウハウの漏えい対策を徹底する
  5. 前向きな廃業は再チャレンジにつながる
  6. トラブルを回避し、個人破産を防ぐための廃業を考えよう
つらい廃業を再チャレンジにつなげるために考えておくべきポイントと他の選択肢を解説
(画像=ELUTAS/stock.adobe.com)

廃業はなぜつらい?きれいに会社をたたむことが難しい理由

そもそも、なぜ廃業には「つらい」などのマイナスイメージがあるのだろうか。まずは、きれいに会社をたたむことが難しい理由から見ていこう。

廃業にも費用がかかる

廃業は現金がない企業でもできると思われがちだが、実は以下の費用がかかる。

つらい廃業を再チャレンジにつなげるために考えておくべきポイントと他の選択肢を解説
(※上記は株式会社の場合。)

上記の通り、株式会社の廃業では少なくとも10万円弱の費用が発生する。さらに手続きを外部に依頼する場合は、士業への報酬だけで数十万円を超えることも珍しくない。

設備や不動産の処分費用がかかることも

設備や不動産の処分費用も、廃業時にかかる大きなコストだ。資産売却をする方法もあるが、失敗したビジネスの設備・不動産は資産価値が下落しやすく、買い手を見つけられないケースが珍しくない。

特に設備を処分したり、不動産を更地にしたりする必要がある場合は、手元に現金が残ればいいほうである。

在庫がたたき売り価格になりやすい

廃業時に処分する資産の中でも、特に在庫はたたき売りの状態になりやすい。保管用の不動産(倉庫など)を売却する場合は、早急にすべての在庫を処分する必要があるためだ。

在庫買取業者を利用する手もあるが、この場合でも販売実績が多く、信頼性の高い業者を探すコストが生じてしまう。

従業員との雇用関係を解消しなければならない

廃業をする場合は、従業員との雇用関係も解消しなければならない。従業員の生活への影響は避けられないため、これは精神的な負担が大きいプロセスだろう。

同じ地域で再チャレンジを目指す場合は、かつての従業員が取引先の担当者になるような可能性もある。また、強引な解雇は法的トラブルに発展するため、従業員にも配慮する形で廃業準備を進めることが重要だ。

規定がある場合は退職金が発生する

就業規則などに規定がある場合は、「普通解雇・整理解雇・定年退職・会社都合退職」のいずれでも原則として退職金を支給しなければならない。1人あたりの支給額が数百万円でも、全従業員を解雇すると総額で1億円を超えることもある。

また、役員に対しても退職金は発生するため(※規定がある場合)、廃業前には就業規則を隅々まで確認しておきたい。

「廃業=悪」ではない!なぜ中小企業はつらい廃業を選ぶのか

ここまで解説したように、廃業は経営者にとってつらい選択肢である。しかし、状況次第では廃業が望ましいケースもあるため、経営に行き詰まった場合はひとつの戦略として考えたい。

どのように活用すべきなのか、ここからは廃業のメリットや考えるべきタイミングを見ていこう。

廃業をするメリット

廃業のメリットとしては、関係者への影響を最小限に抑えられる点が挙げられる。

例えば、倒産では債務を返済しないまま会社をたたむため、状況によっては関係者(金融機関や取引先など)に多大な影響を及ぼす。給与や退職金を支払わないまま従業員を解雇すれば、その人材との関係も最悪の形で終わってしまうだろう。

一方で、廃業は最低限の義務(給与や債務の支払いなど)を果たしてから清算するため、周囲からの反感を買いにくい。経営者の努力次第では、新しいビジネスでかつての従業員・取引先などと協力関係を結べる可能性もある。

ただし、廃業でもステークホルダーへの影響は避けられないので、慎重に計画を立てなければならない。

廃業を考えるタイミング

廃業を考える時期は経営者によって異なるが、一般的には以下のようなタイミングが挙げられる。

○廃業を考えるタイミング
・経営状態が悪化し、事業の再建が難しいとき
・事業継続に向けた資金調達ができない場合
・数期連続で赤字になるなど、独自の判断基準を超えたとき
・債務を完済できる状態で、会社をたたみたい場合 など

注意しておきたいのは、廃業では金融機関や取引先への債務を完済する必要がある点だ。返済の目途が立たないまま清算の準備を進めると、選択肢が倒産しかなくなってしまうケースがある。

そのため、会社の純資産額や業績などはこまめに確認し、再建の見通しが立たない場合は早めに廃業を考えたい。

手元に資金を残す方法は廃業以外にもある

手元に資金を残すことを考えた場合、経営者が取れる選択肢は廃業だけではない。廃業はあくまで一つの手段なので、ほかの選択肢も含めてベストな形を模索する必要がある。

どのような方法があるのか、ここからは中小企業の現実的な選択肢を紹介する。

補助金や助成金の活用

補助金・助成金には、中小企業の再建を目的にした制度がいくつかある。以下では参考として、経済産業省の制度を紹介しよう。

つらい廃業を再チャレンジにつなげるために考えておくべきポイントと他の選択肢を解説

事業所のエリアによっては、自治体による支援を受けられるケースもある。中小企業を支援する制度は多いため、補助金・助成金に限らずさまざまな制度を確認してほしい。

政府系金融機関の融資制度を利用する

政府系金融機関も、中小企業を支援するための融資制度を用意している。例えば、日本政策金融公庫の「企業再建資金」では、最大7,200万円の資金を15~20年の返済期間で借り入れることが可能だ。

経営悪化の要因がキャッシュ不足にある場合は、このような融資制度によって事業を立て直せるかもしれない。ただし、公的な融資制度には適用条件があり、融資実行までに1ヵ月以上かかるケースもあるので、早めの準備を意識しよう。

M&Aで会社・事業を売却する

後継者不足の解決策として注目されるM&Aも、手元に資金を残す選択肢である。買い手が見つかれば会社や事業ごと売却できるため、設備や不動産、在庫などの処分に悩まされることがない。

さらに、従業員の生活や雇用を守れる点もM&Aのメリットだろう。就労環境の変化がストレスになるケースはあるが、契約次第では従業員の待遇面が向上することもある。

それでも廃業を選ぶときのポイントは?大きなリスクへの対策

廃業以外の選択肢がない場合は、事前にリスク対策をしておく必要がある。ここからは、廃業で想定される主なリスクと対策を解説する。

就職先を斡旋して従業員の生活を守る

従業員をないがしろにすると、法的トラブルや経営者個人の悪評につながるリスクがある。この状態では新たなチャレンジが難しくなるので、従業員の生活を守るためのプランが必要だ。

具体策としては、転職先のあっせんが挙げられる。また、転職活動には労力やコストがかかるため、廃業前に活動できる時間を与えたり、十分な退職金を支払ったりといった配慮も考えたい。

事務手続きや賃金の支払いはとにかく迅速に

廃業時には、多くの従業員が不安を抱えることが想定される。特に事務手続きや賃金支給の遅れはトラブルになりやすいため、迅速な作業を心がけたい。

賃金や退職金の資金がない場合は、「未払賃金立替制度」の利用もひとつの手だ。労働基準監督署などの窓口で申請すると、未払い賃金の一部を国に立て替えてもらえる。

情報やノウハウの漏えい対策を徹底する

廃業後に再チャレンジを目指す場合は、情報やノウハウの漏えいにも注意したい。例えば、これまでの経営で培った技術が漏えいすると、競合他社が力をつけることになるため、再チャレンジの成功率が下がってしまう。

情報・ノウハウの漏えい対策としては、以下のような方法が有効だ。

○情報・ノウハウの漏えい対策
・機密情報を普段から厳重に保管する
・アクセスできる範囲に制限をかける
・入退室やパソコンの使用履歴をデータ化する
・従業員に秘密保持誓約書を提出させる
・従業員と競合避止義務契約を締結する

上記のほか、漏えいが発覚したときに内容証明郵便を出すなど、被害を食い止める対策も重要になる。情報・ノウハウはどこから流出するのか分からないため、あらゆるケースを想定して万全の対策を考えておこう。

前向きな廃業は再チャレンジにつながる

周囲に遺恨がなく、経営者個人の活動に制限がかからない形であれば、廃業は前向きな選択肢になり得る。手元に資金がある状態なら、短期間で新しいビジネスを始めることもできるだろう。

ただし、経営が悪化した中小企業は多くの債務を抱えやすいため、経営者の個人保証には注意が必要である。個人保証がある状態で返済が滞ると、個人情報がブラックリスト(信用情報)や官報に掲載されるため、再チャレンジが難しくなってしまう。

そのため、債務を残した状態で廃業する場合は、国の「経営者保証に関するガイドライン」を活用しながら整理することが重要だ。個人破産を防ぐためにも、正しい知識やルール、流れを理解した上で、廃業に向けた準備を進めよう。

トラブルを回避し、個人破産を防ぐための廃業を考えよう

廃業にはマイナスイメージがあるものの、方針次第では前向きな選択肢になる。従業員や取引先とのトラブルを回避し、個人保証をうまく整理できれば、再チャレンジの環境を整えられるだろう。

ただし、再建には補助金や助成金、M&Aなどの方法もあるため、ほかの選択肢とも比較しながら今後の計画を立ててほしい。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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