被相続人が亡くなれば、相続人は相続財産を分配し、相続することになります。
その際に、相続人に未成年者がいた場合、未成年者本人が手続きを行うことになるのでしょうか。
また相続人に未成年者とその親がいた場合、気を付けることはどういうことでしょうか。
詳しくご説明いたします。
未成年者と法律行為
民法では、人の「能力」について規定しています。
まず、「権利能力」についてですが、この能力は社会の一員として権利・義務の主体となることのできる「資格」のことを言います。
わかりやすく言うと、人は生まれた時点でこの「権利能力」を得て、死ぬことによって失うのです。
この「生まれた時点」というのは、胎児が母親の体から全部出た時を言いますが、例外的に、相続、遺贈、損害賠償の請求の三つは、胎児にも権利能力があります。
ただし、いずれも、「生きて生まれる」ことが条件です。
次に、「意思能力」についてですが、この能力は自分が行っていることの意味をきちんと理解できる判断力のことです。
この意思能力のない人が行った売買などは、無効となります。
最後に「行為能力」についてですが、上記で説明した「意思能力」の有無は、外見からではわかりません。
そこで、民法では、「意思能力を欠くおそれのある人」を「制限能力者」と位置づけ、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人と、四つにパターン化して、保護者を定めて、法律行為をする能力を制限しています。
未成年者の場合、一般的に親権者が法定代理人となって、代わりに法律行為を行うことになります。
相続人が未成年者の場合
相続も法律行為に当たりますから、未成年者が法定相続人である場合には、一般的に親権者、つまり親が子どもの代わりに遺産分割の協議(話し合い)を行うことになります。
これは、意思能力が未熟である子どもの権利を保護するもので、親は子どもの利益を第一に考えて、協議を行うことに期待する制度です。
もし、未成年者が、成人だけの相続人に交じって直接協議を行えば、意思能力が未熟であるため、他の成年の相続人の言われるままになり、未成年者にとって不利な遺産分割に、つい同意する可能性があります。
そのような事態を避けるために、親が子どもの代理人となって、子どもの利益を優先に考えて、協議を行うことになるのです。
利益相反の場合
もし、相続人の中に、未成年者とその親がいた場合、同じように親は未成年者の子どもの代理人を行うことができるでしょうか。
このことを考える場合、「利益相反(りえきそうはん)」に該当するかどうかを検討する必要があります。
「利益相反」とは、当事者の間で、利益が相反する内容の行為を言います。
例えば、AさんがBさんに100万円を貸したとします。
しかしBさんは返済の期限が来ても、お金を返してくれません。
そこで、AさんはC弁護士に依頼して、Bさんに返済を求めることにしました。
返済を求められたBさんは、100万円はAさんから贈与されたものだと主張するために、代理人を立てて、応じることにしました。
この時、Bさんが、代理人にC弁護士を立てた場合には、訴える人(Aさん)と応じる人(Bさん)の代理人が同一人物となり、利益が相反することになります。
このように、双方の代理人になることで、Aさんの利益も、Bさんの利益も保護することができなくなりますから、このような行為、利益相反行為は禁止されています。
本題に戻ります。
相続人に未成年者とその親がいた場合に、利益相反に当たるのでしょうか。
例えば、相続人の遺産分割の協議で、自分の相続分の増額を主張することは、一方で未成年者の子どもの相続分を減らすことになります。
逆に、未成年者の親が、子どもの相続分の増額を主張することは、一方で自分の相続分を減らすことになります。
このように、親子の間で利害が対立する場合でも、親が未成年者の権利を代理で行使することができるとなると、親の考え方、発言一つで相続財産を意のままに取得することができてしまいます。
もちろん、多くの親は子どもの利益も考えた上で、遺産分割の協議を行うことになるでしょう。
しかし、法律は最悪の事態を回避するように規定されていますので、未成年者の代理人に親がなることを禁止しているのです。
これは、成年被後見人の場合も同じです。
例えば、兄の成年後見人に弟がなっていた場合、相続人に兄と弟が入っていれば、お互いの利害が対立していますから、これも利益相反に当たり、禁止されています。
特別代理人
相続人に、未成年者とその親がいる場合、どのように対処したら良いのでしょうか。
法律では、法定代理人(この場合は親権者)とは別に、利害関係のない第三者を「特別代理人」として選任し、未成年者の代理人となって、遺産分割の協議を行うようにしています。
この「特別代理人」は、親権者等の法定代理人が、家庭裁判所に申請を行うことで、選任されることになっています。
また、相続人の中に、2人以上の未成年者がいる場合、この人たちの利害も対立することになります。
ですから、同じ「特別代理人」というわけにはいきませんので、未成年者の数だけ「特別代理人」を選任することになります。
ただ、「特別代理人」は、弁護士などの専門家が務めることになりますから、当然報酬も発生します。
相続人の中に未成年者が何人も要る場合は、かなりの金銭的負担となります。
そこで、このような場合には、報酬を受け取ることなく、「特別代理人」を引き受けてくれる親族などを「特別代理人」として、申請の際に家庭裁判所に推薦する方法が、よく取られています。
家庭裁判所では、親族などの専門家以外の人が「特別代理人」となるような場合は、相続人の未成年者にとって不利にならないように、前もって「遺産分割協議書案」をつけて、「特別代理人」の申し立てを行うように推奨しています。
以上のように、相続人の中に未成年者がいる場合には、手続きがかなり煩雑になりますから、十分な注意と綿密なスケジュールを組む必要があります。
まとめ
親が若くして亡くなった場合、相続人の中に未成年者が含まれる可能性が高くなります。
特に、相続人に未成年者とその親がいる場合には、利益相反に当たりますから、家庭裁判所に申し立てて、「特別代理人」を選任してもらう必要があります。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)