小規模企業共済,加入資格,解約
(写真=PIXTA)

小規模企業の経営者や役員、あるいは個人事業主の退職金を積み立てる制度である小規模企業共済。加入資格はどのようになっているのだろうか。この記事では、小規模企業共済の加入資格や加入方法、解約方法、貸付制度の概要などについて解説する。

そもそも小規模企業共済とは?

最初に、小規模企業共済とはそもそも何なのかを見ていこう。

小規模企業共済の概要

小規模企業共済は、国の機関である独立行政法人中小企業基盤整備機構が提供する、小規模企業の経営者や役員、あるいは個人事業主のための退職金の積立制度。2017年3月現在での加入者数は、全国で133万人だ。

小規模企業共済には、以下のようなメリットがある。

1.加入後でも掛金を増減でき、全額が所得控除される
2.共済金は一括でも分割でも受け取れる
3.低金利の貸付制度を利用できる

1.加入後でも掛金を増減でき、全額が所得控除される

小規模企業共済の掛金は、月々1,000円~7万円まで500円単位で自由に設定できる。また、加入後でも掛金を自由に増減することができる。

確定申告の際に掛金は全額が所得控除されるので、高い節税効果があると言える。

2.共済金は一括でも分割でも受け取れる

小規模企業共済の共済金は、退職あるいは廃業したときに受け取ることができる。なお、満期や満額などは設定されない。

その共済金の受け取り方は、「一括」「分割」「一括と分割の併用」から選べる。一括の場合は退職所得扱い、分割の場合は公的年金などと同様の雑所得扱いとなり、いずれも税制上のメリットがある。

3.低金利の貸付制度を利用できる

小規模企業共済の契約者は、掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用できる。低金利であり、貸付は即日実行される。

貸付制度には、以下のようなものがある。

・一般貸付け
・緊急経営安定貸付け
・傷病災害時貸付け
・福祉対応貸付け
・創業転業時
・新規事業展開等貸付け
・事業承継貸付け
・廃業準備貸付け

出典:中小機構『小規模企業共済 制度の概要』
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/about/features/index.html

小規模企業共済の加入資格は?

次に、小規模企業共済の加入資格を見てみよう。

加入資格

以下のいずれかに当てはまる人は、小規模企業共済に加入できる。

  1. 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社などの役員
  2. 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社などの役員
  3. 事 業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
  4. 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
  5. 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人などの士業法人の社員
  6. 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業にたずさわる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

補足事項1.2つ以上の事業を行っている事業主あるいは共同経営者は、主たる事業の業種で加入する
補足事項2.「常時使用する従業員」には、家族従業員および共同経営者(2人まで)は含まない
補足事項3.「会社などの役員」とは、株式会社・有限会社の取締役ならびに監査、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員を指す(ただし外国法人の役員を除く)

加入資格がない例

以下のいずれかに当てはまる人は、小規模企業共済に加入できない。

  1. 配偶者などの事業専従者(共同経営者の要件を満たしていない場合)
  2. 協同組合、医療法人、学校法人、宗教法人、社会福祉法人、社団法人、財団法人、NPO法人(特定非営利法人)などの、営利を直接の目的としない法人の役員など
  3. アパート経営などの事業を兼業している給与所得者(法人または個人事業主と常時雇用にある場合)。ただし、次の例のような場合は小規模企業者として加入できる。

・開業医が本業の事業所得のほかに、市町村から委託を受けて行った定期検診の報酬による給与所得がある場合
・農業者が本業の農業所得のほかに、農閑期の一時的なアルバイト収入による給与所得がある場合
・弁護士が本業の事業所得のほかに、大学の非常勤講師の収入による給与所得がある場合

  1. 学業を本業とする全日制高校生など
  2. 会社などの役員とみなされる場合(相談役、顧問その他の実質的な経営者)でも、商業登記簿謄本に役員登記されていない場合
  3. 生命保険外交員など
  4. 独立行政法人勤労者退職金共済制度が運営する「中小企業退職金共済制度」「建設業退職金共済制度」「清酒製造業退職金共済制度」「林業退職金共済制度」の被共済者である場合

・補足事項 加入申込みや貸付金借入れ申込みの際は、暴力団などの反社会的勢力に該当しないこと、およびそれに類する行為を将来にわたって行わないことを申告する必要がある。申告がない場合は申込むことができない。また申告に反することが判明した場合には、債務全額の弁済請求や契約解除などがなされる。

出典:中小機構『小規模企業共済 加入資格』
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/entry/eligibility/index.html

小規模企業共済の加入方法

小規模企業共済へ加入する方法は、以下のとおりだ。

  1. 必要書類を入手する
  2. 書類に記入する
  3. 窓口に書類を提出する
  4. 約40日後に中小機構から送られる『小規模企業共済手帳』と『小規模企業共済制度加入者のしおり』を受け取る(審査の結果、加入資格に該当しないと判明した場合は、約2ヵ月後にその旨の通知がある)

小規模企業共済に加入するための必要書類

必要な公的書類は、申込者が個人事業主、法人の役員、共同経営者の場合で異なる。

1.公的書類
【個人事業主の必要書類】
・確定申告書の控え(事業を始めたばかりで確定申告書がない場合には、開業届を提出する。確定申告書や開業届には、税務署の受付印が必要)

【法人役員の必要書類】
・役員登録されていることが確認できる書類(履歴事項全部証明書など)

【共同経営者の場合】
・個人事業主の確定申告書の控え(注意点は上記の「個人事業主の必要書類」の場合と同様)
・個人事業主と締結した共同経営契約書のコピー
・報酬の支払い事実が確認できる書類(社会保険の標準報酬月額通知、青色申告決算書、白色申告決算書および賃金台帳、国民健康保険税・介護保険料簡易申告書などのいずれか)

2.中小機構の様式書類
・契約申込書(共同経営者が申込む場合は、個人事業主の署名・捺印が必要)
・預金口座振替申出書

小規模企業共済に加入申込みができる窓口

小規模企業共済の加入申込書は、以下の委託団体や代理店に提出する。

1.委託団体
・商工会
・商工会議所
・中小企業団体中央会
・事業協同組合
・青色申告会
・損害保険ジャパン日本興亜株式会社
・アクサ生命保険株式会社

2.代理店
・都市銀行
・信託銀行
・地方銀行
・第二地方銀行
・信用金庫
・商工組合中央金庫
・農業協同組合(32都道府県)

3.小規模企業共済を取り扱っていない金融機関
・ゆうちょ銀行
・農業協同組合の一部
・労働金庫
・新生銀行
・あおぞら銀行
・外資系銀行
・インターネット専業銀行
など

出典:中小機構『小規模企業共済 加入手続き』
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/entry/procedure/index.html

小規模企業共済の解約方法

小規模企業共済を解約する方法は、以下のとおりだ。

  1. 必要書類を入手する
  2. 書類に記入する
  3. 掛金が引き落とされる口座のある金融機関の窓口に書類を提出する。また解約手当金の受け取りを希望する口座のある金融機関の窓口で書類を提示し、口座の確認印をもらう。
  4. 書類を中小機構へ送付する
  5. 約3週間後に共済金が指定口座に振り込まれる
  6. 中小機構から「支払い決定通知書兼振込通知書」が送られる

小規模企業共済を解約するために必要となる書類

小規模企業共済を解約するために必要となる書類は、以下のとおりだ。

・マイナンバー確認書類(解約手当金の額が100万円以下の場合には不要)
・共済金等請求書
・退職所得請求書(65歳未満の場合は不要)
・預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書
・共済契約締結証書

「預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書」は、掛金の引き落とし口座がある金融機関に提出する。「共済金等請求書」は解約手当金の受け取りを希望する口座のある金融機関に提示し、口座の確認印をもらう。

出典:中小機構『小規模企業共済 解約する場合』
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/customer/procedure/claim/04.html

小規模企業共済の掛金について

小規模企業共済の掛金は、月額1,000円~7万円までの範囲内で、500円単位で自由に選択できる。掛金は、個人の預金口座からの振替によって払い込む。月払いの振替日は、毎月18日。月払いのほか、半年払い、年払いも選択できる。前納もでき、前納すると一定の前納減額金を受け取ることができる。

掛金は全額、小規模企業共済掛金控除として課税対象となる所得から控除できる。ただし、契約者自身の収入から払い込むことになるため、事業上の損金あるいは必要経費には算入できない。

中小機構によると、掛金の全額所得控除による節税額は下の表のようになる。

掛金の全額所得控除による節税額

※「課税される所得」とは、その年の総所得金額から基礎控除、扶養控除、社会保険料控除などを差し引いたもの。
※ 税額は平成29年4月1日現在のもの。

出典:中小機構『小規模企業共済 掛金について』
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/about/installment/index.html

小規模企業共済の貸付制度について

小規模企業共済に加入すれば、掛金の納付期間に応じた貸付限度額の範囲内で、事業資金などを借りることができる。7種類ある貸付制度の概要は、以下のとおりだ。

一般貸付制度

一般貸付制度は用途を限定せず、事業資金を迅速に借入できる制度だ。借入限度額は、掛金の範囲内(掛金の納付月数により掛金の7割~9割)で10万円以上2,000万円以内(5万円単位)。借入期間は、借入金額に応じて以下から選択できる。

・100万円以下 …6ヵ月、12ヵ月
・105万円~300万円 …6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月
・305万円~500万円 …6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月
・505万円以上 …6ヵ月、12ヵ月、24ヵ月、36ヵ月、60ヵ月

借入金の返済方法は、借入期間が6ヵ月または12ヵ月の場合は期限一括償還で、借入期間が24ヵ月以上の場合は6ヵ月ごとの元金均等割賦償還だ。

利率は、年1.5%。利子の支払い方法は、借入金の返済方法が期限一括償還の場合は借入時に一括で前払いし、割賦償還の場合は借入時および返済時に6ヵ月分を前払いする。

緊急経営安定貸付け

緊急経営安定貸付けは、経済環境の変化などによる一時的な売上の減少によって資金繰りが著しく困難になったとき、経営の安定を図るために事業資金を低金利で借入れできる制度だ。

借入限度額は、掛金の範囲内(掛金の納付月数により掛金の7~9割)で50万円以上1,000万円以内(5万円単位)。借入期間は、借入金額に応じて以下から選択できる。

・500万円以下 …36ヵ月
・505万円以上 …60ヵ月

借入金の返済方法は、6ヵ月ごとの元金均等割賦償還。利率は、年0.9%。利子の支払い方法は、貸付け時および償還時に6ヵ月分を前払いする。

傷病災害時貸付け

傷病災害時貸付けは、以下のような場合に経営の安定を図るため、事業資金を低金利で借入れできる制度だ。

・傷病または負傷のために一定期間の入院をした
・災害救助法の適用された災害時または一般災害(火災、落雷、台風、暴風雨など)により被害を受けた

借入限度額は、掛金の範囲内(掛金の納付月数により掛金の7~9割)で、50万円以上1,000万円以内(5万円単位)。ただし、以下の計算で得られる額が1,000万円を超える場合は、その金額を借りることができる。

(流動負債 - 当座資金)+ 0.5(給与 + 賃金 + その他経費)

借入期間は、借入金額に応じて以下のようになる。

・500万円以下 …36ヵ月
・505万円以上 …60ヵ月

借入金の返済方法は、6ヵ月ごとの元金均等割賦償還。利率は、年0.9%。利子の支払い方法は、貸付け時および償還時に6ヵ月分を前払いする。

福祉対応貸付け

福祉対応貸付けは、契約者または同居する親族の福祉向上のために必要な住宅改造資金や、福祉機器購入などための資金を低金利で借入れできる制度だ。

借入限度額は、掛金の範囲内(掛金の納付月数に応じて7~9割)で、50万円以上1,000円以内(5万円単位)。借入期間は、借入金額に応じて以下のとおりだ。

・500万円以下 …36ヵ月
・505万円以上 …60ヵ月

借入金の返済方法は、6ヵ月ごとの元金均等割賦償還。利率は、年0.9%。利子の支払い方法は、貸付け時および償還時に6ヵ月分を前払いする。

創業転業時・新規事業展開等貸付け

創業転業時・新規事業展開等貸付けは、新規開業および転業をする際の事業資金を低金利で借入れできる制度だ。契約者の事業多角化や、後継者の新規事業あるいは事業多角化のための資金に利用できる。

借入限度額は、掛金の範囲内(掛金の納付月数により掛金の7~9割)で、50万円以上1,000万円以内(5万円単位)。借入期間は、借入金額に応じて以下のようになる。

・500万円以下 …36ヵ月
・505万円以上 …60ヵ月

借入金の返済方法は、6ヵ月ごとの元金均等割賦償還。利率は、年0.9%。利子の支払い方法は、貸付け時および償還時に6ヵ月分を前払いする。

事業承継貸付け

事業承継貸付けは、事業承継のための資金を低金利で借入れできる。

借入限度額は、掛金の範囲内(掛金の納付就く数により掛金の7~9割)で、50万円以上1,000万円以内(5万円単位)。借入期間は、借入金額に応じて以下のようになる。

・500万円以下 …36ヵ月
・505万円以上 …60ヵ月

借入金の返済方法は、6ヵ月ごとの元金均等割賦償還。利率は、年0.9%。利子の支払い方法は、貸付け時および償還時に6ヵ月分を前払いする。

廃業準備貸付け

廃業準備貸付けは、個人事業の廃止または会社の解散を行うために、設備の処分費用や事業債務の清算など、廃業の準備に必要となる資金を低金利で借入れできる制度だ。

借入限度額は、掛金の範囲内(掛金の納付月数により7~9割)で、50万円以上1,000万円以下(5万円単位)。借入期間は12ヵ月で、借入金の返済方法は期限一括償還。

利率は、年0.9%。利子の支払い方法は、借入時に一括で前払いする。

出典:中小機構『小規模企業共済 貸付制度について』
https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/about/loan/index.html

小規模企業共済の利用を検討しよう

小規模企業の経営者や役員、あるいは個人事業主の退職金を積み立てられる小規模企業共済。退職金を確保できるうえに所得税の節税効果もあり、いざという場合は事業資金を借入れることもできる。

経営が不安定になりやすい中小企業において、小規模企業共済はあらゆる場面で役に立つ心強い味方になる。この機会に、小規模企業共済への加入を検討してみてはいかがだろうか。

文・THE OWNER編集部

無料会員登録はこちら