収益力を改善するためには、コスト削減が欠かせない。そのことは理解していても、何をどうすればいいのかわからない経営者もいるだろう。そこで、単に無駄なコストを削減できるだけでなく、業務効率や生産性のアップにもつながる方法を紹介しよう。
目次
コスト削減は利益改善の近道
まず、どの企業であってもコスト削減に取り組むべき理由を整理しておきたい。企業の営業利益は次のように算出される。
営業利益 = 売上高 − 売上原価 − 販売費 − 一般管理費
この式からわかるように、営業利益を増やすには1.売上高を増やす、2.コスト(売上原価、販売費、一般管理費)を減らす、のどちらかしかない。売上を伸ばすのは簡単ではないが、コスト削減はアイデアや取り組み方しだいで実現可能だ。
働き方改革の一層の推進が求められる令和の新時代にふさわしいコスト削減術には、どのようなものがあるだろうか。
「脱ハンコ」「脱FAX」は基本のキ
新型コロナウイルスの感染が広まった2020年以降、各企業でペーパーレス化の動きが加速している。さまざまな面でコスト削減に直結するペーパーレス化のカギを握るのが、「脱ハンコ」「脱FAX」だ。政府も、脱ハンコ、脱FAXを推し進めている。ハンコ、FAXは今や時代にそぐわないレガシー(遺産)と見なされるようになっている。
ハンコ、FAXにかかるコストは?
ハンコ文化を残していれば、少なくとも印刷用紙代、プリンターの費用と維持費、トナー代は必要だ。外部との契約書であれば、ホチキス、製本用テープ、封筒、収入印紙などの費用もかかってくるだろう。FAXを活用する場合もおおむね同じようなコストが発生するが、通信費が加わってくる。
それぞれは少額かもしれないが、積み重なれば意外と大きな金額になる。三井住友フィナンシャルグループは2020年11月、「脱ハンコ」に取り組んだ結果、グループ15社で年間1億7,000万円のコスト削減を見込んでいると発表した。電子契約サービスを活用することでハンコを廃止したという。
もちろん、巨大企業グループでの金額なので単純には比較はできないが、脱ハンコの効果もバカにはできないことを示す好例だ。
無駄な業務も大きく削減
ハンコやFAXをめぐっては、無駄に思える作業が多くある。ハンコを押すためだけに出社したり、ファクスを受け取るためだけに出社したりするのは、その代表例だ。また、契約書への押印なら、契約書を印刷、発送して返送を依頼するか、相手先に出向いて押印してもらわなければならない。
FAXを送るにも、送り状を作成する手間もかかる。さらに、紙書類をファイリングして管理、保管する作業も必要だ。
これらの業務がなくなれば、その時間を注力すべき業務に充てることができ、全社的に生産性が向上するだろう。
取引先との合意が必要なものも
社内の稟議書や申請書への押印を廃止するのであれば、オンラインで完結させるワークフローシステムを構築することも必要だ。ただ、これは社内の意思決定だけで移行できる。受け取る文書をデータ化し、紙出力が不要なデジタルFAXの導入も自社の判断次第だ。
一方、社外の関係先と結ぶ契約書に電子契約システムを導入するには、相手方の意向を確認しなければならないことには注意が必要である。
「脱オフィス」のためにもテレワーク推進
ペーパーレス化が進んでいることが前提になるが、オフィス以外で働くテレワークを積極的に取り入れることで、コストが削減できる。何より、通勤の必要がなくなることで、通勤定期代など交通費を大きく削減できることは間違いない。
オフィススペースの縮小も
さらに、オフィススペースを縮小し、賃料を削減できる可能性もある。多くの企業では、従業員それぞれの席を用意しているはずだ。しかし、テレワークを進めることで、オフィスに出社する従業員が少なくなれば、全員の席を用意しなくても、業務に大きな支障は出ないだろう。
それなら、スペースが小さく賃料を抑えたオフィスに移転できる可能性がある。賃料を減らすことができれば、長期にわたって大きなコスト削減効果が期待できる。
出社する人数が減れば、賃料だけでなく、オフィスの照明や空調などに必要な光熱費の削減にもつながるだろう。
採用にかかるコストも削減
テレワークの導入によって、育児や介護、配偶者の転勤などの理由で退職せざるをえないような状況の人も、引き続き働くことができるようになる。そうすれば、新たな人材を採用したり、育成したりするコストをかける必要がなくなる。このようなメリットも見逃せない。
従業員の通勤時間が減り、ワークライフバランスを充実させることができれば、離職を食い止めるだけでなく、採用においても優秀な人材を確保しやすくなるだろう。
AIロボットの導入で「脱雑事」
AIは、さまざまな情報をアルゴリズムと呼ばれる脳が判断するもので、人間の意思決定のあり方に近いことから「人工知能」と呼ばれる。こう聞くと、自社とは無縁のもののように思えるかもしれないが、利益増加、従業員の離職防止、技術継承、人材採用など中小企業が直面する経営課題の解決につながる。なかには、特定部門の無人化を可能にするAIもある。
AIの活用法は多岐にわたる
AIが可能にする主なものは以下の通りだ。
業種によって活用できるAIはさまざまだが、従来よりも効率的な人員配置が可能になるはずだ。ユーザーからの問い合わせに対応するAIチャットボットの導入で、コールセンターや受付の人的コストを減らしたりなくしたりすることもできるだろう。
中小企業へのAI導入は、経済産業省も後押ししている。これからAIを導入する企業向けの「AI導入ガイドブック」を作成し、サイトで公開しているので、参考にしてほしい。AI導入の際に活用できる補助金制度もいくつか用意されているので要チェックだ。
「脱・明るすぎる照明」で雰囲気演出も
オフィスの照明にかかる電気代も節約できる。電気代が安く、寿命も長いLED電球の導入は真っ先に取り組む方法だが、その先をいく節約術を紹介しよう。
近年、オフィスの照明が明るすぎると感じる傾向が強まっている。明るすぎる照明によって、目の疲れや頭痛など体調不良につながることもある。そこで、工夫して照度を落とす企業も増えてきている。
流行しつつあるタスク・アンビエント照明方式
最も代表的なのが、「タスク・アンビエント照明方式」だ。「タスク」は作業、「アンビエント」は周囲という意味である。
室内をほぼ均一の明るさで照らす「全般照明方式」を採用する企業が多いが、これとは異なり、部屋全体を照らすアンビエント照明に加えて、従業員の各デスクにタスク用の照明器具を設置する。天井にあるアンビエント照明を間引いて明るさを抑える一方で、従業員はそれぞれ自席の照明で明るさを調整する。
このタスク・アンビエント照明方式なら、離席者のタスク照明は消されるうえ、狭い範囲だけが明るく照らされることになり、全般照明方式に比べて消費エネルギーを大幅に低減できる。個人によって明るさを自由に変えられるので、仕事の効率や知的生産性がアップすると考えられている。
カフェ風のイメージで
天井の照明を間引いたり、明るさを落としたりしたうえで、従業員に暗くなったと感じさせない工夫が、オフィスをカフェにあるような落ち着いた雰囲気の壁紙に変えてしまうことだ。最近は、照明を落としておしゃれ感を演出しているカフェでの仕事がはかどる人も多い。同じような雰囲気のオフィスにし、従業員のモチベーションアップとコスト削減を両立させる一案だ。
クラウドソーシング活用で「脱固定費」
クラウドソーシングは、インターネットを通じて、さまざまな人材(クラウドワーカー)に直接、仕事を依頼できる仕組みだ。インターネットにつながる環境さえあれば、すぐにでも活用できる。
人件費の流動化で固定費を削減
クラウドソーシング活用によって、業務の多寡に合わせて柔軟に人材を確保できるようになり、固定人件費を流動化できる。一般社団法人「日本テレワーク協会」が公表しているクラウドソーシング活用事例には、以下のようにコスト削減に成功した中小企業の事例が紹介されている。
(1)不定期に発生する大量制作案件をクラウドソーシングへの発注に移行した。成果物の品質を確認しながら、1年間で業務を完全にクラウドソーシングに切り替えた。その結果、設備費、人件費など4割近くのコスト削減につながった。
(2)自社ECサイトの出品作業をクラウドソーシングに発注した。作業の分担化で大幅に社内の作業時間を短縮し、コスト削減につなぐことができた。それによって空いた時間を、事業の新規開発などノウハウとなる業務に有効活用した。
多様なニーズに対応が可能
単にコストを削減できるだけでなく、多様なスキルやノウハウを持ったクラウドワーカーに発注することで、自社にない経営資源を補完したり、質の高い成果物を期待できたりといったメリットもある。短期的な業務の依頼から、長期的に取り組む経営課題まで、ニーズに合わせて発注できるのがクラウドソーシングのメリットだ。
品質を管理するためのマネジメントが必要になるほか、社内にノウハウが蓄積されない、クラウドワーカーとのコミュニケーションが難しいことがあるといったデメリットもあるが、喫緊の課題を解決する策として、一考の価値はある。
メリットとデメリットを踏まえながら検討を
ここまで紹介してきたコスト削減術を取り入れるには、初期費用がかかるものもある。しかし、中長期的に見れば、大きなコスト削減につながるものばかりだ。さらに、金銭的な支出が減るだけでなく、生産性向上につながることで、利益増加にも大きく貢献してくれるだろう。
一方で、それぞれにメリットだけでなく、デメリットもある。そのどちらも踏まえながら導入を検討してみてほしい。
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