2022年11月4日(金)に開催された日本公認会計士協会東京会の東京第二ブロック研修会に、
株式会社アックスコンサルティングのコンサルタント・笹澤佳槻氏が登壇。
このレポートでは特別に、研修の内容を紹介します。
採用難を前提に事務所づくりを考えることが重要
今回の研修のテーマは、「会計事務所業界の最新動向―注目事務所の成長戦略―」。
プロパートナーONLINE特別編集『2022年版 士業業界ランキング500』から、
会計事務所従業員数ランキング上位500事務所(TOP500事務所)の最新動向と、
事務所成長の指標となるデータを紹介。
「売上・生産性」「営業・マーケティング」「組織づくり」の3カテゴリーで、
これから会計事務所が取り組むべきことについて笹澤氏が解説しました。
笹澤佳槻氏
株式会社アックスコンサルティング
ビジネス・ソリューション事業部マネージャー
2015年入社。会計事務所を中心に、マーケティング、業務改善、採用、
人事評価制度構築などのコンサルティング業務に従事。関与した事務所は500件以上。
現在は、自社の新卒採用責任者も兼任している。
■売上・生産性
会計事務所業界以外にも共通することですが、
これからますます人材確保は難しくなっていきます。
「経験者は採用できない」という前提で、
どうやって生産性を上げるかを考えなくてはいけません。
TOP500事務所を対象にしたアンケート調査では、
2021年に「業績が上がった」と回答した事務所が76.3%でした。
さらに、職員一人あたりの平均売上は1,127万円と、
業界平均の800〜900万円と比較して高い水準を誇るなど、
大規模事務所はコロナ禍においても安定した経営を実現していることがわかります。
また、コンサルティング業務の報酬は、月額で平均110,958円。
生産性の高い事務所ほど、コンサル報酬が高い傾向にあります。
TOP500事務所のような高い生産性を生み出すためには、
●製販分離体制を構築する
●付加価値業務をパッケージ化する
といった取り組みが必要です。
入力作業など未経験者でもできる業務と、
顧問先との窓口業務を切り離すことで、
資格者や経験者を付加価値業務に専念させることができます。
その際、ただ付加価値業務を始めればいいというわけではなく、
どの業務に注力するかの絞り込みを行い、パッケージ化することで、
属人的ではない仕組みをつくることがポイントです。
■営業・マーケティング
TOP500事務所が2021年に獲得した新規問い合わせ件数は、平均で月22件。
問い合わせ獲得経路で多いものは、
- 顧問先からの紹介
- 他士業からの紹介
- 金融機関からの紹介
という結果でした。
注目すべきは、「他士業からの紹介」と「金融機関からの紹介」です。
他士業からの紹介では、司法書士、弁護士が紹介元として多く挙げられています。
これは、金融機関も含め、相続や事業承継で提携しているのではないかと考えられます。
TOP500事務所のなかには、資産税の専門チームを置いている事務所も多いですが、
相続・事業承継に対応できるかどうかは、他士業や金融機関を開拓するうえで重要です。
私が聞いたなかでは、事業承継をきっかけに、
顧問契約を他事務所に乗り換えられてしまったというケースもあります。
もちろん、やみくもに紹介チャネルを開拓すればいいというわけではありません。
自社がターゲットにしている顧客を紹介してくれるかどうか?
つまり、顧客層が似ているかどうかで、開拓する先を選ぶことがポイントです。
また、新たに取り組みたいサービスとして1位になったのは、
「IT・クラウド導入支援」でした。
人材確保が困難な状況にあるのは、顧問先も同様です。
コロナ禍で業績が悪化した企業も多くあるでしょう。
バックオフィスの効率化をサポートし、
収益改善につなげるサービスには、大きなチャンスがあります。
■組織づくり
人材確保が困難な時代ですから、採用にかけるコストも上昇傾向にあります。
TOP500事務所は、正社員一人を採用するために、
602,986円かけているという結果が出ました。
事務所のブランド力がある大規模事務所でも、
しっかり採用にコストをかけているのです。
また、中途の経験者と有資格者の初任給に関しては、
100名を超える事務所より50名未満の事務所の方が高いということもわかりました。
大規模事務所に比べてブランド力が弱まるため、
金銭的な訴求を強化しているのではないかと考えられます。
しかし、小規模な事務所が同じように採用コストをかけ、
給与を上げることは容易ではありません。
そこで、組織づくりで重要になるのが、
- 今いる人を辞めさせないための仕組みづくり
- 教育・研修により事務所全体のスキルアップ
を行うことです。
特に、人事評価制度の構築は大きなポイントです。
評価の基準が不明確だと職員が不満を抱きやすくなります。
目標と連動した評価制度を設けることで、公平感や透明性、
納得感のある評価を実現でき、退職リスクを下げることができます。
ほかにも、リモートワークに対応できる、
スキルアップにつながる研修が豊富にあるなど、
金銭的なメリット以外で訴求できるポイントを用意しておくことも重要です。
「売上・生産性」「営業・マーケティング」「組織づくり」の
どのカテゴリーにおいても、共有するのは
“人材確保ができないことを前提に考える”ということです。
テクノロジーを活用して、業務の効率化や標準化、
見える化を行い、生産性を上げる。
商品をパッケージ化して、誰でも営業ができるようにするなど、
今いる人材で最大限の成果を出せる施策を打つことが重要なのです。
こういった取り組みは、結果的に“採用に強い事務所”
をつくることにつながります。
本日は、業界を牽引するTOP500事務所のデータから、
さまざまな指標と取り組みを紹介しました。
当社はこの調査を毎年行っていますが、
TOP500事務所は年々拡大傾向にあります。
もちろん、事務所を拡大することだけが良いというわけではありません。
重要なのは、同業者の情報収集を行い、
そのなかからやるべきことを選択してリソースを集中させることです。
本日の内容が、少しでも皆様の経営の参考になれば幸いです。
日本公認会計士協会東京会・第二ブロック長 大木宣幸氏より
「近年は多くの会計事務所にて人手不足と人材育成が課題になっており、
人事面の内容が特に参考になりました。
例えば、職員への研修は1時間の研修を月1回行うよりも、
3〜5分でも良いから毎日行うこと、人材募集時には、
リモートワーク前提で遠方にいる優秀な人材にも間口を広げ採用力を上げること、
ヘッドハンティングの有効な活用方法、
逆に優秀な人材を引き抜かれないように制度を整えるなど、
取り入れたい施策もたくさんありました。
人事に関しては顧問先も当然悩みを抱えていますので、
非常に有益な内容だと感じています。今後ともよろしくお願い申し上げます。」
〔まとめ〕TOP500から見る、会計事務所が取り組むべきこと
- 未経験者しか採れないという前提で業務を効率化・標準化しておく
- 金融機関や他士業とのネットワークを構築する
- 人事評価制度を構築し、明確な評価基準を設ける