雑貨界のレジェンド~実は大躍進中、ロフトの秘密
ユニクロ、ニトリ、ABCマート……ここ数年、東京・銀座の並木通りの一角にお値打ちな国民的ブランドが集結している。その通りのあちこちで見かけるのが黄色のロフトの袋。創業30年でついに年商1000億円を突破。今も意外なほどの成長を続けている。
最新の「銀座ロフト」の1階にある食品コーナー。女性客が次々に籠に入れていたのは、カラフルな色をしたもなかのような形の「マムスープ」(303円)。お湯を注ぐだけで様々な味が楽しめるカプセルのスープだ。
「世界のごちそう博物館」にずらりと並んでいるのは、世界中の知られざるごちそうを楽しめるレトルト商品。例えばアフリカ・ガボンの家庭料理「ムアンバ」(651円)。鶏肉が入ったスパイシーなトマト味のシチューだ。
とにかく、見ているだけで飽きない商品だらけ。豆腐そっくりの「豆腐一丁絹ごし(付箋)」(638円)は付箋だ。
日々使う日用品でも心ときめく商品があふれている。例えば歯ブラシ売り場。かわいいカバーのついた「パーリーホワイト」(506円)はシンガポール製。これなら子供も歯磨きをしたくなること請け合いだ。「六星歯ブラシ」(330円)はブラシに備長炭を配合した抗菌歯ブラシ。スウェーデン製の電動シリコーン歯ブラシ「ISSAミニ2センシティブ」(1万4850円)は歯茎が敏感な人向けだという。
日用雑貨なのでどれも手の届く商品ばかり。だからショッピングをしていると、ついつい長居してしまう。この、客を離さない魅力的な商品の品ぞろえこそ、ロフト最大の武器だ。
そんな魅惑のロフトを作り上げた社長・安藤公基は「千円札1枚の幸せ。ロフトは1000円持っていれば楽しいものが絶対見つかります」と言う。
安藤は32年前のロフト開業時の立ち上げメンバーの1人で、筋金入りの雑貨好きと知られている。
お気に入りの商品はデスクの上にも。小さな「お道具箱」の名刺入れや、削り心地が抜群だという創業80年を超えるメーカーの鉛筆削り。驚いたのは、壁に飾ってあったニューヨークのアート。無料で配られる地図の上にプリントされたものなのだが、「座り込んで売っていたので、歩いていて面白いと思って買いました。ロフトでも販売しました」。
気に入ったものがあれば今も自ら買い付けるという。
「買い付けに行ってないと分からななくなる。バイヤーほどの回数でなくても、自分でこれはと思ったら買います」(安藤)
コスメに手帳、弁当箱……ときめく雑貨が23万点
ロフトの稼ぎ頭、コスメ部門のバイヤー・本間弓子が到着したのは、大手化粧品メーカー、ロレアル。担当者は新作の化粧品を取り出しながら「爆発的に製品が売れるようにご協力いただければと思います」と言う。
実は本間が気に入った商品は、かなりの確率でヒットするという。日々、膨大な商品を品定めする本間の目利き力は、メーカーにとってかなり重要な意見なのだそうだ。
「半年先のトレンド、数量、どの色が売れるかといった判断は、難しいのですが、いつも的確な助言をいただいています」(日本ロレアル担当者)
そんなロフトのバイヤーへの絶大な信用が、他にない商品仕入れにもつながるという。
「一からアドバイスをもらいたいという話がメーカーからあり、その代わり『ロフトで先行発売をさせてください』という話をさせていただいたこともあります」(本間)
その結果が、他にない品ぞろえを作り出すのだ。
今がシーズンの手帳は、実に3000種類以上の取り扱いを誇っている。
大人気という「逆算手帳」(4125円)は、書き込むことで願いが叶いやすくなるという手帳。上下が1カ月と1週間に分かれている「ウィークリーツインダイアリー」(1650円)は同時に予定が確認出来るのが便利。驚くほど横長の「スティックダイアリー」(1540円~)は、パソコン仕事をしながら手元で使いたい人向けだ。
お弁当箱売り場も実に1000種類の品ぞろえ。かわいらしいものから、「曲げわっぱ」など和のテイストのもの、さらにおにぎりを包む竹の皮まで。
細長い弁当箱「ムスビスリムスクエア1段」(1980円)は、バッグに入れやすいと女性たちに大人気。2層になった保温丼「ナチュラルブランチ保温キャリーランチ」(3245円)は、上の段に具材を入れられるので、食べる直前にご飯にかければホカホカのおいしさが味わえる。
立てて運べる薄型弁当箱は「フードマン800」(1980円)。蓋のパッキンが中身を強く押さえつける構造のため、カバンに縦に入れて持ち歩いても、今までのように中身が偏ってしまうことがほとんどない。
ロフトがここまでの品ぞろえができるのには理由がある。
ロフトの弁当箱担当バイヤー、平林有希子と佐久間美菜子が訪ねたのは、東京・北区の「タツミ産業」。弁当箱メーカーの担当者と打合せだ。ロフトは魅力的な商品を増やすため、自分たちで商品開発も行っている。この日のテーマは必要な量だけ組み合わせて使えるシンプルな弁当箱だ。
「今、簡単なタッパーなどでお弁当を持っていく方が増えているので、自分の食べたい容量に合わせて食べられるお弁当箱があったらいいなと思いまして」(佐久間)
こうした自主開発商品を投入することで、売り場自体を盛り上げていくのだ。
「どこにでもあるタッパーじゃつまらない。もっと使い勝手のいいものがあるというのを、来年の春に出したいと思っています」(平林)
ロフトは今、全国に急拡大している。10月には富山県で初めてとなる「富山ロフト」が商業施設内にオープン。ロフト初体験の客たちが詰めかけた。すでに全国で100店舗を突破している。
他社のボツ商品で大ヒット~ロフト驚異のバイヤー集団
罫線のところに円周率が記されているユニークな「円周率ノート」は、「キングジム」とのコラボで誕生した。その経緯を知るのが同社開発本部の志村寛久さんだ。
「打合せの中で出たアイデアだったんです。ただ社内的には『製品化は難しい』と、その時はボツになったんです」(志村さん)
ところが、ツイッターでボツになったことをつぶやくと、それを見たロフトのバイヤーが商品化したいと連絡を取ってきたという。
「『まさかそれをやるんですか』という気持ちが強かったです」(志村さん)
結局、ノートを作ってロフトで販売したところ、思わぬ大ヒットに。その後、同じアイデアで「百人一首」「素数」など、シリーズ化するまでになった。
ボツにしたアイデアでヒットを飛ばしたロフトについて、キングジムの宮本彰社長は「本当に商品化されるとは実は思っていなかったです。『ロフトさん、さすがだな』と。その後も売れているということで、正直びっくりしています」と言う。
そんな他社も驚くロフトの凄腕バイヤーが集まるのが総勢50人の商品部。あらゆる分野の雑貨を世界中から買い付ける、ロフトが誇る専門家集団だ。「『真面目にふざける』という部分をずっと持ってやっています」と、その1人は言う。
ロフトのバイヤーたちは様々な商品の大ヒットの火付け役となってきた。例えば今や定番のシステム手帳。イギリスのメーカーが販売していたものを日本用に改良、ロフトが爆発的にヒットさせた。今では当たり前のアロマも、90年代前半、ロフトが日本で初めて売り場を大々的に展開、一般化させたという。
韓国・ソウル。「日本で未発売のもので、ヒントになるようなものを見たい」と言うバイヤー永松彩が真っ先に向かったのは、今年2月にできたばかりというブランドの店。ここの化粧品の売りは、マグネットで商品同士をくっつけられるユニークなデザインにある。
ところが永松は「そんなにかわいいと思わない。ロフトでの展開は難しい」。バイヤー自身がときめかない商品を買い付けることはない。女性向け商品は、韓国のものが日本でブームになることが少なくないという。しかし、永松の心が騒ぐものはなかなかない。
そんな中、ある店で「ほとんどコラーゲンでできている」と紹介されたのが、初めて見るスキンケアマスク。マスクは肌に貼り付けると30分ほどで透明に。マスクのコラーゲンが肌に浸透するのだという。「日本にはあまりない。売れそうです」と永松。買い付けを決定、ロフトでの販売を決めた。
「店頭にお客様が来られて『ロフトにあったんだ』というのを目にすると、『やった』と思います」(永松)
伝説の売り場を作った男~世界で発掘、ときめき雑貨
ロフトのバイヤーたちの格闘の始まりは、30年以上前にさかのぼる。
東京・渋谷。西武百貨店の裏手にあるのが、ロフトの最初の店舗、1987年に開業した渋谷ロフトだ。当初は西武百貨店の別館としてオープンし、それまでにない雑貨の専門店として異彩を放っていたという。
入社29年の営業企画部・横川鼓弓は、学生時代、渋谷ロフトに来店、「本当に衝撃的で、すごくびっくりしたのを覚えています」と言う。
特に話題をさらったのが、6階にあった売り場「ムービング」。珍しい海外雑貨を集めた「ムービング」が話題となり、ロフトには開業直後から客が押し寄せた。
「舶来のにおいがしました。その頃は海外のものが身近になかったので、見るもの全てが新しくて、ありとあらゆるものが雑然と置かれていました」(横川)
実はその「ムービング」を作ったのが、まだ28歳だった安藤だ。
「アメリカのジャンク雑貨みたいなものを集めたりして、うまくいけば宝箱だし、失敗すればゴミ箱になる、リスキーな売り場でした」(安藤)
雑貨で客を集められるのか……そんな不安と格闘し、安藤は世界中を駆け回った。
「ニューヨークから車でアメリカを横断してロサンゼルスまで行って、途中買い付けをしながら、荷物がいっぱいになったらロサンゼルスへ送って。メキシコでは警官からいきなり車を止められて『こんなナンバーでメキシコに来ていいと思っているのか』と言われたり(笑)」(安藤)
その買い付けは開業後も続き、安藤は客を飽きさせないように売り場を変化させ続けた。そしてそんな創業の格闘がロフトの理念を作り上げる。それが「時の器」という言葉だ。
「我々の企業理念は『時の器』。『モノの器』から『時の器』へと、ロフト自体が時代の変化を恐れず常に変化していく。それによってお客様の暮らしの豊かさや楽しさを提案し続ける」(安藤)
ロフトは変わり続けることで、生き残った。
ついつい買っちゃう秘密~ハロウィンよりクリスマス
歩いているだけでもロフトが楽しい秘密は、魅力的な商品だけではないという。
例えば、角度のついた独自の棚の置き方。「斜めになっていると、お客様の目が当たる場所が非常に増えるんです」(安藤)と言う。一般的な売り場は直線的に棚を並べることが多いが、ロフトの売り場はあえてギザギザに棚を置き、客がなるべく多くの商品に出会えるようにしてある。
安藤は、独自の売り場作りでもロフトの好業績をたたき出してきた。売り場のあちこちにあるプレートもそんな作戦の一つだ。
あるコーナーに掲げられているのは「ENJOY GAME」。クリスマスはゲームを楽しみませんかという提案だ。家族で楽しくなれそうなゲームを厳選して集めてある。一方、「WARM LAND」というプレートが掲げられたコーナーは「おしゃれに温まりませんか」をテーマにしている。
こうした、ジャンルに関わらず、テーマで商品を集めることを、ロフトでは「房(ふさ)」と呼んでいる。
「ブドウの房はいくつもの粒が集まってできているじゃないですか。一房、一房がテーマを持っていて、それを粒が構成している」(安藤)
売り場を、客の生活に寄り添ってつくるのがロフト流なのだ。
「今の暮らしの楽しみを追求するテーマは何かと考えて、それに面白いタイトルをつけて、商品を合わせていく」(安藤)
その安藤が今年、売り場作りの変更を指示していた。ハロウィン直前の10月の取材中、安藤は「今ハロウィンはああいう状態じゃないですか、渋谷とかも大騒ぎで。我々はそんなに取り組みたいモチベーションはなくなったので、もう一度クリスマスをゆっくり楽しんでもらえる商品を増やしています」と語っていた。安藤は近年のハロウィンの大騒ぎを快く思っていないようだった。
ロフトは今まで以上に力を入れ、クリスマスの売り場を充実させることにした。テーマは、家族で過ごす暖かなクリスマス。完成したロフトの売り場は、クリスマスとは思えない輝きに溢れていた。ロフトの思いは常に人々の気持ちを豊かにすることにある。
~村上龍の編集後記~
「今年はハロウィン関連商品を置くのを止めた」という姿勢は印象的だった。渋谷の喧噪が嫌いというわけでもなく、結果的に「流行を追う」形になるのがいやだったのだろう。
80年代後半のロフトは衝撃的だった。安藤さんを含め三人の若者が世界中から商品を仕入れた。直営だけで100店舗に拡大した今もなお、その価値観は、維持されている。「他がやらないことをやる」ということだ。
手帳は圧倒的で、マニアックなものもあるが、コンセプトは繊細だ。奇をてらわず、客の想像を超える、それが安藤さんの「雑貨道」である。
<出演者略歴>
安藤公基(あんどう・こうき)1958年、東京都生まれ。中央大学卒業後、1981年、西武百貨店入社。1987年、渋谷西武ロフト館開業。2008年、仙台ロフト、梅田ロフト館長。2016年、社長就任。
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