百五銀行 中川智博氏

日本M&Aセンターが行うM&A大学。その卒業生として最前線で活躍するOB・OGバンカーに気になる情報をインタビュー。

今回は百五銀行 法人コンサルティング部 事業承継・M&A支援課 課長代理 中川智博氏にインタビューした。

M&A大学とは
日本M&Aセンターが協業する地域金融機関に向けて行う、研修・出向制度。M&A大学入学者(地銀からの出向者)はM&Aシニアエキスパート研修(JMAC)、評価・概要書研修などの座学と日本M&AセンターとのコンサルタントによるOJTなどを経て、自ら顧客への提案からM&Aの成約、契約の締結までを完結できるM&Aコンサルタントとなることを目指す。

まず、入行から現在までのご経歴について教えてください。

中川:2006年に入行、三重県内で5つの支店で主に法人渉外を担当している中、2019年7月現在の部署の前身であるソリューション営業部(※)に異動になりました。その後3カ月間本部でM&A業務を学んだ後に、2019年10月より日本M&Aセンターへ出向、名古屋支社に在籍しました。
当初は2020年3月末までの出向の予定でしたが、後任となる出向者がすぐに決まらないなど様々な要因が重なり、2020年4月から約2年間は出向の籍を置きながら基本的には本部のM&Aチームの一員として動いて情報開発を行い、協業案件の対応や必要がある時には出向先で仕事をするという少し変わった出向期間を過ごしました。
2022年4月より現在の部署に戻り、M&Aチームの一員として私自身は四日市市・桑名市・鈴鹿市等の三重県北勢エリアを担当しております。
(※)ソリューション営業部は、事業承継、M&A、ビジネスマッチング、医療、ストラクチャードファイナンスなど各専門チームが営業店と連携し、お客さまの課題解決をサポートする部署。現在は部署名が法人コンサルティング部へ変更となっている。

充実した出向期間を過ごされたんですね。
支店で勤務されていた頃に、M&A業務に携わったことはありましたか?

中川:担当しているお客さまが、自行で取り組んでいるM&A案件の買い手になるという経験があります。当時はM&A業務に携わったことがなかったのですが、本部の担当者がたまたま同期であったこともあり、面談には極力同席させてもらい、その時初めてM&A業務を肌で感じることができました。

ご出向頂いた際の当社の印象について教えてください。

中川:日本M&Aセンターへの出向経験のある同僚から、「バリバリの営業会社で、出向を通してやりたいことを明確に持っていないと流されてしまうよ」とアドバイスをもらったこともあり出向前はかなり身構えていたのですが、当時の名古屋支社には自身と年齢が近い気さくなコンサルタントの方々が多く、色々と相談しやすい環境で良い意味で意外でした。
社員の皆さんは、(イメージ通り)ディール対応が重なるとかなり多忙な方もいらっしゃいましたが、自分自身の実績だけではなくお客さまの利益を最大化するために必死に働いているという印象を持ちました。

百五銀行 中川智博氏

出向期間に一番勉強になったこと、今の業務に活かせていると感じることがあれば教えてください。

中川:やはりディールの各フェーズで想定されるリスクやポイントを実践的に学べたことが大きいと感じます。
幸い最初の半年の出向期間の中で2件の譲渡案件の受託をすることができました。その案件のディール対応の中でお客さま対応は当然ながら、社内の案件診断会や契約書の確認・専門家への相談等にも同席させて頂き、座学だけでは得られない多くの経験ができ、今の活動にも活かすことが出来ていると感じます。

出向期間半年の中で譲渡案件の受託を2件も獲得されるというのはよい経験ですね。

中川:最初の1件は本部の担当者と一緒に対応させてもらいましたが、もう1件は自分の支店時代の40代の社長に買い手として提案をしたところ「いや、うちは譲渡を検討したい」との話に発展し受託させて頂きました。
今振り返るとトータル2年半の出向期間の中で、合計7つの案件の成約に一から関わらせて頂いたので、とても良い経験ができたと思います。

多くのディール経験を積まれた中で、特に印象に残っているディールについて教えてください。

中川:出向期間に譲渡案件の受託をしたうちの1つのディールです。初めて自分自身で受託から関わったということもありますが、譲渡企業の社長が受託した当時は56歳とお若く業績も好調の中、ご自身の体調面の不安から当行にご相談頂いたことをきっかけに受託した案件でした。
受託後に分かったのですが、社長は深刻なご病気だったようで、TOP面談の数日後に手術を行い、またちょうど新型コロナウィルスも蔓延してきた時期で、最初のTOP面談後に譲渡企業と譲受け企業が直接面談をする機会を設けることが出来ないまま、Zoom等も活用しながらなんとか条件交渉を進めました。
また本件は3社の同時譲渡で、合併と分割を同時に行う特殊なスキームを組んだり、想定していなかった簿外資産が出てくるなど、M&Aのディールで出てくる論点を凝縮したような複雑な案件でした。当時担当して頂いた日本M&Aセンターのコンサルタントはベテランの方で、その方のこれまでの経験や社内の専門家の方々のサポートがなければ成約しなかった案件でした。
紆余曲折ありながらなんとか成約までこぎつけることができ、譲渡企業の社長からは「当初自分がイメージしていた形での譲渡が出来て大変ありがたい」とのお言葉と頂き、また譲受け企業からは成約前に想定していたシナジーがしっかり生み出せていると聞いています。
また、大変残念ではありますが、譲渡企業の社長が少し前にお亡くなりになったお話も聞きました。当時病気の治療やコロナ禍等が重なり大変な時期でしたが、諦めずに関係者全員で成約までつなげることができ、譲渡企業にとって本当に良かったと思いますし、この業務に銀行員として取り組む意義を改めて実感した経験となりました。

百五銀行 中川智博氏

初めてのディールからかなり壮絶なご経験をされたんですね。

それではここからは、現在の貴行におけるM&A業務の取り組みについてお聞かせください。
現在M&Aチームは何名が在籍されていらっしゃいますか?

中川:現在は8名体制です。三重県は南北に長い地形であり、また愛知県にも多くの支店を出していることから、エリアを3つに分けてそれぞれ担当者を決めております。

貴行内でM&Aを普及させるために本部として様々な取り組みをされていると思いますが、これまで取り組まれた中でどのようなものが効果的だったと感じますか?

中川:以前よりコンサル業務の強化を目的に、支店長をはじめとした役席者向けの研修、支店行員向けの年次別研修等を実施し、本部のメンバーが講師をしたり外部から講師を招いて実践的な研修を行っており、私も講師を務めることもあります。その他、担当エリアの支店内で法人渉外の担当者向けの勉強会を実施、勉強会後に支店のお客さまに対する具体的なアプローチについて相談する検討会等も随時実施していますが、やはり実際に帯同して横で話を聞いてもらうのが一番効果的だと感じます。本部メンバーと5~10社程度一緒に面談をすると大体の話の流れや切り出し方を覚えてもらえるので、そういった経験を積んでもらえる方を増やしていきたいと考えています。

日々お客さまの対応をされる中で、コロナ禍を受けて感じる変化はありますか?

中川:やはり経営者の方々の意識の変化は感じますね。将来が不透明な中で、事業承継やM&Aを一つの経営戦略として前向きに捉えて、自社よりも大きい会社とグループになり成長を目指していくことを真剣に検討される企業が増えてきた印象です。また、シビアな話でもありますが、お相手が見つかりやすい業種とそうではない業種もより明確になってきていますので、そういったトレンドも踏まえて個々の企業にあわせた提案を進めるようにしています。

最後に今後について、いくつか質問させてください。
中川さんの今後の目標を教えてください。

中川:目標は難しいですね(笑)。月並みにはなりますが、現在のM&A業務を通じて地域の企業を救うことができていると実感しておりますので、一社でも多くの企業の存続と成長に貢献していきたいです。三重県の後継者不在率は全国平均よりも低く3割弱と言われておりますが、社内承継を含めて当行としてお手伝いできることはたくさんありますので、一社一社と真摯に向き合い地方創生に貢献するような仕事をしていくことが今後の目標です。

地方創生を実現していくために、日本M&Aセンターに期待することがあればお聞かせください。

中川:何と言っても、一緒に取り組んでいる協業案件を成約まで導いてくれることですね(笑)。これまで紹介させて頂いた案件は論点が難しいものや規模が大きいものが多いですが、大半の案件が成約に至っており日本M&Aセンターのマッチング力には引き続き期待しています。協業案件が成約することで信頼が高まっているのも事実ですので、引き続き協業案件に良いマッチングをして地域に貢献する仕事を一緒にしていきたいですね。