相続対策,資産管理会社,設立
(写真=Zadorozhnyi Viktor/Shutterstock.com)
澤田 朗
澤田 朗(さわだ・あきら)
日本相続士協会理事・相続士・AFP。1971年生まれ、東京都出身。日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続対策のための生命保険コンサルティングや相続財産としての土地評価のための現況調査・測量等を通じて、クライアントの遺産分割対策・税対策等のアドバイスを専門家とチームを組んで行う。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中。

財産を次世代に継承していくためには、様々な相続対策が必要になる。遺された相続人同士が揉めないような遺産分割対策が最重要だが、相続財産の中に不動産など評価額が高い財産がある場合は、相続人の納税資金や税額の軽減についても考えておかなければならない。そこで今回は、特に相続財産に不動産が多い場合に相続対策として活用できる「資産管理会社」について解説する。

資産管理会社とは?どのような人が設立したほうが良い?

不動産投資を行っている人なら、「法人化」や「資産管理会社の設立」といったキーワードを耳にしたことがあるだろう。文字通り個人が所有している資産を管理する会社だが、最大の目的は個人の税負担の軽減だ。

個人で不動産収入がある場合は、固定資産税・減価償却費・損害保険料・借入金の利息などの必要経費を引いた額が不動産所得となるが、それ以外は大きな修繕などがないかぎり経費として計上できるものがほとんどなく、所得金額が大きくなってしまうことがある。また他に給与所得などがある場合は、それらの所得を合計した金額に課税される(総合課税)。しかも所得税は所得金額によって税率が高くなる累進課税方式で、税率は以下のとおりだ。

課税される所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超330万円以下 10% 9万7,500円
330万円超695万円以下 20% 42万7,500円
695万円超900万円以下 23% 63万6,000円
900万円超1,800万円以下 33% 153万6,000円
1,800万円超4,000万円以下 40% 279万6,000円
4,000万円超 45% 479万6,000円

さらに上記で計算された所得税額に2.1%を掛けた復興特別所得税と住民税(10%)がかかり、最高で55%以上の税負担が生じることになる。

それに対して法人税は、以下のように事業年度の所得(利益)金額によって税率が決められており、最高でも23.20%だ。地方法人税・法人住民税・法人事業税等を考慮した「実効税率」でも、約30%である。

区分 開始事業年度
2019年4月1日以後
普通法人 資本金1億円以下の法人等 年800万円以下の部分 下記以外の法人 15%
適用除外事業者 19%
年800万円超の部分 23.20%
上記以外の普通法人 23.20%

資産管理会社は不動産の管理方法によって3つに大別されるが、個人で所有している不動産を資産管理会社に売却した場合、それまで個人が得ていた不動産収入を法人が得ることになる。すると、所得税よりも税率の低い法人税を負担して不動産を管理できるほか、役員報酬というかたちで法人から個人へ報酬を支払うことで法人の利益が減り、法人税の負担を軽減することもできる。このように法人のほうが税率の面で有利であり、また個人の場合よりも様々な支出を経費として計上できるため、節税効果が高い。

個人にとっては、不動産所得が法人から受け取る給与所得に変わることによって、給与所得控除を受けられるようになる。すでに給与所得がある場合は給与所得控除の額が増えることになり、不動産所得で経費計上できる額よりも控除額が多くなる可能性が高く、この意味でも節税メリットが生まれる。

個人の所得税率と法人の実効税率約30%を比較して所得税率のほうが高くなる場合、900万円を超える所得がある場合は資産管理会社の設立を検討すべきだ。

設立後に相続が発生したら?相続対策としての管理会社設立のメリット

資産管理会社が設立し、個人の財産を資産管理会社が所有・管理するかたちにすれば、個人所得税でもメリットがある上、個人では経費として計上できない支出も費用・損金とすることができるため、個人と比較して税負担の軽減が見込める。

さらに資産管理会社を設立後に相続が発生した場合も、個人で不動産を所有している場合と比較して様々なメリットがある。次に、相続発生時の3つのメリットについて説明する。

・メリット1:個人の相続財産の増加を抑制し相続税を軽減
個人で不動産収入を得ている場合は、不動産所得が個人の財産として蓄積されていくことになる。長期間に渡って収入を得た後に相続が発生した場合は預貯金の額も増えている可能性が高く、不動産と合わせた相続財産の評価額が大きくなってしまうかもしれない。すると、相続人の相続税の負担も大きくなる。

資産管理会社が不動産を所有している場合は、不動産収入は法人の収益となり法人に蓄積されていく。その収益から個人が役員報酬というかたちで収入を得れば、個人の相続財産の増加を抑えることができ、その結果相続発生時の税負担も軽減できる。

・メリット2:相続時の納税資金の確保資産の分散効果と納税資金の準備
個人の不動産収入はすべてその不動産を所有している個人に入り、相続人となる親族(妻・子など)に分配することはできない。現金や不動産を生前贈与する方法もあるが、特に不動産の場合には一度に贈与をすると贈与税の負担が大きくなることがあり、数回に分けて贈与した場合はその都度登録免許税などの費用がかかり、手間と時間もかかってしまう。

資産管理会社が得た収入を個人に役員報酬として支払うほか、親族にも役員報酬や給与などのかたちで支払えば、生前に不動産収入を相続人に分散でき、また相続人は報酬を得ることで納税資金を準備できる。

株式を生前贈与することもでき、生前に株式を相続人に計画的に移転できれば、相続発生時の財産を減らすことができる。ただし報酬については、別の会社に勤めていてそこから給与を受け取っているなど、資産管理会社での勤務実態がない親族を役員などにした場合は、その報酬が法人の経費として認められない場合があるので注意したい。

・メリット3:財産評価方法の違い
個人で不動産を所有している場合の相続財産の評価は、建物は「固定資産税評価額」と同額で実勢価格の約7割、土地は路線価が定められている地域では「路線価方式」で算出された額によって評価される。賃貸アパートなどの収益物件が建っている土地の場合は、貸家建付地として「自用地(自宅等、自身が使用する目的の土地)評価額-(自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」が評価額となるが、自用地としての評価額や空室割合などによっては評価額が大きくなってしまうことがある。

資産管理会社を設立した後に相続が発生した場合は、その法人の株式が相続財産となる。法人の純資産価額によって株式の評価額を計算する場合、法人の資産から負債を差し引き、さらに法人税等相当額(37%)を差し引いた金額を基に計算するため、個人で不動産を所有している場合と比較して相続財産の評価額を抑えることもできる。

このように、資産管理会社を設立することで相続発生時の税負担を軽減できるほか、生前に財産を相続人に分散・移転させることもできる。

資産管理会社の種類

資産管理会社は、個人の不動産をどのように管理・所有するかによって大きく3つに分類できる。ここでは、資産管理会社の種類と不動産の管理形態などについて説明する。

・不動産所有方式
不動産を資産管理会社が所有・管理する方式で、建物のみを法人が所有し土地は個人が所有する「建物所有方式」と、土地・建物ともに法人が所有する「土地建物所有方式」がある。

1.建物所有方式
資産管理会社を設立後、個人所有の建物を法人に売却し法人所有にすることで、その後の不動産からの収益は法人に入ることになる。設立直後は法人に金融資産がないため、金融機関または個人から資金を借り入れ、毎月得る不動産収入から返済をしていくことになる。個人は法人に不動産を売却することで現金を得るので、金融機関からの借入がある場合には一括返済をすることができる。このように、個人の借入を法人に移すことで建物を法人所有にするのが、建物所有方式だ。

土地は個人所有のままなので、法人が個人から土地を借りて賃貸経営を行っていくかたちになる。通常の借地契約の場合は借主から貸主へ権利金を支払い、その後地代を払っていくが、資産管理会社の場合は、権利金ではなく「相当の地代」を個人に支払っていくケースが多い。

「相当の地代」の目安は、土地の相続税評価額の6%だ。相続が発生した場合の土地の評価額は「自用地評価額-(自用地評価額×借地権割合)」で計算され、個人所有の土地は借地権を設定することで相続税評価額を減らすことができる。

2.土地建物所有方式
資産管理会社を設立後、個人が土地・建物ともに法人に売却する方式である。建物所有方式と同様に借り入れによって資金を調達するが、借入額が大きくなるため事前に資金調達の方法を検討する必要がある。不動産がすべて法人所有になるため地代も発生せず、個人に相続が発生した場合も不動産については相続税がかからないが、土地を売却した場合は譲渡税がかかるので注意したい。

このように不動産所有方式には2つの方式があるが、法人の資金調達による利回りや個人の譲渡税負担などを考慮すると、建物所有方式のほうがバランスが取れていると言える。なお法人が取得した不動産は、3年間は「課税時期における通常の取引価額」で評価される。資産管理会社を設立後、3年以内に相続が発生した場合は株式の評価額が大きくなることがあるため、不動産所有方式を検討する場合は早めに開始したい。

・管理会社方式
不動産を個人で所有したままで、その管理を資産管理会社が行う方式である。資産管理会社を設立して管理契約を締結し、清掃・保守・修繕などの業務を委託する。管理料として得た売上を役員・従業員である親族に給与として支払うこともできる。不動産所有方式のように個人から法人へ財産を移転する必要がないため、比較的簡単に行えるのがメリットだ。一方で個人としては法人に支払う管理料が経費となり、その分税の軽減効果はあるが、所得の分散や財産の移転などはできず、相続発生時に不動産が相続財産となる点が不動産所有方式との違いである。

・サブリース方式
個人が所有している賃貸物件を資産管理会社が一括で借り上げ、個人に対して定められた保証家賃を毎月支払う方式である。空室のリスクを法人が負う代わりに、満室になった場合は法人に利益が出る方式で、個人としては空室リスクを法人に移転し、毎月決まった額の収入を得られるメリットがある。

またサブリース方式の場合は、相続発生時の相続税評価額算出に使用する「賃貸割合」が100%になるため、空室がある場合でも相続税評価額を減らせるというメリットもある。管理会社方式よりも法人へ財産を移転できる額は大きいが、不動産の所有者は個人のままなので、個人の相続財産評価額の減少はあまり見込めない。

このように資産管理会社には様々な方式があるが、どの方式を選択すべきかは所有不動産の数や立地、相続税評価額、家賃などによって変わってくる。

資産管理会社はどのように設立する?

資産管理会社を設立するには、どのような手続きを行えばいいのだろうか。手続きは通常の株式会社などの設立の場合と同じだが、設立前に検討すべきこともある。ここでは、資産管理会社の設立までの流れを説明する。

・資産管理会社の基本的事項の検討、作成
商号(社名)や本店所在地の決定や印鑑作成のほか、役員報酬額や資本金の額についても事前に検討しておきたい。所在地は自宅でも構わないが、事務所を借りたりバーチャルオフィスを活用したりしてもいい。資本金は会社の信用力にも関係してくるため、金融機関からの融資を検討している場合はある程度の額を準備しておく必要がある。

・運営方法の検討、決定
前述の「不動産所有方式」「管理会社方式」「サブリース方式」のうち、どの方式を活用して資産管理会社を運営していくかを検討し、事業の方向性を決定する。方式によって必要な借入額などが変わってくるため、運営方法については十分検討しておこう。

・定款の作成、認証手続きと資本金の払込
定款には、商号・本店所在地・事業目的・出資財産額・発行可能株式総数などを記載する必要がある。定款は、法人の本店所在地を管轄する法務局に所属する公証役場で認証を受け、その後法人名義の口座を開設し、資本金を払い込む。現在は資本金1円で会社を設立できるが、前述のとおり資本金は金融機関との取引に影響するため、ある程度の金額にしておきたい。なお、資本金は後で増やす(増資)こともできる。

新設法人については、2年間消費税の納税義務が免除される。消費税は、「前々事業年度」の課税売上高が1,000万円を超える場合に納税義務が生じるからだ。ただし設立時の資本金が1,000万円以上の場合は初年度から課税義務が生じるため、資本金は1,000万円未満にしておいたほうが当面の納税負担を回避できるのでおすすめだ。

・登記手続きと事業計画書の作成
定款認証と資本金の払込が完了したら、法務局で法人設立の登記認証を行う。認証には、定款と法人の代表印が必要になる。その後、法人印の印鑑登録や、税務署への法人設立届の提出、都道府県税事務所・市町村役場への届出、年金事務所(厚生年金・健康保険)・労働基準監督署(労災保険)・ハローワーク(雇用保険)などへの届出を行う。

また、金融機関から融資を受けるために事業計画書を作成する。保有資産の市場における優位性や建物の特性などを分析し、法人が資産を管理するメリットを含めて今後の経営戦略や事業計画を記載する。さらに、保有資産から得られる収益を織り込んだ貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー表や、借入金の返済計画を含めた資金計画表も作成する。

このように、資産管理会社の設立においては様々な手続きや書類提出などが必要になるため、専門家の協力やアドバイスが不可欠だ。

資産管理会社を設立すると、個人で不動産を所有する場合と比べて税金の面で様々なメリットがある。しかし、節税のみを目的として設立を検討するのではなく、設立後経営者としてどのように会社を運営していくのか、また資産をどのように次世代へ継承していくのかなど、多面的に考えて検討するようにしたい。

文・澤田朗(フィナンシャル・プランナー)

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