企業が持続的に成長するためには、環境の変化に対応しながら新たな価値を創造し続ける必要がある。人材が企業価値向上の源泉であり不可欠な存在であると定義しているのが「人的資本」という考え方だ。本記事では、人的資本の定義や注目されている理由、世界的な流れとなっている人的資本の情報開示などについて解説する。

目次

  1. 人的資本とは
    1. 人的資本の歴史
    2. 人的資本と人的資源の意味の違い
    3. 人的資本経営とは何か
  2. 人的資本が注目されている理由3つ
    1. 1.ダイバーシティ経営の推進
    2. 2.キャリア形成の多様化
    3. 3.ESG投資の世界的な広まり
  3. 人的資本の可視化と情報開示
    1. なぜ人的資本の情報開示が求められるのか
    2. 人的資本開示とISO30414
  4. 人的資本の情報を開示するメリット
  5. 人的資本の価値を高める方法
    1. 現状分析をした上で人材戦略を策定する
    2. 人材戦略に沿って人材育成に取り組む
  6. 人的資本についてのQ&A
    1. 人的資本の具体的な例は?
    2. 人的資本の考え方は?
    3. 人的資本経営では何をする?
  7. 人材戦略を策定と人的資本の可視化を目指そう
  8. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
人的資本って何? どうやって価値を高める?
(画像=vegefox.com/stock.adobe.com)

人的資本とは

「人的資本:Human capital」には明確な定義がないが、経済産業省の「人的資本経営」から読み取ると、自社の社員が持つ知識やスキル、資質などといった「人材」の要素を、企業の付加価値の源泉となる「資本」として捉える考え方である。

人的資本の歴史

人的資本についてはアダム・スミスの『国富論』で18世紀に触れられており、職務遂行のために教育を受けて訓練された人材は、高価な機械に似ているとされた。20世紀になると、経済学者であるセオドア・シュルツやゲーリー・ベッカーらによって、人的資本が再定義されることとなった。

人的資本と人的資源の意味の違い

人的資源とは、人材を「資源」と捉えて管理するという考え方である。人材はあくまで収益を生み出すために支払うコストであり、限られたものをいかに効率的に運用するかという点が重視されている。人材は消費するものとして扱うような考え方だ。

人的資本では人材を「資本」として捉える。人的資本は、教育などによって能力を伸ばして価値を高められる人材の要素であり、事業環境によっては必要に応じて外部から登用することもできると考えられている。

人材は継続的に育成し、最適な部門に配置することよって、企業の持続的な成長に必要な価値創造の源泉になるという点が人的資源と異なる考え方だ。

人的資本経営とは何か

経済産業省は「人材の価値を最大限に引き出す」というテーマとともに、人的資本経営のあり方を説いている。

人的資本経営では、人材育成はもちろん組織の最適化などといった人材戦略を策定、実施し、人的資本についてステークホルダーへ開示していかなければならない。

企業は、人的資本の価値向上が必須だ。そのためには、中核人材の育成方針を定めて社内の環境整備を行い、研修などの学びの機会を与えて定期的にフォローを行いながら成長を促すことが必要である。

人的資本が注目されている理由3つ

人的資本への注目度が高まった背景には、社会的な3つの変化が関係している。

1.ダイバーシティ経営の推進

「ダイバーシティ:Diversity」は日本語で「多様性」という意味だ。企業経営においては、年齢や性別、人種、価値観などの人に関するさまざまな違いのことを指す。働き方改革の中でもダイバーシティの推進が明言されており、経済産業では以下のように定義される「ダイバーシティ経営」の推進を奨励している。

多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営

引用:経済産業省『ダイバーシティ経営の推進』

人材はもちろん、働き方の多様性も高まっている環境下では、社員それぞれの価値観や潜在能力を認識した上で、特性を活かした人材育成や配属が欠かせなくなっている。

2.キャリア形成の多様化

人材の流動性が高まる中で、キャリア形成の多様化も進んでいる。

日本ではこれまで終身雇用が一般的であり、総合職として幅広い業務を行うような「メンバーシップ型雇用」が採用されてきた。しかし、グローバル化やIT化など産業構造の変化により、専門的なスキルを保有する人材を採用する「ジョブ型雇用」が注目されるようになっている。

企業側も変化に対応する必要に迫られており、社内人材の育成だけでなく外部からの人材登用が一般化しており、人的資本の流動性も高まっていると言えるだろう。

社員それぞれが自分なりのキャリア形成目標を持ち、離職などが起こる中で、企業側は人的資本の重要性を意識して、採用や育成、後継者育成などにこれまで以上に向き合わなければならない。

3.ESG投資の世界的な広まり

ESG投資の世界的な広まりによって、企業価値の判断基準として無形資産にも目を向けられるようになった。ESGは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3つから成り立っており、人的資本は「Social」に該当する。

投資家は財務諸表などで見てとれる財務以外の情報として、事業の将来性を左右する人的資本の可視化はもちろん人材戦略の開示も求めるようになっている。

ESG投資の普及や欧米での人的資本情報開示の流れもあって、東京証券取引所は、2021年に『コーポレートガバナンス・コード(CGコード)』を改訂しており、企業の人的資本情報の開示についての項目が新たに盛り込まれた。

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人的資本の可視化と情報開示

コーポレートガバナンス・コードの改訂など、企業は人的資本の可視化を行った上で、ステークホルダーへの開示が必要になってきている。この流れはどのようにして起こったのだろうか。

なぜ人的資本の情報開示が求められるのか

米国証券取引委員会(SEC)は2020年8月に『Regulation S-K』において、アメリカの上場企業に対して事業運営で重視している人的資本の取り組み状況や目標について情報開示することを義務化した。

人的資本は、企業の成長に関わる事業戦略を実行するために欠かせないものであり、投資家が企業を投資先として適切か否かを判断するための重要な情報と定義したのである。

欧州においても、2022年4月に欧州財務報告諮問グループ(EFPAG)が『欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)』の草案を公表しており、人的資源情報の開示の制度化を進めている。

人的資本開示とISO30414

ISO30414は、2018年12月に定められた人的資本の情報開示ガイドラインであり、人的資本を「社内で議論すべき、社外へ公表すべき」指標として位置付けている。求められているのは、人的資本の企業における貢献度を可視化して、透明性高く外部に公表することだ。

ISO30414では、以下の11の領域で58項目の人的資本の情報開示が求められている。

  1. コンプライアンスと倫理
  2. コスト
  3. ダイバーシティ(多様性)
  4. リーダーシップ
  5. 企業文化
  6. 労働安全性、安全、福祉
  7. 生産性
  8. 採用、異動、離職
  9. スキルと能力
  10. 後継者育成計画(サクセッションプラン)
  11. 労働力

人的資本の情報を開示するメリット

人的資本情報を開示する最大のメリットは、投資家から無形資産である人材についての評価を得られることである。

企業価値判断は収益性や事業安定性などがまず評価され、付加価値として人的資本が評価されることがほとんどだろう。そのため、中小企業にとっては人的資本の情報開示メリットは少ないと感じるかもしれない。

しかし、人的資本の情報開示をすると、改めて自社人材のスキルレベルや人材配置について再確認する機会が得られる。それによって、リスキリング(技術やビジネスモデルの変化に対応するための新しい知識やスキルの習得)などの育成計画策定や人材配置の抜本改革など、ただの人事活動ではなく事業革新につながる人材戦略の策定に役立てられるだろう。

人的資本の価値を高める方法

人的資本は自社の持続的な成長に欠かせないため、人材戦略を策定して価値を高める必要がある。ここでは、人的資本の価値を高める方法を解説する。

現状分析をした上で人材戦略を策定する

まずは、自社人材のスキルレベルや適性を分析した上で、人材育成や人材配置といった人材戦略を策定する必要がある。人的資本の価値は人材育成だけでは高まらない。経営戦略という上位目標に合わせて、必要な人材を明確化して人材育成と効果的な人事を行うことが重要だ。

人材戦略に沿って人材育成に取り組む

人員の再配置だけで人的資本価値を高められるとは限らないため、中核人材など優先的に育成すべき人材を選定した上で、育成プランに沿って研修などを行う必要がある。

育成目標は自社の経営戦略によって異なり、経営革新に必要なスキル修得を目指すリスキリングはもちろんスキルの標準化を目標とすることもあるだろう。必要なことは、育成目標を明確にした上で、社員の適性に合わせた教育プログラムを選ぶことだ。

人材育成は研修などで学ばせるだけでは完結しない。新しく学んだスキルを発揮できる業務を担当させるなどしながら、定期的にフォローすることが重要だ。

人的資本についてのQ&A

人的資本の具体的な例は?

人的資本の具体的な例としては、社員個人が修得している技能や技術レベルを証明する各種資格などがある。

人的資本に投資することで企業の持続的な成長につながり、情報開示によって企業活動の透明性を証明できるため、ステークホルダーとも良好な関係を築けるだろう。

人的資本の考え方は?

人的資本では、人材を「資本」として捉えており、人材育成や最適配置などによって高められる社員のスキルや資質などで、事業の持続的な成長に欠かせないと考えられている。

企業は、人材について事業計画を実行するための重要な存在と認識した上で、人材育成はもちろん適切な処遇での雇用や新規採用、後継者の育成計画などを進めなければならない。

人的資本経営では何をする?

人的資本経営では、企業の中長期的な成長を目的とした人材育成や人事などの人材戦略の策定を行い、人的資本の可視化を行ってステークホルダーに開示することが求められている。

産業構造の急激な変化は避けられない状況であり、変化に対応しながら事業を存続させるには、事業ポートフォリオの見直しはもちろん、必要な人的資本の明確化と人材戦略の構築が不可欠だ。また、人的資本の情報開示は世界的なトレンドであり、欧米での開示義務化を受けて日本でもコーポレートガバナンス・コードが改訂され、開示の義務化が進んでいる。

人材戦略を策定と人的資本の可視化を目指そう

人的資本とは、人材が企業の持続的な成長に欠かせない存在であると認識し、継続的な育成と最適配置によって価値を高められるという考え方である。

人的資本情報の開示は世界的なトレンドであり、日本でもコーポレートガバナンス・コードによって開示が求められている。まずは、自社の現状を分析した上で経営戦略の再確認と再構築を進め、人材戦略の策定や人的資本の可視化を目指してほしい。

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