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家業とは、その家が長年従事してきた職業であり、世襲的に受け継がれてきた生計を立てるための事業です。本記事では、家業を継ぐメリットや注意点、そして家業を継ぐことに関してよくある悩みや失敗しないためのポイントについてご紹介します。

家業とは ?

家業は2つの意味合いを持ちます。

ひとつは「 一家の生計を立てるための職業 」という意味です。自営業を意味する場合もありますが、法人化していても家業と表現されます。

もうひとつは「 一族に代々伝わってきた職業 」を意味します。「世襲的に引き継がれてきた技術やスキルを活用した職業」という意味で使われます。

一般的に 「家業を継ぐ」とは、両親や祖父母などから家で営む事業を承継すること を指します。

家業を継ぐことが検討されるタイミング

家業を継ぐことを検討するタイミングは、どのような時でしょうか。よくあるケースをご紹介します。

親が引退を考え始めた時

まず挙げられるのは、親が高齢になり事業からの引退を考え始めた時です。

経営者としても、自身や会社に余力が残っているうちに、新しい人に経営を任せたいと考える人は少なくないでしょう。また、自分自身が新しい経営者の後ろ盾となって、新経営者による経営が安定するまでサポートすれば、順調に事業承継を進めることもできます。

そのため、親が引退を考え始めた場合は、なるべく早い段階で後継者にその意向を伝えて本人の意思確認を行い、具体的な引き継ぎ計画を立案することが望ましいです。

親が亡くなった時

他に後継者候補がいない状態で経営者である親が亡くなった時に、子供など身内が家業を継ぐケースが多く存在します。

昨今では、「子が当然家業を継ぐべき」という考えはあまり見られなくなっていますが、歴史が長く、代々家業が受け継がれている場合には、経営者の子供に期待が集まることが予想されます。

その場合、早期から子供に対して経営者としての教育を行っておく必要があります。経営者となる覚悟、自覚が芽生え、心の準備もしやすいでしょう。
しかし、子供自身に継ぐ意思がない場合などは、第三者への事業承継を通じて家業を守るという選択肢も考えておく必要があります。

以前から約束していた時期が近づいたとき

既に家業の後継者として周囲から認識されている人物がいて、家業を継ぐ時期を前もって約束していた場合には、その時期が近づいたときが家業を継ぐことを検討するタイミングになります。

このケースでは、後継者は以前から後継者としての心構えができており、日常的に経営者教育を受けてきたことも考えられるので、スムーズに家業を継ぐことができるでしょう。

経営者としても計画的に経営者教育を施すことが可能であり、取引先や銀行などに紹介することもできます。
両者があらかじめ意思を確認し合い、家業を継ぐために必要なことをじっくり伝えていける点は、経営者および後継者に大きなメリットがあると考えられます。

家業を継ぐメリット

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家業を継ぐ場合には、自分で起業する場合と比べるとさまざまなメリットが存在します。そこで家業を継ぐメリットについて詳しく解説します。

ゼロから起業するよりスムーズに展開しやすい

ゼロから起業する場合には、会社の設立手続きから始まり、オフィスの契約、備品や機械設備の購入、従業員の採用などのさまざまな準備をすることが必要です。
このように起業するためには、多くの時間と費用がかかります。場合によっては、事業に必要な免許を取得したり、従業員教育が必要だったりしますので、想定以上にコストを要することもあり得るでしょう。

一方、家業を継ぐ場合には既に事業が行われているので、必要な経営資源はそろっています。
また取引先や顧客も既に存在しているため、ある程度環境が整った応対でスタートできる状況は大きなメリットと言えるでしょう。

文化・技術・伝統を承継し、守ることができる

事業によっては、家業を継ぐことで文化・技術・伝統を守れる、という点がメリットとして挙げられるでしょう。

例えば、神社仏閣の建築や補修に携わる宮大工の仕事を家業にしている建設会社を後継者として引き継ぐ場合を考えてみましょう。
宮大工は組み木と呼ばれる釘を一切使わない技法で建築物の骨組みを作り上げます。そのため一般の大工とは大きく工法が異なりますので、日本文化を維持するうえで欠かせない重要な職業だと言えます。

このように、伝統的な日本の技術を残しつつ活用するという点はとても重要なメリットです。

家業を継ぐ注意点

一方で、家業を継ぐ注意点について詳しく解説します。

タイミングによっては技術の承継・経営安定化に時間を要する

後継者として文化・技術・伝統を引き継ぐためには一定の時間を要します。長い歴史の中で培われてきたものなので、簡単に短時間で承継することは不可能でしょう。

また、どうしても前の経営者である親と比較されてしまうので、周囲からは不足している面ばかりを指摘されてしまうことも考えられます。そうなると後継者の意欲へ影響が出てしまい、経営の安定化に支障が生じるおそれもあります。

急いで家業を継ぐような進め方は、後継者に余計なプレッシャーを与えて、スムーズな事業承継を困難にしてしまう可能性があります。そのため親も後継者も、お互いに無理をせずに家業を継げる時期を見つけるようにしましょう。

負債・連帯保証を引き継ぐリスクがある

家業を継ぐ場合には、負債・連帯保証を引き継ぐ可能性・リスクがある点にも注意が必要です。家業を継ぐ場合は、親から株式を譲渡されるケースが多く、株式譲渡では会社のすべての資産と負債を引き継ぐ必要があります。

親から継いだ会社にどのくらいの負債があるのか、簿外債務や偶発債務はないのか、といったことをしっかりと調べておく必要があります。

次の後継者選びの問題が発生する

自分が継いだ後、さらに次世代の後継者にバトンを渡すための検討、準備が必要になります。少子高齢化はますます進展しているため、時間が経過すれば後継者不足もそれだけ深刻になることが予想されます。

そのためなるべく早いタイミングで後継者候補を複数検討し、本人の意思確認を行う必要があります。継ぐ意思が確認できない場合は第三者への承継も視野に考えておくのが良いでしょう。

家業を継ぐ流れ

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次は実際に家業を継ぐ流れについて説明します。本項目ではさまざまな手続きが必要となる法人を親族内承継するケースについて解説します。

①後継者選び・調整

家業を継ぐことは、後継者の選定、後継者候補の意思確認から始まります。
経営者自身が継がせるつもりでも、本人にはその意思がない、もしくは他の兄弟を後継者だと認識していた、など認識の相違が発覚するケースは珍しくありません。

本当に我が子に継がせたい場合は、家業の存在意義や魅力を伝え、早期から意思確認を行うなどコミュニケーションをおろそかにしないことがポイントになるでしょう。

②株式の把握

後継者選びと調整が完了したら、引き継ぐ会社の株式の状況を把握しましょう。
家業を営む会社は非上場会社のケースが多いと考えられます。非上場会社の多くは、定款に「株式の譲渡制限に関する規定」を定めているケースが多くあります。

「株式の譲渡制限に関する規定」とは、株式を譲渡する場合は株主総会や取締役会で承認を得る必要がある条項を指します。
定款に記載された機関による承認を得ないと株式の譲渡ができないことを定めたものであり、会社を経営するうえで望ましくない人に株式を取得されてしまうリスクを避けるための規定です。

このように株式に関するどのような規定が定められているのかを把握しておくことが必要です。実際に会社を受け継ぐ際にどのような手続きが必要になるのかを前もって知っておくことは、スムーズに家業を継ぐために不可欠と言えます。

③個人保証など債務の調整

家業を継ぐ際には、会社にどのくらいの債務があるのかを把握することが非常に大切です。
大半の中小企業では、会社が融資を受ける際に経営者が個人保証を差し入れているケースが多くあります。融資をした金融機関としては家業を継いだ後継者にも、前経営者と同様に、個人保証を差し入れて欲しいと考えている場合も少なくないでしょう。

しかし、経営者が交代するタイミングで個人保証の必要性について銀行に見直しを依頼することも重要です。

事業が順調で収益性に問題がない経営状態であれば、経営者の個人保証は不要かもしれません。古い個人保証がそのままの状態で残っているケースも考えられるので、交代したタイミングは見直しを図る絶好の機会だと考えられます。

また債務を削減することが可能であれば、このタイミングで実行しておきましょう。滞留している売掛債権の回収を実行して、少しでも債務の返済を進めておくことがスムーズな家業の引き継ぎにつながります。
場合によっては、複数の融資を一本化して返済負担を軽減させたり、条件の良いローンに借り換えたりして、債務の調整を図ることも重要です。

④承継の実行

債務の調整が完了したら、いよいよ承継の実行に進みます。最初に株式を譲渡する側が、会社に対して株式譲渡承認請求書(どのくらいの数の株式を誰に譲渡するのかなどの内容が記載された書類)を提出します。

次に、株式譲渡承認請求書を受領した会社は、定款で定めた株主総会や取締役会等の承認機関において、承認の可否に関して議論をします。
承認機関で承認されると、会社から株式譲渡承認通知書が譲渡側に届きます。そして、その通知を譲渡側が受け取ったら、譲渡側と譲受側が株式売買契約書を締結します。

さらに、譲渡側と譲受側が共同で会社に対して株主名簿書換請求を実施します。株主名簿に譲受側の名前が記載されれば取引は完了です。

なお株式を発行している会社の場合は、譲渡側から譲受側に株券の受け渡しが実行されることが必要です。

⑤取引先への周知

承継の実行が完了したら、取引先に家業が新たな後継者に引き継がれたことを周知する必要があります。 家業を継続するためには、多くの取引先との関係が維持されることが非常に重要です。経営者が新たな人物に交代することを取引先に伝えなければなりません。

挨拶状で済ませることも可能ですが、特に重要な取引先には前経営者と後継者が連れ立って挨拶することが必要でしょう。今後も長い取引になる可能性が高ければ、こうした取引先へのケアを欠かしてはいけません。

家業の引き継ぎに失敗しないためのポイント

家業の引き継ぎに失敗してしまうと、思わぬ損失を発生させてしまったり、評判を落としてしまうこともあり得ます。そこで、家業の引き継ぎに失敗しないためのポイントについて解説します。

家業を継ぐタイミングをあらかじめ決めておく

突然家業を継ぐことになったら、後継者は何の準備もできていないので非常に戸惑うでしょう。こうした状況で家業を継いでも、スムーズに経営していくことは難しいと考えられます。

そのため、あらかじめ家業を継ぐタイミングを決めておき、後継者に家業を継ぐ準備を進めておいてもらうことは非常に重要です。

家業を継ぐタイミングを定めておけば、それに合わせて計画的に後継者を選定し、経営者教育を施すことが可能になります。なるべく早く後継者選びに着手して、経営者の育成にかけられる時間を確保することが求められます。

現在のように経営環境が目まぐるしく変化する環境においては、事業を着実に成長させられる人材を後継者に選ぶことが重要なポイントになります。複数の後継者候補を競争させる場合は、後継者を選択する基準を明確に設定しておくと、選ばれなかった人物の不満によるトラブルを避けやすくなるでしょう。

綿密な後継者教育を行う

後継者にどのような経営者教育を実施するのかということも、非常に重要なポイントです。後継者教育には社内で実施する教育と社外で行う教育があります。

社内教育としては、実際に現場に配属して他の従業員と同じ仕事を経験させる方法が挙げられます。

自社の現場を知らずに経営を語ると、従業員からの信頼を損ねてしまいかねません。実経験に裏打ちされた経営者としての方針が語れるようになれば、従業員の信頼が厚くなるでしょう。

さらに経営陣のひとりとして、経営に参加してもらう方法もあります。現場の実務経験だけでは、複雑な経営課題に対処することが難しいケースも出てきます。実際に経営に参加して、経営者の立場ではどのように考えて行動すべきなのかということを学ぶ点も非常に重要です。

社外で行う後継者教育としては、外部の企業で働くことが挙げられます。一般的な就職活動を通じての就業や、取引先の企業に頼んで期限付きで雇用してもらう方法などが考えられます。自社とは異なる仕事のやり方を学んでおけば、自社の業務をより効率的に進められるヒントが得られるかもしれません。

また外部の会社に勤務しなくても、社外のセミナーや講習会に参加することも後継者教育に役立ちます。新しいビジネススタイルや経営に求められる基礎的な手法を学べるでしょう。また他の参加者との関係も構築できるので、新しい人脈を形成することを期待できます。

事業の将来性を見極める

家業を継ぐ場合に事業の将来性がどうなのかという点を見極めることは、非常に重要なポイントです。親や親族から後継者としての期待を受けていても、将来性に乏しい家業を引き継ぐことはリスキーだと言わざるを得ません。

そのため家業を継ぐ場合は将来性をしっかりと見極めて、成長性の有無や、状況によっては自分が立て直せるのかどうかといった点を慎重に検討しなければなりません。

事業承継の専門会社のアドバイスを受ける

これまでお伝えしてきたように、家業を継ぐことは、様々な論点があります。場合によっては、親族ではなく、第三者への承継がより良い手段である場合もあります。そのため第三者承継であるM&Aも含めて、幅広い提案をしてもらえるM&A仲介のような専門会社に相談されることをおすすめします。

終わりに

家業を継ぐメリットや注意点、手順や意識すべきポイントについて解説しました。長い期間が必要な親族内での事業承継をスムーズに遂行するためには、なるべく早くから取り組んでおくことが必要です。

なぜなら、後継者を選んで育成するまでの期間や家業を安定させる準備には十分な時間を確保する必要があるからです。

また、家業を継いだ後に発生し得るさまざまなトラブルを回避するためには、取引先や他の親族との緊密なコミュニケーションが非常に重要です。

スムーズに家業の承継を進めるには、早期からの検討と準備が求められます。

著者

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M&A マガジン編集部
日本M&Aセンター
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