一般的に贈与税は税率が高いため、どのように贈与すべきかシミュレートすることが多いと思われる。それを行うにあたり、どのような視点からシミュレートを行わないとならないかを提案する。
贈与税の税率はいくら?
まず、贈与税の計算方法について説明しよう。贈与税は通常、贈与を受けた金額から基礎控除の110万円を控除して、その差額に税率を適用して計算する。かかる税率は下記のとおりだ。
参考URL「国税庁:贈与税の計算と税率(暦年課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
一般贈与財産用の税率の計算方法
通常の贈与税率の場合、110万円の基礎控除を引いた後の金額に応じた税率をかけ、そこから控除額を引いて計算する。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
例えば、500万円を受け取った場合は
(1)500万 - 110万 = 390万
(2)390万 × 20% - 25万 = 53万円 (400万円以下の欄を使う)
となる。
特例贈与財産用の税率の計算方法
通常の税率は前の項目で示したとおりとなるが、直系尊属(実の両親や実の祖父母)からその年の1月1日時点の年齢が20歳以上の人が受け取った場合、別の税率が適用される。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
計算方法は、一般贈与財産用と同様である。
例えば、500万円を受け取った場合は
(1)500万 - 110万 = 390万
(2)390万 × 15% - 10万 = 48万5,000円 (400万円以下の欄を使う)
となる。
一般贈与財産用と特例贈与財産用が混ざっている場合
これらが混ざっている場合は次のようにする。
(1)全額を一般贈与財産用の金額で計算して一般贈与財産の割合に応じた金額を求める
(2)全額を特例贈与財産用の金額で計算して特例贈与財産の割合に応じた金額を求める
(3)(1)と(2)の金額を合計して求める。
例えば、一般贈与財産用として250万円、特例贈与財産として250万円の合計500万円の贈与を受けた場合は、下記のように計算される。
(1) 一般贈与財産の計算として
500万 - 110万 = 390万
390万 × 20% - 25万 = 53万円
53万 × 250万 ÷ (250万 + 250万) = 265,000円
(2)特例贈与財産として
500万 - 110万 = 390万
390万 × 15% - 10万 = 48万5,000円
48万5,000円 × 250万 ÷ (250万 + 250万) = 242,500円
(3) (1)の結果 + (2)の結果 = 507,500円
贈与税を考えるときに重要な3つのポイント
ポイント1.誰に贈与させるのか
相続税の節税を目的として贈与税をシミュレーションする際に考えるべきなのは、誰に贈与するかという点である。
贈与すること自体に法律上の制限はないため、誰に贈与するかについては贈与する人の任意で決められる。
贈与税のシミュレーションをする際には、法定相続人以外の人が贈与を受ける場合は相続税が2割増しになるため、注意が必要だ。すなわち、その分だけ多めに贈与したほうがいいケースもある。
ポイント2.贈与する相手が何歳か
他にも、贈与をする際に気を付けたいのが「いつ贈与をすべきか」という点である。
贈与する相手の年齢が20歳未満の場合、不利になるケースがいくらかある。例えば、先に挙げた特例贈与財産の贈与税は、贈与を受ける人の年齢が贈与を受けた年の1月1日時点で20歳以上でないと使えない。19歳未満だと不利な税率が適用される。
また同様に、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税についても、贈与を受けた年の1月1日時点の年齢が20歳以上であることが必須だ。そのため、長いスパンで贈与税のシミュレーションを行う際は、贈与する相手がいつ20歳以上になるかを計算した上で行う必要がある。
上記の制度とは逆に、受け取る年齢の上限が設定されている場合もある。例えば、直系尊属から教育資金の一括贈与を受けるとする。この場合の非課税は、最大で30歳未満までしか使うことができない。また、直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税については、50歳未満という上限が定められている(なお、この制度は20歳以上とする下限も設けられている)。
ポイント3.いくらずつ贈与すべきか
一般に多く行われているのが、現金を毎年一定額贈与する方法である。基本的に贈与税のシミュレーションはこれを基本に行い、他に資産がある場合は多少のアレンジをしながら行うことになるかと思われる。
この手の贈与でよくいわれるのが、毎年110万円ずつ贈与して無税でより多くの資産を移すというものである。ただ、これはすべてのケースにおいて有用というわけではない。所有している資産の額によっては、税金を支払ってでも多くの資産をあらかじめ贈与したほうが、税務上で有利になる場合もあるのだ。
そのため、相続発生時に最大でどれだけの税率が適用され、多く贈与した分がどれだけの税率になるのかを見極めた上で、計画を練ることをお勧めする。
税金を納めて多めに贈与したほうがいい例は?
それでは、具体的な数値を示して、税金を支払ってでも多めに贈与したほうが有利なケースを示す。下記の例では、親から唯一の法定相続人である20歳以上の子に1億円の財産を贈与・相続するものとする。10年間かけて110万円贈与して残りを相続にする場合と、310万円ずつ贈与して残りを相続する場合では、どのように違ってくるのだろうか。
(1)110万円ずつ贈与する場合
(ア)毎年支払う贈与税
110万円 - 110万円 = 0 →贈与税は 0円
(イ)残りの資産にかかる相続税
10,000万円 - 110万円×10= 8,900万円
8,900万円 - 3,600万円(法定相続人が1人の場合の控除額) = 5,300万円
5,300万円×30% - 700万円 = 890万円
(ウ)トータルで支払う税金
(贈与税)0×10 + (相続税)890万円 =890万円
(2)310万円ずつ贈与する場合
(ア)毎年支払う贈与税
310万円 - 110万円 = 200万円
200万円 × 10% = 20万円
(イ)残りの資産にかかる相続税
10,000万円 - 310万円×10= 6,900万円
6,900万円 - 3,600万円(法定相続人が1人の場合の控除額) = 3,300万円
3,300万円×20% - 200万円 = 460万円
(ウ)トータルで支払う税金
(贈与税)20万円×10 + (相続税)460万円 =660万円
贈与を無税の範囲内に納めた場合にトータルで支払う税金は890万円だが、多めに310万円納めた場合は230万円少ない660万円に収まった。このように、贈与の段階で税金を支払ったほうがトータルで支払う税金が少なくなるケースもある。贈与税のシミュレーションをする場合は、いくらか多く税金を支払うことによって税金の負担が軽減することも考慮に入れるべきである。
株式の贈与で気をつけたい2つのポイント
事業を行っている人の場合は、株式を贈与して事業を継がせることを考えている人も多いと思われる。株式の贈与の場合、贈与税のシミュレーションを行う上で、どのようなことを考えなければならないのだろうか。
ポイント1.株式の贈与は納税猶予も視野に入れる
贈与する予定の株式が自ら経営している会社の非上場株式の場合は、納税猶予の特例が使える可能性がある。これは60歳以上の人が経営する会社の株式を譲渡する場合において、20歳以上の直系卑属である子や孫に譲渡する際、贈与税とその後に発生する相続税の一部の納税が猶予される制度だ。自ら経営する会社の株式を贈与することを考えている人が、子供などに株式を譲って跡を継がせようと考えている場合は、この制度を考慮に入れることをお勧めする。
ただ、この制度を利用する際には注意すべきことがある。まず、この制度を使って譲渡を受けた場合、承継後5年間は8割の雇用を維持しないとならないという決まりがある。次に、会社の代表者で居続け、かつ株式を保有し続けないとならない。すなわち、ある一定基準を維持しながら会社を保有し続けなければならないということである。
なお、令和9年12月31日までに譲渡する場合に限られるが、「譲渡する相手は後継者であれば子や孫に限らない」「納税の猶予は贈与税や相続税の全部の納税が猶予される」といった要件が緩和された特例措置が実施されている。
ポイント2.株価対策が必要になることも
なお、株式を譲渡する場合は、贈与税を下げるために株価対策をする必要になることがある。例として挙げられるのは、以下のようなものだ。
まず、簡単なものでいうと、贈与する側が退職するにあたり、大量の退職金を支払うことがある。退職金を支払って会社の資産を多く流出し、純資産額を減少させることによって、株価対策を行うのだ。ただし、注意すべき点が2つある。
1つ目は、退職金の金額だ。退職金はいくら払ってもいいというものではなく、過度に高額であるとみなされた部分はその分が税務署に否認される危険性も考えられる。そのため、他社事例を見ながら、どれだけの金額が認められるのかを計算することが必要となる。
2つ目は、退職金を受け取って引退した後に、役員に留まり会社の経営に深く関わった場合は退職とみなされず、株価対策にならないことがある点だ。この場合は、会社役員から完全に身を引くなどの対策が必要だ。次に、会社の資産のうちに不良資産がある場合はそれを売却し、含み損を実現することによって株価を下げる方法がある。株式の譲渡を機に不良資産があるかどうかについて見直し、会社の体質を強化することを考えてみてはいかがだろうか。
そして、オペレーティングリースへの投資も考えられる方法のひとつだ。出資を開始してから株価対策の効果が最大限発揮できるまで時間がかかる場合もあるが、損失が出ている状態を数年間保有できるので、その間に譲渡をすれば株価が安い状態で株式を譲渡することが可能となる。
株価の影響がどうなるかは、販売元がかかる投資に関してどのような利益や損失が出てくるかについて計画表を作成しているので、それを参考にして計画を組むことになる。他にも、株価対策の方法はさまざまだ。税理士と相談の上で、株価対策計画の策定をお勧めする。
教育資金・結婚資金の贈与は?
先述したとおり、贈与は年齢に制限があるため、利用する際は使用状況を勘案してシミュレーションする必要があるが、一定額まで110万円の基礎控除以外に贈与税がかからない制度として、「教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」と「結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」の制度がある。
これは直系尊属から子や孫に対し、教育や結婚子育てに関する費用として一括で贈与された場合、それらに関して使われた場合に限り贈与税がかからないものとする制度だ。制度の使用にあたっては、信託銀行や銀行などに信託口座か預金口座を開設し、利用するたびに領収書を持参して、その金額を引き出さなければならない。
また、注意すべき点として、これらの贈与については決まった年齢までの間(教育資金の場合は最大で30歳まで、結婚・子育て資金については50歳まで)に使い切る必要があり、使い切れなかった部分については、贈与税の対象となる。そのため、使い切れるようにシミュレートすることが重要だ。
住宅関連の贈与は?
直系尊属から20歳以上の子や孫に対して住宅を購入するための資金を贈与した場合に、一定額まで贈与税が免除される制度がある。これは、一定の住宅や建てるための土地を購入する資金を贈与した場合、一定額まで贈与税がかからない制度だ。業者から購入する場合は、以下の金額となる。
住宅用家屋の新築等に係る契約の締結日 | 省エネ等住宅 | 左記以外の住宅 |
---|---|---|
平成31年4月1日~令和2年3月31日 | 3,000万円 | 2,500万円 |
令和2年4月1日~令和3年3月31日 | 1,500万円 | 1,000万円 |
令和3年4月1日~令和3年12月31日 | 1,200万円 | 700万円 |
参考URL「国税庁:直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4508.htm
この制度を利用する際には、注意すべき点が3つある。まず、この制度は建物や土地本体の価格にしか使うことができず、仲介手数料などの付随費用に対して使うことはできない。次に、この制度を利用して金銭の譲渡を受ける場合は資金を受けた後に支払いを行わなければならず、順番を逆にすると制度の適用ができなくなるため注意が必要だ。
最後に、受贈した翌年の3月15日までに引き渡しを終え、原則としてその日まで入居することが定められている。ただし、入居は3月15日の後であっても、遅れることなく入居できればいいとされている。
使えるかもしれない相続精算課税
他の贈与税とは性格が異なるものであるが、「相続時精算課税」を使うことも視野に入れるのが望ましい。この制度は、60歳以上の父母または祖父母などから贈与を受けた年の1月1日現在において20歳以上の子や孫に贈与を行った場合、相続税の代わりに、贈与をした人について相続が発生した後に相続税として払うものだ。
この制度を適用する場合、贈与を受けた年にその旨を申告して、ある程度の税金を前払いする。同じ人から贈与を受けた金額がトータルで2,500万円までは無税であり(ただし、申告は必要)、超えた分に対して20%の税金を支払う。贈与者について相続が発生した際に相続した財産とこの制度を適用し、贈与を受けた資産のそのときの価格を合わせて相続税を計算して差額の清算を行う。
この制度のポイントは、相続時に相続税の金額を計算する際、贈与を受けた資産については贈与を受けたときの価格で計算するため、贈与を受けてから相続が発生するまでに値上がりした資産に関する値上がり分は相続税の課税を免れる点だ。すなわち、将来値上がりが確実に見込まれる株式や不動産について、贈与したいが贈与税の支払いの準備ができない場合に有効な方法である。
ただし、一方で注意しなければならない点がある。まず、将来値上がりする場合において値上がり分は相続税の課税が免れると先述したが、逆に値下がりした場合は値下がり分についても相続税の課税されてしまい、かえって不利を被ることがある。
次に、この制度は一度使い始めたら、贈与者に対して使い続けなければならない点だ。そのため、使い始めるタイミングを見極めて利用しなければならない。最後に、孫に対してこの制度を利用する場合は、代襲相続人になる場合を除いて、清算時の相続税が20%増しになることを念頭に置いてシミュレーションする必要がある。
贈与税で必要な要素を押さえてシミュレーション
贈与税に関してシミュレートするにあたって、必要な要素は以下である。
・贈与の仕方
・贈与を行う相手の年齢
・贈与した資金の利用目的による制度の利用方法
・相続時精算課税の利用
これらを考慮した上で制度をうまく利用すれば、最適なシミュレートができると思われる。
文:中川崇(公認会計士・税理士)