M&Aコラム
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企業の買収を検討されている経営者の方、ご関係者に向けてお届けするYouTube「買収の参観日チャンネル」。全国津々浦々、各地域に精通したコンサルタントによる「ご当地M&A解説」第1弾は九州編です。本記事では動画の内容を抜粋・編集してお届けします。

ひと括りに語れない、九州のビジネス

久力: 今回は 九州のM&Aをテーマにお届けしたいと思います。というわけで、ピッタリなゲストをお招きしました。

瀬戸: 福岡支店の瀬戸と申します。日本M&Aセンターに入社して今年で11年目。福岡支店設立に関わりまして、当社の中で一番長く九州でM&A支援を行っています。本日はどうぞよろしくお願いいたします。

久力: 瀬戸さん早速ですが、まず九州の特徴についてお願いします。

瀬戸: はい。 九州は「日本の1割経済」と言われています。人口や面積が日本の約11%くらい、GDPは約9%と、日本の1割の縮図のようなエリアかなと思っております。

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九州って、よくひと括りにされることも多いのですが、各地で産業が全く違うのが面白いところだなと思っています。

例えば、福岡には福岡市と北九州市という2つの大きな都市がありますが、北九州市は安川電機さんとかTOTOさんとか製造業が中心の都市です。一方、福岡市は製造業よりもサービス業が多かったり、有名なところだと健康食品、通販などが産業としては大きいエリアになります。

また、長崎は造船業が盛んですし、熊本は水が綺麗なこともあり半導体関連の産業が多く見られます。南九州だと鹿児島や宮崎は農業や畜産業など一次産業のウェイトが高い傾向にあります。

九州の経営者が見据えるエリアは

久力: 地域によって主力の産業が違うということなんですけど、例えばM&Aにおける経営者の目線、考え方にも特徴はあるのでしょうか。

瀬戸: 感覚的な話になりますが、九州県内に一定のマーケットがあるため、 未上場の会社さんの場合、M&Aで県外のエリア、例えば「大阪に出ていこう」「東京に出ていこう」とする会社さんは少ないように感じます。もちろん上場会社さんの場合など、県外の会社とのM&Aがまったく行われてないわけではないのですが、オーナー系の未上場の会社さんの場合だと、ほとんどが九州内で完結しているかな、というところです。

久力: 例えば、鹿児島県の会社さんが買収対象として見ているのは、企業の数も多く、産業としても大きな割合を占める福岡県が多いということになるのでしょうか。

瀬戸: そうですね、鹿児島や宮崎、その他福岡以外のエリアの会社さんにご提案するとき、もちろん「同じ県内の会社を買収したい」という希望はまず挙がるのですが、次に挙がるのは福岡ですね。

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後ほど最近の傾向についてもご紹介しますが、 隣接県ではなく福岡県を検討する、というケースが多く見られます。一方、福岡の会社さんはというと、やはり九州内の会社さんを検討されていらっしゃる印象ですね。

九州には後継者が戻ってきている!?

久力: 冒頭1割経済のお話ありましたけど、M&Aの成約件数も10%くらいなんでしょうか?

瀬戸: ここ最近だと年間の成約件数は約60~70件ぐらいあります。当社の成約件数は年間約1,000件ですので、全国的にまだ1割には届いていないかな、というところです。

久力: 確かに私も全国いろいろな地域のM&Aを見ていますが、他のエリアに比べると、九州と東北はどちらかというとM&Aがそこまで活発ではない印象を受けていました。瀬戸さんはどうご覧になっていますか。

瀬戸: 九州には、代々代々続く歴史ある会社も多く、それらの後継者が地元に戻ってきているケースもよく見られます。県別の後継者不在率だと、九州・沖縄だと沖縄はすごく高いのですが、例えば鹿児島、熊本は後継者不在率が低い傾向にあります。

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後継者が比較的戻ってきているケースが一部あるというところが、他と比べるとまだ活発でない一因かもしれません。

久力: たしかに身近にも九州出身の方いますけど、将来は地元に戻ると決めていたり、地元愛が強い方が多い印象です。経済が県内で回っていることも、少なからず影響していそうですね。

九州企業の買収の目的

久力: 実際に九州でM&Aが行われてる会社さんはどのような業界が多かったり、買収目的の傾向などあるのでしょうか。

瀬戸: 全国的に一緒だと思いますが、建設業が一番多いですね。当社九州の実績でいうと、ここ5年で譲渡される会社の3割弱が建設業の会社さんでした。1次産業のウェイトが高いこともあって、その次は食品製造だったり、飲食など食品関連事業が建設業についで多いです。

久力: 全国的な傾向としては建設業の次は運送業などのイメージがありますが、食品というのが珍しいですね。

瀬戸: 買収の目的としては、 県内でエリアを取りに行く、拠点を広げるというのが多いですね。そのため、同業・隣接業の会社さんをM&Aでターゲットにしていくケースが多く見られます。

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久力: ちなみに九州って・・移動がしづらいですよね(笑) 九州の日本M&Aセンターの皆さんはどう活動されてるんですか?

瀬戸: 日本M&Aセンターは、サテライトオフィスが熊本、鹿児島、宮崎、大分と各地にあります。おっしゃるように、新幹線沿線以外は移動がすごい大変です(笑)・これまで福岡から長崎は大分と同じように遠かったのですが、今年の西九州新幹線開通によって、福岡・長崎間の移動がしやすくなります。

ほかに特徴として五島列島、対馬、奄美大島など「離島」があります。 離島の会社さんのM&Aの場合、その産業がないと地域の雇用などが失われる可能性もありますので、そういったM&Aも一つひとつきちんとご支援していきたいと思っています。

攻めの戦略としてM&Aを選択する経営者が増えている

瀬戸: 未上場会社のM&Aは九州内で完結する傾向にあると、先にお伝えしましたが、最近は徐々に広島、大阪など九州から外に展開を広げようとする動きが増えてきています。

久力: 当社の事例でも、今までは地元で展開されてた会社さんが、次の経営者の世代に移り変わり、県内はもちろんのことながら、自分たちの作ってる良いものを外に広めていこう、知ってもらおうとM&Aを検討される動きが増えているように感じます。

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これからいろいろな会社で世代交代が行われていく中で、若い有能な経営者が攻めに転じるようなシーンが増えそうですね。

瀬戸: そうですね。40代くらいの経営者の方が増えてきていますけど、皆さん一旦は大手企業に就職されて、経験を積まれて戻ってこられるケースが多いので、情報も豊富で視野も広く「もう少しマーケットを広げていこう」と。

久力: 最近、当社がお手伝いしている九州のM&Aの中で、興味深い動きとして見ているんですけど、九州の中で非常に大きなシェアを持つ会社さんが、譲渡の相談に来られているケースが多くなっています。

業界内ではシェアが高い、そうした会社さんが次のステージにいくために他の企業と一緒になる、成長戦略型のM&Aが増えてきているように感じています。

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つまり、自分の持っている株式を大手企業に渡して、自分は経営者として残りながら、より大きな会社になっていこうとする成長戦略型の動きが、攻めの買収戦略とともに増えていきそうだなと。経営者の若返りを背景に、そうした兆しを感じています。

瀬戸: そうですね。当社がお手伝いするM&Aの中でそうした動きは顕著ですよね。譲渡、譲受ともに。 九州の中でトップだったとしても、これからそれだけでは戦っていけない時代がくるということで。そうしたケースは昔は全くなかったですけど、ここ最近特に増えてる印象です。

温泉旅館を始めるならM&Aが効率的!?

久力: 地域的にも関東からすると、距離があるものの、例えば少し前だと日照条件が良いという理由で太陽光の企業だったり、水が綺麗ということで、半導体、製造業など九州に進出する動きが見られます。そもそも大陸に近いということで、海外との玄関口の役割も担っていたりと、これからも変化が多そうなエリアですよね。

瀬戸: アジアと距離が近いというのも特徴的です。福岡から大阪まで約500キロ、ソウルまで約500キロなので、コロナ前だとインバウンドの観光客の方も多かったですし、アジアに出ていこうという海外進出もですし、インバウンドに向けての産業だったりとか、そういったところもまだまだ期待できると思います。

その他の特徴としては、九州には温泉もたくさんあります。湯布院とか別府とか黒川とか嬉野とか全国的に有名ですね。

例えば、九州にある不動産会社が新規事業で「旅館やりたい」となった時に、まず候補に挙がるのが「湯布院」です。海外からの知名度が抜群ですし、そういう新たな新規事業を獲得する目的でM&Aが行われるケースもあります。

久力: 温泉地だと、新たにホテルとか旅館を建てたいとなっても、利用許可の問題などでハードルが高いので、M&Aで進出する方が効率的だったりするんでしょうね。

人が採れない!人材補強を理由にM&Aを決断するケースも

久力: ちなみに福岡は人口増えているんですか?

瀬戸: 増えています。福岡市が増えていて、九州の他の都市が減っているので、大体みんな福岡に集まっている感じです。

久力: そうなると後継者の方は福岡以外の方も地元に戻ってくると。ただ会社を成長させて事業を続けていくためには、人の採用も増やしていかないといけないですよね。同じメンバーでやっていっても高齢化していってしまいますから。

一都市に集中していることを聞くと、採用面でちょっと心配だなと思ってしまうのですが、九州の採用事情はどうなんですか?

瀬戸: 九州の中でもだいぶ差はありますね。福岡市はどの業種でも、すごく採用しやすいと思います。Uターンで帰ってくる人もいますし、九州の中で福岡で働きたいと出てくる人もいますので、母数が多いんですよね。一方、他のエリアは採用で苦労している会社さんは多いです。

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売り手の会社さんとしては、会社を譲渡する時に、後継者不在の問題はもちろんあるんですけど、先ほどお話にもあったように、今後会社を成長・発展させていくために採用しなければいけないと。

ただやっぱり人を採用できない、来ない、というのが理由で、譲渡を決断する会社さんも多いです。

久力: 交通が発達して距離が近くなることで「福岡で働きたい、住みたい」など、より一都市に集中する可能性も考えられます。そうなると採用の面でもますます難しさが増す可能性がありますね。

瀬戸: 福岡市以外の都市はどこも、採用の面もそうですし、人口が減らないようにしていくことが課題になっていくのではと考えます。

地域のために、より多くの会社の存続を支援していく

久力: 最後になりましたが、今後の展望をお聞かせください。

瀬戸: 冒頭にお伝えしたように、1割経済に達していないM&Aの件数ということは、まだ増やしていけるポテンシャルもあると考えています。

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地方に行けば行くほど、その一社が存続することの意義は都市部より大きいと感じています。同じ業界・業種の会社が存在する都市部と違い、その地域にはその会社しかない、というケースが多々あります。

こういう会社をちゃんと継続させていくことは、地方の方がより重みがあると我々は受け止めています。各地域の金融機関さんをはじめ提携先のご関係者と連携を深めながら、より多くのご支援をしていきたいと考えています。

久力: 地域の存続と発展のために貢献していきたい、ということですね。瀬戸さん、本日はありがとうございました。

瀬戸: ありがとうございました。

久力: 今後もご当地シリーズとして各地のM&A事情をお届けしていきます。どうぞご期待ください!

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日本M&AセンターではM&A・買収に関するご相談を随時承っております。ご検討段階の方も、お気軽にお問合せください。

プロフィール

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久力 創(くりき・はじめ)
日本M&Aセンター 執行役員 法人事業部長
大手証券会社を経て2008年日本M&Aセンター入社。主に譲受企業のアドバイザーを数多く務め、50件以上の成約実績がある。
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瀬戸 大樹(せと・ひろき)
日本M&Aセンター 福岡支店 シニアチーフ
2011年の入社以来、主に譲受企業担当として数多くのM&A支援実績を有する。2016年の福岡支店開設に伴い、福岡に常駐し九州・沖縄エリアを担当。北九州市立大学 特任教員。
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