中小企業の経営者は高齢化が進んでおり、後継者不在を理由に廃業の危機に直面している会社も少なくありません。一方で、そうした後継者不在の会社を第三者が譲り受けるケースが近年増加傾向にあります。本記事では、後継者のいない会社を買うメリット・注意点、相談先などについてご紹介します。
後継者のいない会社を買うケースが増加している
利益をあげているにも関わらず、廃業を迫られている中小企業が増えています。その理由として挙げられるのが後継者不在問題です。
大手調査会社の調査結果によると、企業の経営者不在率は60%前後の水準で推移しており、中小企業庁をはじめ各種事業承継の支援策が導入されています。こうした後継者不在問題、事業承継問題を解決する手段として、M&Aによる第三者への事業承継が注目を集め、M&Aの件数は年々増加傾向にあります。
また、「会社を買う」のは法人に限った話ではありません。個人でも手軽に利用できるM&Aマッチングサイトの登場により、小規模なM&Aの急増もM&A増加の要因の一つとされています。
なぜ「後継者のいない会社」が増えているのか
後継者のいない会社が増えている要因は大きく以下の2つが挙げられます。
① 経営者の高齢化
中小企業庁の「事業承継ガイドライン(第3版)」によると、中小企業の経営者の年齢層は60~74歳に集中しています。
その多くが事業承継のタイミングを逃してしまったために、現在、後継者不在問題に苦悩していることが推測されます。少子高齢化のスピードが劇的に加速したことも、事業承継を行うタイミングを逸してしまった要因とも考えられます。
② 親族に会社を継ぐ意思がない
かつては、親族内で後継者を選んで会社を継がせる「親族内承継」のケースが一般的でした。しかし、こうした家父長制・大家族制のような考え方は少なくなり、個人主義が中心となっている現代においては家業を継ぐケースはあまり見られなくなりました。
経営者の子どもなど親族でも継ぐ意思を持っていなかったり、我が子には自分の道を歩ませたいと、考える経営者が増えていることも後継者不在につながる要因の一つと考えられます。
後継者不在のままでは「廃業」や「倒産」に迫られる場合も
後継者が不在のまま経営者が亡くなってしまうと、会社の舵を取る人がいなくなるため、廃業・倒産の決断をせざるをえない状況に陥ります。
廃業を決断した場合、一定の手続きが必要になります。手続きを放置しておくと事業を継続していると見なされ、確定申告が必要になる場合があります。
廃業・倒産となると、取引先や従業員などに多大な迷惑をかけてしまいます。現在の経営者に廃業や倒産をするつもりがないとしても、事業承継の見込みが立たなければ、銀行や取引先からの支援が徐々に期待できなくなる恐れもあるため、廃業・倒産を回避するための対応が求められます。
後継者のいない会社を買うメリット
後継者のいない会社を買う、買い手側のメリットとしては、主に以下が挙げられます。
事業規模拡大が見込める
自社と同業、もしくは関連事業を展開する企業を買収することで、既存事業の規模拡大やシナジー効果の創出が期待できます。
つまり、仕入れコストの削減、製造ノウハウの共有、物流面の連携、販売面の連携など、販路・人材・資産を相互に活用し、自社単独で行動するより大きな成果を生み出すことが期待できるのです。
新規市場参入のハードルが下がる
新たなビジネスをゼロから始めようとした場合、求める目標に到達するまで相当の時間とコストがかかります。新たな技術やスキルの拡大、顧客ネットワーク、市場シェアの拡大を短期で実現することはほぼ不可能に近いでしょう。
しかし、買収した会社にが保有する技術・ノウハウ・従業員や取引先を引き継ぐことで、スムーズに新規ビジネスへの参入、事業拡大が見込めます。
文化の継承や社会貢献を実現できる
事業によっては、その会社しか保有していない特殊な技術を持つ場合があります。そうした技術・ノウハウが廃業によって消滅することは、国や社会にとって大きな損失となりえるでしょう。
そうした会社を譲り受けることで、技術やノウハウ、それにひもづく文化を次世代に引き継げることは、結果として国や社会への貢献につながるという点でメリットとして挙げられます。
後継者のいない会社を買う場合の注意点
後継者のいない会社を買う場合の注意点としては、主に次の点が挙げられます。
従業員や顧客が離れるリスクがある
対象会社の従業員や顧客が離れてしまうリスクは、一番に想定しておく必要があります。
中小企業の経営者の場合、特に経営者従業員や取引先を引き付けているケースが少なくありません。従業員や取引先に不安を与えている場合には、新たな経営者はまず従業員や取引先との信頼関係の構築に努める必要があります。場合によっては、前経営者の方針を受け継ぐ旨を従業員や顧客に個別に説明することも求められるでしょう。
不要な資産などを引き受けてしまう可能性がある
会社を買収する場合には、買い手側は簿外債務など不要な資産を引き受けてしまうリスクがあります。こうしたリスクを避けるためには、デューデリジェンスの実施が必要不可欠です。
簿外債務の主な項目には、未払い残業代・退職給付引当金・債務保証・偶発債務があります。それぞれの概要を見ていきましょう。
未払い残業代
経営者が変わるタイミングで、今までもらえてなかった残業代を請求しようと考える従業員がいてもおかしくありません。買い手にとっては予定外の支払いとなり、本来であれば買収価格に加味すべき事項です。隠れ債務として存在していた場合、買収価格に反映されないため、場合によってはM&A破談の理由にもつながりかねません。
退職給付引当金
退職給付引当金は、実際に退職金を支払うタイミングで費用計上されるため、簿外債務となるケースが多くあります。対象企業が退職金制度を導入しているのか、就業規則や規定を確認することが見逃しを防ぐことができます。
債務保証
中小企業間では、契約書を締結しないで債務保証してしまうことがゼロではありません。契約書がないことから、そのため簿外債務として後から発覚するケースがあります。
そのため、対象企業が債務保証している中小企業から保証金の入金の有無などをしっかり確認する必要があります。
偶発債務
偶発債務は、将来的に債務になる可能性があるものを指します。具体的には、訴訟に負けた場合に支払う必要がある賠償金や、自社の事業が引き起こす可能性がある公害に対する補償金などが挙げられます。
買収監査時に訴訟案件の有無や付近の住民からのクレームなどを確認して、将来的に債務になりうるものを把握しておくことや、発生する可能性がある債務の金額も想定しておくことが重要です。
後継者のいない会社を買いたい場合の相談先
後継者のいない会社を買いたい場合の相談先としては、事業承継・引継ぎ支援センターとM&A支援会社があります。それぞれどのような組織なのかお伝えします。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターとは、後継者不足に悩む中小企業・小規模事業の事業承継をM&Aなどの活用によってサポートすることを目的とする国の事業です。創業を目指す起業家と、後継者不在の会社や個人事業主を引き合わせ、創業と事業引継ぎを支援する「後継者人材バンク」などの支援が受けられます。
公共機関であるため全国各地で安心して相談できること、中小企業診断士や税理士、公認会計士などの専門家に無料で相談できる点がメリットである反面、M&Aの直接的な仲介、相手との交渉など、一貫したサポートを受けることはできない点に注意が必要です。
M&A仲介会社
会社を買いたい場合の相談先には、M&A支援をする民間のM&A仲介会社も挙げられます。M&A仲介会社は、豊富な経験とネットワークにもとづいて、買収希望者に対してニーズに合った会社を探してくれるところからサポートしてくれます。
買収を検討するにあたって、自社のM&Aの目的にあった条件や交渉などの助言を行うほか、公認会計士や弁護士など内外のプロフェッショナルのネットワークを活用し、事前の買収監査をしっかり行える体制があることもメリットとして挙げられます。一方で報酬体系など各社異なる点を比較検討しておく必要があります。
終わりに
以上、後継者のいない会社を買う方法についてご紹介してきました。後継者のいない会社は事業承継のタイミングを逸した高齢の経営者の増加、家業を引き継ぐといった価値観の希薄化によって増加しており、大きな社会課題となっています。
日本M&Aセンターは、中小企業の友好的なM&Aを30年以上にわたり支援を行ってまいりました。
後継者のいない会社の買収にご関心のある場合は、まず希望条件をご登録ください。
著者
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