長引くビットコインの暴落を受け、一部の暗号資産マイニング(採掘)企業の債務、総額約5,420億円が焦げ付くリスクが上昇している。すでに複数の企業が債務返済や運転資金捻出のために、保有していたビットコインの売却を余儀なくされており、暗号資産の価格をさらに押し下げる圧力となっている。
マイニング利益、1年間で3倍増の2兆円突破
ビットコインなどの暗号資産マイニングでは、取引データ(ブロック)の承認作業を手伝ったユーザーに報酬が支払われる仕組みになっている。マイナー(採掘者)が取引データを解析や承認すると新たなブロックチェーンが作成され、取引データが永久に記録される。
この作業は膨大な量の計算処理を要し、効率的に報酬を得るためには、高性能かつ高速度なコンピューター処理が不可欠だ。個人マイナーにとって、その難易度は年々上がっている。
マイニング企業はGPU(画像処理装置)やASIC(暗号資産のマイニングに特化した電子回路)といった採掘機器を、マイニングファーム(工場)と呼ばれる施設に配置し、24時間フル稼働させることで巨額の利益を上げてきた。
暗号資産メディア、クリプトゲインの分析によると、2021年にマイナーが得た利益は、前年の3倍を上回る総額167億5,000万ドル(約2兆2,687億円)に達したという。
暴落で収益性がマイナス圏へ
しかし、市場環境が一転した現在、多数のマイニング業者が苦境に立たされている。
2022年6月26日現在のビットコインの価格は、2021年11月のピーク時から69%減の2万1,213ドル(約287万円)前後を推移している。イーサリアムやバイナンスなどの他の主要仮想通貨も軒並み下落しており、暗号資産全体の時価総額は3兆ドル(約406兆3,414億円)からその3分の1以下へ縮小した。資産クラスの価値が1兆ドル(約135兆4,672億円)を下回ったのは、2021年以来初めてのことだ。
マイニングプール(複数のユーザーが共同でマイニングを行うコミュニティー)F2Pooiのデータによると、6月13日にビットコインが2万4,000ドル(約327万円)を下回った後、マイニングリグ(マイニング機器)の収益性は75%低下したという。
マイニング機器大手ビットマン社の「Antminer S11」やカナン社の「Avalon Miner 921」など、多数のASICマシーンの稼働コストは利益を上回り、収益性がマイナスへ落ち込んだ。
中国のマイニング市場撤退で、ライバル企業の設備投資が加速
さらに懸念されているのは、一部のマイニング(採掘)業者が事業運営や拡大の資金として、マイニング設備(機器・装置など)を担保に、推定総額40億ドル(約5,419億9,496万円)もの融資を受けている点だ。主な貸し手は、ギャラクシー・デジタル・ホールディングスやBlockFi、バベル・ファイナンスなどの暗号資産融資企業である。
2021年5月、世界最大のマイニング大国だった中国において、マイニング禁止が発令されたことにより、他国のマイニング業者が一斉に市場競争力の強化に乗り出した。ビットコインの高騰や低金利環境など、資金を調達して大規模な設備投資を行うには絶好の時期のように見えた。
クリプトゲインなどのメディアによると、米デジタル資産テクノロジー企業、マラソン・デジタルは2021年10月、設備投資のために米シルバーゲート銀行から1億ドル(約135億6,267万円)の融資を確保したと言われている。その2ヵ月後に、マイニング史上最高額の8億7,910万ドル(約1,192億2,944万円)相当のASIC購入を発表した。
その他、コア・サイエンティフィックやブラックキャップ、グリフォン・デジタルマイニングなど、北米を中心とする多数のマイニング企業がマイニング機器担保融資を利用して、続々と事業を拡大した。
一部業者はすでにデフォルト秒読み
しかし物事は時として、順風満帆にはいかないものだ。長引く暗号資産市場の低迷を受け、返済に窮する業者が出始めた。
最近では、シンガポールを拠点とするヘッジファンド、スリー・アローズ・キャピタル(3AC)が、BlockFiなどからのマージンコールに応じることができず、担保で債務を清算していたことが明らかになった。
さらに、6月21日には別の債権者であるカナダの暗号資産ブローカー、ボイジャー・デジタルが、3ACへの融資6億5,000万ドル(約884億8,515万円)が貸し倒れとなるリスクが高まっていることを明らかにした。
3AC は4月時点で約30億ドル(約4,083億9,302万円)を運用していたが、暗号資産の暴落で多額の損失を被った。共同創設者のカイル・デイビス氏は17日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材で、「資産売却や他の企業による救済などの選択肢を模索している」ことを認めた。
大手が続々とビットコイン売却
逆風の中、一部の業者が生き延びる手段として選択したのは、保有しているビットコイン(BTC)の売却だ。
コア・サイエンティフィックのような米最大級のマイニング企業ですら、運営コストを補うために2,000BTC以上を売却する状況に追い込まれた。一方、ビットファームはギャラクシー・デジタル・ホールディングスから借り入れている1億ドル(約136億1,250万円)の一部返済のために、1,500BTCを売却した。同社はニューヨーク・デジタル・インベストグループからも融資を受けている。
JPモルガン・チェースのアナリストの予測によると、マイニング収益性が近いうちに改善されない場合、業者によるビットコイン売りの圧力は第3四半期も継続する可能性が高いという。
下落に歯止めがきかなくなる最悪のシナリオも?
現時点において、デフォルト債務不履行に陥ったマイニング企業はごく一握りだが、このまま暗号資産市場の低迷が続けば、焦げ付く業者が増加する可能性が高い。当然ながらそのしわ寄せは、貸し手へ行く。さらに、マイニング企業や投資家による暗号資産のパニック売りが加速した場合、暗号資産の下落に歯止めがきかなくなる最悪の事態も予想される。
文・アレン・琴子(英国在住のフリーライター)