私募債,活用
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中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

中小企業の資金調達には銀行融資やクラウンドファンディングなどがあるが、「私募債」という方法も注目されている。私募債は、要件を満たせば小規模な会社でも手軽に低コストで資金調達を行うことができる。

今回は私募債の概要や、私募債を手軽に低コストで発行する方法、私募債のメリットとデメリット、私募債を発行する流れ、私募債を活用した節税について解説する。

私募債とは?わかりやすく解説

「私募債」とは、会社が資金調達のために発行する「社債」の1つだ。よって、まずは社債の要点を押さえることが、私募債を把握する上で重要になる。

社債とは企業が投資家から資金を集める手段

社債とは、会社が資金調達を目的として投資家からの金銭と引き換えに発行する債券のことだ。債券には額面があり、償還日を迎えると、その金額が会社から購入者に支払われる。社債は、会社から購入者に対して発行される借用証書のようなものと言える。

購入者側のメリットは、会社から利息を受け取れることや、額面より低い金額で買い受ける場合は償還時に差額分の利益を得られることだ。

私募債とは限られた相手のみに発行する社債

「私募債」とは、少数の投資家に購入を呼びかけ、買い受けてもらう社債のことだ。これに対し、不特定多数に買い受けてもらう社債を、「公募債」という。私募債は、限られた相手にしか販売しないため、通常の社債よりも発行手続きが簡易である。

私募債の特徴は?

「社債」は、金融証券取引法の有価証券に該当するため、投資家保護の観点から、その取得を勧誘する行為などに同法の制約を受ける。また社債の発行によって払い込まれた金銭は会社の借金であり、返済の義務があるため、債権者保護の観点から社債は会社法による制約も同時に受けることになる。

一方「私募債」は、一定の要件を満たすことによって、これらの制約をほぼ受けることなく資金調達ができる。まずは通常の社債を発行した場合、どのような制約を受けるか確認しよう。

金融商品取引法の制約

新しく発行する社債の取得を勧誘する行為は、金融証券取引法上の「有価証券の募集」(同法第2条第3項)として様々な制約を受ける。社債の発行額などにもよるが、有価証券届出書の提出(同法第4条、第5条)や目論見書の作成や交付(同法第13条等)、有価証券報告書の事業年度ごとの提出(同法第24条第1項等)などが必要だ。

こうした専門的な手続きが多くなるほど社債の発行には時間も費用もかかり、資金調達のハードルは高くなる。

会社法の制約

社債を発行する際は、「社債管理者」を設置しなければならない。(会社法第702条)社債管理者とは、債権の保全や管理を行う機関で、銀行や信託会社などに委託することになる。

私募債は1億円未満、49口以下の発行を

私募債は、少数の投資家にしか勧誘を行わない。そのため、金融商品取引法上の「有価証券の私募」であり「有価証券の募集」ではないため、上記の制約を受けることなく発行できる。

ただし、発行総額は1億円未満に設定することが望ましい。発行総額が1億円以上の社債の場合、それが私募債であっても、購入者に一定の告知義務が生じるからだ。(金融商品取引法第23条の13第4項)私募債をできる限り手軽に利用したいなら、1億円未満の資金調達に利用することがポイントになる。

また、以下のいずれかの要件を満たせば、社債管理者の設置も不要になる。
・社債の金額が1億円以上である場合(会社法第702条)
・社債の総額を当該種類の各社債の金額の最低額で除した数が50を下回る場合(会社法施行例第169条)

前述の告知義務を回避するためには、必然的に2つ目の要件を満たす必要がある。社債1口あたりの発行金額を、発行総額の50分の1を超える額に設定しなければならないということだ。

社債の発行総額が5,000万円の場合、1口が100万円を超えていなければならないことになる。よって最大で発行できる口数は、49口以下だ。たとえば1口を30万円に設定した場合、最大で1,470万円しか資金調達ができないことになる。このように、1口あたりの設定額は非常に重要だ。

【私募債を発行する時のポイント】
・発行総額を1億円未満にする
・発行口数を49口以下にする

私募債の2つの種類 「少人数私募債」と「プロ私募債」

私募債には、少人数の者に向けたものとプロの投資家に向けたものがある。前者を「少人数私募債」、後者を「プロ私募債」と呼んで区別している。

少人数私募債とは

中小企業の資金調達として使いやすいのは、少人数私募債だ。50人未満(=49人以下)という少数を対象に募集する私募債で、多くは経営者の親族や友人、取引先などといった縁故者に買い受けてもらうことになる。

注意点は、取得の勧誘を行った相手が6ヵ月間で50人未満(=49人以下)であることで、実際に購入した人数ではないことだ。(金融商品取引法施行令1条の6)

また50人未満を維持するために、転売制限を設けなければならない。これには、私募債の購入者に転売制限の記載がある書面交付を行う方法などがある。(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令13条3項)

プロ私募債とは

プロ私募債とは、「適格機関投資家」と呼ばれる民間のプロの投資家のみを対象とした私募債のことだ。「適格機関投資家」には、証券会社や銀行、保険会社、信用金庫などが該当する。(金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令第10条)

少人数私募債のような人数制限はないが、相手がプロに限られることから、縁故者を相手とする少人数私募債よりも社債を買い受けてもらうにあたってのハードルが高い。

銀行が引き受ける私募債とは何か

銀行が取り扱う私募債もある。これは、会社が発行する私募債を銀行が買い受け、かつその事務手続きや支払いの保証といったサービスを提供する商品のことだ。保証先の違いによって「銀行保証付私募債」や「信用保証協会保証付私募債」といった種類がある。

銀行が設定する要件を満たし、審査を通過しなければならないため、少人数私募債よりもハードルは高い。銀行の審査を通過すれば優良企業としてのアピール材料になるが、その保証や各事務手続きに対して手数料が発生するというデメリットがある。

活用しやすいのは「少人数私募債」

中小企業の資金調達として活用しやすいのは、「少人数私募債」だ。私募債であるため発行手続きが簡易であり、かつ販売相手を縁故者にできるため発行のハードルが低い。

少人数私募債を発行するポイントを、私募債の法規制を加えてまとめると以下のようになる。
・発行総額を1億円未満にする
・発行口数を49口以下にする
・取得の勧誘の相手を49人以下にする

私募債のメリット・デメリット

ここで、私募債のメリットとデメリットをまとめておこう。なお、ここからの私募債は「少人数私募債」であることを前提に解説する。

私募債の5つのメリット

・低コストで発行できる
前述のとおり、私募債の発行には、有価証券届出書の提出などの手続きが不要である。したがって手続きにかかるコストは公募債よりも少ない。低コストなので、小規模な会社でも取り組みやすい資金調達の方法と言える。

・保証人や担保が不要
金融機関の融資であれば審査を受けなければならず、加えて保証人や担保の提供を求められることがほとんどだ。これに対して私募債は、保証人や担保の設定は必要ない。保証人や担保が設定できず金融機関の融資が受けられなかった会社でも、私募債であれば資金調達ができるのだ。

・償還期間や利息も柔軟に
少人数私募債では購入者のほとんどが縁故者となるため、限度はあるものの、償還期間や利息をある程度柔軟に設定できる。

親族や知人同士のお金の貸し借りは、返済期限や返済方法、利息などが曖昧になることが多く、トラブルになりやすい。私募債であれば、あらかじめ償還期間や償還方法、利息などが決まっているため、トラブルは少ないと言える。

・会社形態にかかわらず発行できる
株式発行による資金調達は、株式会社しか行うことができない。これに対して私募債は、会社形態を問わず発行できる。また、株式のように議決権を気にする必要もない。

・会社の節税になる
私募債の購入者に支払う利子は、会社の損金に算入できる。また、利子を受け取った側も課税上優遇される場合がある。詳しくは、「私募債を活用した節税」で解説する。

私募債の3つのデメリット

・個人は対象外
社債を発行できるのは法人のみだ。したがって、個人事業主は私募債を資金調達に利用することはできない。

・返済が必要
社債は株式とは異なり会社の「借り入れ」であるため、貸借対照表上は負債の部に記載される。償還期間が満了したら、購入者に一括返済しなければならない。

・大きな資金は集めにくい
私募債は低コストで発行できる反面、人数や口数が限られるため大きな資金を調達することは難しい。また1億円未満の資金調達手段とすることが望ましいため、それを超える資金を調達する手段には向いていない。

私募債の発行から償還までの流れ

社債の発行から償還までの流れは、会社法に従うことになる。ここでは、少人数私募債を発行する場合の流れを簡単に解説する。

1. 取締役会等の決議

取締役会を設置する会社において、社債の募集に関する重要な事項は取締役会の専決事項となる。(会社法第362条第4項第5号等)したがって、取締役会の決議が必要だ。重要な事項とは、募集社債の総額の上限、利率の上限、払込金額の総額の最低金額などのことである。(会社法施行規則第99条第1項)

2. 私募債の申込みを受ける

会社は募集する社債について、その総額や利率、償還方法や期限など一定の事項を決定し、社債の申込者には、この一定事項などを通知しなければならない。(会社法第676条・第677条)また、6ヵ月以内に取得の勧誘を行った相手が49人以下となるよう、人数にも注意しよう。

3.私募債の割当てと通知

社債購入の申込を受けたら、誰にいくら私募債を割り当てるかを決定する。割り当てた金額などは、金銭の払込期日の前日までに申込者に通知しなければならない。(会社法第678条)

4.私募債の払込を受ける

割り当てた金額などを通知した後は、申込者から社債代金の払込みを受ける。払込みを受けた後は社債を発行し、社債原簿(会社法第681条)で情報を管理する。

5.社債の償還

償還期限が満了したら、購入者に社債の額面金額を償還する。

私募債を活用した節税方法

最後に、私募債を活用した節税について解説する。

支払った利息は経費になる

会社から私募債の購入者に支払う利息は、全額を会社の損金に算入できる。法人税等の節税になるため、会社の実質的な負担は支払った利息の額よりも少なくなる。

利息を受け取った側も優遇される場合がある

私募債を購入した個人が会社から受け取る利息は、その個人の「利子所得」となる。社債から生じた利子所得は原則分離課税となり、他の所得と合算されることなく固定税率(所得税及び復興特別所得税15.315%・住民税5%)で源泉徴収が行われ、納税が完結する。超過累進税率(※)が適用されないため、税負担が軽くなることがほとんどだ。
(※)所得が高い部分ほど高くなる税率のこと。所得税の総合課税に適用される。

・同族会社の私募債に注意
平成28年から、私募債を発行する会社が同族会社であり、かつ利子を受け取る人がその同族会社の判定の基礎となった株主等である場合は、総合課税が適用されるようになった。たとえば、経営者の親族や会社の使用人などに私募債を発行するケースがこれに該当する。この改正は、経営者の親族などに少人数私募債を発行し、会社から利子を支払う節税策を封じたものだ。

ただし、個人所得が高くない人の総合課税の税率は分離課税の税率とほぼ変わらないか、かえって分離課税の税率のほうが高いケースもある。したがって、このような人に支払う利息であれば、総合課税による負担はさほど問題にならない。なお、要件に該当しない者(取引先、友人など)は、従来どおり分離課税が適用される。

【私募債の利息の課税関係】
利子を受け取る人 課税関係
一般
(取引先、友人など)
・利息の額から20.315%の所得税・住民税が源泉徴収される。
・申告分離課税(利子所得)になるが、申告不要とすることも可能。
同族会社の判定の基礎となった株主等
(経営者の親族など)
・利息の額から15.315%の所得税等が源泉徴収される。(住民税5%(利子割)の徴収はなし)
・総合課税(利子所得)として申告する。

・「同族会社」・・・株主を特殊関係のある者で分けた「株主グループ」のうち、上位のグループが、全体の50%を超える株式や議決権等を保有する会社のこと。
・「同族会社の判定の基礎となった株主等」・・・その上位グループに所属する株主本人や、その株主と以下のいずれかの関係にある株主等をいう。
1.その株主の親族
2.その株主と事実婚関係にある者
3.その株主の使用人
4.1~3以外の者で、その株主から受け取る金銭で生計を維持している者
5.2~4の者と生計を一にする親族

なお、直接支配でない株主であれば、この規制を受けないとする解釈もある。

償還差益も同族会社を除き分離課税が適用される

前項のように利息を支払う社債を「利付債」と呼ぶが、これに対して社債には「割引債」というものもある。「割引債」とは、社債を額面よりも低い金額で販売し、償還時に償還金と購入額の差額で利益を得られるものだ。

この場合、償還金から生じる利益(償還差益)は、分離課税の「譲渡所得」として課税対象となる。税率は、利子所得と同様に20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%・住民税5%)だ。(源泉徴収税の計算方法は異なる)

ただし償還差益についても、平成28年から利子と同様に同族会社の規制を受ける。この場合、償還差益を得た「同族会社の判定の基礎となった株主等」は、総合課税の雑所得として申告する必要がある。

社会保険料の節約になる

会社から個人に給与を支給すれば、その給与は社会保険料の対象になる。社会保険料率(健康保険料率・厚生年金保険料率)は、会社と個人の負担をあわせるとかなり高額になる。たとえば東京都の協会けんぽの料率は、標準報酬月額の約28%だ。

協会けんぽHP:平成31年度保険料額表
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/h31/h31ryougakuhyou4gatukara

これに対し、私募債の利子として受け取った金銭に社会保険料はかからない。このように、負担を増やすことなく、役員や使用人に私募債の利子を支払うこともできる。中小企業では同族会社の規制対象になるケースが多いと思うが、こうしたメリットを考えれば検討の余地はある。

ただし利息を高く設定し過ぎると、給与課税の対象となる可能性がある。利息の額は税理士に相談して決定することをおすすめする。

私募債は手軽かつ低コスト

中小企業の資金調達として、私募債は手軽かつ低コストで実行できる手段と言える。節税策としては規制された部分もあるが、節税メリットがなくなったわけではない。銀行の融資枠を超えている時などは、ぜひ検討してみよう。

文・中村太郎(税理士)