日医工のゾッとする薬の生産体制とは? 事業再生ADR手続きで再生なるか
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ジェネリック医薬品大手の日医工が2022年5月13日、私的整理の一種「事業再生ADR手続き」を申請した。同時に発表した3月期の連結決算は、186億円と見込んでいた最終損失が1,048億円にまで拡大した。飛ぶ鳥を落とす勢いで成長してきた同社に、何があったのか。

相次いだ医薬品の自主回収

全ての発端は2019年ごろから相次いだ医薬品の自主回収だった。すでに市場に出回っている医薬品を自主回収する場合、協力金を支払うため、2020年3月期決算には自主回収費用として15億円余りを盛り込むことになった。

しかし、製薬業界では自主回収自体がそれほど珍しいわけではない。この決算公表時点ではそれほど大きな問題として取り上げられておらず、報道各社も淡々と決算内容を報じていた。

ところが、2020年に入って状況は悪化し、自主回収の対象製品が毎月のように増えていった。今、同社のホームページを見ても、自主回収や販売中止に関する告知がずらりと並んでいる。

2020年9月中間期の連結決算時点では、自主回収に関する費用はさらに膨らんでいたはずで、最終利益は前年同期の30億円から1億円に目減りしている。ただ、決算説明資料では、コロナ禍で医療機関の受診を控える動きが強まり、薬価改定も相まって減収減益になったと説明した。自主回収に関しては不自然なほどに一言も触れられていない。

そして迎えた2021年3月、富山県は日医工が不適切な製造方法を繰り返したとして、医薬品製造業者として32日間、医薬品製造販売業者として24日間の業務停止を命じる行政処分を科した。

日医工の「不適切な製造方法」とは

日医工が行っていた不適切な製造方法とは何か。

医薬品を製造する際、事業者は製造方法や使用する成分の内容、分量などを国に承認申請し、それが認められれば、承認内容通りに製造しなければならない。ところが、日医工では出荷のための試験で不合格になった際、合格するまで検査を繰り返したり、不合格になった製品を砕いて再利用したりしていたという。そんな薬を服用していたなどとは考えたくもない事実だ……。

このような法令違反が、実に10年前から繰り返されていたそうだ。富山県が事前に日医工側に予告して実施する従来の査察では不正が見つかっていなかったが、無通告査察を実施したことにより、承認されていない製造方法が常態化していることが分かった。県は、その悪質性と品質管理体制の甘さから行政処分を下すに至った。

生産再開が遅れ、原材料廃棄で多額の損失計上

不正の現場となった富山第一工場(富山県滑川市)は、日医工が持つ主要工場の1つで、約400品目を生産している。業務停止が解除され、その後の品質評価を進める中で順に生産を再開しているものの、未だに100品目以上が供給できていない。

そんな中で発表した2022年3月期決算では、販売品目が減ったことによる減収に加え、米国での販売認可取得を目指して開発中のバイオシミラー(バイオ医薬品の後続品)、希少疾病治療薬の承認申請に遅れが出ている影響で、第4四半期(1~3月)に、それら製剤関連の無形資産を減損処理した。減損損失は日米で計621億8,800万円に上った。

さらに、富山第一工場の生産品目について、生産再開スケジュールを見直したところ、生産が遅れることで廃棄になってしまう可能性がある原材料や仕掛品があったため、棚卸資産の評価損26億2,000万円も計上した。このため、最終損失が1,000億円超という過去最大の赤字決算となった。

ここで、直近の業績を振り返ってみる(▲はマイナス)。

日医工のゾッとする薬の生産体制とは? 事業再生ADR手続きで再生なるか

問題発覚の前年度に当たる2020年3月期の売上収益は、同社として過去最高だった。そこから2年連続の減収となっている。患者は日常的に使用する医薬品がある程度決まっているので、仮に日医工製品の一部に問題が発覚しても、すぐには他の製品へ切り替えは進まない。

そのため、売り上げの減少ペースは鈍いが、自主回収費用をはじめとする費用の増加で、利益率が急に悪化していることが分かる。

なお、2023年3月期の業績予想は現時点で未定としている。

事業再生ADR手続きでどうなる

日医工は今後、事業再生ADR手続きに入って全ての取引金融機関と協議し、再生計画案をつくる。事業はそのまま継続するため、消費者や仕入れ先には直接の影響はない。

これに加え、日医工はジャパン・インダストリアル・ソリューションズ第参号投資事業有限責任組合(JIS)との間で、出資に関する基本合意書を締結した。JISは日本政策投資銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行が出資しており、今回は最大200億円をめどに日医工に出資する意向があるという。

もっとも、このような「金策」の行方とは別に、最も大きな課題として残るのがブランド価値の低下である。日医工製品を扱うのは病院や薬局でも、服用するのは患者個人だ。急に他社製品に乗り換えられなくとも、徐々に「日医工離れ」が進む可能性もある。仮にADR手続きが成立しても予断を許さない状況は続く。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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