1948年の独立以来、最悪の不況に直面しているスリランカが、2022年4月中旬に510億ドル(約6兆 6,537億円)の対外債務全額をデフォルト(債務不履行)にする意向を発表した。同国は債務の5分の1を占める中国に債務再編を交渉中だが、中国側は難色を示している。
国内では中国依存を続けてきたラジャパクサ首相に対する批判や退陣圧力が強まり、デモの拡大や官僚の辞任騒ぎに発展している。
深刻な食糧・燃料不足、電力や医療もままならず
スリランカでは、インフレ高進で生活が困窮している国民の抗議活動を受け、4月4日、首相以外の全官僚が辞任するに至った。同国は食料品や燃料、医薬品といった必需品が不足していることに加え、電力の供給すらままならず、医療制度は崩壊の危機に瀕しているという。さらに、デモで警察官が抗議者の1人を射殺したことが国民の怒りを増長させた。
スリランカ政府は、新型コロナウイルスの感染拡大を経済危機の要因として挙げているが、実際には過去数年にわたり経済状況が悪化の一途をたどっていた。
パンデミック以前に実施された大幅な減税による観光業の冷えこみや海外で働くスリランカ人からの送金の減少に加え、有機農業への移行により米が十分に収穫できず高値での輸入を余儀なくされていた。そこへ、パンデミックが、さらにロシア・ウクライナ戦争が拍車をかけた。これにより、外貨準備金が枯渇した。
国債利払い不履行で債務格下げ
苦境にさらなる圧力をかけているのが巨額の対外債務だ。供給の大半を輸入に依存しているスリランカにとって、外貨の枯渇は輸入の断絶を意味する。
スリランカの財政危機を懸念した国際的な格付け機関は、2021年に同国の格付けを引き下げた。これにより、スリランカは海外の資本市場にアクセスすることが事実上できなくなっていた。
2022年4月18日には、2023年と2028年に満期を迎える12億5,000万ドル(約1,630億5,075万円)の国債利払いが期限どおりに実施されなかったことを受け、米信用格付け大手S&Pが同国の長期外貨建て債務格付けを「選択的債務不履行(SD)」に引き下げた。
世界銀行とインドが緊急融資合意
エコノミックタイムズ紙によると、スリランカ財務省は4月15日に発表した声明の中で、デフォルトの決断は自国の財政状態のさらなる悪化を防ぐための「最終手段」であり、外国政府を含む債権者は発表当日以降の利払いを資産計上するか、あるいはスリランカルピーでの返済を選択できると述べたという。
また、当面のデフォルトはIMF(国際通貨基金)が支援する南アジアの国の復興計画に先立ち、「すべての債権者の公正で公平な扱い」を確保するためだと強調した。同国は現在、必需品輸入のために総額30億ドル(約3,915億1,326万円)の緊急融資を求めている。
4月末までに世界銀行が6億ドル(約783億 800万円)、インドが19億ドル(約2,479億5,704万円)の融資に合意した。インドはさらに15億ドル(約1,957億3,846万円)の追加融資を行う可能性があるという。IMFにも救済措置を要請しているが、IMFは融資の条件として金利と税金の引き上げを前提としており、それが生活費危機に拍車をかけるリスクに懸念を示している。
中国反撃「債務のワナは西側のでっち上げ」
スリランカの経済危機を巡り、批判の矢面に立たされているのは中国である。
中国は一帯一路の参加国であるスリランカに総額110億ドル(約1兆4,353億円)を融資している。主な貸し手は中国企業だ。
一帯一路で債務が膨張した他の発展途上国同様、スリランカは中国から融資を受けて港や空港、道路網などのインフラを整備したものの、期待したほどの利益を得ることなく借金だけが雪だるま式に増えた。
苦肉の策として、2017年にはインド洋のハンバントタ港を2120年まで中国にリースすることに合意した。この港は現在、スリランカ港湾局と中国の招商局港口ホールディングス(CMPH)が共同運営しているが、実質上の運営権を握っているのは港の80%の株式を保有しているCMPHだ。
中国側が主張しているように、確かにスリランカの経済悪化は一帯一路の失敗だけが原因ではない。しかし「経済基盤の弱い国に巨額の借金を背負わせ、返済できなければ覇権を握る」という狡猾な戦略に対する国際批判は日に日に高まっている。
これに対してスリランカの中国大使であるチー・ジェンホン氏は、「西側が批判している“債務のワナ”はでっち上げであり、一部の海外メディアや政治家によって意図的にねつ造され、誇張されている」「中国はスリランカへの最大の貸し手でも唯一の貸し手でもなく、一帯一路プロジェクトは譲許的な条件下で提供されている」とTwitterで反発した。
「西洋の先進国、特に歴史上スリランカを植民地化した国も救済の手を差し伸べるべきだ」と皮肉った。
スリランカはさらに深みにはまるのか?
中国は昨年、スリランカルピーを人民元と交換することでスリランカの外貨準備を増強することに同意した。
現在はより具体的な債務再編の方法について協議を進めているが、スリランカ政府いわく中国側は難色を示しているようで、代替案として追加融資を検討しているという。現実となればスリランカはさらに深く「債務のワナ」にはまりこむこととなるだろう。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)