動き出した岸田首相の「新しい資本主義」 四半期報告書の廃止がいよいよ実現へ?
(画像=takasu/stock.adobe.com)

上場企業には四半期ごとに2種類の決算書類の開示が義務付けられている。「四半期報告書」と「決算短信」だ。このうち、四半期報告書が廃止される流れとなっている。このような動きの背景には岸田首相の意向がある。詳しく説明していこう。

岸田首相の目玉政策「四半期開示の見直し」

岸田首相は首相就任時、目玉政策のひとつとして上場企業の「四半期開示の見直し」を掲げた。冒頭触れたように、現在は四半期ごとに四半期報告書と決算短信を開示することが義務付けられているが、この制度を見直そうというものだ。

見直しの理由とされているのが、四半期ごとに決算書類を公開することにより、経営者も投資家も短期志向に傾いてしまう、という点である。企業の成長には長期的な目線が欠かせない。そのため政府内では、四半期報告書と決算短信の両方を廃止する案などが検討されていた。

しかし、四半期報告書と決算短信の両方を廃止するのは、世界的な流れと若干逆行する。フランスなど四半期開示の法的義務がすでに廃止されている国もあるが、世界全体では四半期開示を上場企業に対して求めている国のほうが主流であると言える。

金融庁は、岸田政権の意向を受けて四半期開示について作業部会で議論をしてきたが、最終的には「四半期報告書は廃止」「決算短信は維持」とし、その上で決算短信の内容を充実させる方向で決着した。

そもそも「四半期報告書」と「決算短信」とは?

上場企業の四半期報告書と決算短信を読んだことがない人は、ここまでの説明を聞いてもややイメージが湧きにくいかもしれない。そこでもう少しこの2つの書類について説明を加えておこう。

決算短信は四半期報告書の「速報版」

決算短信は四半期報告書の「速報版」と考えていただけると、理解が進みやすいかと思う。決算短信の提出期限は、決算後「30~45日以内」、四半期報告の提出期限は「45日以内」で、厳密に言えば同時に開示してもいいが、基本的には決算短信のほうが早く開示される。

決算短信には「監査報告書」が含まれていない

決算短信は速報という側面もあるため、四半期報告書よりも記載されている内容が少ない。たとえば「監査報告書」は四半期報告書に含まれているが、決算短信には含まれていない。

トヨタ自動車の四半期報告書と決算短信を見てみる

ここで、具体的に上場企業の四半期報告書と決算短信を見てみよう。両方とも上場企業のIRページ(投資家向け情報ページ)で公開されている。たとえば、日本で時価総額が最も大きいトヨタ自動車の場合、最新の四半期報告書と決算短信は以下のURLから閲覧できる。

▼2021年12月第3四半期の四半期報告書
https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/library/securities-report/archives/archives_2021_12.pdf
▼2021年12月第3四半期の決算短信
https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2022_3q_summary_jp.pdf

実際にそれぞれを開いて比べると分かると思うが、四半期報告書は表紙を含めて42ページ、決算短信は表紙を含めて15ページと、ボリュームにかなり差がある。先ほど触れた通り、決算短信は速報的な位置付けとなっており、記載されている内容が少ないからだ。

ちなみに、具体的に内容を比較すると、売上高や営業利益などの経営指標・業績予想などは両方に掲載されている。しかし、四半期報告書には株式に関する詳しい内容が掲載されているものの、決算短信にはこれらの情報が含まれていない。そして前述の通り、監査報告書も付いていない。

トヨタ自動車の2021年12月第3四半期の場合、四半期報告書は2022年2月14日に提出されているが、決算短信はそれより5日早い2月9日に開示されている。なお、決算の内容をサマリー的に知りたいのであれば、情報量が抑えられている決算短信のほうがおすすめだ。

決算発表に関する企業の負担が減る

上場企業にとって四半期、つまり3ヵ月ごとに四半期報告書と決算短信の両方を作成するのは、負担が大きかった。このうち四半期報告書が廃止されることで、上場企業の四半期開示に関する負担は減ることになる。

報道などによると2022年に決算短信の内容の充実化について方向性をまとめ、2023年の通常国会でルールの変更に向けた法律の改正案が成立すれば、2024年には廃止となると予想されている。

岸田首相は、決算発表の常識を変えようとしている。首相交代、もしくは政権交代などが起きれば、現在のこの方針が立ち消えになる可能性もあるが、現時点では四半期報告書が廃止されることは濃厚と言えるだろう。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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