仕事を楽しめる人は「忙しい」と言わない
古川 裕倫(ふるかわ・ひろのり)
1954年、大阪府生まれ。早稲田大学商学部卒業後、三井物産に23年間勤務。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間の海外勤務を経験。00年、ホリプロ取締役執行役員。07年、(株)リンクステーション代表取締役副社長を経て、現在は一般社団法人彩志義塾代表理事、情報技術開発株式会社社外取締役、企業風土改革コンサルタント。ビジネス書の執筆、講演、研修活動を行い、「世田谷ビジネス塾」、「女性社員のための立志塾」を主宰する。著書に『他社から引き抜かれる社員になれ』(ファーストプレス)、『できる人はすぐ決める!』(大和書房)、『コーチング以前の上司の常識 「教え方」の教科書』(すばる舎)、『女性を活用できる上司になれ』『女性が職場でかしこくふるまう技術』(ともに扶桑社)、『あたりまえだけどなかなかできない51歳からのルール』(明日香出版社)、『バカ上司の取扱説明書』(SB新書)など多数。

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忙しいと言わない

ここまで次のような長期的な考え方を説明してきました。

○自分の人生のゴールを考えてみること。
○いい人生を効率的に送るためには、高い志を持つこと。
○信用構築には時間がかかること。
○自分への投資として時間がかかってもやるべきこと。
○思っているだけでは時間の無駄であり、行動しないと始まらないこと。
○企業的理念や計画性を個人に当てはめてみること。
○人脈作りには時間がかかるが、それは人生にとって大切なこと。

ここからは、短期的な時間術のスキルについて触れてみたいと思います。多くの時間術の本は、主にこれについて語っています。

私は、仕事ができる人をたくさん見てきましたが、そういう人は「忙しい、忙しい」とは言いません。むしろ、できない人のほうが忙しいと言う傾向があると思います。

忙しいという言葉を使うのは、私はおすすめしません。

「心を亡くす」と書いて「忙しい」ですから、幸せも運も遠ざかっていきます。

忙しいというのは、以下のどれかです。

1、自分ができる人だと勘違いしているのか、忙しいということを他人に誇っている。
2、忙しいという言葉で、ほかの仕事を受け入れたくないという意思表示をしている。
3、将来何かが起きたときの予防的言い訳。「忙しかったから〜できなかった」

ヒルティは、『幸福論』の中で「時間を得る法」という項目をあげて説明しています。

「時間がないというのは正式にきまっていない義務や仕事からのがれようとするとき、最も普通に用いる便利な口実であり、また事実上、実にもっともらしさのある言い分である」

またこうも言っています。

「なぜ自分が終日忙しいのか、全く知らない人が非常に多い。また家にはどんな大きな仕事が彼らを待っているかのように、忙しく街路を急ぎ、電車の中や劇場で人を押しのける閑人達も中々少なくない。彼等はまさしく全般の流れに従うのである。人は実際しばしば、時は地上で最も高価な容易に得がたいものだと信じなければならぬようである。(中略)そのための第一の要件は慥かに、一般の潮流から無意思のまま押し流されることなく、むしろこれに抵抗して、自由の人として生活せんとする決心であって、仕事にもせよ享楽にもせよ、決してそれらの奴隷となってはならないのである」

つまり、仕事にも遊びにも自分が流されてはいけないのです。無駄な残業をやめること。テレビをかけっぱなしないこと。流行に時間を取られすぎないことなどです。

「忙しい、忙しい」を連発している人は、気の毒な人だと思います。

忙しい人には余計なことは言わないほうがいい、とこちらは思います。それが相手にとってなにがしか役に立つ情報であっても。

多くの人からインプットを受けることもなく、貴重な情報もこなくなります。よい知らせや機会にも恵まれません。これこそ、運気をなくす言葉だと思います。

一度手に取った書類をどうしているか

仕事に忙殺される人はやらないことを決めるといい机の上にある書類をちらっと読んではみたが、「どうしようかなあ」と思って、また元の位置に置いてしまうことはありませんか。打ち合わせから戻ってきて、また同じ書類を読んでみるが、どうするか決めないで、客先に行くため外出してしまう。戻ってきたら、また同じ書類を手に取っている。

これは超短期的な時間の無駄ですが、誰にもよくあることです。もちろん私自身も何度も経験したことです。

読んで捨てる、回覧する、返事をする、ファイルするなどどれかの行動に移せば、何度も同じ書類を見る必要はありません。

実はこういう時間の無駄も馬鹿にできないのです。

同じデータを何度もプリントアウトしていたり、ファイルに同じ書類がたくさん入っていたりしませんか。

ファイルを探しても大切な書類だけが見当たらない。ファイルする前にやることがあるので、別のところに取っておくのですが、それがどこにあるかわからない。そんな経験もしたことがあるでしょう。

英語に「organize」という言葉があります。

書類が出てこない自分は、「I am not organized.」であり、身の回りの整理やスケジュール管理ができていない人は、「He is not organized.」です。「仕組み化する」というのが一番近い和訳であると思います。

「仕組み化する」というのは、こういう場合はこうするとあらかじめ決めておくことです。

この例で言えば、一度書類を見たら書類の右上に自分のイニシャル書き込んで「すでに見たぞ」と明確にして、さっさと決めることを自分に催促することが解決策であり、一つの仕組みです。決められないなら、日時を書いて手元の「未決」のファイルに入れ、たとえば毎日退社前に未決ファイルにある書類の対処を考えるのも一つの仕組みです。

これから述べる短期的時間術は、ほとんどが自分で仕組み化できることです。逆に言えば、「organize」できていない人は、自分に対する仕組みができていないのです。

私の嫌いな時間の無駄遣い

私自身が嫌いな時間の無駄遣いは、3つあります。自分の経験でもあり、反省でもあります。

「ものを探す時間」、「忘れ物を取りに帰る時間」、「言った、言わないでもめる時間」です。ものを探す時間の代表選手は、会社の書類です。

普段の書類は、あるべきところに(たとえばファイルに)あるのですが、とても重要なものは自分の書類箱に入れていたりして、肝心なときに探さなければならない。書類整理については先の項でも述べましたが、これは、情報を一つの場所に集めていないということが原因です。

2番目の、忘れ物はあまりしなくなりました。

鞄の中に、小さな整理バッグを入れていて、ここにはこれ3つ(名刺入れ、鍵、定期入れ)、ここにはあれ3つ(手帳、ネタ帳、カードの束)というように決めることにしたからです。前項で述べた、仕組み化です。

「言った、言わない」でもめる時間をなくすには、「言った、言わない」とならないように、社内外を問わずにメモやメールで確認をすることです。仕事の信頼性を上げることにもつながります。自分の信用にもかかわります。打ち合わせや会議で物事をあいまいにしないこと。

誤解を解くには大変な労力と時間を要します。確認することは、面倒くさいように思われますが、急がば回れです。

私にとってこの3つが最大の時間の無駄と思っていましたが、悲しいかな最近とっておきの無駄によく遭遇します。

「探しているものを忘れる」という最上級の無駄です。

自分の書斎で必要な本を探しているうちに、ほかの本が気になり、何を探しているか忘れてしまう。ネットで探しものをしていて、まさにネットサーフィンにはまってしまって、本来の探しものがなんであるか忘れてしまいます。寂しい限りです。