前回に続き、Gilad Cohen駐日イスラエル大使の取材をお届けする。前半はこちら。

ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使
(画像=ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使)

日イ国交樹立70周年記念における活動

―――今年は日イ国交70周年という記念すべき年で、いろいろなイベント等も考えておられるかと思います。具体的にお聞かせいただける計画はありますか?

“はい、政府高官の相互訪問、戦略的パートナーシップの合意、文化的イベントの開催など、多くのことを考えており、イスラエルと日本がお互いに多くのアイデアを出し合い、この70周年を共に祝うことが出来ると考えています。ただ、新型コロナウイルスの影響で計画すること自体が難しくなっています。例えば、来月この大使公邸で開催しようと計画していたイベントは、残念ながらキャンセルとなりました。なので、現時点で具体的な情報を提供することはできませんが、私自身は70周年記念の一環として東京マラソンに参加する予定です。のびのびになってきた直行便も9月には実現できることを期待していますが、日本は今国境を閉鎖しているので、これも状況次第です。ワクチン接種済の外国人はイスラエルへの入国が出来るので、日本帰国時の待機期間が短くなれば、ビジネスだけではなく、多くの人が観光でイスラエルに来て、イスラエルがどんなところかを見てもらえるのではないかと期待しています。イスラエルは開かれた国であり、考古学の国でもあります。北部の山では雪が降り、南のネゲブには砂漠があります。ビーチも、山も、宗教の聖地も、ゲイのパレードも、あらゆるものがあるのがイスラエルなのです。

ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使
(画像=ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使)

テルアビブは東京のように活気のある都市で、自由や幸福を感じることができる場所です。世界幸福度ランキングという指標(国連の定めたランキング)があるのですが、2020年イスラエルは12位でした(参考までに日本は56位)。なので、多くの日本人が抱いている”イスラエルは紛争の国”というイメージではなく、イスラエルは安全でオープンな国であるという認識を日本人が持つように変えていきたいと思っています。イスラエル人は日本へ旅行したいので、毎週私のところに「いつ行けるようになるか?」という電話が来ているのです。”

途中から、バラク・シャイン一等書記官も同席し、詳細は話せないが、多様な分野で協力をするための多くのagreementsを両国政府で検討していることをコメントしてくれた。また、文化イベントについても、まだ日本では知られていないパフォーマンスを連れてくる考えもあることを話してくれた。新型コロナウイルスという障害を乗り越えて、なんとか多くの計画を実現してもらいたい。

バラク・シャイン一等書記官
(画像=バラク・シャイン一等書記官)

―――以前、”ヤング・リーダーシップ・プログラム”というような名前で、日本人の若手をイスラエルに招待し、イスラエルの現実を見て理解してもらうプログラムが有ったように記憶します。とても良い施策だと思っていたのですが、あのようなプログラムを再開することはないのでしょうか?

“とても重要なプログラムであり、今年再開しようと考えています。イスラエルでは、多くの省庁が70周年を記念して、日本との友好関係を深めるために予算配分を見直しています。その一部がこのプログラムに行くでしょう。将来の日本のリーダーにイスラエルを見てもらうことは重要であり、政治、経済だけではなく、スポーツや文化など、あらゆる分野の人々を招待します。今年1年だけではなく、向こう3年のプログラムになるでしょう。私の日本での仕事のなかでも重要なものの一つです。”

ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使
(画像=ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使)

日本の大手メディアでは、イスラエルについて偏った見方で語られることが多い現実について述べると、大使は民主主義の重要性、テロリズムを許容しないことの重要性を語り、イスラエルは常に平和を求めていること、一方で、テロから自分自身を守る権利もあることを熱く說明してくれた。そして、日本人に是非公平な目で物事を見てほしい、イスラエルへの偏見を無くすことが自分の仕事の一つである、という点を繰り返し強調された。

コロナ禍に見るイスラエルとは

―――丁度1年前にイスラエルは世界で初めて新型コロナウイルスのワクチン接種を開始し、イスラエルのことをあまり知らない日本人にも「世界最速ワクチン接種の国」として有名になりました。未知のワクチンを接種する、という意思決定が出来た背景は?

“1年前だけではなく、3度目のブースター接種を始めたのもイスラエルが世界で初めてであり、かつ、4度目のブースター接種に取り組んだのも、5歳から11歳という子供への接種を開始したのも世界初です。多くの人が「怖くないのか?」「どうしてそんな意思決定ができるのか?」と聞いてきます。それは、イスラエル人がリスクを恐れないからなのです。私達は失敗の可能性も“オプション”として受け入れています。失敗する、ということは本当のソリューションを得るために別のやりかたが見つかる、ということだと理解しているからです。新型コロナウイルス対応については、我々は先陣を切った挑戦のあらゆるデータを公開するので、世界の人々はイスラエルをラボと考え、私達からその結果を学ぶことが出来ます。私達は、私達が世界のラボであり、世界に貢献できることに誇りを持っているのです。

イスラエルには、各コミュニティに病院(保健所)があり、そこを拠点に薬を届けることができます。人々は遠くの病院に行く必要もありません。デジタルインフラも整備されていて、あらゆる機関がつながっているのも、最速ワクチン接種を実現した要因の一つです。同時に個人情報を保護する仕組みも出来ており、例えば医師が患者の病歴等を閲覧するには本人の同意を必要とします。日本では電子カルテが共有化されていませんが、セキュリティ対策をどうすれば良いか、もイスラエルは日本に教えることができるでしょう。

新型コロナウイルスの問題については、イスラエルと日本の専門家同士でZoom会議をしていると聞いています。イスラエルから日本に提供できることはたくさんありますし、私達も日本から学ぶことがたくさんあります。お互いに相補的に学びあえると考えます。例えば、新型コロナウイルス対策では、イスラエルは一時期社会、経済を完全にシャットダウンしました。其の結果経済に悪影響を与えました。学校も閉鎖し、子どもたちにも影響を与えました。日本は地域毎や部分的な制限で対応しており、学ぶところが大いにあります。これも両国がお互いに学びあえるという相補性の一つではないでしょうか。”

ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使
(画像=ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使)

―――外交の基本は人と人との交流ですが、今新型コロナウイルスが大きな障害となっています。この障害をどのように乗り越えていくお考えですか?

“まずは、直行便を実現したいと考えます。それにより、行き来が容易になり、政府が手を貸さなくても人々がお互いを理解し、ビジネスも進むでしょう。また、先に示したヤング・リーダーシップ・プログラムの再開にも努力します。日本は現在水際対策として入国に査証を求めていますが、これも早く不要になることを期待します。イスラエル入国には既に査証は必要ありません。

また、2011年以来、イスラエルは東北を支援しており、東北のスタートアップを支援したり、海水に汚染された農地を復旧させるために点滴灌漑システムを提供したりしてきました。スタートアップ支援では、8200部隊の同窓生や、MITエンタープライズフォーラムイスラエル支部が、東北のスタートアップに対してオンラインでメンタリングを提供しています。また、南三陸とイスラエルとでそれぞれ音楽のアルバムを作成し、組み合わせて一つのフィルムにするような試みもあります。物理的な交流は難しくても、リモートで出来ることもあり、逆にオンラインであることで、より多くの人が参加出来るようにもなりました。こういった協力ができることを誇らしく思っています。

私が日本で大使という仕事ができることは、国としてのミッションであると同時に、私自身のライフワークでもあるのです。”

ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使
(画像=ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使)

―――最後にプライベートな質問をしたいのですが、着任後5ケ月の間に大使は既に日本のあちこちを訪問されているようですが、今後、どこに行きたいとか、誰と会いたいというようなお考えはありますか?

“あらゆるところに行きたいです。FacebookやTwitterで発信していますが、既に、京都、大阪、仙台、など多くの都市を訪問しました。沖縄にも行きたいし、北海道でスキーもしたいと思います。日本は本当に魅力あふれる美しい国なので、出来る限り全ての地方を訪問するだけではなく、その文化や江戸時代の建築なども楽しみたいと思っています。家族は今イスラエルにいますが、娘は日本に来るのを楽しみにしています。”

ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使
(画像=ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使)

取材を終えて

「駐日大使という仕事は自分のライフワークである」という大使の言葉は強く印象に残った。二国間の外交という表舞台ももちろん重要だが、東日本大震災の復興支援の中で、“若い人が地元で働けるような産業を興したいという”声を聞いて、東北の農業やスタートアップを遠いイスラエルから支援してくれている、という草の根レベルの取り組みがあることも日本にとっては大変心強いことであり、このような協力があることを我々ももっと知るべきだろう。

多くの人が言う、イスラエルは0→1が得意で、日本は1→10が得意、というような観念的な議論ではなく、例えば新型コロナウイルス対応でも“厳しいロックダウン”と“マイルドな制限”という異なるアプローチを取ったイスラエルと日本とはお互いに良い点悪い点を学びあえるComplementaryな関係である、という大使の認識は、地に足のついた心強いものだ。イスラエルは世界のラボである、という発言も、リスクを取る能力と結果を出す力に自信があるからこその言葉であり、我々は大いに彼らのデータを学び、使わせてもらえるだろう。同時に我々日本人もイスラエルを正しく理解して偏見を無くし、経済だけではなく人と人のレベルでの交流を一層盛んにするように努力すべきではないだろうか。早く新型コロナウイルスの影響が収まり、人の動きも盛んになって、大使の思い描いている70周年記念行事を始めとする多くのイベントが出来るようになることを期待したい。