社員の定着率が悪くなれば、人材の確保や教育、既存社員の負荷増加など、さまざまな懸念事項が生じる。定着率が低い要因を早めに明確化して、抜本的な対策を講じなければならない。本記事では、定着率の定義や目安、低い原因、離職防止のアイデアなどについて解説する。
目次
社員の定着率とは?
人材不足が叫ばれる中、重要な人材を少しでも長く雇用することは必須課題である。ここでは定着率の定義や離職率との違い、目安となる推移などについて解説する。
定着率の定義
定着率とは、一定期間に入社した人数に対して退職しなかった従業員の割合だ。
たとえば、2年間(2019年から2021年)に入社した社員が100人だったとしよう。2021年に30人が退職した場合は、2年間の定着率は以下の通りだ。
定着率(2年間)
=(入社人数100人―退職者数30人)/入社人数100人×100
=70%
定着率の算出期間は自由に設定できる。他社の定着率を参考にするときは、期間にも着目しなければならない。
社員の定着率と離職率の違い
定着率と離職率は、データが一緒に公開されることが多く、混同してしまうことも少なくない。
離職率は、一定期間に入社した人数に対して退職した従業員の割合だ。同じ期間設定で離職率と定着率を足すと100%になる。
たとえば、2年間の定着率が70%であれば、離職率は以下の通り算出される。
離職率(2年間)
=100%―70%
=30%
期間設定しだいでは、意図的に離職率を低くしたり定着率を高くしたりできる。会社の信頼性を守るためには、算出期間をしっかりと明記しなければならない。
社員の定着率と離職率の目安となる推移
日本企業における若手社員の離職率や定着率は、厚生労働省のホームページから確認できる。大卒新入社員(2008年〜2018年)の離職率と3年定着率は以下の通りだ。
2008年からの結果を見ると、大卒社員の離職率は12%前後、3年定着率は70%前後で推移している。ちなみに、高校卒業者と中学卒業者の3年定着率については、60%前後と30〜40%前後だった。
社員がすぐに辞めてしまうのは人間関係に問題あり?
社員の定着率が低いことは、離職率が高いことでもある。なぜ社員は会社を辞めてしまうのだろうか。
厚生労働省の「令和2年雇用動向調査結果の概要」で公開されている転職入職者の前職離職理由のデータを抜粋して、男女の平均値をグラフ化してみた。
年齢は39歳までとし、離職理由を定着率の悪化に関連の深い上位6つに限定している。引き続き、上記のデータを参考に定着率が低くなる5つの原因について解説する。
原因1.人間関係が悪い
職場の人間関係を理由とした離職はほぼ全年齢で上位である。特に19歳以下の女性では、19.7%と非常に高い結果であった。会社にはさまざまな組織があり、複数の社員と働くうえでは人間関係は避けられない。
性格や仕事の進め方が合わないなど、解決が難しいトラブルもある。しかし、社員任せにせず会社側も配慮しなければならない。
原因2.残業や休日出勤が多い
10代〜20代前半の若手社員の離職理由では、労働条件の悪さがトップレベルとなっている。働き方改革によって時間外労働の規制は厳格化されているが、残業や休日出勤のあり方に不満を持っている社員が多いようだ。
原因3.給与待遇が悪い
20代〜30代に着目すると、給料や賞与などが少ないことも、定着率悪化の要因になっている。ある程度仕事を任される年齢になっても、働きぶりが給与に正しく反映されていない可能性が高い。
原因4.能力や興味と仕事があわない
担当業務と能力にギャップがあったり、指示に従うだけの働き方だったりすると、社員はストレスを感じやすい。
また、興味を持っている業務に今後携われる可能性が低いなど、キャリア構築に制限を感じる職場だと定着率が悪化しやすくなる。
原因5.会社の将来に不安がある
会社や業界の実情がわかってくる年齢層になると、会社の将来性は働くうえで不安要素になる。自社の経営状況や中期経営計画の共有などが重要だ。
定着率の悪化がもたらすデメリット3つ
定着率の悪化を放置するとどうなるのだろうか。ここからは定着率の悪化がもたらすデメリットを確認していく。
デメリット1.コストが増加する
定着率が悪ければ、費用をかけて新しい人材を採用しなければならない。また、新入社員が離職した社員の穴を埋めるには教育の時間もかかる。
新入社員へのOJTなどで、既存社員への負担まで増えれば、さらにコストは高くなるだろう。
デメリット2.労働生産性が低下する
社員の定着率が悪くなれば、既存社員への業務負荷は飛躍的に高まる。
離職した社員の分の業務を補うのはもちろん、新入社員のサポートなどで本来自分がやるべき仕事に集中しづらくなる。最終的に労働生産性が下がってしまうだろう。
デメリット3.会社のイメージが悪くなる
定着率の悪化によって職場の負荷が増えれば、不満のなかった社員まで退職しかねない。
就職・転職情報誌などに定着率の低さが直接掲載されなくても、SNSや各種掲示板などで悪い噂が拡がり、会社のイメージ低下も懸念される。
社員の定着率を改善するリテンションマネジメント
経営者にとって社員の定着は必須課題であり、リテンションマネジメントが欠かせない。
リテンション(retention)とは、日本語で保持、保留、引き留めなどの意味を持ち、組織経営の現場では離職防止という意味で使われている。
会社にとっては、業績向上に深く関わる社員の流出は絶対に避けるべきことであり、人的資源の流出を防止する施策はリテンションマネジメントと呼ばれる。
なお、リテンションマネジメントで定着率の向上を目指す各社の取り組みについては、厚生労働省の「若者が定着する職場づくり取り組み事例集」を参考にするとよいだろう。
社員の定着率を高めるリテンションマネジメントのアイデア5つ
リテンションマネジメントは、人間関係のトラブルや労働環境の悪さなど、社員の定着率を悪化させる原因を意識した取り組みでなければならない。ここでは、リテンションマネジメントの具体的なアイデアを5つ紹介する。
アイデア1.意思疎通の円滑化
人間関係の問題解決には、社員が円滑にコミュニケーションでき、悩みを相談しやすい環境が欠かせない。
具体策の例は以下の通りだ。
・定期的に社内イベントを行う
・すぐに1on1でミーティングできるミニブースを作る
テレワークによって直接的なコミュニケーションが難しい職場では、社内SNSやチャットツールなどのビジネスICTツールを導入するとよいだろう。
アイデア2.人事評価などの制度整備
人事評価制度が曖昧な会社では、自分の働きぶりが正しく評価されず、働く目的を見失う社員も少なくない。昇進・昇給に関わる人事考課を明確化して社員に共有することが重要だ。
社員の中には、将来的なキャリア構築に不安を持つ者もいる。定期的なジョブローテーションの仕組みなどを導入し、キャリア設計を支援しつつ成長を促す人事制度を整備したい。
アイデア3.給与待遇や福利厚生の見直し
給与待遇の向上は、社員のモチベーションアップにも欠かせない。しかし、業績に直接関係する要素であるため、難しい一面もあるだろう。
給与アップが難しい場合は、住宅手当の拡充やカフェテリアプランの導入など、福利厚生を充実させて補うとよい。
アイデア4.採用前の情報共有
新入社員は、会社にさまざまな期待を寄せる。しかし、現場で理想と異なる現実に直面すると、会社への信頼感を失って退職してしまう可能性が高い。
求人票や面接の場などでは、想定される配属先や職場環境、給与待遇などについて、開示できる範囲で説明しておきたい。
アイデア5.社員のスキルアップ支援
定着率を高めるには、社員の成長意欲を満たし、スキルに対する不安を払拭しなければならない。
計画的なOJTやOFF-JTで社員をスキルアップさせれば、会社の業績向上にもつながる。自己成長に意欲的な社員であれば、自己啓発の支援でも満足度は高まるだろう。
社員の定着率が悪化する要因を分析! マネジメントも見直そう
少子高齢化で価値観が多様化した日本では、雇用の流動性も高まり優秀な人材の確保が難しくなっている。そのような状況下では、社員の定着率を向上させることが必要不可欠だ。
定着率が低下する要因には、時代の変化だけでなく、自社特有の問題もありえる。離職を招く特別な原因がないか、定期的に社員からヒアリングしたほうがよい。
そのほか、すでに実践しているリテンションマネジメントも定期的に効果検証してほしい。必要に応じて見直し、社員の定着率を高めていこう。
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文・隈本稔(キャリアコンサルタント)