恒田氏
(画像=恒田氏)

MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、合宿型勉強会「あすか会議」の場で年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞者の一覧はこちら)。今回は2021年「創造部門」の受賞者であるフォースタートアップス株式会社 常務取締役 タレントエージェンシー本部長の恒田 有希子氏にインタビュー。後編では、「やりたいことがない」悩みに苦しんだ彼女が現職であるフォースタートアップスで見つけた自らの「やりたいこと」、そしてリーダーとして「志」が育つまでを振り返っていただいた。(前後編、後編。前編はこちら)(聞き手=山岸園子、文=山臺尚子)

メンバーに夢を見せられるリーダーとして

山岸:ここまで、グロービス経営大学院での学びや、前職であるメタップスで得た気づきなどをお話しいただきました。そういったご経験を経て、フォースタートアップスに転職されたわけですね。選択の決め手は何だったのでしょうか。

恒田:私は、1社目でもメタップスでも上場を経験しましたが、上場を目指す企業には、「今すぐ、何があっても、絶対に急成長させないといけない」という、無理にでもチャレンジをしないといけない環境があります。それが私にとって魅力的でした。だから次もIPOを狙っている会社に行こうと思いました。

ちょうどその頃、フォースタートアップス(当時ネットジンザイバンク)の代表である志水雄一郎に出会い、志水に「急成長する企業を紹介してください」と言うと「うちだよ」と言われました(笑)。

いわゆる人材紹介は、「どんなスキルを持った人が何人欲しいか」を人事担当者と相談しますが、弊社が取り組むスタートアップ企業の人材採用は、CEOの経営課題を起点としています。経営者の悩みを聞き、どうありたいのかなどビジョンを議論し、そこをクリアにしてから「人」というソリューションで解決する。経営・戦略コンサルタントのように課題を解決するのが私たちの仕事です。

私は自分で起業してみようと思ったことはありませんが「社会問題を解決したい」と起業をし、変化の激しい環境でチャレンジを続けるスタートアップの起業家たちをリスペクトしています。フォースタートアップスでは、毎日そんな起業家に会うことができます。経営者だからこそ語れる夢、ビジョン、ミッションがあると思うのですが、それらを直接伺いながら、経営を支援できる。毎日尊敬できる人たちと共に仕事をすることができて、とても充実しています。

1社目と2社目は尊敬できるトップのために働きたいと思っていましたが、3社目にして、スタートアップマーケットそのもののために、そして、誰かのためではなく自分でやりたいことのために働きたいと思い入社を決めました。

山岸:やりたいことがないと苦しんでいたところから、やりたいことが見つかったわけですね。

恒田:そうですね。はじめの私と同じ様にそもそもやりたいことがないことに苦しんでいる人は、まず「どうやってやるか」「誰とやるか」などで仕事を選んでもいいのではないかと思います。私は誰かのやりたいことを叶えてあげたい、といったところから始めて、今は自身の「何をやりたい」「どうなりたい」と、加えてメンバーの「何をやりたい」「どうなりたい」をどうするかといった観点まで考えられるようになりました。

山岸:ご自身も常務取締役と本部長を兼任し、自社の経営にリーダーとして携わり、後進の育成をされています。

恒田:自分の時間の3割くらいでプレイヤーとして動き、残りは3年後の組織の姿を想像しつつ、後進の育成に取り組んでいます。

今は、部下が上司を選び、働く人が会社を選ぶ時代です。「なぜやるのか」「ここにいたらどうなれるのか」という夢を見せられないリーダーには人はついてきません。しかも弊社で働くと、毎日、日本を代表するような起業家の語りを聞くことになります。つい隣の芝生が青く見えてくるような環境だと思うのですが、残る意味を感じてもらわねばならない。だからこそメンバーには、フォースタートアップスで人生の数年間を懸けた先に見える景色を明確に伝えないといけないと思っています。

そのためには、私も社長と同じ責任感で、「日本一、人が育つ会社にしよう」、「こういうコーポレートにしよう」、「こういうR&Dの仕方をしよう」と考えながら、今、どういう仕事が必要で、どう作っていくか、それをどうやって渡していくか、を構想しています。

山岸:ご活躍の幅は社内のみならず、社外にも広がっていますね。昨年は経済同友会にも入会されました。

恒田:経済同友会への入会は、グロービス(経営大学院研究科長)の田久保さんがチャンスをくださいました。私は未知の環境で成長し続けられる、いわば「1年生」でいられる場所を探していたのです。経済同友会では37歳の女性である私が下から数えて4番目であることには驚きましたが、スタートアップ経営陣がほとんどいない同友会は未知だらけで、成長にはうってつけのコミュニティでした。

個人の信頼で指名されるビジネスパーソンになることが、誰をも何者かにする

恒田氏
(画像=恒田氏)

山岸:お話を伺っていて、スマートフォンなど成長産業への興味というところから、自社の経営や後進育成、そしてスタートアップ業界や市場全体をよくしていきたい、と「志」が育っていったように感じました。

恒田:それは、フォースタートアップスという会社が「AI領域で日本のスタートアップを勝たせる」「日本の未来を良くしていきたい」といったスケールの大きい夢やそれぞれの行動を、毎日互いに語り、共感しあうことが出来る環境であることも大きいかもしれません。日本のために行動しなければならないと全員が本気で思っています。

具体的には今後は、人材と資金で成長産業を支援していく弊社の「ハイブリッドキャピタル」の展開を通じて、顧客の企業価値、日本のスタートアップ市場全体の価値を上げていくことにコミットしていきます。顧客や日本市場の価値が向上すれば、それに貢献する弊社も国際競争力のある企業へと成長し、弊社の一人当たりの生産性を、例えば生産性が高い戦略コンサルタントと同等レベルにまで押し上げることができるかもしれません。またこれにより、弊社では各人の年俸をしっかり上げることが可能となります。

同時に、人の価値は高いことを証明したうえで、スタートアップ支援をする私たち「ヒューマンキャピタリスト」という職業も憧れの職業にしていきたいと思っています。

山岸:最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。

恒田:フォースタートアップスの採用では、何をやりたいか以上に、自分の人生に対して責任を負う覚悟を持っているかという「ファイティングポーズ」を見ています。それは「自分のことを幸せにする責任は、自分自身にあることを自覚しているか」を見ている、ということです。

行動すれば見えてくることもあるのに、「こういう仕事はやりたくない」と言ってしまうような人は、たぶん幸せを見つけられない。最初から仕事を選り好みする人には、新しい仕事は与えられないし、相手との信頼貯金も貯まっていかないのです。

「誰もが何者かになる」のゴールは、きっと「個人の信頼で指名されるビジネスパーソンになること」です。将来、ロボティクスやAIで仕事の半分がなくなるような状況になったり、会社がなくなったりしても、“その人”にお願いしたい仕事はいつまでも残り続けると思います。ビジネスパーソンひとりひとりがファイティングポーズを取り続け、何者かになろうと本気で努力をすれば、日本の会社も市場も活性化し、より強固なものになる。そう固く信じています。

(執筆者:山臺 尚子 ゲスト:恒田 有希子、山岸 園子)GLOBIS知見録はこちら