中東の小国からスタートアップ国家へ、イスラエル激動の2010年代
(画像=中東の小国からスタートアップ国家へ、イスラエル激動の2010年代)

現在こそ「中東のシリコンバレー」といえばイスラエル、に異を唱える者はいないだろう。しかし、それはいつ頃からの話になるのか。当記事では、1960年代のハイテクエリア創成期から現代までの流れについてお話したい。

イスラエル
(画像=イスラエル)

イスラエルのハイテクエリアの誕生と黎明期

テルアビブからハイファの海岸沿い一帯を指す、イスラエルのハイテクエリア「シリコン・ワディ」は1960年代より形作られ始めた。1961年にECITelecomが設立され、1962年にはTadiranとElron Electronic Industriesがイスラエルの優良企業と認識される。ほぼ同時期の1964年、モトローラはイスラエルに研究開発ユニットを設立した最初の米国企業となり、当初は遠隔灌漑システム等のワイヤレス製品を、後にMC68030(32ビットマイクロプロセッサ)などの主要なチップを開発。1967年のフランスの武器禁輸により、国内の軍事産業の発展を余儀なくされたため、いくつかの軍事企業により軍事技術の民間アプリケーション開発が始まった。1970年代にはじまった商業的イノベーションの多くは軍事研究開発に基づいており、やがて市場の主導的勢力になった。しかし1990年代初頭までのシリコン・ワディの成長速度はゆっくりとしており、国際的に成功した企業は年間1〜2社にすぎなかったのだ。

90年代、有名ソフトが決定づけた世界的な知名度への大転換期

1990年代はイスラエルでハイテク産業が本格的に始動し、国際的なメディアからの注目を受けて、イスラエルがイノベーションに対する意識を高めはじめた時期である。加えて、ソビエト連邦からの新しい移民が即戦力となるハイテクワーカーを増加させ、成長が加速した。1993年のオスロ平和協定を含む和平協定は投資環境を拡大し、シリコン・ワディは注目に値するハイテクエリアへと発展し始めた。イノベーティブなスタートアップ企業の国際的な中心地としてのイメージが実際に広まり始めたのは1990年代後半からとなり、1996年のミラビリス社「ICQ」の大ヒットにより決定づけられた。そしてシリコン・ワディが最初に国際的な注目を得たのは、2000年にWIRED誌がシリコンバレーに次ぐハイテクエリアとランク付けしてからとなる。

ICQロゴ
(画像=ICQロゴ)

90年代の成功の鍵となった出来事

前述の通り、イスラエルのハイテク産業が成功へ至るまでには、80年代から90年代初頭のハードウェアからソフトウェアへの移行、1993年のオスロ合意、1989年から1999年の間のソビエト連邦からの大規模な移民の波が大きく関与した。そして決定打となったICQの大成功は、4人の若い無職のソフトウェアエンジニアによりもたらされ、更にそのうちの1人は、著名なベンチャーキャピタリストであるYossi Vardiの息子であるArik Vardiである。こうして1996年、インスタントメッセージング(IM)という発想が彼らによってもたらされた。リアルタイムなオンラインチャットという概念は、今日普及しているバイラルマーケティング戦術の先駆けでもあり、ICQはすぐに大成功した。

世紀を跨ぐドットコムブーム到来

ミラビリス社の成功により、ドットコムブームがイスラエルに到来した。1998年から2001年の間に数千のスタートアップが設立され、調達されたVCは1999年には18億5,100万ドル、2000年には37億100万ドルに達し、その間に50を超えるイスラエル企業がNASDAQ等の国際株式市場への上場を果たすこととなる。その後2000年9月に発生した第2次インティファーダや、米国経済の減速の影響によりイスラエル経済は停滞したが、2003年以降は自国通貨シェケルが対米ドル・レートにおいて低位安定したこと等を背景とした競争力の向上、またイラク戦争の終結によるビジネス環境の改善等により、ハイテク・IT分野を中心に輸出面が好調となり、2007年には建国以来初めて、4年連続5%超の経済成長を記録した。リーマンショックに端を発する世界経済減速の影響等により経済成長率は一時的に落ち込んだものの、2009年下半期には再度成長路線に復帰してからは毎年プラス成長に転換している。

スタートアップ・エコシステムの成熟

商都テルアビブ、エルサレム、ハイファの三都市間を結ぶ地域を囲んだ場所に集約されるテクノジーのホットスポットには、グローバル企業とスタートアップ企業の両方が密集している。近年のテクノロジー業界でトップに君臨するグーグルをはじめ、アップル、シスコ、インテル、マイクロソフト等の企業はその拠点を置くだけでなく、潤沢な資金を用意したベンチャーキャピタル機能をも持ち合わせており、イスラエルの「頭脳」を取り込むため優秀なスタートアップ企業への投資、買収を行っている。一方で買収されイグジット(Exit、売却・上場)に至った起業家が再度起業をしたり、支援する側に回ったりするという好循環が起こり、スタートアップエコシステムが成熟し、世界最先端技術を多数生み出し続けている。

intel
(画像=intel)

イノベーション創出地の現在データ

現在では約7,000社のハイテクスタートアップと、約400社のグローバル企業の研究開発拠点が集結しており、「イノベーション創出地」として世界的な認識を得ている。年間800社以上のスタートアップが生まれ、それらはグローバル企業によりが毎年100社以上が買収されており、国民一人当たりのベンチャーキャプ投資額、R&D投資額の対GDP比率、米国NASDAQ上場の米国以外の企業数、1万人あたりのエンジニア数、ノーベル科学3賞受賞者数においても世界で1、2を争う科学技術先進国となった。