あらゆる業種に対応し、商品やサービスをオンラインで公開するために必要なツールを提供、世界中で2億人以上のユーザーに選ばれているWix(ウィックス)。イスラエルで誕生したWixでは、常にイノベーションを生み出し、ホームページの可能性を追求し続けています。しかし、Wixがイノベーティブなのはプロダクトだけではなく、その社風も実にユニーク。そこで今回は、Wix日本法人で働く間島ゆかりさんに「イスラエル流働き方」の極意を伺いました。

インタビューに答えていただいた間島ゆかりさん
(画像=インタビューに答えていただいた間島ゆかりさん)

―――まずは、間島さんの経歴について教えてください。

Wix日本法人で広報とコミュニケーションを担当しています。2019年2月に、日本法人の立ち上げメンバーとして、現在の日本法人代表とともにWixに参加しました。この業界を志したのは、アメリカの大学に交換留学したときに、広報という仕事に興味を持ったからで、新卒以来ずっとPRの仕事に関わってきました。その後はJICAの青年海外協力隊として、バングラデシュ政府観光局に在籍してツーリズム振興の広報を担当しました。

―――バングラデシュという国を選ばれた理由は何だったのですか?

当時バングラデシュは、山口絵理子さんという方が起業した「マザーハウス」という現地の革を使ったバッグメーカーや、グラミン銀行(※1)の成功等により、社会起業家に注目されていました。勢いのある国で過ごすことは、自分の成長にとってプラスになるのではと思い、バングラデシュを選んだのです。

―――Wixは、現在世界9カ国に6,000人近くの従業員を抱えているとのことですが、各国のスタッフ同士が交流する機会はあるのでしょうか?

イスラエル本社のメンバーとは、業務を通じて毎日やり取りがあります。東京以外にもイスラエル本社、ダブリン、アメリカに在籍する日本人スタッフとは、週に一度全員が顔を合わせる定例会で、各国の担当業務や現在の課題についてのアップデートをしています。

また日本を含む、英語圏以外のグローバル・マーケットの統括チームが本社にありますが、コロナの前はチームメンバー全員をイスラエル本社に年に1、2回集めて、各市場の戦略立案や課題のシェアの他に、カクテルパーティやゲーム等のファン・アクティビティの場が設けられていました。

2019年に開催したWixのユーザー向けカンファレンス
(画像=2019年に開催したWixのユーザー向けカンファレンス)

―――日本だけでなく、イスラエルやアメリカなどにも日本市場向けの仕事をされている方がいらっしゃるそうですが、海外からだと現在の日本の動きが見えにくく、情報も遅くなりがちな印象があります。あえて海外から日本市場を扱う理由はあるのでしょうか?

日本法人設立以前は、本社とアメリカにいる日本人メンバーが、日本市場向けマーケティングや製品のローカリゼーションを担当し、その後日本法人設立という流れとなります。市場ニーズや日本ユーザーからの要望の把握、本社への製品フィードバックについては、日本法人の責任で各担当にアップデートしていますし、マーケティングや広報といった他の業務も本社と連携して進めていますので、決して海外から見える情報だけで日本市場向けの仕事をしているというわけではありません。

―――Wixでは、社員に権限を与え、責任を持つ代わりに好きなことができる、社内カンパニー制を取っているとのことですが、これは世界共通でしょうか?またこれまでにこの制度で誕生した新しいビジネスや機能などはありますか?

Wix内には、カンパニーとギルドという部門があり、これは世界共通です。カンパニーは縦軸であり、それぞれがWixの機能であるエディタ、ネットショップ、サービス予約などの「プロダクト」を担当していて、それぞれが自主性をもって意思決定をする権限が与えられています。カンパニー制により、大企業でありながらスタートアップの空気も保ちつつ、迅速に意思決定が出来ます。

一方ギルドは、職種のスペシャリスト集団で、横軸にあたります。マーケティング、プロダクト、デザイン、リーガル等の各ギルドが、カンパニーの開発する製品の品質やそのプロセスをメンテナンスしています。また新機能リリースの際は、マーケティングがカンパニーと協働したりと、ギルドメンバーを通じて横軸と関わっていきます。

円陣
(画像=円陣)

―――正直すぐにはイメージしづらい、珍しい体制ですね。

社員にとっても当初は分かりづらく、慣れるまで大変でした。(笑)しかしこれまでに、この制度で誕生したビジネスや機能がたくさんあります。日本市場に絞ると、日本市場独自の決済機能の追加です。日本部門設立後にユーザーへのヒアリングを行い、コンビニ決済や銀行振込等、日本市場で必要とされる決済機能の追加のため、本社と協力して実現しました。最近では、スマホ決済にも対応しています。

―――日本企業とは違う、これはイスラエル企業らしいなと思う点を教えてください。

大きく分けて5つあります。先ず一つ目は、決断がとても早いこと。例えば、コロナ前に経営陣が日本でトップユーザーとのミーティングをし、改善の要望等のヒアリングをしたのですが、その最中に経営陣のイスラエル人がスマホをいじっているんです。あとから聞いたところ、ユーザートークで上がった要望を、その場で各製品の責任者に修正依頼をしていたとのことで、そのスピード感に驚きました。

二つ目は、先の予定を決めすぎないこと。Wixに入社してから、3年・5年計画等の話は聞いたことがありません。一度本社役員に質問したところ、この先何があるかわからないから綿密な計画なら半年先くらいまででいい、と言われました。イスラエル人の気質であり、現在志向なのでしょうね。

三つ目は、感情的で、議論好きで、直接的なコミュニケーションを好むところ。入社当時は、社内でイスラエル人が議論していたのを、あまりの激しさに喧嘩をしていると思ったこともありました。一方、他のメンバーの仕事をポジティブな言葉で褒めてくれたり、仕事をしやすくしてくれる面も多いです。

四つ目は、遊びを大切にすること。日本法人でも、従業員同士の絆を深めることを目的として会社負担でイベントを行うファンデーがあります。またイスラエル本社では、プリム(※2)パーティが行われます。私は、プリムパーティーに参加したことはまだないのですが、毎回みんなが本気でコスチューム対決をし、社員の家族も呼んで全力で楽しんでいる様子が写真から伝わってきます。仕事面でも、あらゆるところで、遊びを大事にしているのを感じます。

ある時のファンデーで陶芸を行ったときの様子
(画像=ある時のファンデーで陶芸を行ったときの様子)

最後、五つ目は、ジェンダーイコールであるところ。能力があれば誰でも正当に評価してくれるので、女性だから働きづらいと感じたことは一度もありません。同時にLGBTQへの理解も深く、本社の当事者が立ち上げた、Wix Rainbowというコミュニティがあります。そのメンバーによる社員へのLGBTQに関する教育やローカルイベントの企画を通じて、コミュニティメンバーが生活しやすいようサポートしています。

―――聞いてるだけで楽しく働いている様子が思い浮かびますね。次にWixの掲げる共通バリューについてお伺いします。Wixには世界各国の従業員で共通する12個のバリューがあると伺いました。「プロダクトへのこだわり」や「オーナーシップ・責任を持つこと」、「プロであること」など、お客様の信頼を得るためには欠かせないバリューが含まれる一方、「We allow failure(失敗を許容する)」や「No assholes(嫌な奴にならない)」、「We love fun(楽しむ」といった、他の企業、特に日本企業では見かけないようなユニークなバリューが見受けられます。これは具体的にどのようなことなのでしょうか?

「We allow failure(失敗を許容する)」というのは、「間違いをしないのは、間違いを犯すよりも長い目で見てコストがかかる」という当社の考えに基づいています。初めてイスラエル本社で副社長とのワン・オン・ワンセッションを行ったときは「日本市場では何がうまくいくかわからないから、失敗しても全く問題ないのでとにかくいろんなことを試して道を見つけなさい」と言われました。そんなことを言われたことはなかったので、以来心のなかにずっと指標のように残っています。

次に「No asshole」ですが、日本語では「嫌なやつにならない」と訳しています。具体的には、全体の利益を無視して、他人を犠牲にして自分の利益のために働く人や、出世のために他人を踏み台にする人、同僚の悪口を言ったりする人のことです。おかげで入社以来、みんなでサポートしあえる、いい環境で働かせてもらっています。

「We love fun」については、文字通り楽しむことを推奨しています。仕事には真剣に取り組んでいても、自分たち自身が楽しむことをあまり重要視していないことが多いと思います。当社では、自分が楽しむことで周りの人にもいいインスピレーションを与えることができると信じています。ですからWix社員は楽しいことが好きで、家族も趣味も大事にし、休むときはきっちりと休む人が多く、仕事だけという人がいません。

鎌倉にて
(画像=鎌倉にて)
ファンデー
(画像=ファンデー)

―――それぞれ異なる文化や背景を持つ人たちが共通バリューを持つということは、言葉で言うより実際は容易ではないと想像します。解釈の齟齬を防ぐための工夫などはあるのでしょうか?

本社にはコミュニケーションズ・チームがあり、社内の動きや世界中のユーザー事例を定期的にニュースレターで送ることにより、社内の動きの把握がしやすいようになっています。役員からも定期的にメールが届きますし、四半期に一度、CEOとCOOがライブ・セッションで、従業員の質問に自分の言葉で直接コミュニケーションしてくれる機会も設けられています。

衝撃だったのは、コロナ初期の不安感の強い時期に役員から、困ったことには助けになるから何でも話してください、というケアのメールが届いたのですが、そのメールに「我々も大変だが、一番大変なのはユーザーだ」と書いてあったこと。ハッとさせられました。一気に不安が払拭され、さらに仕事を頑張らなくちゃと思わせられたんです。

―――各国全ての社員が共通バリューを持つことの、一番のメリットは何でしょうか?

すべての社員が共通バリューを持つことで、常に自分は共通バリューが発揮できているのか、Wixカルチャーを体現できているのかと考えながら働くこととなり、世界中のユーザーに最高の製品サービスを届けるというミッションを遂行することが可能となることでしょうか。

※1:バングラデシュの農村で、土地を所有しない貧困層、特に女性の生活支援のため小規模金融(マイクロファイナンス)を行う銀行。創立以来、貧困層の自立基盤を支援してきたことが評価され、総裁であるムハマド・ユヌス氏とともに2006年のノーベル平和賞を受賞した。

※2:ユダヤ教のお祭りのひとつ。仮装をして祝う。

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