OurPhoto代表取締役の平野歩氏
(画像=OurPhoto代表取締役の平野歩氏)

MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、合宿型勉強会「あすか会議」の場で年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞者の一覧はこちら)。今回は2021年「創造部門」の受賞者であるOurPhoto代表取締役の平野歩氏にインタビューした。(聞き手、文=中村直太)

写真文化をアップデートし「喜び・感動」を

中村:受賞おめでとうございます。受賞の感想はいかがでしょうか。

平野:畏れ多い気もしますが、創業したOurPhotoを株式会社うるるに事業譲渡した一連の活動を評価していただいたのは素直に嬉しいです。入学当初は起業など一切頭になかったですし、学生として授賞式を見ていたときは受賞者の方々を「雲の上の存在」だと思っていました。今回の受賞で肩を並ばせていただいたのかと思うと襟を正された感覚です。

中村:OurPhotoはどのようなビジネスを展開しているのでしょうか。

平野:写真撮影を望む人と、写真家(フォトグラファー)をつなぐプラットフォームです。創業当時、写真撮影といえばスタジオ写真館が一般的でしたが、金額や敷居が高いという課題がありました。もっと気軽にいい写真を撮ってもらえるような写真文化をつくりたくてこのサービスで起業しました。

中村:写真業界の課題を解決し、写真文化を浸透させたかったということですね。

平野:写真業界を変え、もっとリーズナブルにしたいという気持ちもありましたが、それよりも、もっと写真で人を幸せにしたいという想いの方が強かったです。人生の喜びの瞬間に立ち会えるのが写真です。ユーザーの価値観に即したサービスがあれば、そういう瞬間を増やせる。そういう意味で、ビジネスを通じて本当に幸せや感動をつくっている実感があります。

中村:グロービス入学当初は、起業は頭になかったということですが、2015年に起業されています。何がきっかけだったのでしょうか。

平野:内的要因として「沸点」を超えた瞬間がありました。どの起業家もそうだと思うのですが、自分で考え抜いたビジネスプランを「やってみたくてたまらなくなる」瞬間があるのではないでしょうか。色々な人に話を聞き、企画書もたくさん書いた。事業シミュレーションも散々やった。あとは実行しないと始まらない。だから、やってみたという感じです。

外的要因としては、グロービスで多くの経営者、起業家と出会い、多くのケーススタディで学んだことがあります。私の場合「ベンチャー・キャピタル&ファイナンス』の授業で「起業するならばどういうプランで起業するのか」と、絶えず問われ続けました。授業だけでなく、グロービス・ベンチャー・チャレンジ(現:G-CHALLENGE)など、起業を後押しする土壌が大学院にありました。内外の両面で揺さぶられた結果、起業に至ったのだと考えています。

平野さん
(画像=平野さん)

生みの苦しみを支えた「ビジョン」と「仲間」

中村:起業には困難がつきものですが、何が支えになりましたか。

平野:実はサービス開始日のセッション数(利用者数)を超えるのに、2年半かかったんです。開始当初はグロービスの仲間がシェアしてくれたおかげで多くの人に関心を持っていただいたのですが、その後はずっと低空飛行で、理想と現実に毎日苛まれていました。支えとなったのはビジョンと、この船に乗ってくれたメンバーやスタッフです。企画書から始まって、そこに人が乗ってくれて、航海が始まる。それはとても言葉で語れないぐらい、嬉しいことなんです。

中村:その航海が大きくなって、2020年12月1日、株式会社うるるに事業譲渡されました。

平野:ちょうど創業から5年目で、「ゼロから1」をつくることができたという手ごたえが出てきたところでした。プラットフォームとしての価値が拡大し、創業時には存在しなかった「出張撮影」という言葉も定着しました。そろそろ次のフェーズに行かなければと考えていた時期です。資金調達をして自社でアクセルを踏むという選択肢もあり、迷いました。ですが、どれもあくまで手段。「サービスを通じてより多くの人に幸せを与えたい」というビジョンに即するものは何かを考え、会社を売却しサービスの成長を早めることを決断しました。

中村:事業譲渡後も代表取締役として残られています。事業はどのように変化したのでしょうか。

平野:ベンチャー企業が上場企業の中に入っていくわけですから、PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション:M&A後の経営や業務、意識の統合プロセス)という点で、変化しました。経営基盤の強化にもなっていますし、財務面での恩恵は大きいです。半面、組織カルチャーの面では、より組織的になってきていると思います。

ビジョンやサービスの方向性は、経営陣よりもスタッフのマインドに与える影響の方が大きいのではないでしょうか。OurPhotoは写真を軸に撮影文化をつくることを大切にしてきましたが、うるるはITと人の力を活用するという方向です。次の課題は、組織カルチャーをどう統合するか。両社の文化の違いを乗り越え、良さは活かしながら、次なるフェーズに向かっていきます。

中村:平野さんご自身の変化としては?

平野:あるといえばありますが、戻るところは変わらずビジョンです。日々の行い、日々の業務が、ビジョンと本当に合っているかどうか。大変なこともたくさんありますが、それを上回るくらいビジョンの実現に向かっていく力にしたい。それはブレません。

グロービスで得た「視野」と「視座」

中村:2012年にグロービス経営大学院に入学されています。きっかけは何でしょうか。

平野:入学したのは、大日本印刷に在籍していた20代の時です。スキルを身につけないといけないともがいていました。その流れでまずはグロービスの門を叩こうと「クリティカル・シンキング』の体験講座に行ったのです。周りがバンバン発言しますし、これはもっと自分を高めないといけないと思いました。本当に必要なタイミングでグロービスに出会って、起業プランに出会って、起業して…結果論かもしれませんが、タイミングですね。

中村:当時20代でMBAを学ばれています。学び始める時期としては、どうでしたか?

平野:学ぶのは「早ければ早いほどいい」と思います。グロービスは卒業するのに、単科から数えると3年ほどかかります。起業まで時間がかかれば、家庭とか、お金の縛りとか、だんだん足枷ができてくる。簡単に失敗できなくなってしまいます。逆にいうと、若ければ若いほど失敗できる余裕はある。ぜひ早くからグロービスに入って学び、興味がある人は起業を目指すというのがいいと思います。

中村:グロービスに入る前は、起業は考えられていなかったと伺いましたが、何が変わったのでしょうか。

平野:視座と視野です。グロービスのような多様な人がいて刺激的な環境に身を置くと、おのずと視座が高く、視野が広くなります。自分の「志」に向き合い育てることで、見える世界が変わっていきます。それに、グロービスの仲間は発射台のような存在で、サービスに対して多くのアドバイスをいただきました。だからこそ、サービスを立ち上げられたというのはあると思います。

平野さん
(画像=平野さん)

生きている間に世の中をよりよくしたい

中村:今後の方向性について教えてください。

平野:事業を大きくすることが今、最も重要なミッションです。サービスを大きくし、「OurPhoto」という言葉を一般化したいです。私自身でいえば、OurPhotoに限らず、社会課題の解決や、人を喜ばせるような新たなサービス・事業の創出にチャレンジしたい。生きている間に世の中をより良くしたいというのは、人間として持つべきものだと私は思っています。その手段が起業でありビジネスだと考えています。

中村:「人を幸せにするようなサービスをつくりたい」と、インタビューの中で何度もお話しされています。なぜそのような考えに至ったのですか。

平野:なぜでしょうか……。起業する前を思い返すと、実はそうした思いはすごく小さかったかもしれません。でも起業後はずっと、特に辛い時期にはビジョンを自分に言い聞かせてきましたし、メンバーにも言い続けてきました。その過程で火がだんだんと大きくなり、炎になっていったのかもしれません。種火が大きくなっていくことが、起業のプロセスそのものなのかもしれません。「このサービスに加わりたい」「このサービスがいい」と言ってくれる人が増えてくると、ひとりの火が複数人の炎になる。

OurPhotoも絶対に私だけではありません。創業メンバーや今のメンバーがいて成り立っています。サービスを始めて、最初に注文してもらったとき、本当に嬉しかったんです。その瞬間の自分の喜び、相手が喜んでいる様子が原体験としてあって、さらに周りの人に自分の想いを育ててもらったんだと思います。

中村:授賞式のスピーチで「起業やイノベーションをつくる再現性の高い仕組みをつくりたい」とおっしゃっていました。

平野:グロービスでMBAを学んだ者としては、再現性、抽象化、理論化を考えないといけないと思っています。「何をするか」という事業の“What”だけではなく、“How”のところで再現性をもたせる何か。起業家のメンタリティに関するところかもしれないですが、起業の再現性を高める仕組みづくりに挑戦したいです。

中村:「教える」という表現は好まれないかと思いますが、「他の人も起業できるように支援したい」という想いですか?

平野:そうですね、同じように悩んでいらっしゃる人や、同じような課題に直面していらっしゃる人がたくさんいるので、役に立てられればと思っています。

中村:最後に、平野さんのいまの「志」をお聞かせいただけますか。

平野:志は見つけようとするものではなく、気がつけば、いつの間にか種火がそこにあるものではないでしょうか。自問自答して、顕在化させて大きく育てていく。私も自分の志に照らして、OurPhotoをどう大きくしていくのか、どう社会課題を解決するのかと、日々考えています。

中村:今日は、貴重なお話をありがとうございました。これからも応援しています。

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(執筆者:平野 歩、中村 直太)GLOBIS知見録はこちら